卒論ゼミ発表用レジメ

国際学部 国際文化学科 岩佐真樹

2003年6月23日(月)

 

 

3回

「基本的立場及び問題意識」

 

 

■卒論仮タイトル:音楽は誰のものか −CCCD導入が示す音楽産業の現状と今後−

 

■概要と論文の流れ

 

 CCCD(コピーコントロールCD)に関する諸問題を整理し、ネットワーク社会という時代背景やオープンソース/フリーソフトウェアの概念を踏まえつつ、著作権/知的所有権(及びそれらにまつわるビジネス)の現代的課題を探る。

 

■論文の目的

 

 この論文がCCCDに関する有意義な文献の作製と、CCCDについての論議をアカデミックな場に持ち込むきっかけになれば幸いである[1]

 

 

■第3回発表の概要

 

卒論発表も3回目を迎えた今回は、CCCDに対する著者の立場と問題意識を(出来る範囲で)明確にしておきたいと思う。また、今後調べていくべき事柄を思いつくまま列挙しておくとする。

 

CCCDに対する基本的立場

 

著者の立場は「CCCDの導入には反対である」というものだ。その根拠となるCCCDに対する問題意識は以下で述べる。

また、CCCDを議論する上でリスナー/アーティスト/レコード会社など様々な立場からの分析が必要になるが、筆者は消費者の立場にプライオリティを置く事とする。これは消費者にとって有益かそうでないか、がCCCDに対する判断基準とすることを意味する。

同様に経済的な観点、文化財の保護・発展という観点、著作権・知的所有権の観点など様々な観点から議論を進めていくが、これについても最も優先するのは消費者の利益である。

 

尚、CCCDを卒論のテーマとするのは著者が音楽を大変愛しており、文化財としてもビジネスの重要なコンテンツとしても絶大な関心を寄せているためである。執筆に当たっては、音楽に対する私見が暴走しないように自制したい。

 

CCCDに対する問題意識

 

CCCDの問題点として挙げられている幾つかの事柄において、最も強調したいのが「消費者が最も損をする」「消費者の権利が侵害されている」点である。

例えば再生環境が限られる、プレイヤーが破損する恐れがあるといった問題点がある。CDとレコード、VHSとDVDといったメディアによる違いから再生環境が限られるならばまだしも、同じCDというフォーマットであるにも関わらず再生環境が限られてしまう状況は消費者軽視と言える。

この問題点に対し、CCCDを発売するレコード会社による保証は行われていない。CCCD導入におけるコメントをHPなどで発表しているレコード会社は、各々「免責事項」として動作保証等をしないことを述べているのだ[2]。逆に再生機器を製造しているメーカー側は、CCCDはCDの規格を満たしていないので動作保証はしかねる、といたコメントを発表している[3]。両者ともに警告や表示などで説明責任を果たしていると言った解釈は取りえる。しかし問題が起こった場合の対処法としての「警告」や「表示」にしか過ぎないという印象は拭えず、消費者保護という観点はないのではないか。そもそも、規格として欠陥があると言わざるを得ないCCCDを発売に踏み切った行為自体が消費者保護の観点に立てていないのではないだろうか。

 

音楽CDのデジタルコピーによって著作権・知的所有権が侵害されているという問題もあり、これはCCCD導入の動機のひとつとされている。この問題から派生して音楽という文化財の保護・発展も議論の対象となってくる。

これに関しては、音楽CDに限らずデータのデジタルコピーという現代的問題が果たして著作権等の侵害に結びつくのか、といった点そのものに問題提起をしたい。コピー行為は悪であり制限を加えることが経済的にも文化的にも最良の手段である、といった点も議論の対象としたい。

ここで論拠とするのは、音楽以前にデジタルコピー(複製)による問題や弊害が指摘されてきたIT分野において、先進的な動きを見せるフリーソフトウェア/オープンソースの概念である。

 

尚、CCCDに対する議論において「音質」を論点にするのは避けることとする。その理由は一言で言ってしまえば「不毛だから」だ。勿論、詳しくは論文中で明示する[4]

 

■今後調査していくべき事柄

 

1.CD-Rの売上枚数やコピー頻度と音楽CDの売れ行き不調との相関関係

本当にCDの売上が落ちたのはデジタルコピーが横行しているからなのか。両者にある程度の相関関係が見受けられたとして、売上減になったほかの要因は考えられないのか、またそれを分析した資料はないか。

 

2.CD-Rの使用用途

CD-Rにはデータを焼き付けるだけの消費者も当然いるわけで、一般消費者に購入されたCD-Rのうちどのくらいの割合が音楽CDをコピー(または「マイベスト」のような形での編集)するために使用されたのかを調べる必要がある。1の相関関係にも関わるもの。

 

3.CCCD音質劣化の原因

 CCCDはなぜ「音質が悪くなる」とされているのか。音質が悪くなることが問題視されているが、なぜ悪くなるのかといった議論や解説は余り見受けられない。また、現行のCDDA[5]と同様の音質で作製することは可能なのか。現行の技術及び将来的に実用化されそうな技術も含めて知りたい。

 

4.音楽データをmp3化した際の音質劣化

 mp3にした場合にも音質は劣化するといわれているので、その原因とメカニズムを調べたい。また3.に関連して、音楽データをmp3化しCD-Rに焼き付けられた場合に音質が劣化するならば、そのような状態で作品を聴いて欲しくないと思うミュージシャンも少なからずいるのではないか。ミュージシャンによるそのようなコメントが無いか調査したい。

 

5.著作権・知的所有権について

 法律に関する専門知識が要されるので、深い議論には立ち入らない(立ち入れない)つもりである。フリーソフトウェアやオープンソースの概念が著作権に与えた新しいパースペクティヴを示したい。

 

6.その他もろもろ

 

 



[1] 現在のCCCDに関する議論は音楽好きと音楽産業との対立といった構図でしか見られない。これに消費者保護の観点等を加えもっと学際的な議論に発展できないか、といった狙いがある。またマスメディアがCCCDを大きく取り上げて話題にしている傾向は見受けられず、議論の場が「2ちゃんねる」のような井戸端会議レヴェルにしか存在しないのでこの現状をなんとかしたい、という狙いもある。

[2] 例えばキングレコードは以下のような文章を「免責事項」として掲載している(http://www.kingrecords.co.jp/cccd/)。
CCCDには、で動作する圧縮音源再生専用プレーヤーソフトを収録しておりますが、これは、Windows OSを搭載するすべてのパソコンでの動作を保証するものではありません。 また、このCDを本来の目的以外に使用した場合、及びパソコンで再生やコピーを試みた場合や、専用プレーヤーソフトでの再生に伴う、データ損失や動作不良などの如何なる損害についても、当社は一切責任を負いません。

[3] 例えばオンキョーは以下のようなコメントを発表している(http://www.onkyo.co.jp/support/copyprotect.htm)。

「現在発売されているコピーコントロールCDは、正式なCD規格に合致していない特殊ディスクのため、オーディオ用CD再生機器による再生の保証はいたしかねます。
従いまして、通常CDを用いての再生時には支障がないのに、コピーコントロールCDを用いた再生時にのみ支障がある場合は、当社製品の故障ではなく、修理の対象とならない場合がございます。
以上、ご了承いただきますようお願い申し上げます。
なお、コピーコントロールCDの詳細につきましては、発売元のエイベックス社にお問い合わせいただきますようお願いいたします。」

[4] 大筋の論旨展開は出来上がっているが、時間の都合によりレジュメに仕上げることが出来ないだけである。

[5] Compact Disc Digital Audio。いわゆる現行の規格通りの音楽CDのこと。CCCDと区別するために便宜上このように表記する