2003/10/06
国際学部国際社会学科 阿部真理子
卒論ゼミレジメvol.4 “派遣会社インタビュー”
1.株式会社 キャスト
この会社は、一般労働者派遣事業(労働大臣許可 般07−04−0026)として登録されている、いわゆるイベント請負業務を行う人材派遣の会社である。従業員数は、社員が8名、登録スタッフが300名。2001年11月に設立された、まだ新しい会社である。事業内容は、キャンペーンガール、レースクィーン、モデル、MC、ブライダルレディ、ディレクター、AD、イベントスタッフ、デモンストレーター、販売員、式典司会進行、アテンダントレディ、搬入搬出、着ぐるみ、各種イベント研修、その他イベント関連業務である。
訪問は、私が福島県商工信用組合で内定者としてインターンシップをしている間に、融資担当の三上次長が「卒論で派遣会社のことをやっているなら、連れて行ってあげよう。」と外回りの際に一緒に連れて行ってくれて、話をしてきた。事務所は郡山市中心部から車で15分ほど行った、まわりに大型スーパーマーケットや家庭用雑貨センター、レンタルショップ、ゼビオなどが立ち並ぶ比較的、利便性が良い場所に立地している。
9月9日(火)14:30から15:00の間、お邪魔した。それほど広い事務所ではなかったが、奥の部屋に研修室がきちんとあった。中には社員の女性が2人ほど居た。有限会社サミットという会社が始めに設立されて、イベント部門として独立したのがキャストだということだ。主に話をしてくれたほうの女性は、もともと銀行員だったが短期間で辞職し、転職したそうだ。社長は男性で(残念ながら不在だった。)とても話しやすい、おしゃべり好きの方だそうだ。当たり前だが、こういう派遣業務をしている会社の社員さんは、たいてい愛想が良く、話が上手と相場が決まっている。
登録スタッフは、学生や他の仕事と掛け持ちをしている人がほとんど。平日普通のお勤めをしていて、週末にキャストの仕事をする人、他の派遣会社に数社並行して登録している人が居る。今までの経験から言っても、派遣会社の数社同時登録というのは、派遣をやっている人なら常識という感じがする。キャスト専属でやっている人、つまりキャストからの収入だけで食べている人も中にはいるそうだが、それだけではかなり厳しいのが現状だそうだ。専属の人にはなるべくお仕事を多くまわすように配慮しているとのこと。業種柄、スタッフの年齢制限は他に比べて厳しく、10代後半から20代前半まで。出身は北海道から九州までと幅広い。これは、近くの大学生がいろんな地方から来て一人暮らししている子なども登録しているからである。派遣範囲は県内一円。ほとんどが福島県内の仕事になるが、年に1回・2回モーターショー関係などで東京のほうに出張することもある。会社の悩みは、やはり収入の面。依頼会社からお金がキャストに振り込まれるのは、仕事をしてから2・3ヵ月後。しかし、スタッフへの給料は先に払わなくてはいけない。そうすると先にお金が出てってしまい、キャスト自体はその間苦しい思いをすることになる。専門職(モデル・レースクィーン・MC・司会など)になると、時給がけっこう高くなる。自分が2年前J−phoneのMCキャンギャルをやっていた時は時給1980円くらいもらっていたと記憶する。(同じ場所でティッシュ配りをしているキャンギャルは1200円。)スタッフにとっても大変な仕事だがやりがいがあるし、何より女性にとって、この会社で仕事をすることが「自分磨き」につながる。人前に出る仕事だから、よりきれいになろう、より良いランクの仕事に就こうと、登録してから、自分の魅力を高める努力を始める子が多い。これは周りからの刺激もあると思う。ある女の子の例では、特に業種を絞らず登録したが、他の子がレースクィーンをやっているのを見て「自分もああなりたい!」と思い、体型制限の厳しいレースクィーンになるべく、自己流でダイエットを始め、2・3週間の間に4キロくらい体重を落とし、現在は見事、夢見たレースクィーンになれた。女性として、とても素敵なエピソードだと思った。
キャストは、仕事に付くスタッフが一人きりの仕事でも、きちんと1対1で研修を行う。高校卒業したばかりの女の子で、きちんとしたメイク法が分からない子には、メイク指導も丁寧にする。メイクの指導は、社長の息子さんで、仙台でメイクアップの勉強をしてきた社員がする。仕事によっては、ダンスの振り付け講師を招いたり、専門職の講師を招いたりして研修することもある。その講師を呼ぶのも、会社にとっては痛い出費だが、スタッフを育てる努力は、お金も手間も惜しまないという。それは、心構えからきちんと教え込み、プロ意識を持ってもらい、士気を高めて仕事に臨めるようにさせたいという、キャストの教育方針があるからだ。始まったばかりの会社で、なかなか儲けにつながらないのが大変だが、今どんどん大きくなってきていて、知名度もあがっていきているから、「これからなんです!」と少し愚痴りながらも元気に話してくれた、女性社員の方の明るい感じがとても良かった。福島県で、こういったイベント業務の派遣を専門にしている会社はキャスト以外にない。「こういう仕事をしてみたいが、どこからアプローチすればよいのか分からない。」といった女の子たちが、どんどんキャストを通じて、表舞台に出て行って欲しいと社員さんは語る。お邪魔している間、アルバムを見せてもらい、私が同じイベント会場において、他ブースで仕事をしていたことが分かった。思い出してみれば、キャストのスタッフが入っていたというブースの女の子たちは感じが良かった。
この訪問を通じて、正社員として派遣会社に勤める女性、派遣スタッフとて派遣会社で働く女性、どちらの立場も学ぶことができた。前者は「会社のためにスタッフを利用する」。後者は「自分のやりたいことのために会社を利用する」。雇用者が労働者を利用するという、従来の会社のイメージはここでは50:50になっているような気がした。
《参考》
株式会社 キャストHP http://www.k-summit.co.jp/gaiyou.htm