要約

 近年のインターネットの急速な普及に伴い、地方自治体の多くがホームページを持つ時代になった。そこでこの自治体ホームページを活用して、行政への住民参加を促進させることができないかというのが本稿のねらいである。具体的には宇都宮市ホームページを事例としてとりあげ、「住民参加」という視点から宇都宮市が現在ホームページ上で公開している情報及び提供しているサービスを分析し、「住民参加型行政」を展開していくために必要不可欠な条件及びその課題を明らかにしようと試みるものである。従って、まず第1章で自治体がホームページ上で公開すべき情報とはどのようなものかを定義し、それによって自治体ホームページが地域社会においてどのような役割を果たしていく存在として位置付けられるのかについて述べる。続いて第2章では、自治体ホームページの現状として宇都宮市のホームページをとりあげ、現実の自治体ホームページのコンテンツはどのようなものであるのか、またそれが住民参加を促進させるものになっているのかについて見ていく。続いて第3章では、住民参加型行政の展開のために不可欠であるコミュニケーション型コンテンツとはどのようなものであるべきかを考察する。先進事例を参考に、理想的なコンテンツとはどのようなものであるのかを述べ、宇都宮市がそのようなコンテンツを実現させる可能性を探ることにする。そして最後に第4章で、ホームページの運営体制などで宇都宮市が内部で抱える問題を元に、自治体がサービスを高度化させていくうえでの課題を明らかにし、住民参加型行政を展開していくために必要なものは何かを考察することとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                

 

「自治体ホームページ活用による住民参加型行政展開の可能性」

 

目次

 

はじめに                               1頁

 

1章 行政サービスにおける自治体ホームページの果たす役割

1節 自治体ホームページが地域社会に果たす役割          2頁

2節 自治体ホームページで公開すべき情報とは何か         2頁

   

2章 自治体ホームページの現状―宇都宮市を事例に―

 第1節 自治体ホームページの主な掲載内容              5頁

2節 宇都宮市ホームページが提供するサービス           5頁

 

第3章 自治体ホームページを活用した住民参加型行政の展開にむけて

 第1節 電子会議室の先進事例                    8頁

 第2節 電子会議室に対する宇都宮市民のニーズ            8頁

 第3節 電子会議室運営のありかた                   10頁

 第4節 住民参加の実現に向けて                  11頁

 

4章 サービスの高度化を実現するための課題

 第1節 職員のサービスに対する意識                 12頁

2節 環境の違いによる意識の差                                                       12頁

3節 変化への対応に迫られる自治体―時間との戦い―       14頁

 

おわりに                                                                                                    16頁

 

あとがき                                                                                                    17頁

 

注釈・参考文献                           18頁

図表                                                                                                         19頁

 

 

 

はじめに

情報技術の発達に伴い、社会が変わろうとしている。インターネットに代表されるネットワーク技術の発達により、情報は瞬時に地球上を駆け巡るようになり、Eメールのやりとりや航空機などのチケット予約、オンラインショッピングやネットオークションなど、その影響は私たちの日常生活のレベルにまで浸透しつつある。

そんななか、私はインターネット上の掲示板(BBS)の存在に着目した。掲示板上では、日々顔の見えない人同士が集まり、趣味などの生活情報から日本の政治、外交問題まで、実に様々な問題について議論や情報交換が行われている。今までだったら出会う事もなかったであろう人同士がネット上で出会い、意見を交わす。そこには一種のコミュニティが生まれていると言ってもよい。そこで私はこれを住民の行政への関心、意識を高めるために利用できないかと考えるようになった。現在ではほとんどの自治体がインターネット上にホームページを開設している。そこでこの自治体ホームページを利用し、ホームページ上に掲示板のようなコンテンツを作る事によって、地域の住民、自治体職員が直接意見を交換できるような環境を整備することが主な手段である。

現在インターネット上には地域ごとの掲示板というものが数多く存在し、同じ地域に住む人々が生活情報からまちの抱える問題まで、様々な話題について話合い、情報交換している。例として「Yahoo!掲示板」の栃木県のページを見てみると現在100近くのトピックがあり、投稿数が80009000にのぼるものもある。なかには非常に建設的な意見も見受けられるのだが、このまま行政と何のつながりも無い掲示板に書き込んでいても、市政に生かされる可能性は低い。市ホームページ上に掲示板を作るねらいは、現在各サイトに点在しているこうした人々の意見を取り込むことにもある。

そもそも地方自治の理想とは、住民一人一人が自治に参加するものであるはずだ。しかし現実はそれとはあまりにかけ離れている。行政は必ずしも住民の意向に沿う努力をしてきていない一方、住民も行政に対して関心を持とうとせず、行政と住民との距離は非常に遠いというのが実感である。自治体ホームページ上にコミュニティを作り出す事によって、行政と住民の距離を少しでも縮め、住民参加型行政の展開につなげていくためには何が必要なのか、その実現可能性を探っていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1章 行政サービスにおける自治体ホームページの果たす役割

 

第1節 自治体ホームページが地域社会に果たす役割

日本のインターネット利用人口は年々順調に増加しており、2000年末には4,708万人(推計値)にまで達している。これは対前年比74.0%増の大幅な伸びであり、このままのペースでいけば、2005年には8,720万人にまで増加する見込みだ(1)。また、利用人口の増加と同時にADSLや光ファイバーといった回線の高速化、大容量化も進んでおり、近い将来、高速大容量の回線に常時接続できる環境が整備されていくだろう。このインターネットの急速な普及にともない、各自治体においてもホームページを開設するところが増えてきた。現在、都道府県及び政令指定都市におけるホームページの開設率は既に100%に達している。また、市区から町村へと地方自治体の規模が小さくなるのにともない開設率は次第に低くなってはいるものの、1998年度から2000年度にかけ、市区では57.7%から83.6%、町村では34.9%から61.1%へと大幅に伸びてきており、自治体ホームページの開設は急速に進んでいることがわかる(図表1)

一方、2000年度におけるホームページを活用した情報提供の内容についてみると、「行事イベント紹介」、「観光・物産情報」、「公共施設の利用案内」、「行政の各種事業紹介」の4項目の提供団体が2,000団体を上回っており、他の項目と比較して突出している(図表2)。このことからも、地方自治体が行事イベント紹介や公共施設の利用案内といった、地域密着型の情報提供を重視していることが分かる。また、観光・物産情報など、地域外に住む人々を対象とした地域の紹介・観光案内等の情報発信の手段としてホームページが活用されていることも見てとれる。このように、現時点において自治体ホームページは地域住民だけではなく地域外に住む人々にとっても、地域の情報を知るための有効な手段になっていることがわかる。しかし、ここで行政への「住民参加」という視点から見てみると、イベントの紹介や観光案内のような情報が行政への住民参加を促進させるのだろうか。いくらそういった種類の情報が充実していようとも、それによって住民が行政の行っていることに対して興味を持ち、自分の頭で考え、最終的に政策決定過程に影響を与えるようになるとは考えにくい。

以上のように、ただひとくちに「情報」といっても、住民の生活の利便を図るための情報と、行政への住民参加を促進させるための情報とは分けて考える必要があると私は考える。そこで次節からは、そもそも行政が住民に対して公開すべき情報にはどのようなものがあるのかを具体的に考えていく事にする。

 

2節 自治体ホームページで公開すべき情報とは何か

 元法政大学教授で、地方自治研究の第一人者として知られる松下圭一氏の言葉を借りると、まず重要なことは「政治・行政の基本は、公開による情報の共有である。」(注2)ということである。情報を公開することが行政の透明性や公平性を確保するのはもちろん、行政への市民参加や職員参加の前提になるとし、そしてそのうえで、今日行政が住民に対して公開している情報を「広報情報」と「政策情報」とに区別している。「広報情報」とは、主に自治体の日常業務の報告や、地域のイベントの開催情報に関する情報のことである。これらは言わば、政策決定「後」のお知らせのようなものであり、決定された事項の周知徹底を目的とするものであるとしている。これに対して「政策情報」とは、例えば策定中の計画の計画案や会議録のような情報のことで、政策決定「前」に問題を明らかにし、その解決を目指す目的のものであり、「広報情報」とは性格の異なる情報であると定義している。つまり、自治体全体の総合計画から個別政策まで、政策決定「前」の情報を公開することが、住民参加型行政を展開していくための前提条件になるというわけである。それでは引き続き松下氏の定義に従い、政策情報とはどのようなものかについて具体的に見てくことにする。

(1)争点情報:その自治体が直面している課題に関する情報で、累積赤字や談合など、今後解決しなければいけない問題を明らかにする性格のもの。

(2)基礎情報:自治体が持つ統計、地図、法務、財務情報など、その自治体の地域特性や    政策構造が分かる情報。

(3)専門情報:個別の課題を解決するための技術情報。例えばごみ処理の場合、ごみの分類法、集め方からリサイクル、最終処理までそれぞれについて情報が必要になる。

以上の三つの政策情報(注3)が整理・公開されて初めて、住民は自治体の課題を自分なりに分析し、政策決定に関する議論をすることができるようになるというわけだ。ただ、ここではっきりさせておかなければならないのは、これは広報情報より政策情報が重要だという話ではない。先述したように広報情報は住民の生活に密着した情報である場合が多く、例えば災害緊急情報の伝達のように、住民にとって不可欠の情報であることは言うまでもない。従って、広報情報は、自治体の情報活動の第1段階として位置付ける必要がある。以上のような枠組みに基づいて考えると、市政への住民参加を実現するためには、第1段階としての「広報情報」と、第2段階としての「政策情報」の整理・公開こそが不可欠であるということになる。

 さて、これまでで行政が住民に対して公開すべき情報が明らかになってきた。しかし、ここで注意したいのは、いくら情報を公開し、それをもとに住民が考えを持つようになっても、その住民の声が行政に届かなければ意味が無いということだ。よって、私は第1段階としての「広報情報」、第2段階としての「政策情報」に加える第3段階の条件として、「住民の声を直接集める仕組み」が必要であると考える。そしてこの1から3までの全てを提供する媒体として最も有力なのがインターネット上のホームページなのである。

まずインターネットであれば住民は24時間必要な時に、どこからでも情報にアクセスできる。また自治体にとっても、情報を更新するのにかかる時間が短くて済むため、災害情報のように即時性が求められる情報を公開するのにも適していると言える。そしてホームページを選んだ最大の理由は、インターネットによってリアルタイムでのコミュニケーションが可能になるからである。先に「住民の声を直接集める仕組み」と書いたが、ただ意見を集めるだけでは、住民から行政への一方通行で終ってしまう。例えばインターネットの掲示板のようなコンテンツを利用する事によって、住民と職員との意見交換だけでなく、住民同士での情報の共有も可能になる。それによってまた新しい考えが生まれてくるといった相乗効果も期待できるだろう。そこで、前述した「住民の声を直接集める仕組み」のことを、以後「コミュニケーション型コンテンツ」と呼ぶ事にしたい。

以上のように、充実した「広報情報」と「政策情報」に加えて、住民の意思を反映させるための仕組みとしての「コミュニケーション型コンテンツ」、この三点を全て備えたホームページこそが、自治体ホームページの理想形であると私は考える。しかし、実際には自治体ホームページはどのような構成になっているのだろうか。そこで次章からは、宇都宮市のホームページを事例としてとりあげ、自治体ホームページの現状はどのようなものなのかを探ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2章 自治体ホームページの現状―宇都宮市を事例に―

 

1節 自治体ホームページの主な掲載内容

ここでもう一度(図表2)を見てもらいたい。自治体ホームページの内容は、「行事イベント紹介」、「観光・物産情報」、「公共施設の利用案内」、「行政の各種事業紹介」の4項目が、他の項目と比較して突出していることがわかる。第1章の分類に従って見ると、これらはいずれも「広報情報」に分類できるものである。これはつまり、自治体のホームページの多くが広報情報に偏った構成になっている事を意味しているのではないだろうか。そこで具体例として宇都宮市のホームページをとりあげたい。宇都宮市は2001年7月に「宇都宮地域情報化計画」を策定し、地域の情報化に向け動き出している。計画の中で着目したいのは、「広報広聴活動の情報化」として「ホームページの充実」及び「市政への市民参加の充実」が掲げられていることだ。そこで、現在の宇都宮市ホームページの内容は実際にどのようなものなのか。また、そこで公開されている情報の種類にはどのようなものがあるのかについて見ていくことにする。

 

2節 宇都宮市ホームページが提供するサービス

宇都宮市ホームページは19983月に開設され、幾度かのリニューアルや更新体制の見直しを経て、機能向上に努めてきた。一日あたりの平均アクセス数も、開設当初の一日あたり230件から、現在では2580件と、3年で約10倍程度に伸びてきている(図表3)。インターネット利用人口の増加に伴い、宇都宮市ホームページを利用する人も年々増えてきていることがわかる。次に具体的なコンテンツの構成について見ていくことにする。まずトップには「新着情報」としてイベントなどの開催日時や臨時のお知らせなど、更新したばかりの最新情報が並んでいる。続いてその下に「メインメニュー」として、行政情報や観光案内、統計情報のデータ提供などのコンテンツが並び、宇都宮市の基礎的なデータが得られるようになっている。さらにその下に住民票や保険、福祉といった、宇都宮市で生活する人のための情報を集めた「暮らしの便利帳」が続く。そして最後に、「各部課、関係機関のページ」として、報政策課や都市計画課などの各部課が単独で作成、公開しているページと、水道局や図書館など関係機関のホームページを集めたコーナーがあるというようになっている。

それではここで、第1章で定義した「広報情報」と「政策情報」及び「コミュニケーション型コンテンツ」の3分類に従って、宇都宮市ホームページのどのコンテンツがどれに分類できるのかについて考えていくことにする。

まず「広報情報」に当てはまると思われるのは、トップの「新着情報」である。これは例えば狂牛病や携帯への迷惑電話にかんする注意の呼びかけや、防災フェアのお知らせといった時事的な内容のものが中心で、まさしく住民に対するお知らせ、「広報情報」であると言える。また、メインメニューの「観光案内」や「文化スポーツ」、それから「暮らしの便利帳」も、それぞれ宇都宮市の住民や、宇都宮市外の人々に対して宇都宮市の基礎的な情報を提供するものであり、「広報情報」に属するものであると考えられる。

次に、「政策情報」に属するコンテンツとしては、メインメニューの「行政情報」が主なものであろう。なかでも宇都宮市が策定中の計画などに関する審議会等の設置状況が載せられ、その会議録もホームページ上で閲覧できるようになっていることは評価できる。これによって住民は市が現在策定中の計画がどのようなもので、それに関する会議でどのようなことが話し合われているかを知ることができ、自分なりにその計画について考える際の参考にすることもできる。また、各部課、関係機関のページにも、「政策情報」に分類できると思われるものがある。中でも注目すべきは、都市計画課による「U-plaza」という名の都市マスタープランのページである。ここには、計画の策定過程はもちろん、インターネットフォーラムという名で、宇都宮市の交通政策などのまちづくりに関する住民の意見を募集すると同時に、寄せられた意見の公表も行っている。これによって住民は、他の住民が宇都宮市のまちづくりに対してどのような問題意識をもっているかを知ることができ、そこからまた自分の考えを深めることもできるわけである。「U-plaza」は「政策情報」の公開であるばかりでなく、「コミュニケーション型コンテンツ」の要素も含んでいるものであり、宇都宮市ホームページでも最も進んだ取り組みがされているといえるだろう。そもそも都市計画課は1999年の9月、所管課による直接管理の試行の第1(図表3)として、所管課が直接掲載内容を管理するさきがけとなった課である。すなわち最も早くから自分達でコンテンツ作りに取り組んでいるわけで、その内容の充実ぶりも納得できる。

最後に、第3の分類である「コミュニケーション型コンテンツ」についてはどのようなものがあるだろうか。コミュニケーション型コンテンツの主なものとしては、市長へのメール「宮だより」がまず目につく。これは19997月と比較的早く開設している。寄せられた件数をみると1999年に342件、2000年には429件となっており、平均して11件以上のメールが寄せられていることになる(図表3)。また、公聴(パブリックコメント)として、最近では地域情報化計画や第3図書館の建設計画に対して、住民の意見を募集するという試みもなされている。しかし、住民の意見を聴いていこうという姿勢は評価できるが、そのやり方には改善すべき点があるように思われる。前述した都市計画課が寄せられた意見を公表することによって、住民間でも情報共有を計る事ができるようにしていたのに対して、こちらはそういう配慮がなされていないからだ。そしてこの「寄せられた意見の公表」というのが、些細なようで実は重要なことなのである。寄せられた意見を公表しないということは、住民から見れば、自分の送った意見はどうなったのか、また、他の住民からどのような意見が寄せられているのかが分からないわけで、その効果も不透明である。結果として意見を集めにくい環境を作ってしまっていたといえるのではないか。また、リアルタイムでのコミュニケーションが可能なコンテンツも無く、インターネットのメリットをフルに活用しているとは言い難いのが現状ではないだろうか。

そこで次章からは、宇都宮市のホームページに欠けているものであり、行政への住民参加を目指すうえで最も重要だと考えられる「コミュニケーション型コンテンツ」について、その実現可能性を探ることにする。なお、ここではコミュニケーション型コンテンツを、住民の意見が他の住民からも閲覧することができ、現時点で最も現実的かつ実現可能性の高いと思われる「掲示板」として考えていくことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3章 自治体ホームページを活用した住民参加型行政の展開に向けて

 

第1節 電子会議室の先進事例

まず掲示板としてどのようなものが適しているかについて考えたい。実はこのような、インターネット上に住民が自由に情報交換できる場を設置し、地域コミュニティの形成と住民参加型行政の展開を目指す試みは、慶応大学の金子郁容教授の研究室が中心となっている「VCOM」というプロジェクトが先行している(注4)VCOMは元々1995年、阪神大震災の直後に被災者や被災地、ボランティアの間で情報を共有できないかという考えから設立されたもので、・ネットワーク・コミュニティの研究や、コミュニティ支援のためのインターネットツールの開発と普及を活動内容としている。現在では掲示板方式の「コミュニティ・エディター」というツールを開発し、神奈川県藤沢市と共同で「藤沢市市民電子会議室」(注5)を運営している。「藤沢市市民電子会議室」は市民参加の市政を推進し、市民と行政とのパートナーシップ協働してまちづくりをおこなうための施策の一環として藤沢市と慶應大学、そして財団法人藤沢市産業振興財団の3者が共同しておこなっているプロジェクトである。19969月に実験プロジェクトが開始され、20014月から本稼動している。具体的には電子会議室内の各会議室で市民の声を提案としてまとめ、市民公募からなる運営委員会と担当課を通して市政への反映を図る仕組みが整えられ、すでに4度に渡って数十項目もの提案が市民から出されている。この会議室の様子はもちろんネット上の誰もが閲覧することができ、市民から藤沢市への「提言書」と、それに対する市の「回答書」についてもホームページ上で公開されているため、市民と行政とのやり取りがリアルタイムでわかるようになっている。

なお、この「藤沢市市民電子会議室」は1998年に「日経インターネットアワード」自治体部門「地域活性化センター賞」(主催:日本経済新聞社・日本インターネット協会・地域活性化センター)を受賞したのに続き、1999年度「優良情報化団体自治大臣表彰」(地域情報化部門)を受賞しており、総務省の『平成13年度 情報通信白書』でもとりあげられるなど、先進モデルとして注目を集めており、今後各自治体が電子会議室のようなコンテンツを導入する際の参考モデルになると思われる。

また、VCOMではコミュニティ・エディターを試しに使ってみたいという自治体向けに、数ヶ月から半年程度無料で使用できるサービスも用意されている。既に実績のあるツールであるので、仮に他の自治体がこのような電子会議室の導入を検討する際には、利用するのもよいかもしれない。まずは無料で試用してみて、運営上の問題点等を洗い出し、最終的にどのような形にするべきかを決めれば良いだろう。

 

第2節 電子会議室に対する宇都宮市民のニーズ

 さて、具体的な運営方法などについて述べる前に、まずそのようなコンテンツに対する住民ニーズがあるのかについて考えてみよう。いくら仕組みのほうを整えようと、それを利用する人がいなければ意味が無いからだ。そこで、宇都宮市にそのような議論を行える下地があるのかについて考えてみる。

宇都宮市の人口は約448千人(平成1211月現在)で、都市機能の充実やテクノポリス開発計画の推進などにより、年率1.0%程度の割合で増加し、平成22年には約495千人になるものと見込まれている。また、平成7年と平成22年の年齢別人口構成の予測の比較(図表4)では、年少人口(014)16.6%から16.5%へ、生産年齢人口(1564)71.3%から65.4%へと低下している。しかしその一方で、老年人口は(65歳以上)は約37千人増加して9万人となり、12.1%から18.1%へと大きく増加するものと見込まれ、5.5人に1人が高齢者という高齢社会になることが予測されている。また、宇都宮市の昼間人口比率は、平成7年では110.2となり、平成2年の108.9から1.3ポイント増加しており、中核市27市のなかでも4番目に昼間人口比率が高く、人口の集積が進行し、集積率も高くなっている。次に宇都宮市の通勤圏(自市町村または他市町村からの従業人口を5%以上吸収している市町村の範囲)は、昭和50年の18市町村、通勤圏内の就業者数が173,345人から、平成7年には24市町、就業者241,741人となり、宇都宮市を中心とした生活圏が拡大していることがわかる(注6)

これらのデータからもわかるように、今後宇都宮市は増加していく高齢者のニーズとともに、宇都宮市外に住んでいるが、宇都宮市内の学校や企業に通ってくる人々、言わば「昼間の市民」のニーズにも応えていかなければならなくなるだろう。

そこでこの問題を解決するための手段として、電子会議室を利用できないだろうか。まず前述したように、宇都宮市で生活している人々は、もはや「宇都宮市」という区域に住む人々だけではなくなってきている。そこで昼間の市民のニーズを拾うために、電子会議室を宇都宮市という地域以外に住む人々にも開放し、広く意見を集める手段にしてはどうだろうか。また、高齢者のニーズに対しても、現在市でも行っているインターネット講習を継続し、パソコンを使ってみたいが使いかたがわからない人を支援していくことによって、意見の取り込み期待できるのではないだろうか。実際、市ホームページの市長へのメールの利用者は、意外なことに高齢者が多いそうだ。このことは高齢者でも使い方さえ覚えれば、積極的に発言をする人もいるのだということを意味している。

また、宇都宮市に住む人を対象に昨年行われた『宇都宮市地域情報化市民意識調査』の報告書(注7)によると、「今後の市の情報の入手方法」として、1020代で6割、3050代でも5割以上の人が「インターネットホームページ」をあげており、今後市のホームページの利用者が増える傾向にあることも示されている。そのうえ、「市民の情報化に対する意識」では、市民の約8割が「情報化に関心がある」としており、期待する内容は、若年層は「インターネットを活用した情報交流」とし、高齢者は「インターネット等を通した社会参加に期待」という結果が出ている。「行政サービスへの情報化への関心・要望」として、インターネットによる情報収集や、まちづくりへの市民参加、地域の情報交流や地域活性化への期待が高いことも示されている。

以上のことからも、多くの市民が書きこむことができ、リアルタイムで意見や情報の交換ができる電子会議室のようなコンテンツへの潜在的な需要は大きいと言えるのではないだろうか。

 

第3節 電子会議室運営のありかた

続いて掲示板の運営方法などについて具体的に考える事にする。そこでまずは宇都宮市職員にホームページ上に掲示板のようなコンテンツを作成する可能性について伺ったとき(注8)の答えを要約して紹介し、それに対する反論を試みることによって、理想の運営方法を探る事にする。

「掲示板のようなコンテンツは顔の見えない不特定多数の人が書き込むため、心無い発言や身勝手な発言が起こりやすい。また、仮に設置しても書き込む住民がいるのだろうか。住民の熟度というものが上がれば議論することも可能かもしれないが、現在はその段階ではないのではないか。」

確かに既存のインターネット上の掲示板では、一部に心無い発言をする人がいることも事実である。しかし多くの場合、そういった極端な意見は他の人から反論されたりすることによって、まったくの無秩序な状態に陥ることはない。また、行政と住民の間に立つ管理人を公募で選び、議論をコントロールするなど、方法はいくらでもあるだろう。そして、仮に住民の熟度というものがあるとするなら、そのような議論の場を提供し、その様子を公開することによって熟度というのは上がるのではないか。「熟度が低いからやらない」では順序が逆であり、「やらないから熟度が上がらない」のではないだろうか。

「また、職員の書き込みはそのまま行政の態度、意見として住民に受け取られるので、慎重にならざるを得ない。質問や疑問に対してなかなかすぐ返答するといった対応がしにくい。結果として活用しづらいのではないか。」

もっともな意見だが、なにも職員が一問一答形式で答える必要は無いと私は考えている。一人の住民が問題提起したことに対して、それを読んだ他の住民が意見を書き込むことによって議論が始まる。そういった住民同士の議論を深めたり、情報交換する場として位置付ければよいのはないだろうか。また、さらに言えば、とりあげられる話題も必ずしも市政に直結するものである必要も無いのではないか。インタビューの中で、「ホームページ上で地域情報化計画に対する意見募集は行ったが、寄せられた意見も少なく、意見自体も『ホームページ上で図書館の書籍検索をできるようにして欲しい』といった程度のことだった。」といった話が出てきたのだが、そもそも住民が行政に関心を持つきっかけは、そういう自分の生活に直結するような身近な問題からではないだろうか。そういった小さな疑問が公開されることによって、同じような疑問を共有している多くの人が、行政のやっている事に関心を持つようになれば良いではないか。従って、どんなに小さいことであろうと原則として全て公開するほうが望ましいように思う。

 

第4節 住民参加の実現に向けて

以上のことをまとめると、「電子会議室」は市政を議論する場であるという考えにとらわれず、まずは住民達の暮らしに役立つ情報交換の場とし、住民同士の交流を深める場にすることを目標にしたほうが良い。そうすることによって、まず掲示板の利用者を増やすことが重要だ。多くの人が集まるようになれば、暮らしに直接影響する話題から自分の住む地域に対する問題意識が生まれ、やがてはまちづくり全体の議論まで発展する可能性もある。また、宇都宮市の側から見れば、ホームページ上に住民が集まる場所を作る事によって、掲示板に来た人が行政情報にアクセスしたり、逆に情報を調べに来た人が掲示板に立ち寄ったりする事も考えられ、広報情報等の周知徹底が図りやすくなると同時に、住民の行政への理解を深める手助けになるといった利点もあるのではないか。

2章から見てきたように、宇都宮市ホームページは「広報情報」は比較的充実しているのに対して、「政策情報」や「コミュニケーション型コンテンツ」はまだまだ少なく、改善できる点も多い。それではなぜこのような取り組みがなかなか進まないのだろうか。私は宇都宮市職員へのインタビューを通じて、情報インフラのようなハード面というよりも、職員の意識といったソフト面のほうに課題があるのではないかと考えるようになった。そこで次章からは行政への住民参加を実現させるための取り組みを行政の行うべきサービスのひとつとして捉え、そのようなサービスを高度化させていくための課題を明らかにしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4章 サービスの高度化を実現するための課題

 

1節 職員のサービスに対する意識

前章までは宇都宮市ホームページを見てきたわけだが、これは実際にホームページの運営に関わっている職員へのインタビュー(注9)を参考にした部分も多かった。そのインタビューを通じて、ホームページの活用のように、情報技術を活用していく際に障害になるような要因が浮かび上がったのでここで紹介したい。以下は、インタビューの結果を要約したものであり、主にホームページの運営体制について伺ったときのものである。

 「ホームページ開設当初は、広報課の職員一人が各課の依頼に基づいて、各課で作成された文書を受け取り更新するという手順でやってきたが、情報量の増加に伴い作業量も増え続け、一人でできる限界を超えてしまった。そのため現在では広報課内の6人が分担して更新作業にあたっている。将来的には各部課が直接作成・更新する体制に移行していきたいのだが、現状では各部課がそのレベルまで到達しておらず、なかなか難しい。例えば情報政策課のように、情報化を担当している部署は情報技術を活用していこうという意識も高まっているが、他の部署とまだまだ温度差が見られる。いくら掛け声をかけてみても、他の部署はなかなかついてこないのが現状である。また、職員個人レベルの問題としては、年齢による差も見られる。若い職員はプライベートでもPCを日常的に使用し、自分のホームページを持っている人もおり、インターネットなどの情報技術に対する理解があるが、年配の職員の中にはなかなか理解を示さない人もいる。そもそもPCを使おうとしない人もいるため、情報技術に間する知識も深まらず、それを業務に活用しようという意識も高まっていかない。例えば現在のホームページ上に、強制的に全課のページを作って公開してしまうことによって、危機感を芽生えさせ、コンテンツの充実をはかるなど、多少憎まれ役になってでも庁内の意識を高めていくしかないだろう。」

私がインタビューしたのは広報課と情報政策課の方だったため、情報化を担当する部署として、内部の職員をどう引っ張っていくかに苦労しているように見受けられた。このインタビューから読み取れるのは、情報化の推進のような行政サービスの質的向上を阻む最大の要因は、職員の意識にあるのではないかということだ。それではなぜこのような意識が生まれるのか。そしてそれは自治体特有のものなのだろうか。そこで次節からは民間企業との比較という視点から、自治体の抱える問題を明らかにしていきたい。

 

2節 環境の違いによる意識の差

一見、自治体のような公的組織と民間企業は、その目的の違いから比較することに意味が無いと思えるかもしれない。つまり民間企業のような利益追求型の手法は、自治体の運営方法の参考にはならないという考え方だ。しかし、自治体であれ企業であれ、限られた資源を有効に使って、最大限の成果を生み出す組織であるという点では一致していると私は考えている。従って、そういう考えを念頭においておけば、自治体と企業との比較も意味を持つはずである。

自治体のような公的組織と民間企業との違いとしてまず思い当たるのは、競争の有無である。これには組織レベルと個人レベルの両方に当てはまると考えられる。

それではまず組織レベルの視点から見ていくことにしよう。多くの民間企業は、市場において常に同業他社との競合状態にさらされている。同じ種類の製品・サービスを提供している相手と競争し、勝つためには、自社の製品・サービスの価値を少しでも高める努力を続けるしかない。これに対して自治体には市場での競争といった概念が無い。仮に自治体にとっての市場を地域とし、顧客を住民であると仮定した場合、宇都宮市という地域に住む人々に対して、隣接する自治体がよりよい行政サービスを提供し、住民を獲得しようと進出してくるといった状況は起こりえないわけだ。従って、サービスの価値をより高めていかなければならないという危機感が薄くなる。つまりこの環境の違いから来る影響こそが、自治体がサービスを高度化させる際の要因になるのではないだろうか。

企業と自治体との環境の差についてもう少し詳しく述べていくと、民間企業の場合は市場の評価によって活動の成否が決定されると言っても良い。もし顧客のニーズに合わない商品やサービスを提供し続けたり、コストが高すぎて利益を上げられない体質であり続ければ、やがて顧客から見放され、最終的には倒産という結末を迎える事になる。よって企業はそのような事態に陥らないために、絶えずマーケティングで市場のニーズを探る努力や、コスト削減によって効率的な経営を行うように努めている。一方自治体は先ほど述べたように自治体にとっての市場の評価、つまり地域住民の評価といったものが、組織の存亡に関わるほどの影響を持ちにくい。従って、住民のニーズを探ろうといった動きや、コスト削減などの効率化を図ろうという意識がどうしても生まれにくくなる。加えて、行政の業務である各種の行政サービスの成果といったものが、数字として表しにくいといったこともこの状況に拍車をかけていると言えるだろう。

次に、今度は個人レベルの視点から見ていくことにする。現在、多くの民間企業が能力主義や成果主義の考え方を取り入れた人事制度を採用しており、もはや終身雇用や年功序列の時代は終ったと言われている。これに対して公務員は、民間に比べてまだまだ年功序列の傾向が強い。仮に成果はあげてもあげなくとも評価は変わらずに、失敗したときだけ評価が下がるとしたら、人間の心理としてはどうしても安全なほうを選びたくなる。まして公務員は身分が保障されている為、民間企業のように成果をあげられないからという理由で解雇される心配も無い。これでは自分から失敗するリスクをとってでも動こうという人が少なくなるのも無理はない。俗に言う「お役所仕事」や「お役所文化」とは、こういった自治体の持つ特異性を象徴するものなのだろう。そしてこうしたいわばぬるま湯的環境こそが、職員個人のレベルにおいても自治体のサービス向上を妨げる大きな要因になっていると思われる。以上のように、自治体は組織レベルにおいても個人レベルにおいても、常にサービスの質を高めていこうという意識が生まれにくい環境にあるといえる。

 

第3節 変化への対応に迫られる自治体―時間との戦い―

しかし、最近ではこうした環境も変わりつつあるようだ。十年来の不況の影響もあり、財政危機に陥る自治体が増えてきている。自治体においても、限られた資源からいかに最大の成果を生み出すかが、運営手法の焦点になってきつつあるのだ。この効率的な運営手法に関連して最近よく耳にするようになったのが、一般に行政評価システムと呼ばれているものだ。これは前述した組織レベルの観点から、資源の投入と算出、つまり予算や人員をかけた結果として、住民に何がもたらされたのかを正しく評価しようというもので、すでに幾つかの自治体では実施されている。また個人レベルにおいては、近年自治体においても能力主義の人事制度を掲げるところが目立ち始めた。これは、時代の変化とともに住民ニーズというものがますます多様化していくと考えられること。そういった時代に対応し、職員一人一人の能力を最大限に発揮するためには、公平な評価に基づく報酬が不可欠であることが理由として挙げられる。まとめると、組織レベルでは行政評価システム、個人レベルでは能力主義にのっとった人事制度が今後多くの自治体で導入される可能性が高いということである。そして、前述したような職員の意識の問題を解決するためには、この二つのシステムがしっかりと機能することが不可欠である。実は宇都宮市でもこの行政評価システムと新人事評価制度の導入に向けた取り組みを始めており、これを早期に徹底することによって、職員の働く意識が変化することを期待している。

しかし現実を見ると、はたしてそれらの新しい取り組みが間に合うのか不安になる状況がある。例えば情報化に関する問題をとりあげよう。現在日本政府は「e-Japan戦略」(注10)に象徴されるように、国を挙げて行政の電子化に取り組もうとしている。国や自治体の情報化に投じられる予算は年間数兆円にのぼるとも言われ、不況の影響から民間企業が情報化投資を抑制する傾向にある中で、かなりの市場規模になると見られている。実際、情報化の先進自治体として知られる神奈川県横須賀市では、いち早く電子入札のシステムを取り入れるなど、積極的な情報化によってコストの削減とサービスの向上を実現している。しかしその一方で、大手メーカーやシステム開発会社の言わば「食い物」にされる自治体もでてくる可能性があるのだ。「電子政府」プロジェクトは、「2003年までに国が提供するすべての行政手続きをインターネット経由で可能とする」(注11)というように具体的な期限が決められているため、すでに多くの自治体が情報化に向け動き出している。しかし、自治体が情報技術をどのように活用していこうかと考える時間があるのかが疑問である。計画もないまま、とりあえず2003年までにシステムだけ入れてしまおうという自治体が出てくることも予想でき、そのような状態で導入を進めれば、必要も無いものまで導入する事になったり、導入しただけで全く活用されないような事態も考えられる。このままいくと、近い将来には、情報技術を上手く活用して住民に高度なサービスを提供する自治体と、明確なビジョンも無いまま高額なシステムを導入し、業者の食い物にされるだけの自治体とに二極化するおそれもある。また、行政の情報化に際しては政府が情報化を支援するために補助金がでることも考えられるが、補助金を出すにしても以前のような全国平等にではなく、例えば電子入札など、ケースごとに自治体に手を挙げさせ、やる気のある自治体のみに補助金を出す方針に変わってきているそうだ。意識の低い自治体が今までと変わらないことをやっていれば、地域にお金も人も集まらなくなるのは自明である。

現在情報化において先進的であると言われている自治体に特徴的なのは、自らを「情報サービス産業」であると宣言したり、「エクセレント・ガバメントを目指して」(三重県)(注12)や「コア・コンピタンス重視」(兵庫県川西市)(注13)のように、経営学的な考え方を積極的に取り入れていることである。今後の行政は、住民に提供すべきサービスとは何かを明確にし、それに必要な投資はどれほどのものなのかを厳しく見極める必要に迫られることになる。そういった時代に対応していくためには、職員一人一人が危機感を持ち、個人レベルから組織の変革を図っていくことが必要不可欠になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわりに

「情報は民主主義の通貨である。」とアメリカの消費者運動家ラルフ・ネーダーは述べている。住民が自らの頭で考え、政治に参加するためには充分な情報が公開されていることが前提になるという認識からである。行政への「住民参加」という言葉自体は耳にするようになって久しいが、未だ実感を伴った言葉にはなっていないように思われる。「住民参加型行政」を掛け声だけに終らせないためには、自治体がまず自らの持つ膨大な情報を積極的に公開していくことが大前提になる。一方、時代の変化とともに地域の抱える問題は複雑化、多様化している。環境問題ひとつとってみても、自治体、住民、企業それぞれ当事者としての立場も異なり、問題自体も行政区域の枠内だけで考えられるものではない。今後は自治体単独では解決が困難な状況が頻出することが予想され、このような状況においては、これまでのような行政から住民への「お仕着せ」や、住民から行政への「おまかせ」主義では通用しなくなるだろう。地域の多様な問題に対処していくには、自治体だけでなく、地域の住民やNPO、大学、企業といった各主体が知識や知恵を持ち合い、問題解決のために「協働」していく必要がある。本稿でとりあげた自治体ホームページ上の電子会議室は、このような主体間での情報交換や、問題意識の共有の場としても活用できるものであると私は考えている。自治体はそのデメリットにばかり注目して消極的になっているのではなく、どのような方法であればそのメリットを活かせるのかということに焦点をあてる時ではないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

私事ではあるが、私は4月から官公庁や自治体向けのシステム開発を手がけている会社で働くことが決まっている。そういう意味では行政学研究室を離れてからも、情報化という側面から行政に関わっていくことになるわけだ。特に今後の数年間で、情報技術によって行政は大きく変わっていくことになるだろう。その先端に身を置き、行政の変化していく様をこの眼で見られればと思っている。そして近い将来には「宇都宮市市民電子会議室」が開設され、市民同士や職員との間で活発な議論が展開されていることを期待している。

なお本稿の作成にあたっては、宇都宮市情報政策課及び広報課の方々に大変お世話になった。この場を借りてお礼を申し上げたい。そして本稿作成の過程で貴重なアドバイスをくれた行政学研究室の同期のみんなと、お忙しいなか熱心な指導にあたってくださった中村祐司先生に感謝したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《注釈》

(注1)総務省『平成13年度情報通信白書』より。

(注2)松下圭一『自治体は変わるか』(岩波書店,1999) 86頁より。

(注3)同上93頁より。

(注4)VCOM http://www.vcom.or.jp/index.html

(注5)神奈川県藤沢市「藤沢市市民電子会議室」http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/

(注6)宇都宮市企画部情報政策課『宇都宮地域情報化計画 平成137月』13頁より。

(注7)同上『宇都宮市地域情報化市民意識調査―報告書― 平成1210月』より。

(注8)2001829日 宇都宮市企画部情報政策課及び広報課職員へのインタビューより。

(注9)同上。

(注10)e-Japan戦略」2001122日策定。http://www.kantei.go.jp/jp/it/index.html

(注11)e-Japan重点計画』「5.行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用」より。

(注12)トマス.J.ピーターズ,ロバート.H.ウォーターマンJr.『エクセレント・カンパニー』(講談社,1983)

(注13)ゲイリー・ハメル,C.K.プラハラード『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞社,1995)

 

《参考文献》

島田達巳『地方自治体における情報化の研究』(文眞堂,1999年)。

島田達巳『情報技術を活かす自治体戦略』(ぎょうせい,2001年)。

田尾雅夫『行政サービスの組織と管理』(木鐸社,1990年)。

松下圭一『自治体は変わるか』(岩波書店,1999年)。

山口直人「地方自治体ホームページと統計情報提供の現状」『統計』20018月号pp.15-21.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図表1 ホームページ開設状況

地方公共団体におけるホームページ開設状況

 

 

 

図表2 ホームページを活用した情報提供内容

地方公共団体におけるホームページを活用した情報提供内容

 

総務省『平成13年度情報通信白書』より抜粋

http://www.soumu.go.jp/hakusyo/tsushin/h13/index.htm

 

 

 

 

 

図表3 宇都宮市ホームページに関する取り組み等


1.開設から現在までの新規取り組み等(新しいコンテンツなど)

   1998(平成10)3月 開設

   1999(平成11)4月 ・掲載分野ごと(主に暮らしの便利帳)に問題点などを整理

5月 ・行政情報提供システムの稼動

6月 ・FAX情報提供システムの稼動(PCが無い人向けに)

・選挙速報の試行

            7月 ・市長へのメール「宮だより」の開設

                                   8月 ・掲載内容の一斉更新(全庁体制で実施)

                                             ・広報課内での更新体制の見直し(分担制の実施)

                                          9月 ・所管課による直接管理の試行(都市計画課)

                                             ・マナビス端末との接続試行

                                     11月 ・選挙速報の本格実施

2001(平成13)4月 ・iモード対応ページの開設

         7月 ・トップページのリニューアル

                                           ・申請書等の提供

                                        ・各課メールアドレスの公開

               ・iモードによる選挙速報の開始


2.市民の利用度について

 ()一日あたりの平均アクセス数、アクセス数の推移はどうなっているのか。

   開設(19983)      230/

   19994月  91,000   990/

   20004月  455,000  1300/

      20018月末 922,000  2580/