要約

 最近のニュースや新聞では、“IT(情報技術)”という言葉が頻繁に取り上げられ、私たちの生活の中にも、あっという間に浸透してきた。数年前まで“IT”という言葉は、今日ほど騒がれることもなく、一部の業界の間でしか使われていなかった。それが近年は、国をあげてその推進に熱を上げている。

この卒業論文は、私自身が興味をもっていたITと行政学を関連させて、行政が電子化した場合に、どのようなメリット、デメリットが生じるのか、またそれはどうすればよいのか、実地調査や講演会に参加して得られた情報も加味して、考察してまとめたものである。「ITが善か悪か」という観点ではなく、「ITを上手く利用して行政サービスを効率化していくには、どのような問題があるのか」、「現場では実際どうなのか」という点に注意して、論述していく。

この論文の構成は以下の通りである。

 第一章では、行政の電子化と国の取り組みについて目を向け、ITの歴史的意義や電子自治体構想について大まかな流れを見た上で、国の動きや国際比較を通して、その長所や解決していくべき問題について見ていく。

 第二章では、地方自治体に視点を変え、自治体の動向や、IT講習会などについて、総論的にふれていき、次章につなげていく。

 第三章では、前章の内容をふまえて、栃木県の事例をもとに、実地調査の結果や、それによって知ることができた問題について考察していく。

 第四章では、行政の電子化と諸問題について、卒論を作成していく過程で感じた自分の意見もまじえて論述し、まとめていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめに ―――私のIT論―――

 

IT(情報技術)の是非について考えた場合、プラスの側面が大きく目立つために、私たちは深く考えずに、即座にyesと答えてしまうだろう。

実際に私も、ITがもたらすものは負よりも正の側面の方が大きいと感じている。

大小の規模を問わず、企業の経営者たちは、ここ数年、ITの導入に積極的な姿勢をと

ってきた。IT関連企業の株価は、それに伴って上昇傾向にさえあった。最近になって、IT熱にやや陰りが見えたり、株価の下落があったりしたものの、それでもITは必要なものとして存在している。

ITは、初期の導入段階で、かなりの費用がかかるため、資本のある企業にとっては導入しやすい面をもつが、一方で日本の大半を占める中小企業にとっては、逆に企業経営を圧迫してしまうという側面をもちあわせている。自治体においても同様で、財源の豊かな自治体や、大規模なところでは、比較的導入しやすいけれども、実際にそれ以外の、過疎や高齢化の著しい地域や、税収の乏しい自治体では、導入がかえって財源自体を苦しくしてしまうおそれがある。いずれにしても、コストと採算性のバランスを誤らなければ、ITは戦略的経営を行う場合、ビジネスのツールとして有効に機能する性質をもつことは確かである。

企業経営や自治体の運営において、ITのもたらすものは、一言で表わせば「効率性」である。少ないコストで、より多くの利益を生み出す仕組みは、利益を追求する目的の民間企業だけでなく、公共的な分野にも受け入れられている。実際に就職活動でまわった企業のなかには、親会社のあるところ・独立系にかかわらず、民間企業向けのソフト開発のほかに、電子自治体構想の需要を見込んだソフトを開発しているところが意外に多くあった。IT企業の顧客リストの中には、今では自治体の名前が顔を連ねることが珍しくなくなってきている。自治体以外でも、病院などの医療機関や、大学等の教育機関に対しても、同様に顧客層は拡大している。

例を挙げるならば、税金や保険関連システムが代表的なものではあるが、岐阜県恵那市役所では、平成1341日から、住民情報を扱う部署において「指紋マウス」を導入し、担当者以外はその情報を見ることができないように、プライバシーやセキュリティーを徹底したシステムを取り入れた。これは、複雑なパスワードを打ち込むという手間が省け、かつ指紋という判別性の高いものをもとにしている。また、政府の電子自治体構想に向けて、IT業界では、各企業が独自の強みを活かしながらも、提携を組んで、「自治体」という顧客の獲得に備えている。

これらの背景をふまえて、ITの是非についてまとめてみると、まず、メリットは、人件費等のコストの削減、効率化、情報の送受信や手続きの円滑化、高速化が主なものである。これは、周知の事実であり、容易に思いつくことができる。しかし逆に、ITのデメリットを考えてみた場合、私は就職活動の中盤に差し掛かるまで、自分自身で答えが見出せなかった。自分の興味がある分野だけに、正の側面を強く見すぎていたこともあるが、ここで敢えて、ITによって不都合が生じること・困ることを冷静に考えてみた。この論文を書き始めた時点で、私が考えるITの負の側面というのは2つある。

まず1つは、失業率の増加と、それに伴う失業手当の給付との関係である。ITによって作業が効率化し、今まで複数の人間が行っていた仕事が、その半分の人数でまかなえるようになった場合、企業は利益を生みだすためにも、余分なコストの削減をはかり、当然、その作業にかける人員を削減するだろう。そうすると、その該当社員は、他の部署に配属になるなりの措置がとられるけれども、実際に今日のような不景気の場合、そうした余裕のない企業も数多く存在するわけであり、最悪の場合は、解雇というかたちを採らざるをえなくなり、その結果として、失業者が生じてしまう。また、それ以外の場合でも、企業や自治体は、事務の効率化によって、その部署への採用を新卒からは採らなくなるなど、雇用情勢も何らかの影響を受けることになるだろう。実際に就職活動を行っていても、「管理・事務職の募集は、近年特に減少・見合わせの傾向にある」という企業の人事担当者の話を耳にする。

このように失業者が増加すると、行政は、失業手当を給付しなければならなくなる。事務の効率化やコストの削減によって、財源の確保にあたってきた行政サイドは、ここで新たな壁に直面することになる。IT化によって企業や行政の無駄なコストを削減し、景気回復をねらってみたものの、実際にそれによって行政は、今まで払わずに済んでいた手当てを給付しなればならない。財政難のなかで、新しい歳出が生じることになる。好況のときは市場も活性化し、仕事量も増加するので、そうした問題になる前に、市場で自然に解決されると考えられるけれども、今のような経済状況では、具体的な解決策を見出すことも難しいのではないだろうか。

2つ目は、地方分権との関連である。地方分権によって、自治体の裁量権はこれまで以上に大きくなったけれども、その反面、自治体独自の運営能力や力量が問われてくる。実際に力のあるところでは、ITの導入や、それを使っていく人材の確保に積極的だが、そうでないところは、情報公開の遅れや電子化への消極化など、地域によって行政サービスの質・量ともに差が出てくることは否めない事実である。関東地方の自治体に限定してみても、自治体独自のホームページの有無や内容にも、個性が表れている反面、情報量や市民の利用度にもばらつきが見られる。

また、ITの導入が円滑にいった自治体でも、市町村合併等の影響によって、これまで使っていたソフトやシステムを変更せざるをえないことも起こりうる。規模の異なる自治体同士の合併ならば、効率性やパワー(政治的な力関係)によって、規模の大きい自治体のシステムに変えることが自然だと見なされるけれども、ここで問題となるのは、規模が同等の自治体で、システムが異なる場合である。自治体関連のシステム開発を行っている企業担当者に話を伺ってみたが、企業側は自社製品ソフトの継続利用を勧めるが、他社と競合というかたちをとらない場合も、全く異なる第三者製品ソフトを新たに導入する場合もあるなど、自治体同士の関係も含めて、まだ複雑な印象を感じた。

ここで、ITが私たちの生活にもたらすことに目を転じると、プラスの側面としては、当然個々人の生活が快適・便利になることであり、これは疑う余地もない。家にいながら買い物ができ、SOHOのように自宅で仕事をすることも可能になる。私たちの生活スタイルが、パソコン中心になる可能性も無いわけではない。現に、就職活動においては、大多数の学生がインターネットを通じて、資料請求や、説明会の予約、人事担当者と連絡を行っていることが、ごく当たり前の状態になっている。また、朝新聞を読み忘れてしまった場合、主要な新聞社のホームページをiモードや携帯端末から呼び出して、記事を読むことができる。風邪で授業を欠席してしまっても、その連絡をメールで行ったり、授業内容をホームページで確認することもできる。通学時に、事故や天候の影響で電車の到着時刻が遅れていることを、駅に到着する前に、情報サイトから入手することもできる。

マイナスの面を見てみると、従来からデジタル・デバイドの問題がマスコミ等で騒がれている。実際に、情報をもつ者と、もたざる者との格差は、否定できない。しかしこれは、情報・通信インフラの整備や、インターネットやパソコンに人々が接する機会を義務教育や生涯学習等で設けたりすることで解消できるのではないだろうか。情報を得るための必要最小限の手段を、ある程度整えておけば、それ以降は(利用・導入するか否かは)、個々人の問題である。

よって、ここでは私たちが情報化社会の中で、ITを生活の中で取り入れた場合を想定して考えてみると、ITのもたらす弊害はやはり、そのスピードと量である。情報の送受信が円滑化し、かつ高速化した状態で、私たちは、休日でも夜中でも、場所と時間を問わず、様々な情報が送られてくる。実際に自分が必要としている情報の場合は、それほど問題にはならないが、仮に自分とは無関係の、全く必要としていない情報が頻繁に送られてきたらどう思うだろうか。アドレス先で判別すればいい、という意見もあるだろうが、実際にウィルスのように、それだけでは防ぎようのないものも出てくる。プロバイダが中身を判別して送る、という場合にも、そこにはプライバシーとの問題が並存する。氾濫した情報の中から、自分の求める情報が何か、どれが自分にとって有益な情報なのか、個人が判別する目をもたなければ、最悪の場合、人が情報に飲み込まれて、生活にゆとりがなくなり、常に慌しい状態になってしまいかねない。

結局のところ、ITや情報は、私たちのツールであって、私たちがそれに振り回されてしまうような状態はあってはならない。物事には長所と短所が存在し、長所を活かして、短所を最小限に抑えて付き合っていくということは、理屈で言うほど簡単ではないけれども、努力してそれに近づけていくことはできると思う。良い面だけを見てIT導入に踏み切るのではなく、その弊害をも見据え、解決策を常に考えた上で導入していく姿勢が、今の日本の諸機関や企業には必要ではないだろうか。

以下、電子自治体構想に向けた、国の流れについて見ていきたい。

 

第一章  行政の電子化と国の取り組み

 

第一節             ITの歴史的意義と電子政府構想

 日本では現在、周知のように、国をあげてIT政策に力を入れている。IT革命のもとで、政府や地方自治体が行政サービスの電子化を図っている。森内閣のときに打ち出した電子政府構想の目標、2003年に向けて、行政が静かに動き出している。私たちの生活に身近な範囲で、今何かが変わろうとしている。インターネットという技術を通して、一体何がどのように進んでいくのだろうか。

 国側によるIT革命の見方を考察してみると、歴史的意義については、「情報や流通の費用・時間の低下」、「密度の高い情報のやりとりが容易になる」、「知識の相互連鎖的な進化」(註1)の3つが挙げられている。ここで見ていくと、1つ目については明白であるので触れずにおくが、後者2つについては、少し付け足しておきたい。まず2つ目の定義であるが、政府はこれによって、人と人、人と組織、人と社会の関係を一変することになると考えている。3つ目の定義では、工業生産的であった日本の社会構造が、高度な付加価値を生み出す“知識創発型社会”に変わっていくとよんでいる。これは、アメリカ社会の構造を見れば、私たちでも容易に想像することができるだろう。

 では次に、そうした流れの中で政府が打ち出した「電子政府構想」について、その定義をもとに見ていきたい。

 「電子政府」とは、簡潔に言えば、紙ベースの行政手続を電子化することによって、行政の合理化を図り、行政サービスを向上していくことを目的にしたものである。

 総務省の定義をまとめてみると、電子政府・電子自治体とは、即ち、「住民の利便性の向上、行政の簡素・効率化や透明性の向上に資するため、インターネット等ITを活用した行政運営」を行っていくことが目指され、具体的には、電子認証(インターネット上で本人であることを確認するための手段)や電子調達(インターネット上で事業に必要な資材を調達・管理すること)、電子決済(電子商取引にともなう決済をインターネット上で行うこと)、電子申請、原本性保証、インターネット、LAN、CATVなどがその例として挙げられている。

 小泉内閣メールマガジン(註2)によれば、電子政府とは、「行政情報の電子的提供、申請・届出手続の電子化、情報ネットワークを通じた情報共有・活用など、電子情報を活用した新しい行政のあり方」であると述べられている。

電子政府構想には、また3つの側面がある。

 1つ目は「国民向け」(GtoC=Government to Citizen)であり、前述したように、国民からの届出・各種申請を、インターネット上で可能な限り一度だけの手続で処理できる仕組みである。2つ目は「企業向け」(GtoB=Government to Business)であり、各企業への調達のほか、各省庁にまたがる審査・手続、公共事業の入札・開札の電子化が目指されている。3つ目の「政府・自治体間」(GtoG=Government to Government)では、連絡・内部業務の合理化、行政サービス・各種データの電子化が検討されている(註3)。

 いずれにせよ、行政が電子化することによって、私たちは24時間いつでも、自宅や職場からインターネットを経由して、実質的に全ての行政手続をすることができるようになり、利便性が飛躍的に向上していくことになるだろう。

 

 

第二節             電子政府に向けた国の動き

前述のような背景のなかで、国はITについてどのように取り組んでいこうとしている

のか、その考えや実現に向けて政府が行った会議、整備した法制度等について見ていきたい。

IT化が進行していく中で、この「新しい国家基盤」を形成していくために、政府は、情報・知識が付加価値になるような法制度・情報通信インフラの確立を早急に進めていかなければならないとしている。ITを上手く利用していく環境整備が、21世紀の国際競争での優位性に大きな影響を与えることは、アメリカ、ヨーロッパ諸国、韓国、シンガポールの国々を見れば、周知のことであるが、日本はこの点において先進国の中でも大きな遅れを取っている、という事実を、私たちも認めなければならないだろう。ここで、政府が注目したのは、「インターネット普及率」と「ビジネス・行政へのITの浸透」であり、日本はこの2点において力を入れていく必要性があると指摘している(註4)。

ITに限らず、現在は「ドッグ・イヤー」という言葉が出てくるように、技術・商品の変化の速度が速い状況にある。変化の速度が速いなかでの、こうした対応の遅れは致命的ともいえるだろう。

ここで国側がこれまでに行ってきた、IT推進への取り組みについて見ていきたい。

まず1997年12月20日に、閣議決定により「行政情報化推進基本計画の改定について」が出され、続いて翌1998年11月9日には、高度情報通信社会推進本部の決定により、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」が出された。これら2つによって、21世紀初頭までに、「電子政府」、すなわち高度に情報化された行政の実現を目指す方針が提示された。

1999年12月19日には、「ミレニアム・プロジェクト(新しい千世紀プロジェクト)について」が、内閣総理大臣の決定によって出された。これは2003年までに、民間と政府との行政手続のやりとりを、インターネットを用いることによって、ぺーパーレスで行うことを目標に掲げている。

2000年11月27日には、IT戦略会議の決定で、「IT基本戦略」が打ち出され、4つの重点政策分野が提示された。ここでまず、IT戦略会議について補足しておくと、20人の有識者からなる会合で、主に、インターネットの利用、自由・安全な情報・知識の受発信、創造的・活力ある発展可能な社会、を実現するための戦略を練っている。また、ここで出された4つの重点政策分野とは、@超高速ネットワークインフラの整備・競争政策、A電子商取引・新たな環境の整備、B電子政府の実現、C人材育成の強化,である。Bについては、2003年までに、内部電子化、官民接点オンライン、行政情報のインターネット公開・利用促進、規制・制度改革推進が規定された。

2001年1月6日には、第150回国会で制定された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(通称:IT基本法)が施行された。この法律では、施策の迅速・重点的な推進、電子自治体の推進(行政の簡素化・効率化・透明性の向上)、公共分野の情報化、という基本方針が規定された。また、国側の動きに関わってくるので、同法中にある自治体関連の条文を見てみると、自治体の責務として、第11条では「国との適切な役割分担」、「区域の特性を生かした自主的な施策の策定・実施」という記述が見られる。また第12条では、施策が「迅速・重点的に」実施されるように、国と自治体両者の「相互連携」が必要であるとしている。

2001年1月22日には、IT推進戦略本部により、「e-Japan戦略」が決定された。ここでは、前述した「IT基本戦略」と同じ4つの重点政策分野が出された。なかでも電子自治体について見てみると、政府は基本的な考え方として、行政内部、行政と国民、行政と事業者とで行われる、「書類ベース」・「対面ベース」の業務をオンライン化し、情報ネットワークを通して、省庁横断的な情報や、国・地方で一体的な情報を瞬時に共有・活用していくのを目指している。これを実現していくためには、既存業務をそのままオンライン化するのではなく、IT化に向けた中長期にわたる計画的投資が必要であると考えられている。また業務改革や、類似業務・事業の整理、制度・法令の見直しといった行政の簡素化・効率化のほかに、国民・事業者負担の軽減も考えられている。こうした取り組みによって、最終的には誰でも、国・自治体のサービスが、時間的・地理的制約を受けることなく利用できるようになり、実質的に24時間全ての行政手続の受付が可能になることで、快適・便利な国民生活・産業活動の活性化につながるとされている。

政府の目標は、やはり“2003年”であり、電子情報が紙情報と同等に扱われる行政の確立を推進していくために、「@明確な目標設定、進歩状況に対する評価・公表、柔軟な改定、A業務・制度の改革、B民間へのアウトソーシング」の3原則が掲げられた。国側が進める具体的な政策等については、これだけでは分かりにくい感が否めない。

上述した3原則を実現するために、国は、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法第35条の「高度情報通信ネットワーク社会の形成のために政府が迅速・重点的に実施すべき施策について定めるもの」という規定に基づき、国民のIT推進の成果を分かりやすく示すためのモデル事業、即ち「e-Japan重点計画」を着手することになった。この重点計画では、主要プロジェクトの運用費・開発費別の、投資見込み額・効用を、政府が国民・事業者に明らかにする、ということが含まれている。

2001年4月1日には「公共工事の入札と契約の適正化に関する法律」が施行されたが、これはいわゆる、公共工事の基本法といわれるものであり、@できる限り入札情報を公開し透明化させること、A不良不適格業者を排除し、できる限り多くの人が参加できるようにすること、B国だけでなく、全都道府県・市町村にも徹底させること,という3つの項目が義務付けられた(註5)。諸外国では、日本よりも早い時期から、入札の透明化などを定めた法律が制定されている。日本で当該法律が施行される前は、国に関しては「会計法」、地方自治体については「地方自治法」というように、別々の法律によって決められていた。

また2001年6月21日には、国土交通省によって「公共事業改革案」が発表された(註6)。この中では、平成16年(2004年)までに、国土交通省によって発注される全ての公共事業を電子入札することが決められ、その後、その目標は平成15年(2003年)に前倒しされた。電子入札を導入し、運営していくだけでも、年間2〜3千億円もの支出削減が可能になると言われている。今まで一体どこでどのように、そのような多額の費用がかかっていたのか、そのようにかかるものなのか疑問であるけれども、国土交通省の年間発注は、4万4千件と言われており、これらが全て電子入札されるようになるということは、行政の電子化に大きな影響を与えることに間違いないだろう。

そして同省は、地方自治体に向けて、その電子入札の技術を無償提供することで、自治体での電子入札を図ろうとしていることがうかがえる。同発表の中で、地方自治体に関しては、平成22年(2010年)までに、地方自治体を含む全ての公共事業を電子入札で行うようにすることが目標とされている。地方自治体に無償提供されるソフトは、同省と同一のものであり、どの会社のソフトを使うかということは、情報・ソフトウェア開発企業にとっては大きな問題であると同時に、大きなビジネスチャンスになるだろう。しかし、日本の社会を見ていくと、旧政府系企業や大企業が有利であることは否めないだろう。

 その5日後の、2001年6月26日には、IT戦略本部が「e-Japan2002プログラム」

を正式に決定し、次年度のIT関連予算の基本方針を決定した。重要予算項目は全部で5分野約50項目あり、@高速ネットの推進、A教育の情報化・人材育成、Bコンテンツの充実、C電子政府の実現、D知的財産権等の国際ルールづくり,の5分野が挙げられた(註7)。

 また、その他に「e!プロジェクト」として、電子投票制度、空港での出入国手続のICカード化、電子救急システム等が着手されることとなった(註8)。

 ここで時事的なものを含め、私たちを取り巻く環境の中で、特に国の情報関連のものを、行政機関の発表や新聞記事に掲載されていたもの等から補足して取り上げてみると、以下のようになる。

 まず2001年7月6日の総務省発表によれば、高速インターネット利用が可能になるDSL(デジタル加入者線)の加入者は、6月末現在で39万1,333人と、半年で約30倍増加したことになり、国民の情報化がものすごい速さで進んでいることが分かる。

 また同日、厚生労働省が出した「2001年度版労働経済白書」によれば、2000年を中心とした最近の労働経済の動向分析で、IT革新による雇用量・働き方への影響を見てみると、やはり事務部門での影響が大きく、ネットワーク化やアプリケーションの発展が、事務部門の生産性向上や、新しい経営手法を生み出した、と述べられている。日本全体での雇用については、1990年代から、200万人以上の雇用創出効果があったと言われている。

 一方で「情報通信に関する現状報告」(2001年度版情報通信白書)によれば、日本がブロードバンド元年を迎えたことが書かれており、インターネット利用者が、2000年の4,708万人から、5年後の2005年末までに8,720万人になると予想されている。インターネット普及率は、1999年の21.4%から、2000年には37.4%になったと報告されている。しかし普及率に関する世界ランクを見てみると、13位から14位にダウンしているように、世界の流れから見てみると、やや遅れをとっていることがうかがえる。

 「IT資本」(情報機器・ソフト)と経済の関係を見てみると、電子商取引をはじめとするネットビジネス市場は、2000年の47兆8031億円から、2005年には132兆9000億円と見込まれている。マクロ経済への貢献を見てみると、1995年から1999年の実質経済成長率が平均1.22%だったのに対して、IT資本関連は平均1.23%と、他分野の落ち込みをカバーしている。

 問題点に関しては、デジタルデバイド、コンピュータウィルスの増殖等、広く世間に知られているものの言及になっている。

 2001年12月1日付の読売新聞の記事によれば、2001年11月1日に「ワンストップサービス法」が施行され、郵便局が市町村の業務を一部受諾することができるようになったと伝えた。同年11月30日の郵政事業庁の発表では、同年12月3日から順次、市町村からの要請に基づいて、住民票の交付や高齢者の生活状況確認といった自治体業務を代行できるようになっていくという。郵便局が代行するサービスは、全国33市町村で、長野県茅野市内や岡山県岡山市内では、戸籍謄本や住民票の写し、印鑑登録証明書等の証明書の発行が行われていく。北海道内の市町村では、郵便配達時に高齢者が病気になっていないか確認したり、ごみの不法投棄を発見したら通報する、といった業務を代行するところも出てきた。その他に、公営バスの回数券や、自治体が指定するゴミ袋の販売をする郵便局もあるということだ。 

以上、国側の動きについて法制度を中心に見てきたが、全体的に見て、具体的な政策に欠けている気がする。抽象的な表現が多く、実際にどうすれば良いのか、もう少しはっきりとした計画が必要なのではないかと感じた。“2003年”という言葉がキーワードのように随所で見られたが、実際に数えてみると、あと2年弱である。2年後に行政制度が大きく変わるというにもかかわらず、その動き・目標について、国民に十分に理解されているとは言い難い。実際に、地方の小規模な自治体では、他人事のように見ている職員・住民も少なからず存在しているだろう。自治体でも、情報技術を上手く使いこなせる職員がどこの部署にもいるか、といえば疑わしいだろう。具体的な政策を伴わない、法制度のみが、結局のところ一人歩きしてしまっているような印象が、現段階ではまだ打ち消せずに残っている。政治がこれからどう動いていくのか注目しながら、IT推進における政府のコメント等について、今後さらに注意していきたい。

 

 

第三節  電子政府の国際比較

 ではここで、他国が「電子政府」というものに対してどのような見方をしているのか、比較して見ていきたい。

 まず、情報の先進国と言われているアメリカでは、「ウェブをはじめとした情報技術を活用することで、政府の効率化・迅速化が実現し、国民にとって利用しやすい信頼される存在になった」(註9)と、電子政府が行政に果たす役割を評価している。イギリスでは、「電子政府は、情報化時代における公共サービスの戦略である」(註10)と、国家戦略の一部として捉え、力を入れている。またアジアの国を見てみると、特に韓国では、「インターネットを利用した役所手続電子化サービスを2001年4月までに構築する」(註11)方針を打ち出しており、日本よりも早く、韓国政府が着手していることがうかがえる。前述した2003年という日本の目標は、行政の電子化に対する我が国の取り組みが、世界の国、特に先進国と比較した場合、かなり遅れていることが分かる。

 ここで、世界で最も情報化が進んでいるアメリカと、先進国の中では情報化が遅れている日本との、両国の相違点について、代表的な制度や法律を中心に見ていきたい。

 アメリカでは1993年のクリントン・ゴア政権のときに、「全米情報基盤(NII)行動アジェンダ」(the National Information Infrastructure: Agenda for Action)が出された。それによれば、NIIによって「政府の情報を、直接に、あるいは地元の図書館などを経由して、電子入手できる。社会保障手当てを電子申請して、その電子給付を受け、政府の職員とも手軽に連絡が取れる。政府の省庁や企業などが情報を電子交換する。結果的に文書事務が減り、サービスの質が高くなる。」と述べられている。当時のアメリカ政府の行動原則・目標としては、「政府が所有する情報を市民に提供することで、政府調達の改善を図ることが掲げらる」、「情報提供は民主主義に不可欠である」というスタンスをとっている(註12)。

 この考えの根底には、アメリカ独立宣言の起草者、トマス・ジェファソン(Thomas Jefferson:1743-1826)の考えを見てとることができる。情報は民主主義の通貨であり、政府機関は情報のコレクターとして、情報収集の費用負担をしている納税者に対して、適性料金で平等に、効率よく情報を提供していくことが、行動アジェンダの中に示されている。

 さて、それをお手本にして作られたといわれる、日本の「e-Japan戦略」を見てみると、まず、自宅や職場にいても、行政の情報がワンストップで得られるという点では、アメリカと共通していることが分かるだろう。しかし、民主主義について触れていないことや、抽象的な表現が多いことは、アメリカと大きく異なっている。民主主義という点については、歴史的背景や国柄から、アメリカ特有であるともいえるが、ここで問題なのは後者、つまり、日本が情報技術を、行政・住民という観点からというよりはむしろ、単なる産業振興策、景気回復の切り札として見ているところが強く現れていることだ。

 国をあげて、多額の設備投資を税金で賄い、行政の電子化に突入したとしても、それが行政の現場や住民にとって、便利で役に立つものでなければ、「電子政府・電子自治体」という本来の意味を果たすことなく終わってしまうのではないだろうか。

 

 

第四節  行政の電子化の長所と課題

 行政が電子化することは、私たち住民にとってみれば利便性やサービスの質が向上する、といった利点があるのは周知のことだが、逆にデメリットも同じように存在するのだ。ここでは、行政の電子化について、その長所と解決すべき幾つかの問題点について見ていきたい。

 まず長所では、以下の7つが代表的なものとして挙げられる(註13)。

@     オンライン行政サービス:自宅や学校・会社にあるパソコンや、駅・コンビニ・銀行・郵便局に設置されることになる情報端末を利用することで、各種申請や届出、サービスの予約申し込みが、インターネットを経由することで可能になる。

A     ワンストップサービス:役所で色々な部署に回されることなく、一箇所のアクセスポイントで、必要な手続を済ませることができる。アクセスポイントは、郵便局や役所といった現実空間の他に、インターネット上に存在するウェブサイトでも可能である。

B     ノンストップサービス:受付やコンピュータによる自動処理に限定されるが、行政手続の申請や届出が、24時間可能になる。

C     迅速な対応とサービスの向上:事務処理の簡素化・効率化によって、手続に必要な時間が短縮され、快適なサービスを受けることができる。お役所的・画一的な処理ではなく、より柔軟で自分の好みにカスタマイズされたサービスになる。

D     行政コストの削減:事務処理の電子化・効率化により、紙代や人件費等の削減が可能になり、その分の費用を教育や福祉で使用したり、節税したりすることができる。

E     IT対応の情報公開サービス:行政が保有する情報を、インターネット経由で簡単・迅速に入手することができる。原則として、行政情報をインターネット上で公開することになるが、このことで行政の透明性や公開性が実現できる。

F     国民の政治参加促進:市民会議室の活用など、町づくりに参加できる機会が増える。国民からの意見募集や結果の公開、電子投票システム等に活用できる。

 特に、Fでは、現小泉政権が行っている、「小泉内閣メールマガジン」などで、実現されつつあるのではないだろうか。

 次に、短所・課題について見ていくと、以下の8つが挙げられる(註14)。

@     申請者等の認証:国民・行政機関で送受信される電子文書において、名義人の同一性(その人が本人であるかどうか)や、内容が改ざんされていないか等を確認する仕組みが必要になってくる。

A     手数料等の納付方法:手数料や税金の支払いに関して、行政も国民も安心して利用できる、オンライン決済システムが求められる。

B     申請・届出等の到達時期等:「到達主義」が原則であり、国民から行政に送られる申請書類等を確保するシステムが必要であり、申請したデータの受付・受理を、国民の側からも確認できることが大切である。

C     電子文書の原本性確保:紙文書の持つ保存・管理上の問題点が、電子文書によって解決されたことは長所であるけれども、一方ではそれが、コピー・改ざんされていないか等の「原本性保証電子保存」のシステムが新たに要る。

D     情報セキュリティ対策:情報セキュリティポオリシーに関するガイドラインや、重要インフラのサイバーテロ対策、ハッカー対策等の行動計画が必要になる。情報セキュリティ評価認証体制が策定されなければならない。

E     コンテンツの相互運用性確保:統一的な仕様を決めて、相互運用性を確保しなければならない。行政文書ファイル管理システム、白書や告示・通達等のデータベースなど統一的な仕様にしていかなければならない。

F     初期投資・ランニングコストの確保:電子政府・電子自治体を構築していくためには、やはりIT関連の投資をしていかなければならず、メンテナンス等にも費用がかかってしまう。行政経営・業務改革によって健全な財政基盤を確保していかなければならない。

G     個人情報保護制度の確立:民間を含め、個人情報をしっかりと守っていく体制を作らなければならない。

 以上、これらのメリット・デメリット、課題を踏まえて、今度は地方自治体がどのように電子化を図っていくのか見ていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二章  電子自治体と地方自治体の動向

 

第一節  「電子自治体」に向けた地方自治体の動き

 ここからは、「電子自治体」構想に向けた、地方自治体の動きやIT政策について見ていきたい。まず初めに補足しておくが、前章でも述べてあるように、国は地方自治体に関して、都道府県ごとに電子化に向けた会議等を設けて話し合ったり、地域の実情に合わせて行政サービスを行っていくことを提示している。よってこの章では、地方自治体全般に関するもの、いわゆる「全国的に統一するのが望ましい」諸事項について見ていきたい。そして具体的なものについては、次章の栃木県の事例で述べていきたい。

では、地方自治体の電子化に関する法制度を以下で確認していきたい。

2000年8月28日、地域IT推進本部によって「IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針」が出された。この中では、@住民ニーズに対応した質の高い行政サービス、A情報通信基盤の整備による社会・経済活動の活性化、B行政の簡素・効率・透明化,という3つの重点分野が掲げられて、地方自治体がこれらを実現していくために努力していかなければならないとしている。

総務省は、行政の電子化に向けて、毎年アクションプランを策定・公表し、見直さなければならない。また、地域のIT化を図っていくためには、当然のことながら、国と地方、都道府県と市町村といった、連携体制が必要であると述べられている。地方分権に関する法制度にも、国と地方、都道府県と市町村は、「上下・主従の関係」ではなく、「対等・協力関係」であると確認されているように、行政の電子化というプロジェクトは、それぞれが協力していかなければならない大きな仕事なのだ。

また、2000年12月25日には、地域IT推進本部によって「地域IT推進のための総務省(旧自治省)アクションプラン」が打ち出され、以下の8つの推進項目が決められた。

@     行政のオンライン化(総合行政ネットワーク、即ちWGWANや、庁内LAN、職員

一人につき一台のパソコン整備)、A住民申請・届出のオンライン化(自治体の組織認証や個人認証基盤の整備、個別手続のオンライン化)、B地域における情報通信基盤の整備、C住民基本台帳ネットワークの整備、D消防防災分野における情報通信の高度化、E各行政分野の情報化(歳入・歳出手続の電子化、電子調達、統合型地理情報システムの整備促進、デジタル・ミュージアム構想、電子機器利用による選挙システムの検討、地方公営企業の効率化・高度化)、F電子化推進のための体制づくり(地方公共団体の行う体制整備への支援、IT基礎技能講習の開催)、Gコンピュータ・セキュリティ対策、個人情報保護対策,の8つである。

 しかし具体的には書かれておらず、曖昧・抽象的な印象を受ける。国が主導となって「電子政府・電子自治体」構想を進めていく、という謳い文句とは裏腹に、これでは自治体担当者も困惑してしまうのではないだろうか。

第二節   IT講習と諸問題

 ではここで、前節のアクションプラン推進項目のうち、7つ目に入っていた「IT講習」について見ていきたい。

 まずIT講習に関する法律の歴史をたどっていきたい。注意しておきたいのは、IT講習関係の行政事務には、総務省(旧自治省)と文部科学省(旧文部省)の2つの管轄が存在することであり、地方自治体にとっては、省庁のセクショナリズムが複雑に絡む、やりにくい問題であることだ。

IT講習とは無関係のように思われるが、後述する内容と関連性があるため補足しておくが、1998年に旧文部省の生涯学習審議会は、「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」の答申の中で、図書館でのインターネット利用の有料化を示唆した。これについては、批判的な意見も存在するけれども、私自身は悪くはないと考えている。パソコンも近い将来は、車や冷蔵庫のような生活必需品になるのではないだろうか。冷蔵庫等も普及当時、行政から補助などがあったわけではないし、不景気とはいえ、日本人の平均所得・生活水準を考えてみても、行政が財政難の中、コストをかけてまですることではないだろう。

森内閣は2000年、IT関連の補正予算を提出・決定した。この補正予算の中には、総務省系列のものと、文部科学省系列の2つのIT講習に向けた予算が組み込まれている。まず文部科学省の方を見てみると、「学習活動支援設備整備事業費」といわれるもので、IT講習を行うために、7,100の社会教育施設(公民館:4,400、図書館:400など)に189億円をかけて、11万4,400台のパソコンを設置することが、国の方針で決められた。この補助金は、IT講習に関わる設備を整備するためだけに出され、IT講習後のパソコンの維持・管理については、国側は不明確なまま、自治体が賄うことになっている。小さな自治体にとっては、自分たちで望んでもいないパソコンの設置をさせられ、結局アフターケアまで乏しい財源の中で、補助金無しの状態でやっていかなければならなくなり、逆に迷惑を感じている自治体も存在するのではないだろうか。維持管理ができずに、折角揃えても結局はゴミのようになってしまうところも出てくるのではないだろうか。

また、同じ補正予算の中で、総務省関連のものは「IT講習推進特別交付金」という補助金だ。成人500万人を対象とした「IT講習」の開催に向けて、国は金額にして570億円という補助金を地方自治体に支給した。政府の莫大な財源措置を通して、強力な指導がとられるかたちとなった。

その結果、「IT講習」とは、「国民のIT基礎技能の早期普及を図るため、全国で約550万人の受講を目標に、成人を対象として、平成13年(2001年)3月から平成14年(2002年)3月まで、地方自治体が実施するもの」(註15)と位置付けられ、講習内容は、若干自治体によって異なるかもしれないが、大筋では、パソコンの基本操作、文書作成、インターネットの利用、電子メールの送受信など、12時間程度のものと決められている。住民の費用としては、講習費は無料で、講習に使うテキスト代のみ(千円から2千円程度)の自己負担となっている。

地方に関しては、そもそも政府は、“地域の実情に合った政策”を行うという方針にもかかわらず、自治体の自主性や自助努力をさしおいて、国が支援を行いながら介入しているのは否定できない。2003年までに、地方自治体だけでは実現が難しいということなのだろうか。目標年まで短すぎて焦っているのか、政策が抽象的で分かりにくいのか、自治体に力量がないのか、そのいずれも日本の行政には当てはまっているのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三章  栃木県の取り組み

 

第一節             電子自治体構想の現状

 栃木県では、「電子自治体」や住民の電子化に向けて、実際に今どのような状況にあるのか、これまでの動きや今後の方向性について見ていきたい。

 栃木県では、他の都道府県と同様に、「栃木県IT・経済戦略会議」が発足され、現在までに7回開催されたが、その結果は逐次栃木県のホームページに掲載され、誰でも見ることができる(註16)。また、今年度から5ヵ年にわたって、県政の基本方針となる栃木県総合計画「とちぎ21世紀プラン」の中の、「とちぎ21世紀プロジェクト」では特に、IT革命に対応するための「IT活用推進プロジェクト」や、栃木県の産業が発展していくための「産業活力創造プロジェクト」が提示されている。

 栃木県庁企画部情報政策課の岡田氏に、栃木県が電子自治体構想に向けてどのような具合で進んでいるのか、話をうかがうことができた(註17)。

 まず、政府が掲げる2003年という目標に、栃木県は果たして間に合うのか尋ねてみたところ、「政府の言う電子自治体というものが、具体的にどこまでかという基準がなく曖昧であるけれども、条件が整うことができても、それまでに運用するのは難しい」とのことであった。電子認証を例に挙げてみると、行政側では今年中に可能であるが、申請者側では2003年初頭というのは無理だそうだ。2002年には施設利用予約、2004年には電子申請・認証が開始できる状況であるという。2007年には、政令指定都市と県庁所在地で、電子入札のシステムを導入・整備が完了することになっている。

 ここで、横須賀市や岐阜県内の一部の自治体では、「行政ソフトの標準化」という点で、国側の推進するシステムに質を下げなければならない、といった問題が生じてくるのだが、栃木県では「先頭を行くわけでも、ビリを行くわけなく、良いところも悪いところも見た上で、良いものを導入していく」という、慎重ではあるが、やや消極的なスタンスをとっている。

 また、電子自治体構想を推し進めていく上で困難なものは何か質問してみたところ、オンライン上での制度や技術的なもの、仕事内容との関連、経費・手間がかかるといった答えであった。「ITは手段。メインや目的になってはいけない」ということを、岡田氏もおっしゃっていたが、実際に国や地方自治体の現場を見てみると、電子化それ自体のインパクトが大き過ぎるため、それが行政サービスをより良く効率的に行っていくための方法の一つにすぎないということが忘れられてしまっている部分が、少なくとも感じられた。政府も自治体も、ITの導入に満足して終わってしまうのではなく、住民にその成果をサービスの中に盛り込んで、提供していく姿勢が大切だろう。

 そして、栃木県での情報格差については、地域によって格差ができてしまうことは否定できない。住民の熱の差のほかに、市町村の首長の熱の入れ具合によっても、それは現われてくるだろう。県内での情報格差を是正するための、具体的な政策については、まだ明確には決められていないようだった。しかし、岡田氏によれば、インフラや経営規模によっては、個人向けに中小企業等に対して融資や研修といったかたちで支援したり、自治体向けに負担金を支給したり、勉強会をさらに行っていくことが必要だと考えられているそうだ。

 栃木県の中で“全体的にIT化が進んでいる自治体”というのは、現在のところまだ見当たらない。個別的な分野で突出している自治体を見てみると、インフラ面では高根沢町と河内町、システムではGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を導入した宇都宮市などが挙げられる。

 近年話題になっている、市町村合併との関連についても尋ねてみた。もし栃木県内の市町村が電子化している状態で、市町村合併を行った場合、合併する自治体どうしが同一のシステムを使っているのなら問題はないが、業務上必要なソフトが異なっているとき、どのようにしてソフトを決めるのか、また、ソフトを変えることで支出が増えてしまうのではないか等の質問をしてみたが、「ケース・バイ・ケース」という回答であった。

 

 

第二節             IT講習の現場から

 次に、栃木県内で行われている「IT講習」の現状について、栃木県庁企画部情報政策課の小宅氏から話をうかがうことができた(註18)。

 前節で述べたように、国はIT講習のために、「情報通信技術(IT)講習特例交付金」を創設し、地方自治体が自主的に行う講習会、即ちIT講習会の開催を支援しているが、栃木県ではこれを踏まえて、平成12年(2000年)2月の第260回県議会のときに、「栃木県情報通信技術推進基金」を創設した。ちなみにこの基金積立金は9億2千万円であり、条例によってその期間は、平成12年(2000年)度から平成13年(2001年)度と決められていた。使いみちとしては、1割が県開催のIT講習に、残り9割は栃木県内の市町村に、成人人口割で均等に配分された。受講目安人数は、定員レベルのノルマで8万6千人であり、県民がIT基礎技能講習を受ける機会の拡大と、地域の実情に応じた事業展開が図られることを目的としている(註19)。

 では、国からの補助金が平成13年(2001年)9月までの時点でどのように使われたのか、IT講習の費用がどこでどのようにかかったのか見ていきたい。

 まず費用の内訳は、講習会、広告・宣伝、消耗品といったもので、主に事務や委託料として支払われた。業者に対する委託料は、IT講習のインストラクターに支払われ、学校で行われたときには、民間人ではなく教員が講師を務めて行われた。業者等は入札で決められたが、市町村ごとの傾向を見てみると、規模の大きいところほど他社との競合があるため、インストラクターに支払われる金額は安くなる。逆に規模の小さい自治体では、競合相手が存在しなかったりするため、委託料は高くなる。

栃木県内の市町村においては、最も安いところで10万円、高いところでは20数万円という委託料が支払われた。この報酬が高いか安いかを、民間のパソコン講習(内容もIT講習と同様のもの)と比較して見てみよう。栃木県内で開催されるIT講習は、1クラス定員20人、合計12時間の講習である。一方で、民間の相場は、1人につき1時間2千円程度の費用がかかるといわれているこれらのことを考慮して、シミュレーションをしてみると、

 <行政のIT講習>:10〜20数万円

 <民間の講習>:20人×12時間×2千円=48万円

という結果になり、IT講習で支払われる報酬は、民間と比較して半分から5分の1くらいで済んでいるのだ。教える講師の側からみれば利益が少ないけれども、費用を負担する行政や、受講者である住民にとっては、金銭的な面でも役に立っているといえる。

 次に、栃木県での具体的な実施状況について見てみると、現在でも県・県内49市町村で開催されているところだが、平成13年(2001年)9月までの報告をもとに見ていきたい。

 まず、栃木県内でのIT講習の中身を見てみると、平成13年(2001年)9月末までに、3,061講座が実施され、5,0591人が受講した。昼間・夜間・土日などの時間帯別コースの他に、障害者向け・託児所付き・親子・祖父母と孫・宿泊付き・グループ受講などの工夫したコースが用意された(註20)。

 IT講習受講者数の動きを見てみると、夏までは順調な伸びを見せていたものの、それ以降は人の集まりが鈍化してきたそうだ。文部科学省から「講習内容にアプリケーションを盛り込んでもよい」ということが出され、人数の集まらない市町村は、後半から講習内容を切り替えるようになり、その結果再び人数が増えていった。国側では、前章でも述べたように「地域の実情に応じて」IT講習を行うように支援することを掲げていたけれども、実際は自治体等に対して講習内容を制限していたことが見受けられた。ちなみにこの後で、栃木県で行われた内容を見てみると、ワード(word)やエクセル(excel)の使い方、デジタルカメラの使い方などが加えられた地域もあった。

 ここで受講対象者について、平成13年(2001年)9月までの「IT講習受講者状況」の表と「受講者構成」のグラフ(註21)から、その傾向を読み取ってみると、受講者全体の約7割が女性であり、なかでも30代から50代にかけての主婦層が最も多かった。一方男性では、50代から70代の高齢の人が占める割合が高く、男女で受講年齢層が異なっている ことが分かる。一般に、主婦や高齢者の方が時間的な余裕があることや、若・壮年層の特に男性は、仕事上パソコンの技術が必要であるため、IT講習で行う内容については既に習得済みであることが、以上のような結果をもたらしていると考えられる。

 最後に、IT講習後のことで特に、2002年に栃木県内の社会教育施設等に20台ほど整備されたパソコンや、それ関係の設備について、今後どうなるのか尋ねてみた。これらの物はIT講習のために揃えたものの、その後については国等から具体的な政策が見られなかったため疑問だったからだ。栃木県の場合、おおかた想像通りだったが「その後のランニングコストについては、国も県も補助金を出さない方針で固まっており、市町村の一般財源から賄わなければならない」ということだった。教育委員会や生涯学習課から、今後請求があるかもしれないが、補助金等の支援は無理のようだ。

 財源の乏しい自治体にとってみれば、維持・管理が難しいことは確かであり、国もそのことを分かっていたはずである。問題が、国から都道府県、そして市町村へと、押し付けられてしまったと感じても不思議ではないだろう。ややこしいこと・手間のかかることが、ほぼ市町村に回ってきてしまうという構造は、日本の行政によく見られることだが、そうしたことを断ち切っていかなければ、行政サービスそのものが住民にとって良いものなのか、効率的な事務が行えているのか、本当の意味で実現していくことは難しいのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章  行政の電子化と諸問題

 

第一節             国と地方とのギャップ

 国と地方とのギャップ、それは一言で言えば、国が一人だけ突進してしまっていることだ。国は2003年までにどうしても「電子政府」構想を完成させたいと急いでいる。地方自治体に対して補助金を交付したり、各法令を出したりしているが、行政の電子化という本質については、冷静さを欠いているようにさえ感じられる。その例としては、政策が曖昧すぎて具体性に欠けている点や、多額の資金を投入しながらも、その後の維持・管理については自治体任せにしてしまっているなど、行政機関である国と地方自治体が協力して行っているとは言い難いことが挙げられる。

 一方で地方自治体は、国にいわれて進めているというような、消極的な印象を受けた。国側が具体的に政策を決めないまま、地方自治体に電子化を進めているのだから、無理もないだろう。また、後節で述べるが、地域による格差も否めない。住民の電子化が広まっている大都市では、行政の電子化に対する住民の理解が比較的得られやすいと思うが、地域によってはITそのものと接触がなかったり、普及していないところもあるわけで、そうしたところでは、住民への理解を促すとともに、住民の電子化への取り組みも進めていかなければ、いくら自治体が電子化しても、そのサービスを使う住民がいなければ、電子自治体それ自体が成り立たないだろう。

 そして地方自治体の行政組織内部でも、職員の技術的アンバランスや、情報提供に対する部署間の熱意の差といった問題が存在している。硬直化している体質を柔らかくして、組織内でも協力して推し進めていかなければ、折角できた電子自治体も「内部故障」を起こしてしまいかねない。そのほかに、自治体職員の問題としては、特にIT関連の部署に配属された人と、それ以外の部署の人とで、仕事内容や残業等、労働条件が著しく異なってしまうことだ。民間でも、情報・ソフトウェア業界では残業が目立って多いと聞くが、実際に残業手当が出たとしても、割に合わないと感じる職員も出てくるのではないだろうか。必要があれば人員を増やしたり、民間活力を上手く利用するなどして、改善していかなければならないだろう。

 私自身、国の掲げる「電子自治体」構想には賛成である。住民の利便性やサービスの質が向上し、煩雑・複雑、手間・時間のかかる行政事務が簡素化し効率化することは、私たち住民にとっても、行政側にとっても良いことだ。しかし、その進め方には、正直なところ前述したように賛成しかねる面もあることは確かである。行政の電子化に向けた対応で日本が遅れているという状況の中、政府が焦るのも無理はないが、「早くできたが稚拙なもの」と「とりわけ早くはないが巧妙なもの」とではどちらが良いかといったら、私は後者を選ぶだろう。政府も、もう少し慎重に進めて良かったのではないかと感じている。

 

 

第二節             住民の情報格差(所得・地域)

 前節でも少しふれたが、ここでは行政の電子化を推進していく中で、特に地方に影響を及ぼす問題が、住民の情報格差である。この格差には、地域によるものと所得によるものの2つの要因が密接に絡み合っている。

 まず年収による格差を、2000年8月の平均所得とインターネット普及率・増加率をもとに見ていきたい。所得が1000万円以上のところでは、インターネット普及率が49.4%であり、その5ヶ月前と比べると9.9%伸びている。一方、所得が350万以下では、インターネット普及率が11.0%と低いままであり、その5ヶ月前と比べてみても0.5%しか増加していない(註22)。インターネットをする際にかかるパソコンの購入費や、電話代・接続料といった通信費が、所得の規模と関連していることがうかがえる。

 次に地域による格差を、都市の規模とインターネット普及率の2点で見てみると、@政令指定都市:34.6%、A県庁所在地:33.4%、B地方都市:32.7%、C町村部:18.5%、というような数値が得られる(註23)。ここからも分かるように、@からBまでの、インターネット普及率で上位にある3都市と、Cとの間で、大きな格差が生じているのは明らかである。

ここで、上述した所得の格差と地域による格差を合わせて見ていきたい。両者の数値等を関連させてみると、都市部では、地方と比べて高所得者の数が多いため、所得格差が地域格差にも影響を及ぼしていることが考えられる。また、地域による格差では、特に、プロバイダーの偏在ということも、地域間のインターネット普及率の格差に拍車をかけている大きな要因である。

こうした背景の中では、当然、住民の電子化に地域間格差が出てしまうのは否めない事実であり、地方の自治体ほど、格差を痛烈に感じているのではないだろうか。農村部では特に、都市部と比較した場合、「電子自治体」を導入していく以前から、ハンデを負っているといえる。国はこうした状況も考慮して、情報インフラを整えていかなければならなかったのではないだろうか。

 

 

第三節             入札に絡む問題(電子入札・安値落札)

 ここでは、第一章でふれた「電子入札」について、最近の事例をもとにその問題点について見ていきたい。

前述したように、国や地方自治体で行われる入札が全て電子入札というかたちになると、行政側での経費が軽減できるほかに、公共事業における発注等が透明・平等化し、誰でも入札に参加することができるようになる、といった利点が挙げられる。国土交通省では、他省に先駆けて、2003年までに同省での入札を全て電子入札で行うことを決めている。ここまで見てくると、電子入札とは、私たち国民にとっても良いものなのではないか、と感じてしまう。しかし、2001年の冬までに出された、新聞や雑誌等、各マスコミ報道を見てみると、新たな事実を垣間見ることとなった。

2001年11月29日付の読売新聞の記事によれば、行政向けのソフトウェア関係の入札で、最近「安値落札」が多く見られることが取り上げられていた。安値落札とは、企業が赤字を覚悟した極端に安い価格で落札することであり、即ち、国や地方自治体が実施する競争入札において、確実に受注することを目的に、事業者が採算を度外視した低価格で落札することをいう。

今までに行われてきた安値落札の、代表的なものを挙げてみると、東京都の文書総合管理システムが750円、旧建設省の行政文書管理システムが4,800円、国税庁の電子納税申告実験システムが1万円、旧郵政省の調達総合情報システムが2万8,000円というように、システム関係の費用としては異常なほど安く入札されている。これらを入札した企業は、いわゆる大企業であり、中小ソフトウェア開発会社の成長阻害になるとして、問題になっている。

 現在の日本では、予算の一年単位という関係から、入札時の価格は最初の1年目の開発・導入に必要な金額となっている。ちなみにシステムの開発・導入は、1年で終わるということはほとんどない。また、翌年度以降は、初年度に落札した企業と行政が契約して決める随意契約となるために、企業は一度落札してしまえば、後は自動的に納入業者になることができてしまう。そのため大企業では、「損して得取れ」という考えのもと、最初に赤字を覚悟し、その後じっくり回収して採算を取っていくことができる仕組みになっている。

また行政関係のソフトでは、東京都の受注が、企業にとっては大きな実績となるため、このような手法で落札していけば、ますます大手企業にとって有利な結果となってしまう。  

このことは、赤字覚悟で受注できる予算・余地もない中小ソフトウェア開発会社の成長阻害になるだけでなく、契約相手の行政から見ても、システムの最終的な購入価格が割高になるなど、予算の無駄遣いという弊害を引き起こすのではないか。

経済産業省によれば、情報サービス企業は日本では約8,000社あり、従業員を500

人以上抱える大企業は、そのうち134社だけであるという。官公庁関係の情報システム商談は、NTT、NEC、富士通などに代表される十大グループが80%近くを受注しており、中小企業はほぼ締め出しの状態になっている。しかし、大企業から“丸投げ”のかたちでシステムの下請けを受ける企業も存在する現状を考えれば、大企業と中小企業との技術力の差は、あまり無いようにも思われる。

また、民間企業を対象とした情報システム商談では、超安値受注はほとんど見られない。

このことはつまり、官公庁の旧態依然の体質にも問題があることを示唆しているのではないだろうか。

電子政府関連の情報システムの調達で、特に官公庁では年間総額2兆円にも上るといわれ、

地方自治体等では、これからさらに増えていくことだろう。そうしたなかで、前述したような安値落札が行われてしまわないように、入札のときには単年度契約ではなく、システムの総額で決定したり、最終的な支出が大きくなり過ぎないように注意していかなければ、電子入札というシステムが普及する前に、既に市場は独占・寡占的になってしまっているのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわりに

 官(行政)よりも民間の、ITに関する取り組みの早さがうかがえる。安定志向で現状維持のイメージが強い行政機関と、市場の中で常に効率性・採算性を確保しなければならない企業。その取り組みの差は、当然の結果であるともいえるが、行政機関の取り組みは、先進国でも目立って日本は遅れているのを感じずにはいられない。

一般的に、IT化には、官民問わずに費用がかかる。パソコン、インフラ設備、その後の運用等、課題は山積みでが、IT化によってもたらされるものは間違いなく大きい。IT化によって自治体間の格差ができてしまうのは、もはや否定できない事実であるが、住民の意識の差も、その要因の一つであるということに、私たち自身も気付かなければならないだろう。

夏休みに私は、民間企業が主催する、電子自治体に関する講演会を聞きに行ったが、実際に日本が電子政府・電子自治体を2003年までに実行できるのか、その実感があまり湧いてこなかった。自分がまだ直接、サービス等を通して関わっていない、ということもあるが、国民の中にはまだ、ピンとこない人の方が多いのではないだろうか。

また、従来から言われている、IT導入による「ペーパーレス化」についても、逆に紙を大量に消費してしまっている事実を、浦安市役所の職員の方からうかがうと、国の政策がどこまで上手く実行されるのか、不安な面もある。職員に関しても、IT担当の部署が急激に多忙になり、他の職員よりも残業が増えたりする問題も生じている(註24)。何年も前から議論を呼んでいる、ICカード導入に関しても、まだ具体的な解決策が見出されていないようだ。

実地調査の結果から考えても、栃木県の電子化への取り組みは早くはない。しかし「2003年まで」という政府の目標は、運用の面では、栃木県に限らず、かなりの自治体で困難ではないだろうか。

IT講習受講人数のノルマのようなものや、文部科学省からの講習内容の指示は、やはり存在していた。内容を細かく決める余裕があるのなら、IT講習のために備えたパソコン等の今後の使いみちについて、きちんと決めてくれても良かったのではないか。小規模の自治体にとっては、その後の運営費の方がかかってしまうところもあるのだから、そうした面について国はもう少し触れるべきではなかったのだろうか。良いとこばかりをとっていくのではなく、問題点も具体的な対策を考えて、IT政策を進めていくべきではなかったのだろうか。

安値落札の問題を見れば、ITが新たな公共事業につながってしまう要素を含むことや、大企業有利の市場で、自由競争が阻害されてしまうおそれがあることが分かる。建設業界のゼネコンと、情報産業の大企業が類似して見えてしまっているのは、私だけではないと思う。

私たちはITの長所にばかり目を向けてしまいがちだが、実際、ITによってもたらされる恩恵とは紙一重で、新しい問題が生じていることも念頭に入れて、生活していきたい。

参考文献

(註1)茨城県地方自治研究会『茨城自治』262 2001(ぎょうせい,2001年)

(註2)http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/

(註3)富士通総研『手にとるようにIT用語がわかる本』(かんき出版,2001年1月)

(註4)茨城県地方自治研究会『茨城自治』262 2001(ぎょうせい,2001年)

(註5)http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/

(註6)同上

(註7)リクナビNEWS http://rnavi.isize.com

(註8)同上

(註9)「電子政府って何だ」日経BP

    http://webguide.nikkeibp.co.jp

(註10)同上

(註11)同上

(註12)自治体問題研究所編『IT・電子自治体をどう見る』自治体研究社.2001.5.17

(註13)「電子政府って何だ」日経BP

    http://webguide.nikkeibp.co.jp

(註14)同上

(註15)栃木県庁企画部情報政策課「第7回戦略会議(人材育成)IT講習関係資料」

     カッコ内宮田。

(註16)http://www.pref.tochigi.jp/kikaku/it-keizai/index.html

(註17)2001年11月28日における栃木県庁企画部情報政策課岡田氏とのインタビュー

(註18)2001年11月28日における栃木県庁企画部情報政策課小宅氏とのインタビュー

(註19)栃木県庁企画部情報政策課「平成12年度開催の県情報通信技術(IT)講習会開催状況について」自治とちぎ4月号

(註20)栃木県庁企画部情報政策課「第7回戦略会議(人材育成)IT講習関係資料」

(註21)同上

(註22)自治体問題研究所編『IT・電子自治体をどう見る』自治体研究社.2001.5.17

(註23)同上

(註24)2001年7月5日におけるJIP自治体フェア2001の講演会「内部情報システムによる行政事務の効率化」(講師:千葉県浦安市役所総合政策部情報政策課)での講演より

 

 

 

 

 

あとがき

 大学4年間の集大成として、自分が興味を持っていたITと、専攻である行政学を結び

つけて仕上げることができた。

 就職活動中も、情報・ソフトウェア業界を多くまわっていたので、行政サイドだけでな

く、民間の視点からも「電子政府・電子自治体」というものが見れて良かったと思う。

 

 栃木県庁の実地調査では、思っていたよりも資料をいただけ、話も詳しく伺うことができ、岡田氏、小宅氏には大変お世話になりました。また、ご指導をいただきました中村先生をはじめ、この論文を作成するにあたりお世話になった方々へ、この場をお借りしてお礼申し上げます。