「インドにおける不可触民の女性へのマイクロクレジット事業の展開」
佐藤洋一郎・稲毛知明・中田妃呂華・金子春香
(導入)
我々は「国際社会支援プログラム」として、マイクロクレジットの手法を用いて少額の融資を行うことで、住民の生活向上を目指すプロジェクトを行う。対象地はインド西部に位置するグジャラート州にある不可触民とされる人々の住むDUMA村である。対象地の設定理由としては、まずカースト制度において最下層とされる人々に対しての支援が必要だと感じたことである。これはインドにおいてカースト制という制度が人々の中に強く根付いているために、最下層の人々は貧困から抜け出すことが非常に困難な状況にあるということから、外部からの働きかけが必要になると感じたからである。また、DUMA村が農業中心の村であったために、それに対しても将来的に何らかの活動ができるのではないかと考えられるためこの地域を設定した。
(マイクロクレジットのここでの有効性)
インドはかつて国民をカースト制という身分制度によって区分けしていた。その制度は1974年に制度としては廃止されたが、30年以上たった今でも社会には強く残り、そうした差別やそれによる格差は深刻な問題となっている。さらにその中でも不可触民とされている人々は、結婚や職業といったことは自由に決めることができない。そのような状況下では、彼らの生活は決して裕福なものではなく、収入も一般のインド人から比べても相当低いものである。よって子供たちの学費などの経費を払うことのできない家庭も多い。また、多くの家庭で農業を営んでいるがその農業もまた天候に大きく左右され、安定した収入が得られていない。このような状況の中で彼らの状況に有効に機能するのはマイクロクレジットの手法であると考えた。彼らの生活は今の状況では自力では向上させていくことは非常に困難である。そこで彼らに直接的に融資をすることによって自立とまではいかないものの、生活自体を向上させることができると考えた。私たちが利用するマイクロクレジットの手法として3つの柱となる考え方がある。それは貸付が無担保でおこなわれること、借り手少人数のグループにわけ、ある程度の連帯責任を持たせるということ、特に女性に対しての融資にすることである。この大まかに3つの柱を持つことで彼らの生活向上を図ることができると考えた。
(女性対象の融資)
マイクロクレジットの貸付対象は主に経済的な機会を奪われがちな村の女性たちである。インドではヒンドゥー教を信仰している人が多いが、その中での女性の地位はとても低い。しかし、一般的に女性は男性よりも将来の見通しを持ち貧困から抜け出そうとする気持ちが強いといわれている。また、村の働き手である男性は村だけでの収入では生活できないため、都市に出稼ぎに出ているケースが多く、実質的に家庭は女性が支えているような状況にある。したがって今回の対象を女性にすることは女性の自立と返済率を上げるという両者のメリットを考えても非常に有効に働くと考えられる。また、この手法でムハマドユヌス氏でも有名なグラミン銀行は返済率99%という実績を上げ、また女性の自立にも大きな功績を残しており、手法として有効なものだと判断した。
(年間計画)
8月のプロジェクト開始前までに、現地で宿舎兼事務所の建設を依頼し、当プロジェクトが開始するまでには建物が完成しているようにしておく。
8月は、現地住民と組織の橋渡しとなるスタッフを雇う。人口分布に基づいて村を10区画に分割し、1区につき1名を担当責任者として担当させるため、最低10人は必要となる。選抜方法は公募で募集したのち、プロジェクトのリーダーである我々が面接し決定する。
その後8月9月にかけて、選抜されたスタッフは約1ヵ月間事前研修を行い、このプロジェクトの詳細や役割などの情報共有や技術の習得、パネルディスカッションなどを行い現地へ出発。
9月後半から11月いっぱいは、対象となる村でのプロジェクトの啓蒙活動と住民との信頼関係の構築を図る。また、2ヶ月の間に車の手配や現地の生活状況調査など、プロジェクトに必要な情報や物資を確保していくことも必要になる。また村に毎月開かれる集会のための場所(センター)を確保する。そしてこの事前準備の3ヶ月間を経ていよいよ中心であるマイクロクレジットの貸し出しを開始していく。残りの期間はすべて貸し出し業務に当てるものとする。貸し出し内容ややり方については他の段落において詳細を示していく。なお、公募のスタッフについては基本的には1年契約とし、その後は実績に応じて契約を更新していく形をとる。
(貸し付け内容)
マイクロクレジット支援の一環として、貸し付け内容を以下に記す。
対象は、村の不可触民といわれる人々である。対象者の審査として、初回審査は実質家庭事情調査のみで、2回目以降は前回実績を参考にする。貸し付ける際、連帯保証制度を設定し、この内容としては、利用者は決められた区画内での連帯保証グループを形成し融資を受け、初回融資は利用者の信用度を測るため、グループ内の半数に融資、2週間様子を見て返済に問題がなければ残りの人数に融資を行うものとする。この事業の中枢として、各連帯保証グループを集め、利用者との交渉や会合を執行する窓口となるセンターを形成する。物的担保、金銭的担保はともにないものとし、利息として、貸付レートは3%とする。また、延滞金利は設定しない。返済は貸与から1年間は猶予期間とし、その後1年間で返済させる。ただし、猶予期間内でも返済は可能である。融資額は、利用者の希望と家庭の経済状況を総合的に判断し決定する。集金・返済はセンターにて行い、スタッフとの直接受け渡しとなる。もし、返済期限を超過した場合は、センターに連帯保証グループを召集し、会合を開いて対応することとする。また、返済の中で毎回元金に対して5%の貯金を行わせる。返済期間中に延滞が発生した場合はそこから元金に充当し、通常完済した場合は返済終了後に返金されるものとする。
(申請から返済までの流れ)
上記の貸し付け条件をふまえて貸し付けを行っていく。ここでは私たちの行うマイクロクレジット事業での特に重要な点を説明していく。まず、村を人口分布によって10区画に分け、その区画ごとに1人のスタッフがその地域を担当する。次に、融資を行っていくのだが、まず融資を行う借り手の理由として対象となるものは教育や事業への投資などといった将来的に利益となるようなものでなくてはならない。しかし、この理由は強い拘束力のあるものではなく、基本的には面接を経た上で融資するかどうかを決定するため、多少対象の理由から外れていても融資の対象にはなりえる。また、基本的に融資を希望するものは自らが各地区の担当スタッフに申し出ることが必要で、その申し出を受けそこから面接・審査を経て融資をするかを決めていくことになる。融資が決まれば同区画内で借り手同士の少人数のグループを作り、ある程度の連帯責任を持たせる。彼らは月に2回グループごとに召集され、現在の状況などを話し合わせることで内部の連携や互いの情報共有を行っていく。そして、借り手は貸し付け内容に示された方法で担当者を介して返済していくこととなる。そこでもし返済が滞るようであれば、グループ全員を召集し対策を話し合わせることで、解決の糸口を探っていく。
(費用詳細)
以下に今回の事業での費用の詳細について明記する。
名目 |
適用 |
費用 |
内訳 |
準備費 |
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建設費 |
\10,000,000 |
宿舎建設費、インターネット接続費、維持費、消耗品費、食費を含む |
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四輪駆動車(現地調達) |
\1,000,000 |
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福利厚生費(医薬品など) |
\100,000 |
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人件費 |
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海外保険 |
\2,100,000 |
\150,000×14人 |
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給与・地域責任スタッフ |
\13,440,000 |
\80,000×12ヶ月×14人 |
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給与・通訳兼ガイド |
\1,200,000 |
\10,000×12ヶ月×10人 |
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渡航費 |
\1,960,000 |
往復\140,000×14人 |
事業準備金 |
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初年度貸出充当金 |
\10,000,000 |
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貸倒準備金 |
\10,000,000 |
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予備費 |
\8,000,000 |
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合計 |
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\57,800,000 |
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(まとめ)
今回の活動はこの計画にあるように1年間で終わるものではない。現在はひとつの小さな村での活動であるが、ゆくゆくはさらに範囲を広げ活動を行っていきたいと考えている。また、この村の産業である農業についても1年間状況を見極めたうえで、現地にあった方法で今以上の生産増加に貢献していこうと思う。もし、このシステムによって彼らの生活に何らかよい変化が見えたら私たちの活動は成果を生んだということであろう。しかし、今後何年もこの活動をしていくにあたって、よりよい環境を提供していけるように日々努力していこうと思う。インドで差別を受けている彼らがこれから明るい未来に向かって生活していける力になっていきたい。