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渡邊美咲「余暇時間における非営利目的活動による社会貢献

―フィルムコミッションの取り組みと市民参加―」

 

1.余暇の定義とテーマ設定のきっかけ

 私は「余暇」を「本業以外の時間」と定義している。つまり、社会人であるなら本職、学生であるなら学業が「本業」にあたり、それ以外のアルバイト等の副業、また娯楽等を全て「余暇」と定義する。その上で今回レポートを作成するにあたり、「余暇時間における非営利目的活動による社会貢献」というテーマを設定した。そのきっかけは、「フィルムコミッション」という組織との出会いであった。先日、偶然にも「フィルムコミッション」に協力しているボランティアの方とお話しする機会があり、余暇時間を非営利目的のボランティア活動に使用する人がいる、ということを知った。余暇時間の使い方として、副業は収入のため、娯楽は休息やリフレッシュのためなど、周囲の人々から見ても分かりやすい目的があるが、非営利目的の場合はどういった目的があるのか、傍目にはわかりにくい。貴重な余暇時間を使ってまで、非営利目的の活動に参加する人々の目的は何なのか。そしてそれが社会にどう作用しているのか。その一例として、「フィルムコミッション」に着目する。

 

2.「フィルムコミッション」の活動

 まず「フィルムコミッション」について紹介する。これは、「映画、テレビドラマ、CMなどのあらゆるジャンルのロケーション撮影を誘致し、実際のロケをスムーズに進めるための非営利公的機関」[i]である。「フィルムコミッション」には「(1)非営利公的機関であること」i、「(2)撮影のためのワンストップサービスを提供していること」i、「(3)作品内容を問わないこと」iの3要件があるため、資金援助やタイアップ等は一切行わずして、作品の内容や規模などは問わず、撮影がスムーズに行われるよう全面協力することが求められている。

 

しかし、撮影を円滑に進めるために「フィルムコミッション」が請け負う活動は決して少なくない。「宇都宮フィルム・コミッション」では、ロケーションに関するあらゆる相談に答えること、ロケーション・ハンティング(映画やテレビの制作において、主に屋外のロケ地を探すことを指す。略称は「ロケハン」。[ii])時に現地まで案内すること、撮影に関わる各方面の調整や手続きを代行すること、撮影に必要な宿泊施設や飲食店の紹介などを行っている。[iii]上に述べただけでも、なかなか大変な作業であることは見てとれる。それでも「フィルムコミッション」は無償でこうした作業を請け負う。では、なぜ無償でそこまでの全面協力が可能なのか。それは、「フィルムコミッション」が「地域の経済・観光振興、文化振興」iを目的としているからである。撮影隊によって撮影された映像は、テレビや映画などの何らかの形で遠方にその景色を伝えてくれる。その作品を鑑賞した人が撮影地に興味を持つ可能性や、実際に観光に来る可能性もある。最近では、作品の熱狂的なファンがそのロケ地を実際に訪れることも珍しくなく、地域によってはロケ地めぐりツアー等を計画している場合もある。地域活性化のために撮影隊を誘致する活動はもはや特別なことではなく、実際に日本各地には多くの「フィルムコミッション」が存在する。各地域がロケ地と共に撮影しやすい環境を提供することにより、映像媒体でその地域の良さを多くの人に知ってもらい、地域の活性化につなげること、それが「フィルムコミッション」の目的なのである。

 

3.一般人のボランティア参加

 次に、「フィルムコミッション」にボランティアという形で参加している一般の方々について紹介する。例えば「宇都宮フィルム・コミッション」では、栃木県在住・あるいは栃木県内に勤務している人々を対象として、宇都宮近辺での撮影にエキストラ出演が可能な一般市民を募集している。撮影隊はほとんどが東京などの遠方からやってくるため、主要な役者以外のエキストラを大勢遠方から連れてくるとなると負担が大きい。そこで、現地で協力可能な人々をあらかじめ募集しておき、撮影隊の条件に合った人にメールで連絡を取り、登録者の都合がつけばエキストラとして出演してもらうというシステムがある。[iv]

 

だが、撮影というものは必ず時間通りに進むものではない上に、どの撮影シーンに参加するかは撮影隊によって適宜割り振られるため、下手をすると拘束時間のほとんどが待ち時間となってしまうこともある。長い間待機することも多いため、「宇都宮フィルム・コミッション」での募集条件には「撮影中の待ち時間に耐えられる方」ivという記述さえある。更に現地へ向かうための交通費はほとんどの場合で自己負担であり、また衣装などもほとんどの場合で私物を利用する。これだけのデメリットがあるにも関わらず、一定数エキストラの登録者は存在するのである。では彼らは何を目的として参加しているのであろうか。

 

私は実際に、「宇都宮フィルム・コミッション」にエキストラとして登録をしている人々数人に、「どうしてエキストラ登録をしようと思ったのか」について話を聞いた。彼らはその登録理由を「有名な役者を間近で見ることができる場合があるため」、「カメラに映ってみたいため」、「撮影の裏側を見てみたいため」、「もし好きな役者が参加する作品が撮影される場合、少しでもいいからその作品に参加してみたいため」と回答していた。[v]貴重な余暇時間を消費してでも、これらの目的がある以上は、デメリットもそれなりに存在する非営利目的の活動に参加することも厭わないというのである。こうした活動は、映像作品への参加に興味がない人にとってはその意義が分かり得ないかもしれない。しかしこのシステムは、大勢のエキストラを軽負担で使用したい撮影隊側と、地域活性化のために撮影隊に協力したいフィルムコミッション側、そして無償で、且つ望んで余暇時間を提供してくれる市民側の3者が3者ともそれぞれの目的を叶えていることになり、非常に合理的な活動を展開していることになるのである。

 

4.「フィルムコミッション」の現状

こうして「フィルムコミッション」と、非営利目的の活動に自身の余暇時間を進んで割く人々のおかげで、多くの地域が知名度を少しずつ上げている。連続ドラマの数話分や映画の数シーンのみの撮影もあるが、「フィルムコミッション」の全面協力のもと、オール地方ロケとなる映画もたくさんある。また、「フィルムコミッション」の協力はアニメ作品にまで及び、アニメ作品の背景などにも資料提供を行うこともある。「宇都宮フィルム・コミッション」では、「映画で宇都宮を取り上げる機会が増え、市民の会話でも「映画にあそこの場所が出てたね」なんて話題に上るようになった。業界からの問い合わせも徐々にだけど増えている」viという効果も出ている。

 

だが一方で「宇都宮フィルム・コミッション」では、こうした地域振興のための支援が経済効果となって表れにくい。撮影隊を誘致した場合、分かりやすく経済効果が出るのは長期にわたる撮影が行われた場合である。なぜなら出演者やスタッフの団体が長期にわたり現地に宿泊する必要があるため、現地の宿泊施設がたくさん使用され、更に現地の食材もたくさん消費されるからである。しかし「宇都宮は首都圏から日帰りできる距離なので、そう多くはない」[vi]のが現状である。

 

5.今後の「フィルムコミッション」

「フィルムコミッション」はこうした非営利目的の人々の活動を通じて、合理的に地域振興を行っている。しかし上に述べたように、未だに明らかな経済効果は表れていない部分がある。今後、特に首都圏近郊の「フィルムコミッション」はロケ誘致活動をいかに経済効果につなげられるか、考えていく必要があるだろう。それでも「フィルムコミッション」が行っている活動は、市民も気軽に参加して地域振興を行うことができるものである。市民が自身の目的のために提供する余暇時間が、結果的に地域活性化へとつながっているのである。ボランティアと言うととても崇高なものだと考えられがちであるが、私はもっと市民が身近なところから、気軽に参加できる形のボランティアがあっても良いのではないかと常々考えていた。自分の理にかなった形で、貴重な余暇時間を無償で提供した結果、それが社会貢献という形になっているというのは非常に合理的で、素晴らしいシステムである。そもそも地域活性化というものは、住民ひとりひとりの協力意思がないと成り立たないものである。このような、市民が自ら余暇時間を無償提供することにより地域振興につながるシステムが今後も発達し、広がって行くことによって「フィルムコミッション」が狙うところの地域振興が可能になるであろう。そしてそのために、「フィルムコミッション」だけではなく、市民一人一人が協力していく必要がある。

 

 



[i] ジャパン・フィルムコミッション「概要」(20126月現在)

http://www.japanfc.org/about/purpose.php

[ii] Fresh eye ペディア「ロケーション・ハンティング」(20127月現在)

http://wkp.fresheye.com/wikipedia/%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0

[iii] 宇都宮フィルム・コミッション「宇都宮フィルムコミッションとロケ支援について」

20127月現在)http://www.utsunomiya-cvb.org/film/page_01.html

[iv] 宇都宮フィルム・コミッション「エキストラ募集登録ご案内」(20127月現在)

http://www.utsunomiya-cvb.org/film/page_05.html

[v] 2012519日に行った「宇都宮フィルム・コミッション」エキストラ登録者への宇都宮大学構内での聞き取り調査より

[vi] 下野新聞SOON「とちぎロケ地探訪 宇都宮フィルム・コミッション 鈴木洋夫さん(56) 宇都宮の魅力を再発見」(20127月現在)

http://www.shimotsuke.co.jp/special/tochigi-location/20100106/259873