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上田圭介「イベント会場から見えてきた第三セクター、箱物行政の課題」

 

1.テーマ設定の理由と基礎知識としての第三セクター

 

おそらく、コンサート、ライブに行ったことがあるという人は大半だと思う。余暇の使い方の一つを担っているといっても過言では無いだろう。なぜ、私がこのテーマについて論じようと思ったのは、私自身がコンサート業界でアルバイトをしており、お客様としてあるいは、スタッフとして様々なで場所を訪れることで思ったことである。コンサートを開くためには、会場が必要となってくる。栃木県内であれば、宇都宮市文化会館などがあり、これらは、名前の通り県や市が運営に係わっているとわかる。しかし、さいたまスーパーアリーナやドーム会場など万単位の入場が可能な施設が至るところにあり、これらの施設は巨大でかつ美しく、このような施設をどこが運営しているのだろうかと疑問に感じたことから始まった。

 

どうやら、それらの施設は第三セクターと言われる法人によって運営されているとわかった。第三セクターは、国や地方公共団体(第一セクター)が民間企業(第二セクター)と共同出資した、半官半民の法人を指し、余暇を過ごす上でキーワードとなる観光や鉄道、航空などを運営し、その他に広域的な社会事業を行っている。数年前、夕張市が破たんした理由に観光開発を行う第三セクターの赤字も大いに関係していた。

 

イベント会場においては、大阪ドームが、球界再編問題に揺れ、本拠地としていた近鉄バッファローズが無くなった後、「当初、第三セクターの『大阪シティドーム』が運営していたが、2005年に会社更生法を適用した[1]」ことで、大阪ドームが倒産し、存亡の危機に危ぶまれた。イベント会場、特に大阪ドームの倒産した実例を基に第三セクター、箱物について考えてみたい。

 

 

2.ドームやアリーナといった巨大多目的施設が多く造られるようになっていったのだろうか。

 

初めに、なぜ前述したような巨大多目的施設が造られたのか。1980年代後半から90年代前半のバブル景気から平成不況の時期に景気対策のために、多く造られるようになった。大阪ドームもご多分に漏れず、1990年に計画がスタートした。しかし、「施設の建造そのものが目的となり、計画や運営が十分に検討されないまま事業を進めた結果、施設が有効に活用されないばかりか維持管理の後年度負担が財政に悪影響を及ぼす非効率で無駄な事業となる事例が見られ、それらは箱物と呼ばれ批判的見られ方をしている[2]」。箱物の建設などの公共事業は、建設工事そのものが景気の起爆剤として考えられ、巨大多目的施設が乱立したのだが、莫大の赤字を生み出すものとなった。

 

 

3.大阪ドームを例に、第三セクター、箱物はどうして上手く行かなかったのか。

 

二つ目に、なぜ経営が上手くいかなかったのだろうか。前述したように、このような施設は、施設の建造そのものが目的で、計画や運営が十分に検討されないまま事業を進めているが故に、次年度以降に赤字を生み出す事例が多く見られる。また、第三セクター、「官民共同事業では、官民の意識ギャップ、甘い事業見通し、専門的人材の不足による不十分な運営体制、箱物重視による中身(サービス)が伴っていない[3]」ことなどが経営、運営をしていく上でデメリットとして挙げられる。「大阪ドームでは、建築資金の大半を借入金で賄っていたため金利負担が財務を圧迫、運営の利益で黒字にすることも出来ず、年間経常赤字が15億円前後と経営状態の悪化が続いていた。さらに、平成不況を反映してイベントの受注の減少、プロ野球人気の低下による来場者数低下も影響し、負債総額は、500億円以上となり、経営破たんに陥っていた[4]。」しかし、裏を返せば、第三セクター事業には、自治体から独立した運営体制で、大規模なプロジェクトの実施が可能といったメリットがあり、官民一体事業でなければドーム会場のような巨大施設が誕生することは難しかったであろう、第三セクターは、メリットと同時に、非常に多くのデメリットを持った諸刃の剣であることを推測できなかったことが経営悪化の大きな原因である。

 

 

4.黒字転換への道のりとは。

 

三つ目に、今後の事業運営はどのようなものになるのか。多くは、このまま、第三セクターが運営していく場合と民間に事業を委託する場合がある。現在も第三セクターが運営しているさいたまスーパーアリーナは、「2003年には、66,000万円の赤字があったが、事業計画や運営体制といったデメリットとなりがちな部分を見直していったことで、赤字が18年度から黒字に転換し、現在では毎年約4億円を県に納付出来るようになっているほどの成果を見せている[5]。」また、一方で、会社更生法の適用を申請した大阪ドームは、オリックスがドームの施設を不動産として買収し、シティドーム社の経営もオリックスが主体となって引き継ぐことになり、これに基づいて更生計画案も大阪地裁から認可され、経営体制を再整備した。株式はオリックス不動産が全株式の9を保有することで、ほぼ民間に事業を委託された、大阪シティドーム社は、「京セラドーム大阪」の運営会社として再スタートすることとなった。なお、更生計画では「管財人(オリックス)の責務として『大阪市民を中心に、広く支援のシステムを実現させること』が定められ、大阪シティドーム社とは別に、ドームの施設活用や利用促進、イベントの企画・運営事業などを通じてドームの支援を図る非営利組織一般社団法人ドームの会が設立された。そして、2010年には、約3億の黒字を生み出すことに成功した[6]」。だが、これらの施設の黒字転換は、ほんの一例であり、依然として赤字を抱えている施設も多く、地方自治体の財政を苦しめている。箱物への世間の目が厳しい現在において、大規模な施設を運営している以上、慎重なかじ取りをしていくことが今後の事業運営のカギとなるであろう。

 

 

3.見えてきた課題とは。

 

今回は、イベント会場(巨大多目的施設)を経営する第三セクターから発展し、箱物行政について考えてみた。結果として、ドームのような巨大施設が倒産してしまった場合や深刻な経営不振に陥った場合、売却以外、解体するか放置するかという選択肢が残ってくるが、箱物の場合、どちらにしろ、自治体に経費としてのしかかってくる。官民共同事業では、官民の意識ギャップを無くし、しっかりとした事業見通し、専門的人材の採用し、十分な運営体制を築くことで、中身(サービス)重視の運営をしていくことが、課題ではないかと考える。さらに、今、世間では、橋下大阪市長の大阪都構想が話題となっているが、これも行政が造り上げた赤字施設を見直そうというのが一部にある。戦後経済やかつてまでの不景気においては、景気対策のための公共施設の建設は雇用対策などの面からすれば、有効であったかもしれない。しかし、ここ十数年の間、イベント会場に限ってみれば、全国各地、至る場所に造られ、都市機能の充実の一面は担い終え、この先、何百というホールやアリーナが存在している中で新たに建造することはムダとなる。そして、既存の巨大施設においても、これらの施設が全て有効に利用され、いくつの施設が黒字を出せているのだろうか。定かではないが、財政難の中で、このような物が造られてきたか、今後の教訓にしていくことが求められると思えた。今後、いかに既存の施設運営のかじ取りをしていき、ムダな部分を取り除いていくことが、今回のレポートを通して見えてきた課題である。

 

 

 



[1]http://www.kyoceradome-osaka.jp/summary/index.html

京セラドーム大阪HP「会社概要」(2012618日現在)

 

[2]http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/175738/m0u/箱物/

デジタル大辞泉HP「箱物」(2012618日現在

 

[3]地域を生かす第3セクター戦略 成功するための設立と運営の手引(1993)、通商産業省立地公害局立地指導課 監修 第3セクター研究会編著、時事通信社(p.16-25

 

[4]http://www.tsr-net.co.jp/news/flash/1198056_1588.html

東京商工リサーチHP「倒産速報 椛蜊繝Vティドーム」、(2012618日現在)

 

[5]http://www.saitama-arena.co.jp/company_outline/

株式会社さいたまスーパーアリーナHP「さいたまスーパーアリーナ会社概要」(2012619日)

 

[6] http://www.domenokai.or.jp/about.html

一般社団法人ドームの会HP 「一般社団法人ドームの会とは」(201276日)