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栩内柚佳里「ロックフェスティバルが社会や人々に与える影響について

―被災地復興に取り組むものを中心に―」

 

1.日本の新しい夏の風物詩、ロックフェスティバル

 私は今回のレポートで「ロックフェスティバル」について扱いたいと考えている。ロックフェスティバルとは、複数のバンドやアーティストがライブを行う、比較的大規模な音楽イベントである。夏に野外で行われるものが多いが、その開催形態や規模は多岐にわたる。私自身の中の「余暇」というものを考えたとき、「音楽」があり、その中でも音楽を生で体感することができる「ライブ」は大切な余暇の1つである。昨年、初めてその大規模なものである「ロックフェスティバル」として、茨城県ひたちなか市で毎年開催されているROCK IN JAPAN FESTIVALに参加し、大変な感銘を受けた。この「ロックフェスティバル」と呼ばれるものは、近年日本で人気を博しており、今年、2012年にすでに開催された、また、これから開催予定のロックフェスティバルの数は約90以上ある


[1]。その規模も大きなものとなっており、先ほどあげたROCK IN JAPAN FESTIVALは、ひたち海浜公園の広大な敷地の中で5つのステージを設け、2011年は総勢120組のアーティストがライブを行い、総動員数は過去最高の171千人となった[2] また、環境問題などの社会問題について、「ロックフェスティバル」を通して取り組むものも最近では増えており、特に2011年の東日本大震災後は、被災地の復興などをあつかったものが増えており、「ロックフェスティバル」のもつ大きな力を発揮していると考えられる。今回のレポートでは、被災地復興を取り扱ったロックフェスティバルを取り上げ、ロックフェスティバルの持つ社会や人々に与える影響、また、なぜロックフェスティバルは多くの人々を惹きつけるのかについて考察していきたい。

 

2.ロックフェスティバルと被災地復興

 被災地復興を扱ったものとして、まず、石巻ロックフェスをあげたい。この石巻ロックフェスは、自身も実家を津波によって流され被災した、宮城県石巻市出身のバンドunder the yaku cederのメンバーである鈴木大輔氏によって、石巻市の復興を目的に企画された。2011109日に石巻サン・ファンパークで開催され、総勢26組のアーティストが出演し、約2千人を動員した[3]。ロックフェスティバルとしては比較的小規模なものではあるが、注目すべき点として、開催のための資金調達の方法があげられる。通常、多くのロックフェスティバルは、観客からチケット料金を取ることによって、会場設営費などの製作費、出演料などを賄っている。しかし、石巻ロックフェスは、入場料を無料とし、すべての資金を協賛や募金、グッズの売り上げなどで賄っている。さらに、出演料は一切払われていない。つまり、アーティストのボランティアによって成立している。企画当初は資金ゼロでスタートしたが、各ライブハウスへの声掛けや、イベント開催による呼びかけによって、全国から資金が集まり、最終的には約500万円が集まった。石巻ロックフェスの内容はアーティストによるライブだけでなく、飲食ブースでは、石巻産海鮮物を中心に、東北産食材を使用したバラエティー豊かなバーベキューが提供されたり、ワークショップなど、家族連れでも楽しめるコンテンツが提供されたりと、石巻の多くの人たちが元気づけられたに違いない。石巻ロックフェスは、今年も開催を予定されている。

 

次に、LIVE福島をあげたい。LIVE福島は福島県出身のクリエイター箭内道彦を中心に、津波や原発事故、それに伴う風評など、震災によって全世界にその名を知られることとなった福島の「今」を知ってもらい、福島を音楽の力で元気づけるために立ち上げられたロックフェスティバルである。2011914日から19日の6日間にわたって、福島県を西から東へ1日ずつ会場を奥会津、会津若松、猪苗代、郡山、相馬、いわきと変えながら開催され、総勢31アーティストが参加し、22400人を動員するという、大変大規模なものとなった。また、この全6会場のライブの様子はYouTubeでライブ配信され、全世界で約186万回再生された。このロックフェスティバルの収益金は、すべて福島県災害対策本部に義援金として寄付されている[4]。県内出身アーティストだけでなく、趣旨に賛同した多くの著名アーティストが参加していること、来場者数やYouTubeでの再生数から見て取れるように、LIVE福島が福島や、全国の人々に与えた力は大変大きなものであることがわかる。

 

このように、被災地復興を目的としたロックフェスティバルは、企画者、出演者、参加者など多くの人を巻き込んで、被災地を中心に全国に発信し、影響を与えているのである。

 

3.ロックフェスティバルと観衆の心

 以上の被災地の例でも示したように、ロックフェスティバルは日本の大衆文化の1つとなりつつある。しかし、ロックフェスティバルの多くは野外で長時間に渡って開催され、そのチケット料金も高額であり、時には、人気アーティストのステージでは入場規制がかけられるほど多くの人で混雑することや、大雨などや猛暑に見舞われることもあるなど、決して「楽」に参加できるものではない。それにも関わらず多くの人々がロックフェスティバルのために自分の余暇を費やして参加し、また、何度も参加したいと思うのはなぜだろうか。ロックフェスティバルに実際に参加したことがあり、魅力を感じていたので、自分自身の経験からも分析していきたい。

 

まず、要因としてあげられるのはその「非日常感」である。ロックフェスティバルの多くは野外、特に自然の多い場所で行われることが多い。たとえば、ROCK IN JAPAN FESTIVALはひたちなか海浜公園、FUJI ROCK FESTIVALは苗場スキー場、ap bank fesはつま恋で開催されるなど、緑豊かな場所での開催がおおく、テントを張って寝泊りすることなどもできる。普段の生活とはかけ離れた、自然の多い場所での開放的なライブは大変魅力的に映る。また、チケットを1枚購入するだけで、1日または数日で、多くの著名なアーティストのライブが間近で見られるという滅多にできない体験も人々に「非日常感」を与えているだろう。このような「非日常感」は、普段の仕事や学業などから離れた余暇を過ごすためには必要だと考えられる。

 

次に、「一体感」や「出会い」というものがあげられる。普通のライブでもそうではあるが、特にロックフェスティバルには筋金入りの「音楽好き」が多く集まっている。そうした、音楽好きな人たちが多く集まり、ライブを見て、音楽に合わせて体を揺らしたり、手拍子をしたり、合唱したりすることによって自然と観客全体での一体感は高まる。全然知らない人でも、「音楽が好き」という共通点があるだけで、一体となり、ともに音楽を楽しむことができるのである。私自身も、昨年参加した際に、気付いたら知らない人と肩を組んで一緒に楽しんでいたり、ハイタッチをしていたりという経験があった。そのような「一体感」や、ライブを通じての「出会い」というものも、ロックフェスティバルの醍醐味であると考えられる。

 

他にも、国内外の有名アーティストが出演している点や、飲食ブースなどのサービスが充実している点、また、先に挙げたような社会問題に取り組むものに参加することによる自己実現感など、さまざまな要因が関係していると考えられるが、主としては以上のような要因が、人を惹きつけ、また体感したいと思わせるのではないのだろうか。このような、ロックフェスティバルが持つ「お祭り感」というものは、普段のライブや生活では味わえないものなのである。

 

4.ロックフェスティバルが与えてくれるもの、今後必要なもの

 以上で見てきたように、ロックフェスティバルは日本の社会や人々に様々な影響を与えていることがわかる。それは、被災地復興の例に見たように、人々を元気づけたり、勇気付けたり、時には問題について気付かせたり、考えさせたりと、大変大きな力をはらんでいる。また、余暇として、多くの人を惹きつけ、感動を与え、また行きたいと思わせる力を持っており、人々の経済活動を促進する働きも持っている。そのことから、今後、被災地復興だけでなく、環境問題などそのほかの社会問題の解決につながる可能性を秘めていると考えられる。その一方で、集客がままならない地方の小規模のロックフェスティバルも多く存在している。近年の大規模なロックフェスティバルは、アーティストのライブを楽しむという本来の側面以外に、普段とはかけ離れた「非日常感」を与える会場の設定、人々の心をつかむようなコンセプト、ライブ以外サービスの充実、さらには観客にロックフェスティバルに参加してもらうことを通じて社会問題の解決など日本、もしくは世界の社会についてを考えるプロセスに参加しているという自己実現感など様々な側面を持っている。今後、新しいロックフェスティバル、また既存のロックフェスティバルが観客を集めていくには、そうした「付加価値」をつけられるような企画を取り入れていく必要があると考えられる。



[1] Listen Japan HP 『夏フェス特集2012 http://i.listen.jp/st/sp/sp/summerfes2012/index.html

[2] ROCKIN'ON Inc. HP ARCHIVE http://rock-net.jp/event/rijf_archive.html

[3] 石巻ロックフェス2011 Official Website HP http://www.ishinomaki-fes.net/2011/index.html

[4] LIVE福島 風とロックSUPER野馬追HP http://livefukushima.jp/

(全て20126月現在)