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亀山由利「お取り寄せについての考察」

 

 

1.      はじめに

 

お取り寄せとは、各地の物産をパソコンや葉書で注文し、宅送してもらうことである。インターネットの普及、また現代の多忙さに伴って、家で商品を注文し宅配してもらう「お取り寄せ」の利用者が増えている。外食をするのもいいが、自分が選んだものを家でゆっくりと味わうという行為は、余暇の大切な楽しみであると私は考えている。

本稿での「余暇」は学生なら学業、社会人なら仕事という本業以外の自由時間を指し、アルバイトも含むものとする。アルバイトの仕事内容は好きに時間を使うものではないかもしれないが、その仕事を「余暇」の中に組み込んだのは個人の自由であるためだ。限られた時間を有効に使い、目的を達成することを考察する上で、この「お取り寄せ」というテーマを取り上げることは面白いと思う。調べるうち、@余暇の楽しみとしてAこれからの「食」を考えて、と利用者の傾向は大きく二分できるという印象を持った。便利になった一方で震災の傷跡が残る日本において、間接的な買い物という余暇活動からみえるものとは何なのか、いくつか例をあげながら考察していく。

 

 

2.      「楽しみ」としてのお取り寄せ

 

「お取り寄せ」をテーマにした日本最大級の口コミポータルサイト「おとりよせネット」は、食品の取り寄せを専門に扱うサイトである[1] 利用者の感想である口コミを独自の「お取り寄せ審査」というシステムで集め、信用に足る情報として掲載している。編集部審査を通過した5人のモニターが商品を試食、5人中3人が合格とみなした物のみが販売される。このような厳しいシステムにより厳選された逸品を販売していること、またフードライターなど専門家も利用・コラムなどを投稿していることで、利用者により信用されている。また、商品の項目を13種類に分け、欲しいものを細かく見ていくことができるようになっている。例えば、一番上の「肉・ハム・ソーセージ」をクリックすると、肉の種類によって新たに16項目が表示され、さらにおすすめ商品、ピックアップ商品、ランキング(すべてに口コミ付)が出てくる。利用者の86%が女性で、特に3040代が多いという[2]

このサイトを初めて見たとき、「○○が欲しい」という明確な目的がなくてもついつい買ってしまいたくなるような広告文句であふれた画面がとても印象的だった。「訳あり」「送料無料」「ヘルシー」など、良いものを安く買いたいと思っている人には魅力的な言葉が並ぶ。確実に手に入るものをクリックひとつで届けてもらえるのならば、休日は家でゆっくりしたいという人も「買い物」を楽しむことができるのだ。また、お取り寄せは仕事が忙しく出かけられないという人だけでなく、出かけたいが体がついていかないという高齢者にも人気が出てきている[3] 個人的な話ではあるが、私の祖母は足が悪く、以前はよく旅行に出かけていたが最近はずっと家にいる。旅先で出会った味を懐かしみ、母が取り寄せた北海道のウニを「やっぱり本場のは美味しいねぇ」と嬉しそうに食べていたことがあった。

しかし同時に、実際に紙幣を使うわけではないため金銭感覚が薄れ、「お得」という言葉に踊らされて買ってしまうという危険性をはらんでいると感じた。大げさでなく、情報の取捨選択・自分自身の判断が必要になるだろう。ネットを使用する買い物全般に言えることかもしれないが、便利で楽しく利用できるものだからこそ、その使い方を見直す必要があるのではないだろうか。

 

 

3.      「安全」を求めるお取り寄せ ――震災を受けて

 

上記のようにグルメ志向として利用する人がいる一方で、震災後の放射能汚染を懸念する気持ちからお取り寄せをする人もまた多くなっている。有機食材のお取り寄せを行う「大地を守る会」という企業の20117月の売上は、昨年に比べ183%も増加している[4]。特に子供が日常食べるものだから野菜には気をつけたいという消費者のニーズに応え、農家さん自身が安心できるものを届けたいという思いを強めている例もある。栃木県下野市で農業を営み、新鮮な野菜をネットでも販売している海老原秀正さんは「真に安心な食べ物を手に入れるための最良の方法は、自分の手で食べ物をつくることでしょう。それができなければどうするか?信頼できる人に頼んでつくってもらうと思うんです。それこそが私たちが担っている役割。行政の不手際を嘆いている暇はない」と、月刊誌「danchu」の取材に答えていた[5]

今年41日から新しい基準値が設定され、食物の安全性の保証が厚くなったとはいえ「何を買うか」の選択は消費者自身の判断である。楽しみより「安全」ということを念頭に置くと、その選択も真剣実を増す。また今は「震災復興」をうたったお取り寄せが多くみられるが、農家から直接買い付けることが最も有効な支援である。正しい知識を身につけ、偏見的な見方ではない「安全」を考えたお取り寄せがなされるべきである。

 

 

4.      生産者(農家)の方々からの話

 

 実際にお取り寄せをしている農家さんにお話を伺う機会があった。栃木県でりんご農家を営む方で、りんごや他の果物(ブルーベリー、桜など)を加工したジェラートをネット販売している。購入者のレビュー(感想)には「送料込みでうれしい」や「子供に安心して食べさせられた」と書き込まれていた。無添加・無着色で「余分なものをいっさい入れない」ことを売りにしているとの事だったので、生産者の意図が遠く離れた消費者に伝わった例だといえるだろう。

 また、枝豆やきゅうりを作っている農家さんにもお話を伺った。収穫した野菜は直売所や農協に持っていくという。野菜の宅配を考えたことはないかどうか尋ねると、「そういうことをしてる人もいるよね」と、システム自体は知っていて興味はある様子だった。しかしご夫婦と息子さんだけで結構な規模の農作物を管理し、ひとつひとつ減農薬を心掛けていると「そんなことをする器量も時間もない」のだという。「農家は何より消費者のことを考えて(作物を)作ってるから、毎月決まったもの届けられたら一番いいよね。生産者と消費者のつながりっていうのが一番大切なんじゃないでしょうか」と話していた。既製品の宅配を専門とするお取り寄せサービスの会社と違って、生産者個人からお取り寄せをすることの難しさは、時間と手間の問題にあるようだった。

 

 

5.      おわりに 

 

以上「楽しみ」「安全」、それに実際の農家さんという3点からお取り寄せを考察してきたが、どちらにも共通するのは「良いものを消費者に届けたい」という生産者の思いである。おとりよせネットのようにその会社が厳選した商品を売る、いわば生産者と消費者の仲介の役割を商売にしているところも、良い商品をさばかなければ利用者も増えない。結果的に消費者のことを第一に考えて様々なサービスを提供しているのである。また、お取り寄せという形で作物を販売することに興味はあっても、人手や時間がないためにできないという農家さんからも、食品を生産するという職業の人が消費者のことをどれほど大切に考えているかがわかった。

しかし一方で、ネット上の必要な情報を自分で判断し周囲に扇動されないという、現代社会そのものの注意事項が隠されていると感じた。楽しみとして利用している人も安全のために活用している人にも、必要なものを必要な時に手に入れられる「お取り寄せ」はとても便利である。だが先述のような金銭感覚が希薄になるという問題に加え、直接の買い物でないため人との交流が薄れてしまい、充実しているのはネットの中だけ、という事態になりうる可能性もある。買い物とネットをつなげて考えることで、日常的な行動が人に与える影響が垣間見えたように思う。

実際に品物を見て買うことが多かった私にとって、今回の調査には意外な点が多かった。何より、突き詰めて考えていくと利益ではないものが見えてくるということが分かったことに驚いた。消費の形はさまざまだが、商品の裏にある生産者の思いをくみ取り、自分で情報を判断することが、特にお取り寄せという買い物形態に求められているのではないだろうか。

 



[1] おとりよせネットHP(201271日現在) http://www.otoriyose.net/ 

[2] GMOメイクショップ株式会社HP『おとりよせネットとは』(201271日現在) http://www.makeshop.jp/main/attraction/otoriyose.html

[3] みんなの介護HP『シニアも利用者増 ネットで人気のお取り寄せとは?』(201271日現在) http://www.minnanokaigo.com/news_detail/?b=B20110812182827

[4] 大地を守る会HP 2011826日記事(201271日現在) http://www.daichi.or.jp/info/press/2011/08/1837.html

[5] 食の研究所HP『おいしい野菜の確かな信頼を自らの手で守り抜く 栃木「海老原ファーム」と「Q'sCLUB」の取り組み』(201271日現在) http://president.jp/articles/-/6156