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磯野夏美「大子町内の廃校活用事業について」

 

 

1. 廃校の増加と活用事業の取り組み

 

学校とは、人間が成長していく過程において最も重要な機関である。それゆえに、自らの通っていた学校にはひときわ感慨深いものがあるだろう。しかし、自分の母校がなくなってしまうとしたら、おそらく多くの人が寂しく感じるのではないだろうか。少子高齢社会下の日本において、過疎地域の公立小中学校が過去10年間で2,000校以上も廃校になっている[1]。なんとも寂しい事態であるが、通う者がいなくなれば、学校としての機能は意味を成さなくなってしまう。

 

 そこで、また新たな施設として、廃校となった校舎を利用しようという取り組みが全国的になされている。地元茨城県大子町はとくに廃校が多く、中でも趣ある木造校舎は現在も大切に保存されている。したがって、大子町において地域振興を目的としている廃校活用事業の取り組みの実情と今後の展開を調査考察したいと考えた。

 

 

2.廃校利用の現状

 

 2012年現在、創設当初の形を残したまま新たな施設として利用または保存されている町内の廃校校舎は、旧上岡小学校、旧浅川小学校、旧初原小学校、旧池田小学校、旧西金小学校、そして旧槙野地小学校の6つである[2]。いずれもみな古い木造校舎であり、何度か修繕または改築されてはいるが、今なお当初の面影をとどめている。矢田小学校も「えのきの学校」という名称で保存され、ロケ地として使用されていたのだが、2004年に焼失してしまった[3]

 

池田小学校は大子町が直接管理し、高齢者対策のための「シルバー人材センター」、福祉対策として「福祉作業所」となっている[4]。また、旧西金小学校と旧浅川小学校は現在においても「学校」としての役割を受け継いでいる。前者は町の教育委員会により教育支援センター・適応指導教室「山びこひろば」として利用されており、事情により通常の小中学校に通学できない児童が学ぶ場となっている[5]。一方後者は、通信制高等学校としてルネサンス・アカデミー株式会社によって運営されている[6]。旧上岡小学校、旧初原小学校は地域住民の手により保存され、一般見学やイベントのために公開されており、旧槙野地小学校は観光施設として第三セクターにより商用利用されている。以下、これら六校の中でも特に地域振興を主な目的としている旧初原小学校と旧槙野地小学校の活用事業を取り上げる。

 

 

3.地元住民の手による保存活動―「初原ぼっちの学校」の例―

 

 旧初原小学校は当初、廃校後も地元住民が管理を続けていたものの特に使われてはいなかった。何かここを使った事をしたいと言う地元の希望と、実践型の人材育成事業を進めていたグリーンふるさと振興機構の思いが重なり、農と食の学校として平成16年に「初原ぼっちの学校」が設立された。

 

主な活動内容は、秋の農村景観の保存やわら文化の伝承である。具体的にはわらぼっち作りやふるさと探検などで、地区の文化や伝統を共に体験することにより、地元内外の参加者の交流を図っている。参加者の年齢層は主に50代以上が中心であるが、地区内外の大学生など若い世代の参加が増えればと考えているそうだ。

 

現在はイベントがある時にだけ学校を使っているが、常に人のいる学校を目指している。そのためにも、現在はボランティアとして参加している各イベントの講師や手伝いの人びとになんらかの対価を支払えるようにと検討しているが、そのための費用捻出が難しいという現実だ。開催毎に体験者募集をして行っている一過性のイベントでは、地元との交流が思うように深まらないのも課題であるという[7]

 

 

4.商用利用の現状―「大子おやき学校」―

 

旧槙野地小学校では、山村振興特別対策事業により町および関係団体(13団体)の出資による第3セクターとして「大子おやき学校」が平成10年にオープンした。文部科学省による「廃校リニューアル50選」にも選定されている。

 

学校内でのおやきの製造・販売だけでなく、県内の祭事やイベントへの出店、平成13年度からは学校給食にもおやきを提供しているほか、おやき作りの体験教室やそば打ち体験なども行っている。

 

客層は県内外からの学校や養護施設、老人会などの団体客で、地元の人はあまり訪れない。オープン当初は話題性も高く、年間5万2千人の来客があり売上額も6000万程であったが、現在では来客数2万人を下回り、売上額2000万をきっている。とくに福島原発と地理的に近いことから風評被害の影響が大きく、例年と比較して昨年2011年度の売上げは30〜40%程減少しており、今年度もその尾を引いている状況だ。従業員も当初は10人ほどいたのだが、現在では主に2人だけで細々と営業している[8]

 

 

5.廃校活用事業の今後とさらなる発展のために

 

 町が直接管理し、公共福祉のための一機関として利用されている旧池田小学校と旧西金小学校、または私企業に貸与し維持運営されている旧浅川小学校は現在でも活発に利用されており、有効的といえる。しかし一方で、旧初原小学校のように、地域交流を目的とした一過性のイベント会場として利用される場合、維持費用捻出の限界、目的の結果が思うように望めないなど、あらゆる課題が浮き彫りになっている。同じく、地域振興を目的として商用利用がされている旧槙野地学校においても、時間の経過とともに話題性が薄れ、または原発事故の影響により客足が遠のいていくと、その維持管理は今後ますます難しくなっていくと懸念される。

 

これらの問題点に加えて、人がそこに足を伸ばしにくいさまざまな要因があるといえる。まず、二校が位置する場所は町内中心地からだいぶ離れた山間部のため、バスも一日に3〜4便ほどしか通らず、自家用車でも行くまでにけっこう時間がかかってしまうということがあげられる。その上、近くにほかの観光施設等は何もないため、時間をかけて行っても「これだけか…」と観光客を落胆させてしまう。一方、上岡小学校は比較的駅に近い上、国道に面した目立つ場所に位置しているため、アクセスしやすい環境にある。とくに恒例のイベントも行わず、土日のみ一般開放しているだけであるが、県内はじめ東京や神奈川など関東近辺から来る見学客はけっこう多い。またあらゆるジャンルの映像作品のロケーションに多く使用されるため、その広報効果も大きいと考えられる。

 

 学校は一番身近な地域のシンボルであり、住民の結束の場所であるとともに重要な財産である。たとえそれが学校としての意味をなしえなくなったとしても、形はそのままにあらたな施設として利用されることで、その存在価値は変わらずに保たれていく。人々の心に根付くも廃校となってしまった校舎を利用し、その特色を生かした事業を展開していくことは、経済的である上にとても有効な手段であるといえる。しかし必需的施設として使用されていない、観光等施設として保存されている上記三校は、いかに廃校の魅力を発信し、人びとを引きつけることができるかが重要となってくる。立地的不便さに屈しないほどの魅力をぜひとも町ぐるみで創造し、地域住民だけでなく多くの若い世代が守っていきたいと思わせるような廃校活用事業を今後展開してほしいものである。



[1] 文部科学省HP「私たちのまちでよみがえる廃校施設」(20126月現在)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/03062401/index.html

[2] 大子町企画観光課 大子町公式HP「校舎一覧」(20126月現在)http://www.town.daigo.ibaraki.jp/index.php?code=186

[3]『大子風土記』P.28 大子遊史の会編集・発行 2005

[4] 大子町福祉課 大子町公式HP「高齢者福祉」(20126月現在)http://www.town.daigo.ibaraki.jp/index.php?code=280

[5] 大子町教育委員会 大子町教育支援センターHP トップページ 20126月現在)http://www10.ocn.ne.jp/~yamabk/index.htm

[6] ルネサンス・アカデミー株式会社HP「ルネサンス高等学校の基本情報」(20126月現在)http://www.r-ac.jp/about/school/daigo.html

[7] 初原ぼっちの学校事務局担当者 松浦勝彦氏の話による。

[8] 大子おやき学校支配人 見越文江氏の話による。