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石橋皓「来場者の満足度向上を目指すユニバーサルスタジオ・ジャパン」
1. テーマを決めた動機
私の場合、余暇という言葉を聞くとレジャー施設へ行くということが頭に浮かんだので、テーマのとおりユニバーサルスタジオ・ジャパン(以下USJ)を題材に選んだ。私自身も高校生の頃に何度か行ったことがあり、ほとんどのアトラクションがとてもスリリングで楽しかった思い出を抱いているが、そうしたアトラクションの中には、子供達はこのアトラクションを体験して楽しめるだろうか、意味が分かるだろうか等の疑問が私の中で生じたこともあり、数々の不祥事や、入場者数が芳しくないなどといった情報も得ており、USJの実態が気になり、今回調べる動機となった。
2. ユニバーサルスタジオ・ジャパンの沿革
ユニバーサルスタジオの原点としては、1915年、カール・レムルという人が養鶏場の跡地に“ユニバーサル(R)”という名の映画撮影所を開設したことが挙げられる。一人25セント払って撮影所を訪れた人々は、スタジオから提供される弁当を食べ、野外観覧席に座って、サイレント映画がつくられていく様子を楽しんだ。今まで、関係者以外には閉ざされていた映画撮影の舞台裏が、はじめて一般に公開されるという、ハリウッドの歴史を大きく変える出来事が起こったのだ。これこそが、ユニバーサル・スタジオ(R)の映画をテーマにしたエンターテインメントの原点というべき第一歩である[1]。
ユニバーサルスタジオというテーマパークは、1964年にハリウッドに建設されたのが初めてで、それはアメリカの映画会社であるユニバーサルが、ハリウッド映画の世界観に触れてもらうことを目的に作られた。USJは国内初のユニバーサルスタジオで、1998年10月に大阪市此花区において建設が開始され、2001年3月に開業した。その年の5月には入場者数が100万人を超え、順調な滑り出しを成し遂げた。翌年2002年からは毎年のように、パーク内に新しいアトラクションが導入されていき、現在は約30のアトラクションを用意している[2]。
3.数々の不祥事と経営陣の交代
開業から数年は順調な経営を続け、入場者数も伸び続けたUSJであったが、その反面でいくつかの来場者に対する不祥事が起こっていた。来場者に直接被害が出なかったものでは、水飲み器に工業用水が混じるという配管ミス、アトラクションに使う火薬量の基準値超過などが挙げられ[3]、実際に来場者が被害を被った件もある。それは2004年11月に、大阪府内の女性客が、自転車に模した乗り物で空中を旅するアトラクションである「E.T.アドベンチャー」というものに乗車した際に、USJ従業員が安全バーを降ろしたところ、女性客の右手首を挟んでしまったという事故である。この女性は事故後、手首に腫瘤ができ約9カ月通院したが、後遺症で指2本が不自由になり仕事を休んだため、半年後に解雇されてしまったために、2005年12月に訴えを起こした[4]。この事故のポイントは、USJ側が事故の公表を避けたという点である。この事件についてのメディアの報道など私は見ておらず、おそらく新聞に小さく載っただけであろう。結局USJが解決金1400万円を支払う条件で大阪地検において和解が成立したのだが、和解条項に「事故や和解内容を第三者に開示しない」というものを盛り込むなど、USJの解決に対する取り組みには問題があったと私は考える。
そうしたことがあり業績も落ちていったため、2005年にUSJは産業活力再生特別措置法の適用を申請し、これによりUSJの経営不振が世に知れ渡った。USJの経営不振の主な理由として挙げられているのが、上記のような不祥事への対応の悪さ、経営陣の官主導ならではの投資面などの無駄である。USJの運営会社はアメリカのユニバーサルスタジオ社と大阪市と民間企業44社が出資する第三セクターである。その社長は、代々市の役員からの天下り議員であり、私はそうした天下り議員によるテーマパーク運営に懸ける熱意の低さ、顧客の重要性の軽視などが、入場者数の減少につながったと考える。そうした経営の悪化を懸念して、2004年にようやく初の大阪市OB役員以外からの社長就任(グレン・ガンペル[5])が実現した。さらに2005年8月にUSJが産業再生法の適用を受けたことにより、アメリカの大手証券会社ゴールドマンサックスにより買収される[6]。この買収によってUSJは大阪市の管轄から完全に脱却することに成功し、新たな企業戦略のもとでUSJは成長していくこととなる。
4. USJの目指す方針の転換
経営陣の交代以降、USJはパークの運営に関する方針を見直すようになった。それまでの官主導ではなく、お客様の声に耳を傾けてパークを新設計していくようになったのである。USJはもともと、ハリウッド映画の世界観に触れてもらうことを目的として建てられたものであったため、どちらかというと大人向けのテーマパークであり、私が考えたことのあるように子供たちの視線から見て理解できるようなアトラクションばかりであったとは言い切れなかった。
そのため2005年にUSJは、「キャラクターワンダーイヤー」と名づけて家族で楽しめるテーマパークへと運営方針を変えた。このような方針転換の背景には、USJでは毎日入園ゲートでゲストからアンケートを取っていたが、経営陣交代前は小さな子供や障害者は対象外となっていた。そのような声なき声を聞き入れようという動きが、経営陣交代後のUSJ初の民間人社長グレン・ガンペル主導のもとで起こったのだ[7]。運営方針の転換は確かに入場者数の増加に繋がり、女性及びファミリー層を中心に積極的な集客戦略を実施し、また、夜間限定チケットの導入や年間パス保有者を中心とするリピーター集客策を実施した結果、年間入場者数は、前年度比2.6%増の831万4千人となったとUSJに関する公的資料で明らかにされている[8]。USJはこのような運営方針の転換の他にも、例えばインターネット上から、10周年記念を祝って復活してほしいアトラクションをアンケート調査することなども行った[9]。このようにしてUSJは少しずつ、お客様と自分達の距離を縮めていく努力をし、お客様の側もその姿勢を良しとして、少しずつUSJを見直してきているのではないかと私は考える。
5. USJの今後の展望
USJはその経営体質が、2006年頃を境に少しずつ変わってきている。それは、天下り社長の体制を脱却できたことや、筆頭株主がゴールドマンサックスに移ったことにより、経営者に新たな視点がもたらされたことなどが要因と考えられる。
USJが開業した2001年当初は、パーク内で泣く子供たちの姿が見受けられた。大人向けのショーやアトラクションばかりで子供たちにとっては怖いものばかりであったからである。それが今や、例えばライド系アトラクションで身長制限に達していない子供がいたとしても、「チャイルドスイッチ[10]」という保護者同伴で優先的にアトラクションに乗ることができるというものを用意し、また、最近ではユニバーサルワンダーランド[11]という、スヌーピーやハローキティといったキャラクターが登場するエリアが新たにパーク内に作られ、小さな子供が保護者と一緒に一日中夢中になれる場所を設けた。
余暇活動を誰よりも楽しみとし、そしてテーマパークに対する強い憧れを持つのは、おそらく子供の頃であろう。子供達の好奇心はテーマパークの運営にいろいろな影響を与えるであろうし、テーマパーク運営者には彼らの好奇心をくすぶるような運営方針で行くことが求められるであろう。今までの大人向けのテーマパークというイメージを払拭し、子供も夢中になれるレジャー施設へと発展したUSJは、昨今のLCC競争と相まって将来的には遠方からの集客も盛んになるであろうし、そうなれば今度は、パーク内が人で混み合っている際に来場者へのサービスの質をいかに落とさないでいられるかなどの、お客様満足度を真剣に考慮した運営が要求されてくるであろうと私は考える。
[1] 株式会社USJ 「企業沿革」 (2012年7月現在)
[2] 同上
[3] 21世紀企業不祥事事件簿 「ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)の不祥事」(2012年7月現在)
http://www.不祥事.jp/usj.html
[4] Katarau(語らふ) 「2006/11/27 いやーなニュース」(2012年7月現在)
http://katarau.blogzine.jp/tawagoto/2006/11/post_0ed0.html
[5] 神戸新聞 2004年10月10日掲載 「同時代を駆ける」(2012年7月現在)
[6] 情報発信 「ゴールドマン・サックスがUSJ買収」(2012年7月現在)
http://glocom.blog59.fc2.com/blog-entry-1003.html
[7] USJの事業分析(マネーのツボ) 「夢と感動は変わらない」 (2012年7月現在)
[8] 新株式発行並びに株式売出届出目論見書 平成19年2月 「経営成績の分析(P.63)」 (2012年7月現在)
http://post.tokyoipo.com/ipo/10446/21422007021303.pdf
[9] ユニバーサルスタジオジャパン 「10周年記念 復活してほしいアトラクション・ショーアンケート」 (2012年7月現在)
http://www.usj.co.jp/event/10th_enq/
[10] T.P.D.Kids USJ 「チャイルドスイッチ」(2012年7月現在)
http://homepage3.nifty.com/t-p-d-kids/tpdkFiles/usj_f/usj_p_f/usj_4.html
[11] ユニバーサルスタジオジャパン 「ユニバーサル・ワンダーランド」(2012年7月現在)
http://www.usj.co.jp/UWL/