120710chujor

 

中條玲「宝塚歌劇とマーケティング」

 

1.はじめに

 

私は小学生の頃から宝塚歌劇が好きで観に行くことがしばしばあった。私にとっての余暇とはまさに、宝塚歌劇である。現在は本家の兵庫県にある宝塚大劇場にまで観劇に行くほどだ。宝塚歌劇の歴史は古い。しかし、今なおその人気は衰えることなく、ファンを増やし続けている。その魅力はどこにあるのだろうか。現在、不況といわれる日本の経済において、宝塚歌劇はどのように収益を伸ばし続けるのであろうか。今回は、宝塚歌劇のマーケティングの観点から考察していきたい。

 

2.宝塚歌劇とは

 

宝塚新温泉と呼ばれる遊園地を箕面有馬電気軌道(現・阪急電鉄株式会社)が設立し、その旅客誘致企画として、少女のみの出演者による「宝塚唱歌隊」が組織され、191441日に初めて公演が行われた。これが、現在の宝塚歌劇団の最初の公演と言われている。現在は5組と専科に分かれてそれぞれの組で公演を行っている。まもなく記念すべき100周年を迎えようとしている。[i]

 

3.宝塚歌劇におけるマーケティング手法

 

 まず、宝塚歌劇の代表的なマーケティングの手法として、ファン層の的確なターゲティングが挙げられる。宝塚歌劇ファンの大半が金銭面にある程度の余裕のある中高年の女性である。宝塚歌劇は、万人受けを狙うのではなく、ターゲットをより絞り込むことによって、そのファン層のニーズに応えた独自のマーケティングに成功したといえる。

 

 そして、宝塚歌劇において、もっとも他の劇団と差別化される独自のマーケティング手法として挙げられるのが「スター・システム」である。宝塚歌劇団が設立当初はまだ、現在の「スター・システム」は確立されていない。しかし、戦後好景気の1980年代に宝塚歌劇において代表作ともいえる、「ベルサイユのばら」や「風と共に去りぬ」などの人気演目が登場したあたりから、本格的に「スター・システム」が確立していった[ii]

 

 宝塚歌劇団では現在、専科と5つの組に分かれて公演を行っているが、それぞれの組にトップスターが存在している。この「スター・システム」は劇団の生徒さんが新人の頃から、各組のトップスターをあらかじめ決めてしまう[iii]ことにより、ファンの視線をトップスターに集中させ、その生徒さんが退団するまでファンの情熱を掻き立てる。そして、トップスターの就任期間に限りを持たせることにより、希少価値を高める。つまり、宝塚歌劇の公演はファンにとって、ただ単に観劇の繰り返しではなく、連続的な楽しみとなり得る。この点で、他の劇団とは観客の感覚が大きく異なるのだ。このシステムにより、公式のファンクラブも存在している[iv]。ファンクラブの会員に対して人気スターの握手会や貸し切り公演への参加などの特典を与えることにより、公演動員数の増加につなげている。

 

 また、この「スター・システム」により、宝塚歌劇団は、公演以外でも多くの分野で収益を上げることに成功している。一つとして、関連グッズの販売である。「スター・システム」により、同じ演目内容でも、組やトップスターが異なるため、グッズの売り上げは衰えない。また販売方法を公演会場とインターネットに絞り込むことにより、希少価値が生まれ、宝塚歌劇のブランド化を図ることができる。もう一つとして、衛星放送の「宝塚歌劇専門チャンネル」[v]の設立である。このメディア戦略は、歴代の公演の放送に加え、人気スターのインタビューや劇団の生徒さんによるニュース放送などを盛り込むことにより、公演にはない魅力を作り、より一層ファンの情熱を掻き立てることに成功した。

 

 公演に関しても、質の向上を怠っていない。組別で公演を行うことにより、それぞれの組で十分な稽古期間を確保し、質の安定につなげている。加えて、昔から行われている演目に関しても、斬新な演出を行うことによって、ファンを飽きさせない工夫が凝らされている。また、海外公演を行うこと[vi]により、世界的な知名度の向上を図っている。

 

4.考察

 3の内容は、私の調べた範囲内に過ぎず、宝塚歌劇のマーケティングすべてを紹介しているわけではない。しかし、調べた範囲内ですら、ここまで他の劇団とは比べられない独自のマーケティングの手法が浮き彫りになった。どの手法にも共通していることは、ファンのニーズに応えた「スターとファンとのコミュニケーション」や「希少価値」というものを上手く取り入れていることである。宝塚歌劇団が現在の地位を確立したのも、このようなファンへの気配り一つ一つが実を結んだ結果であるといえるのではないか。

 

 そして、注目したいのが、宝塚歌劇団による海外公演である。海外公演は宝塚歌劇創立当初から、長きに渡り行われてきた。海外公演といっても外国語での上演ではない。日本公演と同じように行われる。ただ、演目の題材は日本を舞台にしたものが多いようである。これは、宝塚歌劇団を世界的に広めると共に、海外に日本文化を伝えることにも一役買っている。このように、観劇のターゲットを日本に留めるのではなく、海外に目を向けることを創立当初から行っていた宝塚歌劇団は、マーケティングにおいて非常に進んでいたといえる。

 

 また、東日本大震災直後はすべての公演をチャリティー公演に変更し、トップスター自らが公演直後に観客に対して、直接募金活動をすることもあった。私は、なぜ公演自体を中止しないのか不思議であったが、公演当日の人気スターによる募金活動はファンにとって大きな衝撃であった。公演直後で、まだ汗も吹き出る状態にも関わらず、彼女たちの必死な姿は観客に感動を与えた。震災直後は、多くの面で自粛を囁く声が多かったが、宝塚歌劇はあえてそれを行わなかった。これも、マーケティングの一つの戦略であったかもしれない。しかし、その時の募金は相当な額が集められたことは事実である。

 

 このような宝塚歌劇団のマーケティングの手法は、劇団のみならず色々な産業にも応用できるように思う。日本を代表する漫画家である手塚治虫もまた、宝塚歌劇の「スター・システム」に影響を受けた人物である[vii]。現在の日本において、宝塚歌劇のマーケティングは不況を乗り切る切り札になり得るのではないか。

 

 

 

 

 

 

 



[i] 宝塚歌劇団「Back to the 宝塚歌劇」 http://kageki.hankyu.co.jp/90th/1913.html (2012.06.12)

 

[ii] 宝塚歌劇団「Back to the 宝塚歌劇」 http://kageki.hankyu.co.jp/90th/1913.html (2012.06.12)

 

[iii] 宝塚歌劇団「スター・ファイル」http://kageki.hankyu.co.jp/star/index.html(2012.06.12)

 

[iv]宝塚歌劇団「宝塚友の会」http://kageki.hankyu.co.jp/friends/index.html(2012.06.12)

 

[v] 宝塚歌劇 衛星放送チャンネル タカラヅカ・スカイ・ステージhttp://www.skystage.net/ (2012.06.12)

 

[vi]宝塚歌劇団「Back to the 宝塚歌劇」 http://kageki.hankyu.co.jp/90th/1913.html (2012.06.12)

 

[vii] 手塚スターシステムhttp://dic.pixiv.net/a/%E6%89%8B%E5%A1%9A%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0 (2012.07.08)