110622
「風水を用いた余暇とは何か」
1.はじめに
紀元前300年頃の偉大な風水師「郭璞」の『葬経』の中の一節で、「気は風に乗じて散じ、水を界して止まる(集まる)」という一文がある。すなわち、気のエネルギーとは風と水の影響によってその力が計算できると言う考えであり、「風水」と呼ばれるようになった[1]。元気や病気の基となる「気」の凝集、充満や拡散、消失は、人間の吉凶や禍福に影響を与えると考えられてきたのだ。
風水思想とは、自然環境、方位、あるいは宅地・家屋・墓の形・周囲の環境・風景と自分を調和させる考え方である。聖なる山や川と華清池という空間認識は西洋の思想にもあるが、それらが家や墓、そして自然へとつながるような雄大な思想は発達しなかった。
しかし、20世紀後半の文化大革命で人材が中国から国外へ流出し、欧米で風水思想は徐々に受け入れられていき、ビジネスや建設において風水を活用する事例もみられるようになってきた[2]。
日本では、体系的な風水が伝わらなかったため、風水は占いの一種と思われがちだが、Dr.コパーや、李家幽竹などによる独自の風水はいまなお根強い人気があり、風水を考慮した生活を送る人は日本に非常に多いと見受けられる。例えば、私の家庭教師先のトイレでは、「福が逃げていかないように必ずふたを閉めよう」といった紙が扉に貼ってあったり、クラスの大半の人がパワーストーンを持っていたりと、何かと「気」に配慮した生活を送っている。私自身も、「朝起きたら窓を開けて気を入れ替える」といった風水の教えを時々実践するのだが、実際に気持ちがいい。本稿では、身を置く時間が最も長いと考えられる部屋の気を、風水でどのように保つかに焦点を当て、風水を実践する行動を余暇ととらえることとする。
2.風水を取り入れた余暇−部屋の気を保つ
部屋の環境は、方位との関連では、風や日差しの入り込む窓と出入り口の方向が大きく影響するし、それにより室内の照明器具の置き方や冷暖房の配置が考慮される。そして、ポイントは色使いである。暑がりの人ならば壁紙をブルーにするとか、寒がりなら冷気を感じる場所に明るい色の花を置くとか、様々な工夫をしてみる。バランスのとれた色使いこそが気を保ってくれる。次は位置である。自分が快適な位置を選ぶ。人はそれぞれ育った環境や培った教養によって好みや考えが異なる。現在住んでいる環境も同一でない。机の置き方でも、窓が東にあるかどうかで風景も異なる。各自が様々な実験を繰り返すことによってはじめてよい気を保てる。例えば、冷気がたまりやすい場所にテレビや冷蔵庫などの熱を出すものを置けば、そこは暖気を出す場所へと変化する。その結果、冷気を和らげようとおいていた明るい色の花を寒色系に変える必要があるかもしれない[3]。
3.風水の思想はなぜ人々に受け入れられたのか
私たちが生きる現代は、食べるのに不自由しない経済下にあり、できるだけ自分自身を快適な環境に置きながら、よい人生を送りたいと願う人々が多数を占める時代でもある。自分がどこに身を置いたら快適になるのか、そのため自分の生活環境をどう作っていくか、日常生活の中でどうやって元気を生み出していくかなど、風水が目指している方向性と環境思想が一致したのではないか。
4.変化する風水−風水そのものが時代を反映する
風水は数千年の人間の経験の上に成り立つ科学だとしたら、時代を経ればとらえ方も変化が生じる。心地よい色はグリーンだとか、高揚するのは赤だと言ってみても、色の好みなどは時代によって変化する。また、環境も、昔から街道沿いに松を植えるのがいいとなっているが、大気汚染が進み、松くい虫が大量発生するようになると、松が問題だとなる。
街づくりについても同じことが言える。つい40〜50年前までは、ほとんどの人が農業に従事していたわけだから、田んぼと畑を軸とした集落づくりが基本であり、風水的には日当たりと水の確保、土壌・土質の良しあしが最も優先された。それが全国で都市化が進む現代のようになると、かつてと同じ方法論で集落を維持できなくなる。水(上下水道)やガス、電気の流れ、ライフラインや人・モノの流れ(鉄道・道路)などを踏まえた街づくりが重要になる[4]。しかし一方で、地元の人たちの土地勘や土地の情報を取り入れた街づくりが必要であり、都市をまねてばかりの地方は衰退するのではないかと考える。
5.今後の風水の提言
東日本大震災により、多くの家が倒壊し、絶望の中から立ち上がろうと東北地方全体が街づくり構想を練っている。前と同じ状態に戻すか、それとも近代化させるのか、高台へ住民全体が移るか、課題は多い。しかし、不謹慎だが、風水の視点から見たら、一から土地を決め、どのように街が理想的かを考えられる機会はなかなか貴重であるともいえる。風水では環境と気のエネルギーの両観点から吉凶判断を行い、「山」をビル等の物体として、「水」を道として捉える[5]。もし家を建てるなら、河による風の強さや、実際の道や建物・川の流れ方から吉相を判断する必要性がある。しかし、凶相でも、塀を作るなどして欠けを補えばいいので[6]、気軽に取り入れられる。今後も、大自然の中で生きていくためには、自然の気の流れを考慮した風水は重要ではないか。風水と向き合うことは、自然と向き合うこととも通じ、風水の教えは自然の感謝の心を芽生えさせてくれる。自然との共存を念頭に置いた街づくりは、被災地におけるこれからの生活で、「前よりもっと住みやすい街にできる」という希望を持ちやすくなるのではないかと思う。
[1]兼六園下の風水師「風水の背景」 http://fusui-idea.com/fusui-true/fusui/index.html
[2] 社団法人国際風水協会「協会挨拶」http://www.fu-sui.com/aisatsu.html
[3] 『中国4千年の知恵を探る図説風水学』目崎茂和、2001、東京書籍
[4] 同
[5]兼六園下の風水師「山水形勢と景色」http://fusui-idea.com/fusui-power/sansuikeisei.html
[6]兼六園下の風水師「土地の判断基準」http://fusui-idea.com/fusui-power/sansuikeisei.html