100133sunagaj

 

須永 純「クルマの旅〜発展する休憩施設がもたらすものとは〜

 

1.            はじめに

 

私が“余暇”と聞いてまず頭に思い浮かぶのは家族や友達と車で出かけることである。どうして車で出かけることが私の中で“余暇”として強く印象づけられているのか。その要因のひとつは、出かけたときによく立ち寄る高速道路のサービスエリアやパーキングエリア(以下SAPAとする)、道の駅などの休憩施設で感じる楽しみや癒しではないかと考える。休憩施設でその地域独特のものに触れたり味わったりすることで、旅の思い出がまたひとつ増える。休憩施設が旅の楽しみを作り出しているのではないかと感じる。

そこで今回、近年の目を見張るようなSAPAや道の駅の発展と地域との共存について考えていきたい。

 

2.            SAPAの発展

 

そもそも、SAとは高速道路に約50qごとに設置されている休憩施設である。一般に駐車場やトイレ、無料休憩所のほか、レストランや売店、ガソリンスタンドなどが設けられている。PAは高速道路に約15qごとに設置されていて、トイレや自動販売機が設けられているが、SAに比べ小規模な施設が備えられているとされる。しかし最近はSA並みの施設が整備されているPAもあり、SAPAの明確な区別はされにくくなってきている。

 

近年見られるSAPAの発展にはどのようなものがあるのか。まず注目したいのは、本来車の運転疲れを癒すための単なる休憩施設であったはずのSAPAがその域を超えて、ひとつの“観光スポット”としてとらえられるようになってきているということである。その具体例としては、東京湾アクアラインの中心に位置する5階建の海ほたるPA[i]に東京湾アクアラインのすべてがわかる「うみめがね」という無料資料館や、海の景色を楽しむための海ほたる望遠鏡が設けられたことや、また淡路SA[ii]に高さ約65mの巨大観覧車が設置されたことなどがあげられる。実際に「観覧車からのイルミネーションを楽しみたい」という思いで淡路SAまで出かける人もいるようだ。また、SAPA内に宿泊施設や愛犬と食事ができるドッグカフェ[iii]、愛犬が長時間の車の移動にストレスを感じないようにランニングコースが設けられたりもしている。気兼ねなく“家族全員”で出かけられるという点が注目されてきている。SAPAが休憩施設から車で出かける目的そのものに変わり始めているのだ。

 

また、SAPAに全体的によく見られるようになったのはマクドナルドやスターバックスコーヒー、コンビニエンスストアなどのチェーン店の導入である。SAPAは地域特有のものを食べたり飲んだり触れたり、買って楽しんだりできる貴重な場であるという認識を持つ人は多い。そのような場所で、どこにでもある日常的な景色や味に出会うということには少し違和感を覚える人もいるかもしれない。

 

3.            道の駅とSAPAにみられる違いとは

 

道の駅は、休憩施設と地域振興施設が一体となった道路施設である。また、道路利用者のための休憩施設、道路利用者や地域の人々のための情報発信機能、道の駅を軸としてその地域の町同士が連帯する地域の連帯機能という3つの機能を併せ持っている。現在全国に約970か所に存在する。道の駅は高速道路のSAPAのような明確な間隔基準は設けられていないが、約10qごとの設置が計画されている。駐車スペースやトイレなどが備わっているが、SAPAとの大きな違いはその地域の文化、名所や特産物などを活用したサービスが提供されているという点である。全国の道の駅ほとんどが、その地域の独自性を最大限活用し、地域住民を巻き込んでの地域活性化をはかっている。たとえば、山形県寒河江市にある道の駅「チェリーランド寒河江」[iv]は、寒河江市が日本一のさくらんぼ生産地であるということに着目し、百貨店の名店街のような名産、特産品の売り場を設けている。また、300人以上が座れる広々としたファミリーレストランはメニューが豊富で老若男女が利用できるように工夫がされており、食事やきれいに整備されたバリアフリーのトイレや休憩所を利用する観光客はにぎわう立派な名店街でお土産を買うことになる。地域住民の協力や活力を利用し、地域の名産品や特産品を広め、まさに官民一体の地域活性化事業が行われているのだ。

 

4.旅の楽しみと休憩施設

 

SAPAの発展によって、人々はより「出かけよう」というきっかけを与えられるようになった。また、人々の消費活動が促されることで経済効果も期待されるだろう。しかし、地域の独自性や地域との共存が無視されて発展が進んでいけば、日本全国に繰り広げられているチェーン店がSAPAに進出してきているように、SAPAは画一化されていってしまうのではないかと考える。確かに、チェーン店は日本各地に共通の味のものを提供しており、一般市民が慣れ親しんでいる味であるので、安心して食べることができるという意見もあるだろう。しかし、旅の楽しみは、何より旅先の地域独特の雰囲気や景色、においや食べ物の味といった普段出会うことのできない他地域そのものを満喫するというところにあると考えられる。旅を満喫したいと思う人にとって地域の独自性に触れて楽しむということは譲れない部分だろうし、SAPAの画一化により、旅の途中で旅そのものの魅力を半減させられてしまうことにつながりかねない。SAPAが地域の独自性をいかしたサービスを提供すること、つまり地域との共存を図った休憩施設を作り出すことは観光客に旅の楽しみを提供することにもなり得るのだ。

 

5.休憩施設に秘められる可能性

 

SAPAでも観光客と地域住民が触れ合う機会を増やし、SAPAを地域活性化のための手段としても利用していくべきではないかと私は考える。特に、2011311日に発生した東日本大震災以降、東北地方を中心に観光客の自粛が目立ってきている。SAPAを観光客と地域住民が接触できる場として提供し、地元の観光地や名産、特産品のアピールに役立てていくことはできないだろうか。現在SAPAは観光スポット化されるなど、世間から注目をあびている。そこに、地域住民を巻き込んでいくことで地域復興のための新たな事業の開発可能性が生まれてくるのではないか。



[i] http://www.umihotaru.com/index.php

「東京湾に浮かぶパーキングエリア 海ほたる」(2011621日現在)

 

[ii] http://www.jb-highway.co.jp/sapa/awaji_up.php

「はしやすめ 淡路サービスエリア」(2011621日現在)

[iii] http://www.hula-dog.jp/

huladog(フラドッグ)」(2011621日現在)

 

[iv]http://www.michinoeki-sagae.com/

「道の駅 寒河江 チェリーランド」(2011621日現在)

http://dac.gijodai.ac.jp/gp-da/Site4/seikabutu/siraki.pdf

白木 希「道の駅のデジタル・アーカイブ化を用いた地域文化情報資源活用の研究」(2011621日現在)