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下枝笙子「現代のカラオケ事情」

 

 全国各地に点在するカラオケボックス。その施設数は2009年の時点で9126軒である[i]。日本ではなぜカラオケ文化が発展したのか。また、人々はどのような目的でカラオケボックスを利用するのか。余暇活動における娯楽の一つであるカラオケについて考察していきたいと思う。

 

 まず、日本のカラオケ文化の歴史からたどっていく。1970年代に、それまでは主に軽音楽のBGM再生機として使われていた8トラック式小型ジュークボックスというものにマイク端子が付き、カラオケの原型が誕生する。この小型ジュークボックスをBGM再生としての利用の他に、軽音楽テープ等を使用し、マイクで歌わせる店が現れる。これがカラオケの前進的利用法である。1970年には、国民皆唱運動を展開した山下年春氏が伴奏8トラック式伴奏テープ「太洋パック」を発売。翌年の1971年には井上大佑氏が、スプリングエコー、コインタイマー内臓のマイク端子付き8トラックプレイヤー「8ジューク」を手作りで製作、弾き語りで録音した8トラック10本(40曲)の伴奏テープとともに店舗へレンタルを開始した。このようにして誕生したカラオケは、1973年頃にはビジネスとして注目を浴び始める。1980年代初めには、映像カラオケが登場。それまでは歌詞カードを見ながら歌うのが普通であったが、画面に画像や歌詞のテロップが流れ、モニター画面を見て歌うようになった。これはその後のカラオケのスタイルを大きく決定づけることとなった。映像カラオケは「絵の出るカラオケ」として広がり、80年代後半から90年代前半には、カラオケ出荷台数の8割を占めた。また、リモコン選曲のオートチェンジャーが開発され、コンパクトで操作が簡単という点が受け入れられ、需要を伸ばした。小型で持ち運びが可能であることから、旅館やホテルにも浸透していった。80年代後半にはカラオケボックスブームが本格化した。カラオケボックスは若者のニーズを満たし、酒場市場、バンケット市場に加え、新しい市場を開拓することとなった。1992年には通信カラオケが登場した。曲の多さ、新譜リリースの早さ、コンパクトさ等が評価された通信カラオケは、普及に拍車がかかっていった。カラオケは常に最先端技術とともに発展していったといえる。これが日本発のカラオケという娯楽の歴史である[ii]

 

 次に、カラオケボックスの利用目的について考えていきたいと思う。以上のことを踏まえると、カラオケボックスの利用目的、利用者も時代とともに変化していったと思われる。

 

 現在チェーン展開される多くのカラオケボックスでは、ドリンクバーや軽食が用意されている。ドリンクバーは無料の店舗とそうでない店舗がある。このようなサービスの違い、サービスの充実さなどが利用者のカラオケボックスを選ぶ決め手になると思われる。

 

 料金システムは1時間単位の換算またはフリータイムでの利用が主である。少し空いた時間の暇つぶしから長時間の利用など、様々な場面に対応しているといえる。数多くあるチェーン店は、顧客確保のために、様々なサービスを提供している。「カラオケレストラン・SHIDAX」を例に挙げ、どのようなサービスがあり、どのような目的で利用されるのかを検証していく。歓送迎会や二次会としての利用はよくある利用目的である。ただ歌うことを目的とするために二人以上での利用も多くあるだろう。近年では、ひとりで歌うことを目的とした「ひとりカラオケ」も注目されている。人前で歌うことが恥ずかしいという理由の他、歌うことでストレスを発散する人もいるようである。

 

 レディースデーやメンズデーといった性別によって割引の対象となる日や、学生を対象とした学割サービスも用意されている。また、食事を注文することで安くなるランチとカラオケをセットにしたプランもある。

 

 また、部屋の快適さも重視されているようである。掘りごたつや座敷風の落ち着いたインテリアが施された和室や、こだわりのインテリアと大きめのソファでゆったり過ごせるスペシャルルーム、40人まで入れるパーティールーム、子どもが遊べるスペースがあるキッズルームなどがある。数は少ないが、点字歌本・メニューが用意されたバリアフリールームや、約7kgまでの小型犬と一緒に入ることができるペット可の部屋もある。高校生などの若年層から、年配層まで幅広い年代で利用されるカラオケボックスであるために、様々なプランやサービスが提供されている。これらのことから、利用目的も利用者の幅も広いことがわかる。歌うことだけでなく、飲食物メニューの豊富さ、部屋の雰囲気にも重点が置かれている[iii]

 

 カラオケボックスには様々な問題点もある。治安問題では、夜間利用の危険性が指摘されている。密室であることを利用した犯罪が多々発生している。また、深夜営業または24時間営業の店舗も多いため、若者による事件も発生しやすいと思われる。防災面での課題も指摘されている。避難経路の不備など、防災上に問題のある店舗において、死者を伴う火災事件も発生しており、消防局による査察が定期的に行われている。

 

 また、健康問題も指摘される。長時間休まずに歌うことは喉に大変負担をかける。それだけでなく、密閉空間であり、なおかつ喫煙者が同室であると、喉にかかる負担は大きい。このことから、カラオケが原因による「カラオケポリープ」と呼ばれるポリープが発症してしまうこともあるため、注意が必要である。

 

 幅広い世代に好まれ利用されるカラオケボックス。90年代の最盛期の頃と比べると、景気の悪化により施設数の減少は見られるようではあるが、今後も余暇の一つとして人々に好まれ、利用されていくだろうと考える。

 



[i] http://www.japan-karaoke.com/05hakusyo/p1.html

全国カラオケ事業者協会「カラオケ業界の概要と市場規模『カラオケ白書2010』より<一部抜粋>」(2011621日現在)

[ii] http://www.japan-karaoke.com/03nenpyo/03_02.html

全国カラオケ事業者協会「カラオケ歴史年表解説」(2011622日現在)

[iii] http://www.shidax.co.jp/sc/

カラオケレストラン・SHIDAX