110622katonaom

 

加藤奈緒美「個人・地域にとっての祭り・イベントの魅力」

 

1.            はじめに

「祭り」と聞いて思い浮かべる祭りは自分が生まれ育った地域の祭り、訪れたことのある地域の祭り、テレビで見たことがある祭りなど人それぞれ異なるだろう。祭りは地域によって特色があり、実に様々な形態がある。私は幼いころから、町内の提灯祭りによく見物に行っていた。大きくなるとその祭りに参加し、地区ごとに異なる提灯について歩いたり、盛り上げたりしてきた。また、高校・短大時代は福島駅前で行われる「わらじ祭り」に参加し、賞をもらったりもした。それらの経験から、祭りの楽しみ方を色々味わい、その魅力というものに惹かれていった。祭りは私にとって非常に楽しみな余暇なのである。また、祭りはただの余暇の一つではなく、そこから経済効果が生まれ、地域活性化につながる大きな地域のイベントであると考える。実際にわらじ祭りに参加し、いつもは閑散としている福島駅前が多くの人で賑わい、活気に満ちているのを感じ取ることができた。ここでは、祭りを中心にイベントも含め、それらの魅力について見ていきたい。

 

2.「祭り」とは

まず、祭りの起源についてみていく。祭りは人間が集落をつくり、先祖を祀り、豊作を祈願し始めた頃から祭りは存在していてと考えられえいる。時を経て、祭りは神社や寺院をその主体または舞台として行われ、そこからかかわる民衆も参加していった。そもそも神事としての祭りは、神を迎え、そのお告げを聴き、歓待して送り出す行司である。祭りを行う場所には、その目印として火を焚き、幟を立て、神楽、獅子舞、太鼓、踊りなどの芸能により神を歓迎した。日本はもともと農村が中心で、収穫の村祭りから起こったものが多い。田畑の収穫を感謝し祝い、豊作を祈願した。食物と酒を囲み、踊るようなシンプルな行事が多く行われていたようだ。しかし、祭りは地域性が強く、その目的、意義や開催時期、行事の内容、形態も多種多様なものとなり、地方・地域ごとに多きく異なる形で継承されていった。

 

3.祭旅(イベントツーリズム)から見えてくる魅力

 では、続いて「現在の祭り」の視点から見ていこう。現在では青森ねぶた祭り、SENDAI光のページェント、仙台七夕祭り、阿波踊り、よさこい祭りなど観客数が百万人を超す全国的に有名な祭りが日本には多数存在する。また、人口が数千人あるいは数万人に対し、何十万人という人口の十倍以上もの観光客を祭り・イベント開催の短期間で集める地方の小さな市町村も数多くあるという。祭りの時期は地域が活気に満ち溢れ、人々がそれを楽しみ、大変賑わっている。それに一役かっているのが、祭りツアーではないだろうか。最近では、「東北夏祭りバスツアー」「ゆったり東北三台夏祭りツアー三日間」や「よさこい祭りツアー」など祭り・イベントの鑑賞や参加を目的として一般の人々を募集している旅行会社の企画するパッケージツアーなどがある。祭りツアーは人気の衰えることを知らない。そして、このような祭り・イベントとかかわる旅行や旅行業、観光業のことを、「イベントツーリズム(Event Tourism)」というが、あまり一般的には使われていないそうだ。しかし、祭り・イベントにかかわる旅行の歴史は古く、わが国の観光の発展の節目には必ず登場してきた旅行の目的であり観光資源であった。今、日本は観光立国を宣言し、人口減少と産業構造の変化を背景に交流人口の増加を急務と捉え始めている。その点でも、この祭り・イベントというのは非常に重要なポジションであるだろう。そして、この祭りツアーは人気の衰えを知らないツアーの一つである。では、県外などへわざわざ足を運び、祭りを鑑賞したり、祭りに参加したりする人々は、何を求めているのだろう。そこから、祭りの魅力を見ていきたい。『祭旅-イベントツーリズムの実態と展望』を参考にする。北海道や東北を中心とした雪と氷の祭りでは、冬の季節がない地域や国の人々が訪れるケースが非常に多い。ここでは、一度は見てみたいと思われる観光資源という大きな理由があるのだろう。ちなみに、さっぽろ雪祭りの2007(平成19年)の訪日外国人数は835万人と過去最高を記録した。また、日本の夏の風物詩である盆踊りの祭りでは観光客も参加できるというのが大きな魅力になっているようだ。特に阿波踊りのように簡単に参加できるものが好まれる傾向にあり、参加型の有名な盆踊りは人気上昇中である。続いて、山車の祭りはその壮麗で華麗な山車が練り歩く様が人を惹きつけるようだ。そして、山車の曳き回しには魅力があり、また、伝統もある。また、伝統の市民祭りは、よさこいの祭りのように他地域からの参加者を受け入れるというのが魅力の一つになっている。旅行会社も見学型だけでなく参加型・体験型のツアーを企画して、さらなる集客を見込んでいる。この他にも、花火大会やイルミネーションなど祭りやイベントがあり、それぞれ同じであったり、異なったり、様々な魅力がある。つまり、旅行客から根強い人気があるのは、祭り・イベントには賑やかさや壮厳さ、神々しさ、美しさ、参加する楽しさ、交流する喜び、エンターテイメント性などの日常生活の中では味わえない要素がぎっしりと詰まっているからだと推測する。

 

4.祭り・イベント効果から見えてくる魅力

 3でも述べたように、祭りによっては100万人もの観客数を動員する祭り、人口の何十倍もの観客数を動員する祭りなど、それらからの経済効果が期待される。今回は、荘銀総合研究所・研究開発グループの調査結果のデータをもとに、東北6大祭りに注目してみていく。平成19年に開催された東北6大祭りにおいて、観光客が支出した観光消費支出額(最終需要)を推計したところによると、1426億円になった。祭り別にみた観光消費支出額は、「青森ねぶた祭り」の総額497億円が最も多く、次に「仙台七夕祭り」332億円、「盛岡さんさ踊り」208億円の順となっている。「青森ねぶた祭り」は開催期間が6日間と一番長く、観光客数も310万人とダントツに多い。「仙台七夕祭り」はそれに続き、203万人であり、福島県以外の他県の祭りはおおよそ100万人から120万人である。そして、観光消費支出額(最終需要)を基に、「平成12年東北地域産業連関表を利用して東北における経済波及効果を算出した表によると、経済波及効果は、生産誘発額が1718億円、粗付加価値誘発額が1026億円、雇用者所得誘発額が534億円であった。粗付加価値誘発額は、東北の産業が生み出した付加価値額であり、いわゆる東北地域内総生産(GDP)に相当するらしい。東北のGDPは約33兆円(平成16年)となっているので、東北6大祭りの開催に伴ってGDP0.3%程度押し上げる効果があると推測されている。また、観光客の消費支出以外にも、主催者経費(広告宣伝や会場設営費など)や参加者経費(山車等制作費、衣装代、飲食費など)がある。「青森ねぶた祭り」の開催にあたっては、毎年2億円以上の経費が費やされているし、「竿燈祭り」で使用される竿燈も一本あたり30万円以上の制作費がかかっている。このように、祭り開催の各種経費を考慮すれば、最終需要はさらに増えるものと見込まれる。また、東北には6大夏祭りの他にも数多くの祭りが存在し、そこからも大きな経済効果が見込めるだろう。そして、地域活性化の政策の一つとして祭りを取り入れている自治体も数多くある。国土交通省東北運輸局の「観光基本計画」の第四章にも、観光資源としての祭りの利用が含まれている。

 

5.おわりに

4で紹介したように祭りには経済効果があり、伝統なども含めて祭りは地域にとって欠かせないものとなっているのではないだろうか。地域活性化にうまくつなげていこうとしている自治体も多くある。また、金銭的な効果だけでなく、祭りをきっかけとした世代間や地域を越えたコミュニケーションの輪が築かれ、各地の歴史や文化、伝統など様々な情報を広く共有することができる。交流を通じて地域の魅力を伝えることができれば観光客のさらなる誘客にも繋がるだろうし、また、近年希薄化しつつある地域住民同士のコミュニケーションにもつながるだろう。祭りは、経済・社会・文化など、あらゆる面から地域を盛り上げてくれるものであり、個人にとっても大きな楽しみの一つであると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【参考資料】

菅田正昭『日本の祭り 知れば知るほど』実業之日本社 2007

安田亘宏他編『祭旅市場 イベントツーリズムの実態と展望』教育評論社 2008

荘銀総合研究所・研究開発グループ『東北6大祭りの経済効果』2007

http://www.f-ric.co.jp/report/research/2007/festival0822.pdf

JTB http://www.jtb.co.jp/

国土交通省東北運輸局http://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/index3.htm