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渡邉愛弓「変わりゆく余暇〜“おうち”で過ごす余暇から見えたもの〜」

 

1. はじめに

余暇といって思い描くことは、旅行や映画など外に出かけることか、DVD鑑賞や睡眠など、気持ちや体を休ませることではないだろうか。しかし最近は、家での活動的な余暇の過ごし方が注目されているように感じる。またツイッターのように最近までなかった新しい形の余暇の過ごし方が目立つ。そこで、最新の余暇形態の中でも、「おうちスイーツ」や「おうちカフェ」などのように、“おうち”というキーワードのつく、家で楽しむことを目的とした余暇について注目する。そこから、昨今の日本の現状とそれに対する人々の心理を見ていくことにより、余暇のあり方を明らかにしたい。

 

2. “おうち”のつく余暇形態とは

 まず、“おうち”という言葉がつく余暇の過ごし方の中でも私が注目した4つの形態を見ていくこととする。これらはいずれも、余暇を過ごす主体が自らその余暇を生み出しているという点に着目して選んだものである。

 

一つ目は「おうちスイーツ」である。おうちスイーツとは家で手作りするお菓子のことである。ここで注目したいのが、「クッキングトイ」あるいは「クックト」と呼ばれる、家で簡単に、店で売られているようなスイーツが作れるキットである。クッキングトイで作れるお菓子としては、生キャラメル、スフレ、たいやき、ワッフル、ドーナツ、プリン、マカロンなど、さまざまなものが挙げられる。おうちスイーツがテレビや雑誌で頻繁に取り上げられることからも、その反響の大きさが伺える。

 

 二つ目は「おうちカフェ」あるいは「うちカフェ」と呼ばれるものである。これは家にいながらにしてカフェで提供されるようなご飯を自ら作って食べようというものであるが、メニューをカフェ風にするだけでなく、いつもよりも手間をかけてコーヒーを淹れたり、テーブルの飾り方を“カフェの雰囲気”にしたりすることもある。おうちカフェを謳ったレシピ本なども、多くの書店で見つけることができるだろう。

 

 三つ目は「おうちエステ」というものだ。これは、エステに行かずに自分で、エステに行ったときのような手の込んだ、あるいはいつもよりも贅沢な肌ケアやボディケアをしようというブームである。女性誌でも取り上げられているが、特にドラッグストアなど化粧品を売っている場所で、よくこの言葉を目にする。おうちエステに関連した商品も多く販売されている。

 最後に「おうちカクテル」だが、これに関してはなじみがないと感じる人も多いと思われる。しかし、「おうちカクテル」という言葉をYAHOO! JAPANで検索すると、約2,100,000件もヒットする(201077日現在)。このことからも、おうちカクテルが余暇の過ごし方として認められ始めていることがわかる。これも上記の3つの例と同様、“主体的に”カクテルを作って楽しむという余暇活動である。

 

3. 共通する特徴から見る現代人の欲求と余暇のあり方

 次に、紹介してきた“おうち”のつく余暇に共通する事項は何か、そしてそれが現代人のどのような欲求を示しているのかについて、四つの視点から考察していきたい。

 

 まずは、不況の結果としての安さの追求に目を向ける。最初に述べたように、かつての余暇活動の基本の一つは『外に出かける』ということであった。平日には行けない場所に行く、そこでいつもと違う体験をするという行為を楽しんでいたのである。それを裏付けるものが、東京ディズニーランドのようなテーマパークや遊園地の人気、そして長期休業のときに必ずといってよいほど見られる渋滞や空港の混雑の映像である。決してこのような余暇形態がなくなったわけではないが、近年の世界的な不況のあおりを受け、人々は遠出をせずに、そしてなるべくお金を使わずに余暇を楽しむ方法はないかと考えるようになった。その結果として出てきたのが“おうち”で過ごす余暇なのではないかと考える。お菓子を家で作るなら、店まで出かけるときの交通費は浮く。またクッキングトイなどの商品の多くは少ない材料でお菓子を作れるので、店で買うよりも安く済む。おうちカフェやおうちカクテルも同様である。そして特に現代人のお財布に優しいのはおうちエステではないか。エステに行くと何万円というお金を使うことが多いが、それとは対照的に、おうちエステをするための商品を買えば、千円札を出しておつりが返ってくることさえある。お金をできるだけ使わずに楽しみたい、休みを満喫したいという現代人の思考が、この新しい形の余暇のブームを下支えしているのではないだろうか。

 

 続いては時間のなさを反映した手軽さについてである。昨今の不況は日本人の労働時間を増大させたように思う。誰しもお金を稼がなければその分生活が苦しくなるため、必要以上に休もうとはしなくなってしまったのではないだろうか。その結果、余暇に費やす時間が少ない、忙しい人が増えているという現象が起きたと考えられる。普段時間に追われている分、休みの日はゆっくり過ごしたいと願う人も多いだろう。そこで登場するのが“おうち”で過ごす余暇である。お金の節約になるだけでなく、出かける時間も省いてくれるおうちスイーツに関しては、普通の調理法よりも簡単に作れるよう工夫されているクッキングトイが多い。この手軽さゆえに、ここまでブームになったのではないかとも考えられる。またおうちカフェでも、カフェで出てくるようなケーキなどの関連商品が多く発売されているため、自宅でより手軽におうちカフェを楽しめるようになっている。おうちエステはエステに行く手間を省くとともに、自分の好きなときに自分の部屋から出ずに綺麗になれる、おうちカクテルは少ない材料で自由にさまざまなカクテルが作れるという利点がある。時間がない現代人の事情をうまく取り込み企業が商品展開をしているため、“おうち”のつく余暇はさらに手軽に、生活に取り入れやすいものへと進化しているのである。

 

 そしてこの新しい余暇形態は、コミュニケーションの場としての側面も持つと考えられる。忙しい現代人にとって、人とのコミュニケーションをとる時間もなかなか作れないということがある。休みがなければ家族や仕事以外の友人と一緒に何かをすることは難しい。そこで余暇をコミュニケーションの場として利用したいというニーズが発生する。これをうまくカバーしているのが今回のテーマである新しい余暇形態であると考えられる。親子で料理をする、近所の人を招いてホームパーティーをする、コーヒーを飲みながら恋人とゆっくり“おうち”デートを楽しむ、カクテル片手に友人と語り合うというように、人とかかわる機会を作るための媒体となるものが、“おうち”のつく余暇の過ごし方なのではないだろうか。余暇を誰かと分かち合いたいという人のニーズに応える形で、このブームが起きていると思われる。

 

 四つ目として、この新しい余暇のブームがそれ以前のブームの派生であったと考えることができるという点について触れておきたい。特にこのブームの派生が強く見られるのがおうちスイーツである。近年、「クリスピークリームドーナツ」や「コールドストーンアイスクリーム」といった海外のスイーツメーカーが日本に上陸したことは記憶に新しい。さらに、「スイーツフォレスト」や「100%チョコレートカフェ」、「野菜スイーツ専門店」など、今まで脇役であったはずのデザートやスイーツを専門にした店舗展開も目立つ。女子高生を中心に、マカロンやケーキなどのスイーツをモチーフにしたもので携帯電話や鏡などを飾る「スイーツデコ」も、ここ数年流行している。またクッキングトイも最近になって突如として現れたものではなく、以前からあったカキ氷機やアイスクリームを作る機械が進化したものと考えられる。このように新しい余暇形態は、それ以前にあったものや直前のブームの影響を受け、そこから派生する形で生まれてきたと考えられるのである。

 

4.  余暇とは何か、そして未来の余暇の形とは

 余暇はその時代をあらわすものであると考える。なぜなら余暇の形を作り出して実行するのは、他でもなくその時代に生きる人々であるからである。新しい余暇形態として“おうち”という言葉のつく余暇について調べたが、この余暇が生まれた背景には、現代の生活環境や人々の考え方、欲求などが反映されていた。そこで私は、余暇とは普遍的なものではなく、その時代の人々の心を映し出す鏡のような存在なのではないかと考えた。これからの未来の余暇の形も、現代の余暇に影響を受けつつも、新しい要素が取り入れられたものになっていくのではないだろうか。余暇形態は変化し続けるが、それは常にその時代に生きる人々のニーズに合致しているものであると考えられる。そして、人々の楽しみである余暇が、そのような姿であってほしいと願っている。