100707tazimam

 

但馬桃子「キャラクターショーの仕掛けと魅力〜子供の夢を守るには〜」

 

1.キャラクターショーとは

 私の好きなものの一つ、それが「戦隊ヒーロー」である。戦隊ヒーローとは東映が製作し、テレビ朝日系列で放送されているスーパー戦隊シリーズのことを指す[i]。同シリーズは今年の「天装戦隊ゴセイジャー」で34作品目、35周年を迎えた[ii]

 

私はアルバイトで、1年間ほど子供向けのキャラクターショーに出演していた。始めは司会、いわゆる「お姉さん(お兄さん)」としての仕事が中心であった。お姉さんは、会場のお客と一番接する機会が多い分、子供たちからの熱い声援を間近で聞くことができ、回数を重ねるごとにショーの楽しさや魅力を感じることができた。さらには、実際に「スーツアクター」としてキャラクターを演じることで、さらにショーの奥深さと難しさ、ショーの中に散りばめられている様々な仕掛けを知った。

 

キャラクターショーは大きく3つに分類することができる。@アクションショー(戦隊ヒーローのように、主に男の子向けのアクション中心のもの)、Aメルヘンショー(プリキュアなど女の子をターゲットとした、物語中心のもの)、B着ぐるみショー(ポケモンを代表するようなテレビアニメのキャラクターが登場するもの)の3種類である。一般に地方で開催されるキャラクターショーの多くは、住宅公園やデパート内でのイベント期間中の土日、祝日を中心に行われている。この場合、入場や観覧に対して料金は発生しない。長期休業時には、大きな会場を貸し切ってのショーや、テーマパーク内で開催されることもある。12回の公演で、午前と午後に分けられるのが一般的である。子供たちは起床時間が比較的早いため、午前の回の方が混み合う傾向にある。1回のショーの本筋は30分程度、ショー終了後には握手会やサイン会、写真撮影会が行われることもあり、それを含めればおおよそ1時間ほどになる。ショーは1班およそ8~10名ほどで組まれ、その中で司会やスーツアクター、スタッフといった全ての仕事を振り分けていく。

 

今回はアクションショーを一例として取り上げ、あくまで私のバイト先のやり方を基にした1回のショーの流れから、キャラクターショーの魅力と子供たちを引きつけるための仕掛けについて考察していく。

 

2.ショーをつくる

まずショーの基盤となるもの、それは脚本である。大筋はテレビに沿ったものであり、セリフも引用することがあるが基本的にはオリジナルの話である。脚本はおおよそ34カ月に1度のペースで新しいものに変わっていく。脚本が仕上がると、次にその脚本通りにセリフを録音し、それに合わせて攻撃音やBGMを収録する。これを「完全パッケージ(カンパケ)」と言う。ショー本番ではカンパケを流し、その音に合わせて演技をしていくのである。テレビのヒーローたちとの声の違いに気づいてしまうのではないか、と感じるかもしれない。しかし、そのキャラクターの雰囲気や口調を意識した話し方にするだけで、それほど違和感なく聞けてしまうものなのである。

 

 肝心な衣装や小道具はどうしているのか。小道具は大抵のものが手作りであるが、衣装は貸し出しが行われている。貸出元は、戦隊ヒーローや仮面ライダーならば東映、ウルトラマンならば円谷プロダクションといった製作の大本である。衣装は1回分のショーが1セットとなっており、悪役のボス(悪ボス)は、いくつかある中から選択することもできる。これらの衣装は大変高価なもので、一部に破損などが生じた場合は1セット全て買い取りとなり、その額は100万円程だと言う。そのため、衣装の管理には細心の注意を払わなければならないのだ。

 

 カンパケが完成すると同時に、いよいよ本格的な演技、アクションの練習に入る。アクションは個人のレベルに応じて、柔軟な対応が可能である。初心者であれば基本的な殴る、蹴るといった動作から始まり、練習すればすぐに二段蹴りなどの応用技を身につけることができる。運動経験などは特に問われず、思い切りの良さが関係するものなのだ。アクション、演技ともにカンパケの音に合わせた動きが要求される。この出来具合は、ショーの仕上がりを大きく左右する一因である。

 

 ショーの当日は、本番の23時間前に現場に行きステージの組み立てや衣装の準備を行う。場所によっては開演30分前から、キャラクターグッズ(物販)の販売「前売り」が行われることがある。ここではヒーローたちは登場せず、お姉さんの呼びかけによって進められていく。前売りで売られるものとしては、サイン色紙やお楽しみ袋、季節限定のものとしてはカレンダーやうちわなどがある。

 

 そして開演後、まず登場するのもお姉さんである。ここでの役割は、子供たちのモチベーションを高めること、物販の宣伝、注意事項の確認をすることだ。ショーの本筋が始まってしまえば、話はカンパケ通りに展開されていく。ショー終了後は、握手会、サイン会、写真撮影会のいずれかが行われることが多い。サイン会や写真撮影会は、有料の場合もある。サイン会は戦隊ヒーローでは、レッドが担当し、他の4人は握手会、写真撮影会を担当するなどの分担制をとる。屋外の会場で雨天になった場合、ショーの代わりにこれらのイベントのみを開催することもある。テレビの中のヒーローと実際に触れ合うことのできる貴重な体験であるため、非常に人気も高い。

 

ここまでが、1回のショーが成立するまでの概要である。新しい脚本を製作し、ショーが開演されるまでには1カ月ほどかかる。物語自体は30分余りのものであるが、その製作の裏側ではこのようにいくつかの段階を経て、ようやく日の目を浴びることができるのだ。

 

3.理想のヒーローの演出

 キャラクターショーは、子供たちがいつもテレビで見ている「本物」のヒーロー像を守らなければいけないものである。そのため、これまでに見てきたショーの一連の流れの中には、ヒーローたちを「かっこよく」魅せるための仕掛けがいくつも存在しているのだ。

 

 衣装を正しく身につけるというのは、最も初歩的な段階である。一見簡単そうに思えるが、これが意外と難しい。キャラクターたちの衣装は、基本的に全身タイツのような構造になっていることが多い。特に主役のヒーローたちのスーツは、自分の体に密着していなければならない。衣装はある程度大きめに作られているため、腕や脚、腰回りなどゆとりができ易い部分は、自分に合わせて詰め直す必要がある。このような作業をする時間は特別設けられてはいないため、ショー当日に個人が時間の合間を縫って行わなければならない。

 

 次に求められるのが、アクションの見せ方である。アクションの最中であっても、重点は主役のヒーローたちである。つまりヒーローの姿がしっかり子供に見せることが要点であって、ここではそれほど高い技術は要求されない。それよりも、切れやテンポの良さ、緩急の付け方の方がよほど重要になるのだ。こうしたポイントを抑えることで、例え殴る、蹴るといった単純な動作でも、魅力的に見せることが可能になるのだ。これはヒーローを演じる時には、必ず心がけておかなければならない。加えてアクションでは、攻撃する側よりもやられる側のリアクションが肝心である。そのため、初心者と経験者では初心者をヒーロー役に、経験者を悪役に配置することが多々見られる。要は攻撃がうまく決められなくても、しっかりとやられる姿を見せることで、ヒーローの「強さ」を演出しているのだ。

 

 立ち振る舞いを意識することは比較的難易度が高く、ある程度の経験を積む必要がある。立ち振る舞いはキャラクターそれぞれの性格を把握したうえで、所作でそれを演じていかなければいけないため、ショーの最中は指の形や脚の置き方など、常に細部にまで意識を集中させていなければならない。それには、テレビのヒーローたちの性格や仕草を日ごろから研究しておく必要があるし、ショー中のキャラクターの心の動きを考え、セリフのない場面でもそれを表現する力が求められるのだ。立ち方や位置、武器の構え方一つからも、そのキャラクターの個性は伝わるものなのである。例えば少し落ち着いた役であれば腕を組んでみる、キャラクターが落ち込んでいる時は集団から離れ背を向けてみる、といった要領である。ここまで気を配れるようになるには、脚本をしっかり読み込み理解し、どれだけ役になりきれるかが重要なのだ。

 

 以上ここでは、より「本物」のキャラクターを演出するための3つの要素を取り上げた。他にもキャラクター自身ではなく、司会や周りのスタッフの言動が演出に影響してくることもある。キャラクターショーはテレビとは違い、選び抜かれたプロの集団というわけではない。そのため時には、まだ経験も浅く不慣れな人物がヒーローを演じていることもある。しかしどんなに経験が無くとも、子供たちの描くヒーローを壊さないよう、ほんの少しの心がけを持つことこそが、ヒーローの「かっこよさ」の始まりなのである。

 

4.子供の「絶対的存在」を守る

 これまでキャラクターショーの流れと演出に関して、出演する側の視点から見てきた。そこからもうかがえるように、ショーには子供たちの理想像を崩さないよう、細部にまでこだわりが詰め込まれているのだ。いつの時代にも必ず、子供たちの憧れとして「ヒーロー」は存在してきた。そしてそれは子供にとって、普遍的で「絶対的な」ものなのである。そんないつもテレビでしか見ることのできない人物たちを実際に自分の目で見て、さらには触れ合うことまでできるキャラクターショーは、子供たちにはまさに至福の時間なのではないだろか。ショーに登場するヒーローたちを前に必死で声援を送り、中には緊張のあまり話すことさえままならない子供たちは、自分たちの目の前の人物が「本物」だと信じている。

 

 幼少期の記憶は成長するにつれて、次第に薄れていくものである。それでも、子供たちがショーを見てヒーローたちと出会えた喜びは、私たちにとっては計り知れないものであり、そこでの体験は彼らのその後に少なからず影響を与えているのではないだろうか。つまりキャラクターショーとは、子供たちに与えられた子供時代を楽しむための場所なのだ。



[i] スーパー戦隊百科:http://www.super-sentai.net/sentai/index.html (201075日)

[ii] テレビ朝日 天装戦隊ゴセイジャー:http://www.tv-asahi.co.jp/gosei/ (201075)