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菅原 穏「喫煙を考える」

 

 喫煙は百害あって一利なし、とよく言われるが、それでも多くの人に好まれ続けている嗜好品である。しかし、喫煙はタバコのパッケージに書かれている通り、肺がんの原因や胎児の発育障害を及ぼす危険性が高まり、健康への被害が大きい。近年では禁煙ブームに火が付き、たばこ税増税や喫煙所の減少など健康への意識が高まってきたと思うが、それでも根強く残り続けている喫煙文化について考察したい。

 

@歴史

 タバコ葉はナス科タバコ属の植物であり、起源は南アメリカ大陸に遡る。16世紀にはタバコを利用する風習も新大陸で発生したと考えられている。現在、世界で最も栽培されているタバコはニコチアナ・タバカムという品種である。

 タバコ文化の伝播は、1492年西インド諸島に到達したコロンブスが先住民に接触し、ガラス玉や鏡を送った際、その返礼としてタバコ葉を受け取ったことが始まりである。そしてコロンブスの新大陸到達をきっかけに世界中で交流が豊かになり、タバコ文化が広がっていった。

参考:「たばこと塩の博物館」http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html

 

A喫煙の形態

喫煙の風習はタバコ文化の広がりにつれて次第にその形態も多様になっていった。

パイプ

パイプは、もとは先住民の間で使われていたが、喫煙の風習の広がりとともにヨーロッパで大流行した。ヨーロッパで古くから使われていたのは「クレーパイプ」と呼ばれ、粘土を素焼きにして作られたものである。その他様々なパイプが作られたが、近年では主に地中海沿岸地方に見られる「ホワイトヒース」という、つつじ科の灌木の根の部分を用いた「ブライアーパイプ」が使われている。

葉巻

 タバコの葉を筒状に巻いたタバコで、最古の加工方法。現在のメキシコなどを中心に栄えたメソアメリカ文明を中心に広まっており、ヨーロッパへはスペインによって伝えられ、以来、スペインの代表的な喫煙方法として、独特な文化を形成し、その後、ヨーロッパ全体に広まった。

手巻タバコ

巻紙とタバコ葉が別々になっていて、いちいち自分で巻かなくてはならない。しかし、紙巻きタバコより安価で、手に入りにくいが紙の雑味が少なく、紙巻きタバコよりタバコ葉の風味を感じることができる。

 噛みタバコ

  噛みタバコはタバコ葉を含む混合物をかむことで風味を楽しむもので、火を使わないため主に火気厳禁とされるところで用いられた。あまり広まらなかったが、19世紀半ばのアメリカではタバコ生産のほぼ半分を噛みタバコが占めることもあった。

嗅ぎタバコ(スナッフ)

 粉末状のタバコを鼻から嗅ぐタバコ。南アメリカの先住民が古くから行っていた喫煙方法で、ヨーロッパではフランスを中心に広まった。18世紀のブルボン朝時代に、専用の金銀やエナメル装飾のスナッフボックスが作られるほど大流行した。

水パイプ

 水パイプは古代アメリカでは見られない新しい喫煙方法で、トルコなど中近東の地域で発明された。その後、インド、中国からアジアの一部に広まった。タバコの煙を水にくぐらせて冷やし、味を和らげるという原理。

キセル

 日本をはじめ、中国や朝鮮半島東アジア国々に見られる。タバコを東洋に伝えた南蛮人のパイプを模倣したのがキセルの原型と考えられている。

参考:「たばこと塩の博物館」http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html

 

B日本への伝播と広がり

 天文12(1543)、南蛮貿易によってカボチャやジャガイモ、キリスト教などと同時にヨーロッパから伝来。慶長(15961615)の風俗絵画に喫煙の様子が描かれるなど、このころには喫煙文化は浸透していたと考えられる。また、元和(16151624)の時代には生産物取引を目的とした栽培がおこなわれるようになった。

しかし、喫煙文化の広まりとともに主要作物の米ではなく、タバコを栽培する農家が増えたため、幕府は農家がたばこを栽培することを防ぐための禁令も発布した。また、狼藉を働く「かぶき者」たちがキセルをトレードマークとして腰にぶら下げたことも禁令を発布する理由になった。たばこの禁令は江戸時代の初めから多く出されていた。

だが禁令にも関わらず、タバコを楽しむ人々は増え続け、たばこの耕作も広まっていき禁令は形骸化し、元禄期ごろを境に新しい禁令も出されなくなった。こうして、タバコは江戸時代の庶民を中心に嗜好品(しこうひん)として広く親しまれながら、独自の文化を形成した。

参考:「喫煙と健康のページ タバコと日本」http://www.kymrtc.net/3.html

「たばこと塩の博物館」http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html

 

Cタバコの健康へのリスク

 タバコの煙にはニコチン、様々な発がん性物質、一酸化炭素、線毛障害性物質その他多種類の有害物質が含まれている。喫煙により循環器系、呼吸器系などへの急性影響がみられるほか、喫煙者は肺がんをはじめとする様々のがん、閉塞性肺疾患、胃・十二指腸などの消化器疾患、その他多くの疾患のリスクが高くなる。妊婦の喫煙により低体重児、早産、妊娠合併症の率が高くなる。受動喫煙によっても虚血性疾患、呼吸器疾患などのリスクが高くなる。タバコには一酸化炭素も含まれているので、脳の機能の低下も考えられる。

 また、タバコのパッケージに書かれているニコチンの含有量は火をつけてからフィルターから検出される量であり、実際に含まれる量は約10%〜20%である。乳幼児がタバコを誤飲した場合、タバコ一本分で致死量にいたる。成人の場合でも2〜3本で致死量である。

参考:「タバコ誤飲事件」 http://homepage3.nifty.com/kodomoER/accident/tabacco.htm

 「厚生労働省の最新たばこ情報」http://www.health-net.or.jp/tobacco/risk/rs390000.html

 

D環境への影響

 環境に影響を及ぼすものの一つとして、タバコのポイ捨てなどがある。排水溝や道端に捨てられた吸殻を動物が食べ、死にいたることや、土壌や海水汚染、さらには火事になる可能性もある。喫煙者へポイ捨てをしない、

 また、飲食店や駅などの公共機関で分煙整備が整えられていない場合、受動喫煙によって嫌煙家の人や妊婦、児童への影響、迷惑が考えられる。

 これらの問題を解決するためには、喫煙者はポイ捨てをしない、吸わない人には勧めない、禁煙の場所で吸わないなどのマナーを守り、分煙をしっかりと行うべきである。

参考:「愛煙家はタバコ喫煙をすすめズ、嫌煙家はタバコ禁煙をすすめル」http://tabako.info/t_bad_kannkyou.html

 

Eたばこ税増税に期待される効果

 今年の10月からたばこ税が増税される。その税率は施行前はタバコ千本につき約8700億円なのに対し、施行後は千本につき約12000億にのぼる。

たばこ税を増税することで、喫煙人口の減少により医療費のコスト削減や未成年の喫煙抑制が期待される。増税によりタバコからの税収が少なくなるという意見もあるが、医療費のコストも削減されるので、社会全体からみた場合、プラスになるのではないだろうか。

参考:「消費税など(消費課税)に関する資料:財務省」http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/syou.htm