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野沢一希 「動画配信サイト『ニコニコ動画』の普及による社会への影響と問題点」

 

1、はじめに

 

 インターネットが生活する上で必要不可欠なものになりつつある現代において、動画配信サイトの存在感は日を追うごとに増してきている。今の若い世代の人々のテレビ離れが進んでいるのも、テレビに対して、興味を示さなくなり、その代わりとしてインターネット上で配信される動画を見るようになったことが原因の一つと考えられている。自分自身、大学生になってからは、アルバイトなどによる生活の変化により、決まった時間に放映されるテレビ番組を全くと言って良いほど見なくなり、自分の好きな時間に自分の見たい動画をインターネットで検索して見るようになるといったように、「動画」というものが身近なものになりつつある。そこで、この動画配信サイトの普及によって社会的にどのような影響をもたらしているのか、また、どういった問題が生じているのかなどを『ニコニコ動画[]』という一つのサイトに焦点を当てて考えていこうと思う。

 

2、『ニコニコ動画』を選んだ理由

 

 なぜ、数ある動画配信サイトの中からこの『ニコニコ動画』を選んだのかと言うと、個人的に最も利用頻度の高いサイトであるというのも理由の一つであるが、他の動画配信サイトにはないサービスや機能が多数見受けられ、なお且つ、それらが政治や経済へ少なからず影響しているということが理由として挙げられる。例えば、再生中の動画に自分の感想や意見を反映させることのできる「コメント機能」というニコニコ動画最大の特徴がある。この機能を政治家が活用して、自分の演説を配信することで動画の視聴者にコメントという形で意見を聞くことができ、双方向的な議論が動画を通して可能になるといった使い方がある。このように、単なる娯楽目的としての動画ではなく、社会的意義のある動画の活用を可能にする『ニコニコ動画』は考察する上で最も適した動画配信サイトなのではないかと思う。

 

3、政治への影響

 

 ニコニコ動画内には、「ニコニコチャンネル」という企業や団体などが動画を配信できるサービスがある。スポーツ、アニメ、生活などのカテゴリがある中に「政治」も存在し、自民党や民主党などいくつかの政党別のチャンネルに加え、政治家個人のチャンネルまである。また、それぞれの動画には「タグ」と呼ばれる動画の内容を表す検索用のキーワードがあり、政治のタグが付いた動画は2010626日時点で37千件以上も登録されている。さらに、45回衆議院議員総選挙の際に85万人ものユーザーを対象とした世論調査や内閣支持率調査を行うなど、ニコニコ動画は様々な方法で政治に力を注いでいる。ニコニコ動画は、基本的に10代や20代がメインの利用者層になっているため、これだけ政治というコンテンツを推すというのは若い世代の政治無関心を改善するのに役立っているのではないかと思う。

 

日本人が政治に興味を持てないのは、国会自体がつまらない、政治の仕組みが分かりにくい、どの党が与党になっても変わらないなどといったことが理由に挙げられる。このような人たちにこそニコニコ動画を活用してほしいと思う。例えば、国会答弁というものは時間の都合などによって普段の生活の中で見る機会のある人はほとんどいないであろう。普通に見ているだけでは退屈だと感じる人も多い国会答弁も、ニコニコ動画を通して見ることによって、いつでも視聴することができて、コメントという形でツッコミができ、一言でも他の人と議論をすることができる。これによって少し変わった感覚で国会答弁を見ることができるので、政治に興味を持つ人が多少なりとも増えるのではないかと思う。

 

4、経済への影響

 

 ニコニコ動画が経済に与える影響を考える上で、重要な役割を果たすのが「ニコニコ市場」だ。これは、動画下のスペースに視聴している動画と関連のあるアマゾンなどの通信販売サイトの商品を表示するという独自のサイト内広告である。このニコニコ市場がどのように経済と結びついているのかというのを「ゲーム実況」というジャンルの動画を例に挙げて説明していこうと思う。例えば、あるゲーム実況の動画を見ることによって、自分でやったことがないゲームや存在すら知らなかったゲームに興味を持ち、「自分でやってみたい」という気持ちになって、ニコニコ市場でそのゲームを購入するといった流れができる。これによって今まで注目されていなかったマイナーなゲームなどの販促効果がアップすると考えられる。もちろん、これはゲームに限ったことではなく、CDDVD・書籍・飲食物など様々なものにあてはめることができる。

 

 また、ニコニコ動画内で人気がある「ボーカロイド」という音声合成技術を応用したものも影響を与えていると考えられる。ニコニコ動画には、自作した曲や既存の曲をボーカロイドに歌わせた動画を投稿する人(通称○○P)が存在している。このような人たちの活動によって、ボーカロイド関連の曲が多数見受けられるようになり、次第に人気も出てきた。この人気に乗じて遂にはCDが発売され、一般の人たちにも少しずつ認知されていった。その結果、ボーカロイドの曲だけを集めたアルバムが2010518日付けのオリコンデイリーランキングで1位、また、同31日付けの週間ランキングでも1位を獲得した。一般的なアーティストのCDの売り上げが年々減少している時代に、動画サイトにおいて無料で聴くことのできる曲を集めたCDが売れるというのは非常に興味深い現象であると思う。

 

5、問題点と今後の展望

 

 現在、ネット社会全体において著作権の侵害という大きな問題が注目されている。日本では、201011日から改正著作権法が施行され、ネット上にアップロードされた著作物をダウンロードすることが違法になった。このような著作権に関する問題は、ニコニコ動画のような動画投稿サイトにとって避けては通れない問題の一つである。実際のところ、ニコニコ動画には著作権を侵害していると思われる動画が多数見受けられる。他の動画投稿サイトと比べると、積極的に著作権侵害動画の削除を行っているのであるが、一向に違反動画が減少する気配はない。

 

こういった問題を踏まえて、今後のニコニコ動画はもっと著作権対策をしっかりしないと存続すら危ぶまれるのではないかと思う。有料会員の増加により、2010年になって初めて黒字化に成功して、経営が軌道に乗り始めてきたにもかかわらず、年々厳しくなっている著作権問題を無視していたら、いずれはネット上で動画を見ることすらできないような制度ができてしまうかもしれない。このような事態を防ぐためにも、運営側はより積極的な違反動画の削除、ユーザー側は良識ある動画のアップロードを行うなど、両者が互いに問題解決のために努力することが必要とされてくると思う。

 

6、最後に

 

 これまで、ニコニコ動画についていくつかの視点から考察してきたが、結局のところ何が言いたいのかというと、「ニコニコ動画というサイトは、何かに出会い、そして好きになる、又は興味を持つきっかけを与えてくれる素晴らしいものである」ということだ。人によって出会うものが政治に関連するものか経済に関係しているものか、はたまたもっと別の何かというのは異なるのであろうが、自分の知らない世界について動画を介して教えてくれるニコニコ動画というものの素晴らしさをたくさんの人に知ってほしい。これが、この余暇政策論という講義で、ニコニコ動画というテーマのレポートを作成して改めて感じたことである。



[1] http://www.nicovideo.jp/  ニコニコ動画