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目黒茜「水族館の魅力〜朝から夜まで〜」
1 余暇の場としての水族館
水族館は、余暇の時間を過ごす格好の選択肢の一つである。一日中楽しく過ごすことが出来るだけではなく、生態系や水中生物などについて学ぶことも可能だからである。夏は特に、学校が夏休みということも相まって、水族館の来館者数や人気は高くなる。また、外が暑いため水族館に涼を求める人も増えることが予想される。今回のレポートの中では、水族館の魅力について、タイプの異なる二つの水族館を通して考えていきたい。
2 新江ノ島水族館の朝の顔
新江ノ島水族館は神奈川県にあり、江ノ島に近く、一帯は観光地となっている。実際に訪れてみたところ、建物はそれほど大きいものではなく、一時間あれば、館内を十分に見て回ることができる。しかし、展示方法に工夫がされており、見所も多かった。
この水族館の展示理念はニッポンの水族館」と「メディア型水族館」である。「ニッポンの水族館」とは、日本に根付いているアニミズムを世界へ広めたいというコンセプトであり、それに沿った展示を行っている。「メディア型水族館」とは、水族館初の深海高圧環境水槽によって常時珍しい深海生物が展示されているなど、水族館を媒体として社会に研究や活動の成果を伝えていきたいというものである。
例えば、水槽の中に、まるで本物のような波が起きる「相模の海大水槽」を始めとし、世界で始めて深海世界を再現した化学合成生態系水槽、身近な生き物を展示した「いただきますコーナー」、幽玄な世界が広がるクラゲファンタジーホール、天皇陛下のハゼの研究書など見所は随所にある。この水族館は、日本で始めてクラゲの展示を始めた水族館でもある。中でも、化学合成系水槽は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が誇る「しんかい6500」などで採集された最新のものを展示している。深海生物は、通常の水族館の施設や水槽では対応することが出来ない。この化学合成生態系水槽には、深海の状態を再現するために、照明から水槽の内部にまで多くの工夫がされているのである。この水槽の展示が実現できるのは世界をリードする日本の深海調査技術があって始めて可能になるものである。[i]
新江ノ島水族館のターゲットは大人から子供まで幅広いが、知的好奇心を満たす水族館だというのが私の感想である。他の水族館と比べても、さまざまな研究成果を公開し、自ら主体的に考えられるようなつくりになっている。例えば、化学合成生態系水槽はその好例である。普段の生活ではなかなか目にすることが難しい水中生物を目にすることが出来るからである。また、身近な水族館を出てすぐの海で見ることが出来る生き物や環境を再現することで、主に子供たちへのいい教材となっているのである。館内を見渡したところ、平日であるにもかかわらず親子連れがとても多く、近隣の小学校の社会見学の場としても利用されていた。このことからも、楽しく学習できる水族館であることが伺える。
3 新江ノ島水族館の夜の顔
新江ノ島水族館では、お泊りナイトツアー「新江ノ島水族館 夜の探検隊」というイベントを2004年7月より実施している。普段は目にすることができない閉館後の水族館の様子と生き物たちの生活の様子を楽しむことができる。子供限定プログラムは冬季を除けば毎月開催されており、小学校3年生から6年生が対象となっている。そのほかに、親子限定プログラムやカップル限定プログラム、女性限定のプログラムを不定期に年に数回開催している。このことからもわかるように、新江ノ島水族館のおもなターゲットは子供であり、水族館という場を通して楽しみながら学び、体験し、自分の糧にしてほしいという願いがこめられているように思える。そのほかにも、水中でいるかを観察することができる「シーウォーカーin新江ノ島水族館2010」なども開催している。ちなみに、夏得るるぶ2010[ii]で、新江ノ島水族館の大人の女性限定お泊りナイトツアー「クラゲヒーリングナイト」や親子限定お泊りナイトツアー「イルカと遊ばナイト」が紹介されている。[iii]
こうした夜の水族館の魅力は、なんと言ってもその特殊な空間性にあるといえる。水族館という日常から少し離れた空間で、さらに、閉館後の夜という二重の特殊性は、大人であってもわくわくするものである。また、新江ノ島水族館のお泊りナイトツアーのメインターゲットは小学生である。小学生向けのプログラムが毎月定期的に開催されていることからもそれがわかる。多くの子供にとって、夜の親の不在というのはなかなか体験できるものではない。親がいない環境であるだけでも十分に特殊な環境であるのに加えて、友達と一緒に夜の水族館に泊まるということは、貴重な体験である。
4 八景島シーパラダイスの朝の顔
八景島シーパラダイスはその島自体が、国内有数のテーマパークである。八景島の水族館施設は三つのゾーンから成り立っている。日本最大級の水族館であるAQUAMUSEUM、いるか専用の大きな水槽のためのDolphin Fantasy、ペンギンやイルカなどとふれあい体験が出来るFUREAI Lagoonである。水族館のチケットを購入すると、これらのすべての施設に入場することができる。なかでもふれあいラグーンはイルカなどの鯨類と触れ合えるホエールオーシャン、海の獣と呼ばれるセイウチやアザラシの水槽があるヒレアシビーチ、東京湾の砂地、岩礁、藻場を再現したサカナリーフから成り立っている。こちらの水族館も実際に何度か足を運んだことがあるが、かなり充実した内容となっていた。ペンギンや海獣、魚の種類も豊富で水槽の中を通るエレベーターであるアクアチューブでは、180度水槽を観察することが可能である。大きな水槽と、それぞれの魚たちに焦点を当てた小さめの水槽があり、ダイナミックな魚たちの群れの様子を楽しんだあとに、じっくりと観察できるよう順路が工夫されている。敷地内にプレジャーランドという遊園地やゲームセンター、多くのレストランやお土産ショップ、ホテルなどが併設されており、丸一日いても決して飽きることはない。大人から子供まで誰もが楽しめる施設である。[iv]
この水族館は、前述した新江ノ島水族館よりもエンターテイメント性が高い。学習することももちろん可能だが、何よりもショーやふれあい体験など、楽しく過ごせる空間作りがされている。グッズやお土産も数多く、純粋に誰もが水族館をたのしむことができる。現在開催されているワールドカップに見立てた魚たちの展示水槽があり、ペンギンがサッカーをするショーなど、旬な話題を用いたユニークな展示方法や、アクアシアターといった映像上映会など、いつ訪れても飽きることはない。飼育員の方も気さくで快適な時間を過ごすことが出来る。
5 八景島シーパラダイスの夜の顔
八景島シーパラダイスの水族館施設アクアリゾーツでは、水族館お泊り親子学級2010というイベントをこの夏開催する。これは小学生とその保護者を対象としたもので、閉館後の誰もいない水族館で、昼とは違う生き物たちの様子を観察することが出来る。[v]
また、夏休み期間中はナイトショーを毎日開催し、花火を打ち上げるなど、通常より遅くまで楽しむことが出来るので、暑い夏の夕涼みにはぴったりである。
そのほかにも、女性限定のナイトイベントを実施するなど、不定期にさまざまなイベントを開催している。
八景島シーパラダイスの夜の顔の魅力は、その非日常性にあるといえる。大きな水槽、シロイルカ、神秘的な空間は、日常の忙しさやしがらみを忘れさせてくれる。女性向けのイベントでは、癒しというのがひとつの大きなテーマになっている。水槽の中で優雅に泳ぐ生き物たちを目にしていると、不思議と心が落ち着く。忙しい現代だからこそ、人気の高いイベントとなっているのだろう。
6 なぜ人は水族館にひきつけられるのか
水族館が余暇を過ごす場所としてどう魅力的なのかを、二つの水族館を通してみてきた。しかし、全国には数多の水族館が存在しており、一館一館それぞれに魅力がある。水族館は動物園とは異なり、基本的に民営である。だからこそ、来場者を獲得し、他の水族館との差別化を図り、展示方法等を工夫する。このことが水族館の魅力と特色に結びついているのである。また、館内は一定の温度に保たれており、夏でも冬でも過ごしやすい。そして何より、楽しみながら自らの知識と見聞を広げることが出来る。水族館の生き物たちの可愛らしさや面白さをゆっくりと見ながら、癒されるということは、最高に贅沢な余暇時間の過ごし方のひとつではないだろうか。少しだけ日常を忘れ、肩の力を抜く。水族館が魅力的なのは、知識と心を豊かにしてくれるからであろう。そんな水族館の裏側である夜の顔は、私たちの知的好奇心を掻き立てる。朝も、夜も違った魅力がある水族館は、私たちを元気にしてくれる。同じ水族館であっても、楽しみ方は人それぞれである。そういった柔軟さも、水族館の人気の一因だといえるだろう。
[i] 『The 水族館』監修中村元、講談社、2007、p20〜23
Web水族館全国水族館ガイド 新江ノ島水族館の情報
http://www.web-aquarium.net/aquarium/aq_024.html(7月7日現在)
新江ノ島水族館公式ホームページ
[ii] 『夏得るるぶ2010首都圏版』編集水埜美、JCBパブリッシング、2010、p182〜183
[iv] Web水族館全国水族館ガイド 八景島シーパラダイスの情報
http://www.web-aquarium.net/aquarium/aq_020.html(7月7日現在)
八景島シーパラダイス公式ホームページ
http://www.seaparadise.co.jp/(7月7日現在)