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細川いずみ「新たな国際交流の場を考える−ゲストハウスの可能性とは−」

 

1.   はじめに

 

連休を見つけては、国内で出来るだけ費用をかけずに旅行する。その際に必ずといっていいほど利用するのが「ゲストハウス」である。素泊まり・相部屋で一泊2000円から、高くても3000円程度。初めは、観光地を巡ることや、出来るだけ多くの都道府県を歩いて回りたいという目的があり、旅することが多かった。しかし、今となってその目的が変化しているような気がする。ゲストハウスでの様々な出会いと思い出が、行動の原動力になっているのである。

ゲストハウスに宿泊中、ふと感じたことがある。それは、国内にいるはずなのに、宿泊者同士の会話の半分近くが英語であることだ。ゲストハウスは、その安さと利便性故に、外国人個人旅行者たちも多く利用する。それに加え、近所に住む地元住民も顔を出す。今回私は、ゲストハウスという素泊まり宿を、その特色や現状を抑えながら、「新たな国際交流の場」として捉え、考察していきたい。

 

 

2.   ゲストハウスとは[i]

 

まず、ゲストハウスとは何か。「ゲスト」とは、宿泊客のことを指している。ゲストハウスとはドミトリー(相部屋)のある素泊まりの宿のことを一般的に表すことが多いが、共通する定義は存在しない。個室もあるゲストハウスも当然存在する。トイレやお風呂、キッチンなどの設備は共同で使用する。冷蔵庫も自由に使えるが、他のゲストも使用することから、近くには油性マジックを置いている。これは、自分が使用する際必ず名前を書いて、他のゲストのものと混同しないためである。各部屋での飲食は禁止としているところが多く、基本的には、共有スペースを利用する。この共有スペースは、ゲスト同士が情報をシェアしたり、ガイドブックには載っていない細かな情報を入手できる場でもある。他にも自転車を貸し出していたり、洗濯機を利用できたりと、普通に生活するための設備がきちんと整えられている。そのため、1ヶ月以上滞在する人もいるという。

これだけの設備が整った環境で2000円台の宿泊費は破格なのでは、と感じる人も多いと思う。私が宿泊したゲストハウスのオーナーたちは、運営については皆口を揃えて「厳しい」と言っていた。そのためか、「気持ち程度で」という意味をこめて、キッチンや洗面台などに小さな貯金箱のようなものが設置してあることがある。これにゲストは、感謝の気持ちを込めて「気持ち程度」の小銭を入れたりするのだ。このような「温かさ」がゲストハウスの魅力であり、一度宿泊すると、同じゲストハウスに何度も泊まりに来たり、いろいろなゲストハウスを巡ったりと、リピーターになる人も多い。

 

 

3.   4つの魅力」[ii]

 

ゲストハウスの魅力について、旅館やホテルなどの宿泊施設と比較しながら見ていきたい。ゲストハウスの運営する側が意識している「4つの魅力」というのがある。

1つ目の魅力が「物件の魅力」である。ゲストハウスの「ハウス」は、昔に呉服屋の倉庫として利用されていた蔵を改装したという味のある建物や、京都の町家で現在は国の登録有形文化財に指定されているもの[iii]など、個性あふれる物件が多い。これは日本人である私たちだけでなく、外国人旅行者が気軽に日本の古民家に宿泊できる、魅力的な機会である。旅館やホテルの場合、このように建物自体に価値があると、自然に宿泊料金が高くなってしまう。少しでも多くの人に泊まって、見て、感動して欲しいという思いが、ゲストハウスには詰まっているのである。

2つ目の魅力は「人の魅力」である。旅館やホテルに宿泊して、そこの従業員と一緒にお酒を飲んだり、語り合ったりという時間は、果たしてあるだろうか。ゲストハウスの個性あふれるスタッフたちは、運営はもちろんのこと、プラスαのサービスも欠かさない。共有スペースでゲストたちと飲食を共にしたり、ゲストを連れて近所へ遊びに行ったりする。ゲストハウスという空間を、心から楽しんでいるように思える。このように多くの人々と触れ合えることから、一人旅でゲストハウスを利用する人が多いのかもしれない。このスタッフとゲストとの交流は、ゲストに対してというよりはむしろ、スタッフ自身へのサービスでもあるのかもしれない。「スタッフからゲストへ」、だけでなく「ゲストからスタッフへ」、という対等な関係がゲストハウスには存在している。

3つ目の魅力は「サービスの魅力」である。ゲストハウスでは、スタッフが観光をサポートしてくれたり、自転車を貸し出してくれたりと、細かなサービスが充実している。例えば、観光地の情報はパンフレットには載っているものの、その周辺には何があって、交通手段には何が最適で、どのルートで1日を回れば良いかなど、細かい質問にも丁寧に答えてくれる。旅館やホテルだと、フロントで聞くことができるものの、その場で時間をかけて計画を練るのは難しい。質問して、部屋に戻って自分で考える、ということになる。ゲストハウスであれば、夜にお酒を飲みながら、音楽を聴きながら、スタッフや他のゲストを交えて情報をシェアし、楽しみながら計画を立てることができる。また、インターネットを自由に使えることも、魅力的なサービスのひとつである。

4つ目の魅力は、「立地の魅力」である。駅の近くなど交通便がよい、というのはホテル等にも共通すると思う。しかしゲストハウスは、交通の便に加え、観光地へのアクセスにも重点を置いている。「世界遺産まで徒歩3分」というゲストハウスも存在する。楽しく、安く、そしていかに快適に旅するかが、ゲストハウスのポイントとなるのである。

 

 

4.日光ゲストハウス 巣み家-Sumica-[iv]

 

   今年5月、日光に初めてゲストハウスがオープンした。東武・JR日光駅の中間に位置しており、駅前のバスターミナルを利用することの多い日光観光に適した立地場所である。以前そば屋だった物件に改修を加え、ドミトリーと個室両方を兼ね備えている。入ってすぐが共有スペースとなっており、ゲストたちの飲食・交流の場となっている。オープンした5月の1ヶ月間、宿泊した外国人の国籍はフランスが一番多かったそうだ。次いでイギリス、ドイツとなっているのだが、そのほとんどが予約なしの宿泊だという。私自身はまだ宿泊したことがないのだが、何度か遊びに行き、オーナーである佐藤夫婦にお話を伺った。巣み家の共有スペースでは、毎晩といって良いほど、ちょっとしたパーティが行われている。たこやきや鍋、お好み焼き、巻き寿司などメニューは日によって様々である。他にもみんなでトランプをしたり、ドイツからのゲストがくれたサイコロゲームをして楽しんでいるという。この共有スペースでは小さなワークショップも行っており、おりがみや風呂敷講座、みんなでおにぎりを作るなど、ちょっとした特技を持っている人がいたら、あるいは話題に上がったら即興で開かれるという。パーティやワークショップを催す際には、twitterを使い、人を集めるなどの工夫もしている。また巣み家では、地域住民との交流も積極的に行っている。地元の人の家に遊びに行ったり、温泉に連れて行ったり、地元の酒造の酒蔵見学に行ったりなど、オーナーのネットワークを活かし、ゲストだけでなく、日光地域の住民も楽しめる交流が目に留まる。実際私も、523日に巣み家に行った際、幾何楽堂[v]という個人宅のログハウスで行われた座禅会にアメリカ人バックパッカーのジョンと参加し、ジョンはもちろんのこと、地元の人々と会話をする貴重な体験ができた。佐藤氏は、「ゲストハウスで何を催すか、みんなで何処にいくか、事前に決めていることはほとんどない」と言っていた。ゲストの気分、その日の天気、時間によってゲストハウスは様々な顔をみせる。オープンして以来、同じような1日は全くないそうだ。また、ゲストへ日光の良さを伝えるのはもちろんだが、ゲストが地元住民と交流している様子を見て、世界遺産よりも魅力的な日光を教えてもらっている、とオーナーは感じているという。

 

 

4.   「国際交流」を見つめなおす

 

現在日本には多くの外国人が生活しており、在住外国人と地域住民との交流の促進は、地域のNPOや各市の行政が取り組んでいる事柄である。このように日本に定住することによって、地域住民と親しく会話をするという機会は自ずと提供される。

では、一時的に日本を訪れる外国人観光客の場合はどうだろうか。

数ある国々から日本を選び、旅行する彼らが、実際に日本人と交流する機会というのは、かなり限られてしまうのではないかと考える。ホテル等に宿泊し、観光地を見て回り、またホテルに帰る。時折、会話程度の交流は生まれるかもしれないが、日本人のシャイな一面を考えると、稀である。その現状を変える可能性を秘めているのがゲストハウスである。巣み家が良い一例であるが、ゲストハウスは普通の民家と同様に近所との繋がりを持っていることに加え、口コミによって、そのネットワークは日々拡大していく。「あそこに行けば、何か楽しいことがある」という思いを、ゲストだけでなく地域住民も抱いているのである。

今後ゲストハウスにおいて、ゲストと住民との間でどのような交流を行っていけばよいのか、という提言は敢えてしない。なぜなら、前述したように、ゲストハウスは日によって全く異なる空間となってしまうからである。この特色を逆に活かし、その人ひとりひとりに合った「国際交流」を生み出していくことが出来ると考える。「別れは辛い」と佐藤氏は言う[vi]。一時的に滞在するゲストであるからこそ、短い期間で少しでも日本の良さを知ってもらい、少しでも多くの地域住民と交流してほしい。在住外国人と地域住民との交流から視点をずらし、ゲストの数だけ交流の可能性を持つ、ゲストハウスという空間に今後も注目していきたい。

 

 

< 参考資料 > (URLは全て最終閲覧日 2010/07/06)

Guest House Project HP

http://gh-project.com/support/user/what.html 

胡乱座 URONZA – 京都の安宿 Budget accommodation in Kyoto –

  http://www.uronza.com/

日光ゲストハウス巣み家-Sumica-HP

  http://nikko-guesthouse.com/

幾何楽堂HP

 http://www18.ocn.ne.jp/~kosaka3/

 



[i] Guest House Project (最終閲覧日 2010/07/06)

http://gh-project.com/support/user/what.html 

[ii] Guest House Project (最終閲覧日 2010/07/06)

http://gh-project.com/support/user/what.html

[iii] 胡乱座 URONZA HP (最終閲覧日 2010/07/06)

  http://www.uronza.com/

[iv] 日光ゲストハウス巣み家HP(最終閲覧日 2010/07/06

 http://nikko-guesthouse.com/ 

[v] 幾何楽堂HP(最終閲覧日 2010/07/06

 http://www18.ocn.ne.jp/~kosaka3/

[vi] 日光ゲストハウス巣み家オーナー 佐藤雄大氏とのインタビュー (2010/05/26)