1.  はじめに

 

余暇という言葉を辞書で引くと「人が自分を取り戻し、また活発に仕事や家庭での雑事に立ち向かうための活力を養うためのもの」とある。近年は余暇のためのレジャー施設もニーズに応じ拡大し続けているが、私が余暇のためによく訪れるのはクラブである。

 

クラブとは薄暗いホールにダンスミュージックが大音量で流れ、様々な職種の人や年齢の人が訪れ、ダンスやお酒を通じてコミュニケーションを取ることができる場所であり、また社会には存在しないような非日常的な感覚を与える場でもある。クラブイベントはたいてい週末の夜間から朝方にかけて行われ、大きなイベントでは数千人が来場するものもあり、クラブの関心が年々増している。今回はクラブの成り立ちやクラブカルチャーについて重点を置き考察する。

 

 

2.  クラブ、ディスコの相違点

 

まず、クラブについて述べる前にクラブとディスコの違いを述べようと思う。8090年代の日本では空前のディスコブームがあった。ジュリアナ嬢やサーファー、パラパラといった言葉がもてはやされ、都会の若者の遊び場、また社会人の交流の場としてディスコは存在していた。ディスコとクラブは、ダンスをして交流する場として一見同じものを指す言葉のように思えるが、恋愛を前提とした交流の仕方という観点からそれらを比べると異なるものである。

 

ディスコの語源となったのはフランス語のdiscothèque:レコード置場を意味する語であった。これは第二次世界大戦中に、生バンドを演奏するのが困難になった飲食店が、生バンドの代わりにレコードを掛けるようになったのが始まりである。そのため、ディスコという言葉の前提として「飲食とコミュニケーションをしながら音楽を楽しむ場所」という

   [1]

ことがある。

 

それに対し、クラブは個人が音楽そのものを楽しむことに重点を置き、それをきっかけにして様々な人々と交流するというのが前提にある。クラブが発展していったきっかけを作ったのは60年代のアメリカ・ニューヨークにおけるゲイシーンである。ゲイの恋愛の方法論として、複数の相手とまず最初に性行為があり、その後初めて恋愛感情や情緒が生まれるというものがある。つまり、ゲイにとっての恋愛は異性愛者によくある恋愛の果てのドロドロした関係などではなく、友愛を感じさせる恋愛なのだ。またこれは現代の異性における恋愛感覚に近いものでもあるといえるだろう。その過程として、社会的に差別や偏見を持たれるゲイが日頃のストレスを発散し、自分を解放できる場所としてクラブが急速に発展し、アメリカの白人に受け入れられた。この結果、飲食をしながらのコミュニケーションや男女交流の場であったディスコスタイルが、音楽そのものを楽しみ、それをきっかけに交流するというクラブスタイルに変化していき、ニューヨークを発信地として日

                             [2]

本を含む世界中に浸透していった。

 

3.  クラブカルチャー

 

クラブカルチャーは個人の生き方が多様化してきた現在を象徴する文化であるといえる。

従来の文化研究は大衆側よりも知識人の評価基準によって成り立ってきた。カルチュラル・スタディーズで取り上げられた対象は一般化されるが、大衆の価値基準に左右され、なおかつ知識人に研究対象とされない文化は一般的なものになりえないのだ。

クラブカルチャーは後者の代表例であり、その歴史の浅さからみてもなおさらである。

 

クラブカルチャーの特徴として、知識人が作り出す方法論的な文化とは異なり、個人のニーズや価値観が多様化した社会においてよりよく生きる知恵や、汚れたものを持ち込むことで形成されるということがある。常識や既成の価値観からの脱出を望み、新たな価値

           [3]

観を作り出そうとするのだ。クラブが明るい昼に開かれず、相変わらず人々が寝静まった夜に開かれるのもこのような特徴の故である。

 

また、クラブカルチャーの中で生まれた音楽をクラブミュージックといい、クラブミュージックはクラブカルチャーを語る上で欠かせない存在である。クラブミュージックはテクノロジーの進化とともに発展してきたからだ。おもなジャンルとしてハウス、ヒップホップ、R&B、テクノなどがある。

 

ヒップホップはラップとブレイクダンスの文化が融合したジャンルであり、ブラックコミュニティー内で発展した。1970年代以降の大手レコード会社の参入に伴い、ヒップホップはメジャー化が進んだ。これを更に発展させたのが、ターンテーブルによるスクラッチ、バックスピンといった技術的な革新である。

 

その後の80年代前後、クラブミュージックの頂点に立つといわれるハウスというジャンルが生まれる。音響機材のコンパクト化、低価格化が進みDJが単なる演奏者から音楽を生み出すプロデューサーやリミキサーの地位を獲得する。ミュージシャンの力を借りずDJや聴衆が自宅で音楽を作りだすことの意味を込め、ハウスという名称が付く。音楽としてはドラムマシーンで作られたドラムパターンに攻撃的なノイズを被せるという簡単な作りであるが、多くの人々が作曲にかかわれるため、爆発的な人気となる。

 

 このハウス人気がきっかけでテクノというジャンルが生まれる。ハウスが単調な志向性の強い音楽だったのに対し、テクノは思想や目的、メロディーの要素を取り入れその作品性を高めていった。テクノはイギリスで音楽評論家の評論対象にさかんに取り上げられ、イギリスの若者で爆発的なクラブブームを巻き起こす原因となった。このブーム時にはクラブに入りきれない人々が続出するほどの人気になり、それがきかっけで野外イベントであるレイブが生まれた。

 

また、クラブカルチャーを助長させた要因として、飛行機等の移動手段、インターネット通信の発展等により国境を越えた音楽の行き来が可能になったことが考えられる。音楽そのものが重要視させるようになったクラブでは、音楽を提供するDJがイベントに出演するために世界中を飛び回ることも珍しくない。

 

 以上のように、クラブカルチャーの発展には近代の個人のニーズや価値観の変化、その時代の最新のテクノロジーが常に存在していたのだ。

 

4.  近年のクラブカルチャーの浸透

クラブカルチャーの一端であるヒップホップの影響を受けたファッションは、現在では

                                 [5]

クラブカルチャーに精通していない人々でも着こなしている。いわゆるB系といわれるファッションは、大きめのサイズの服やパンツをダボダボと着るスタイルであるが、B系のファッション誌は広く受け入れられている。

 

また、ヒップホップやテクノ、ハウス、R&Bなどクラブカルチャーの中で生まれた音楽(クラブミュージック)を表わすこれらの言葉は、テレビや雑誌などのメディアでかなりの馴染みとなっている。特にヒップホップは全米チャートでは毎回上位に入るほどの人気があ

 [4]

る。

 

5.  クラブの魅力

 最後に以上述べたことを踏まえ、クラブの魅力について話したい。

 

個人的な意見になってしまうかもしれないが、クラブの魅力は非日常性を感じられることが何よりも大きいのではないかと感じる。実際クラブに行くとそのイベントによって客層は異なるが、社会人が意外と多いことに気付く。普段、我々は常識や決まったルールに従って生きているがクラブに行くと大音量の音楽、ノリのいい音、見知らぬ多くの人々に出会うことができ、普段の堅苦しさから解放される。そこには一般社会での上下関係もなく、ただ音に従い、そのクラブの中だけの独特な雰囲気に包まれる。そこにいる誰もが主役になれるのだ。現在の混沌とした社会に対しての反抗の場としてクラブが存在するのではないかと思う。

 

 またクラブはビジネスや学びの可能性も与えてくれる。先日私と友人らが主催側に立ち、イベントを宇都宮市内のクラブで行ったのだが、数万円の利益を出すことができた。イベントの企画に携われる機会は大学生活ではめったにないので、とても貴重な体験となった。このようにクラブは学生にとっての学びの場にもなりえる。東京の学生サークルでは定期的にクラブでイベントを開催し、その収益を寄付しカンボジアに小学校を建てたという事

                  [6]

例もあるほどである。

 

 クラブは一般的には怖いイメージがあるかもれないが、そこにはクラブでしかできない発見や学びがあり、楽しみ方がある。余暇のひとつの手段としてのクラブに行ってみてはいかがだろうか。

 

 

[1] Wikipedia 「ディスコ」。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%B3

 

[2] 湯川玲子 「クラブカルチャー!」。

 

[3] 中村有吾 「クラブカルチャーから見えてくる主体(1)」。

http://ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/5416/1/HT09053.pdf

 

[4] Billboard chart

http://www.billboard.com/bbcom/index.jsp

 

[5]はてなキーワード 「B系とは」。

http://d.hatena.ne.jp/keyword/B%B7%CF

 

[6] 葉田甲太 「僕たちは世界を変えることができない」。