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赤澤林太郎「SA・PAの施設利用の変化とこれからの課題」

 

 

1.はじめに

 

2009年3月、春の行楽シーズンを前に高速道路料金の大幅値下げがスタートした。このニュースはテレビや新聞等でも連日報じられ、景気回復への起爆剤のひとつとして注目が集まった。

 

私自身も、「安い」「割引」という歌い文句に釣られて制度が開始されて早々、山形にいる親戚を訪ねるべくETC搭載車を走らせた。するとそこには、今まで高速道路上には決してなかった施設がサービスエリアなどに見られ、しばらく乗らなかった間に様々な変化があったのだと気付かされた。

 

この現象はいったいどういうことなのか。本レポートでは、高速道路の休憩所、サービスエリア・パーキングエリアの施設利用の変化とこれからの課題と題して、現在の利用状況を見ながらレポートをしてゆく。

 

 

2.高速道路と現在のSA・PA

 

まず、現在の日本の高速道路について簡単に説明をする。

 

日本で高速道路が初めて開通したのは、東京オリンピックの前の年にあたる、1963年のことである。当時は国有化されていて、日本道路公団が特殊法人として建設、管理をしていた。やがて、郵政公社よりも2年早く、2005年に民営化され、新たな特殊法人としてNEXCOが誕生した。NEXCOは現在、東日本、中日本、西日本の各企業として分けられており、このうち栃木県を含む1都1道14県の各高速道路を管轄しているのが、本レポートで取り上げるNEXCO東日本である。

 

NEXCO東日本のサービスエリア・パーキングエリア(以下SA・PAと略す)は現在、有人・無人合わせて299ヵ所ある。SAは約50kmおきに、インターチェンジを挟んでPAと交互に設置されている場合が多い。栃木県内を縦貫する東北自動車道を例にとると、佐野、上河内、那須高原の3つのSA間に、それぞれ2つずつPAが設置されている。

 

これまでは一般的に、PAは駐車場が狭く、トイレ休憩など短時間で休むところであり、一方のSAは駐車場が広く、レストランやガソリンスタンドが備わっていて長時間で休めるという感覚があった。しかし、最近はSA以上の施設を擁するPAができたり、逆にスナックを扱う売店しかないSAがあったりと、高速道路内の休憩施設に変化が見られるようになってきている。

 

 

3.民営化に伴う施設変化

 

この変化の直接の原因は何なのか。これまでは、SA・PAの各店舗も道路公団が一括して直営をしていた。だが、民営化に伴い道路以外の施設を他の事業者に設置や運営を任せるようになった。各事業者は、NEXCOに占用料等を収め、個々の判断により自由に営業展開することができる。ただし、駐車場とトイレに限ってはNEXCOの管轄であるため、店舗内にトイレを併設することはできない。

 

SA・PA新規事業の経常利益は2006年度見込みで23億円であったが、2010年度の目標は55億円と、倍以上に設定されている。これは、タスポの導入等で店舗内の売り上げが急激に伸びたコンビニエンスストアの参入が大きく関わっていると思われる。

 

 

4.コンビニPAの例

 

那須塩原市にある黒磯PAでは、インターチェンジ増設の工事を利用し、PAの大改装をした。新しくできたPAには、コンビニ1店舗のみ設置されているだけである。ところが、中に入ると通常のコンビニの内装だけでなく、道路情報を伝えてくれるインフォメーションセンターや物産品の特設ブース、また焼きたてのパンを食べることができるベーカリーコーナーなど、まるで宇大に併設されているミニストップさながらのお店となっていた。

 

 

5.地域産業との融合

 

 では、コンビニ以外の店舗にはどのようなものがあるのか。

 

NEXCO東日本は、経営戦略のひとつとして地域の特産品を扱う店の獲得に力を入れている。例えば、宇都宮市内にある上河内SAの中には「餃子館」が設けられている。これには宇都宮市の代名詞とも言える特産品の餃子を、街に降りることなく食べてもらおうという狙いがある。県内随一のラーメンどころ、佐野市の佐野SAでは、特徴とされている青竹打ちの縮れ麺をそのまま使った御当地ラーメンを提供している。いずれにおいても、その場が目的地ではないにも関わらず、その土地の名物を食べることができるというおいしい利点である。

 

また、既製されたものだけでなく、農水産物等の地域特産物を扱う店が増えてきている。福島県国見町にある国見SAの下り線には「野菜市場」がオープンし、立ち寄ったドライバーたちの足を止めている。この季節では今が旬のサクランボ、夏場にはモモ、秋にはナシなど、フルーツ王国福島の名産品を豊富に取りそろえている。少しだけ値段が高く感じるが、農村地帯でよく見かける直売所さながらの店構えである。

 

さらに、地場産物だけではなく、若年層向けの施設の増加も目立っている。ファーストフード店のマクドナルドやモスバーガー、スターバックスやドトールなどのコーヒーショップは、民営化するまでは高速道路上にあるものではなく、慣れるまでは異様な光景にも映る。

 

 

6.一般道入口の開放

 

NEXCO東日本では、高速道路の効果を最大限に発揮させることにより、地域社会の発展と暮らしの向上を支え、日本経済全体の活性化に貢献することを経営理念として位置付けている。そのなかで地域社会との交流の足掛かりになるのが、SA・PAの一般道入口の開放である。SA・PAの近くを通る一般道側に駐車場を設け、自由に施設内へ入ることを可能にする。すると、今まではハイウェイバスの乗降客や施設内の従業員などの限られた人の出入りのみに制限されていたところ、これからは高速料金を支払わずに休憩施設を利用することができるようになるという仕組みだ。

 

そして、この門戸を広げれば施設内で様々なイベントを催すことも可能になる。芝生の広場を利用して野外コンサートを開いたり、スポーツフェスティバル等に使ったりすることもできる。新しい市民の憩いの場として、無限の可能性を持つことになる。

 

 

7.おわりに

 

NEXCOでは過去のデータを割り出して、日付ごとの渋滞を予測している。しかし、休憩施設が充実しすぎることと、高速料金が割り引かれることにより、季節によっては今までに例のなかった大渋滞を引き起こしてしまうことが懸念される。また、もともと大きさのなかったPAの駐車場に利用者の車があふれ、付近の道路の路肩に止めざるを得なくなる。路肩駐車は禁止されていることであり、一歩間違えれば、命に関わる事故を起こしかねない。この他にも安全面に配慮しなくてはならない点がたくさんあるが、これには警察と連携をとりパトロールを強化させることが有効な手段となるだろう。現在のNEXCOは、経済の活性化を急ぐあまり、交通安全について力を入れていない気がする。

 

地域社会の発展に関しても、道路以外の交通の配慮に少し欠けているのではないかと思う。民営化したとはいえ独占的に営業できる特殊法人なのであるから、地球温暖化防止に貢献するべく、さらに環境保全してゆかなければならないと感じる。それはSA・PAの拡大にもつながる問題でもある。地域の発展にならず、自分たちだけの発展になってしまわないよう見守っていきたい。