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佐々木礼 「余暇活動としてのギャンブルとそこに潜む危険」
〜はじめに〜
現在私たちの前には様々な余暇市場が広がっており、私たちはその中から自分の興味のある分野の市場の中で余暇を過ごすことが多い。その中でも私が興味を引かれたのは娯楽としてのギャンブル市場である。私の知人の中にも近所のパチンコ屋にたびたび足を運んだり、仲間内で賭け麻雀を行いに雀荘へ訪れる、などといった人々が見受けられる。
一般的にギャンブル市場は危険、犯罪といったマイナスイメージをもたれがちである。しかしながら、このようなイメージは身近なレジャーとして幅広い層、幅広い年代に認知されることで取り払われた。近年では街中のいたるところにパチンコ屋や雀荘が存在し、競馬や競輪のレースはテレビで全国的に中継され、競馬場などでは女性や家族連れの姿が当たり前になるほどギャンブルは世の中に浸透している。
自分はギャンブルになど縁はないと思っている人も多いだろうが、多くの人が購入する宝くじなども一種のギャンブルである。私たちが思っている以上にギャンブルは私たちの生活の中に存在している。このレポートでは、昔から人々の間で親しまれてきたギャンブル市場(主に日本における)の現状や人々を惹きつけるギャンブルの魅力、ギャンブルの問題点などに迫っていく。
1.
ギャンブル市場の現状
宗教や人種や時代を問わず、世界中のどこにでもギャンブルは存在する。それは賭け事がもたらす興奮は、良くも悪くも人間の根源的な欲求からくるものであるからだろう。だからこそ昔から「ギャンブルは不況に強い」と言われてきた。
ところが今、そのギャンブル市場に異変が起きている。日本で公に認められているギャンブルには中央競馬、地方自治体などが主催する4つの公営競技(競馬、競艇、競輪、オートレース)と、パチンコ、公営くじ(宝くじ、toto)がある。資料をみると[1]、1996年に90兆円を突破したのをピークに縮小傾向が続き、2005年には80兆930億円となっている。このギャンブル市場の落ち込みは公営4競技の不振によるものが大きい。公営4競技の年度別合計売上額は1984年には4兆8000億円だったものが、ピークの1991年には8兆9389億円となり、わずか7年で二倍の売り上げを記録するほどとなった。しかしその後は急落の一途をたどり、2004年には5兆3295億円まで落ち込んでいる。総入場者数も4820万人とピークの約半数という厳しさで、中には前年比売上が90%を割り込む競技も多く、深刻な状態である。
しかしながらパチンコと宝くじ市場はそんな中でも好調である。宝くじに関する2005年のアンケート調査では「一年以内に宝くじを買った」と答えた人が全体の6割強を占めていて宝くじが人々に親しまれているのがよくわかる。また、ドリームジャンボなどの宝くじを販売するみづほ銀行も2008年度には配当金を1等100万円が1000本、2等1万円が4万本に限定したミリオンドリーム[2]という新しい宝くじを発売するなど、顧客の購買意欲を高めるための工夫も行っている。
1994年から年間売上高が日本の国民医療費と同レベルという約30兆円前後で推移しているパチンコは、余暇市場の3割を占めるケタはずれの巨大市場だ。パチンコ業界においても、パチンコ店ごとに遊戯者が有利になるようなイベントをたびたび行ったり、積極的にCMなどを行うなどといった集客の上での工夫が行われている。
2.
ギャンブルの魅力とは
ギャンブルを趣味とする人々にとってのギャンブルの魅力とはいったいなんなのであろうか。インターネット上のギャンブルに関する世論調査[3]の『なぜギャンブルをするのか』という複数回答性の質問において、トップは「配当金や景品が魅力」で43.5%、次は「気分転換」で36.5%、三番目は「勝ったときの爽快感が魅力」で30.4%だった。年齢別では、20歳代で「気分転換」の理由が第一位となっている。30歳代以上では、「配当金(当選金)や景品」が第一位の理由となっている(60歳以上では「気分転換」と同率)。40歳代・50歳代では「当たった(勝った)ときの爽快感」という答えが比較的多く、ギャンブル経験者も多いこの年代は積極的にギャンブルを楽しんでいるようにも感じられる。
「配当金や景品が魅力」と答えた人々は、ギャンブルの楽しみを多額の配当金を得られるかもしれないといった「期待感」や、自分のかけた金銭が奪われるかもしれないといった「スリル感」に見出しているとみることができるだろう。
次に「気分転換」と答えた人々について考えてみる。彼(もしくは彼女)らはギャンブルを一種の現実逃避のようなものとして捉えているのではないだろうか。普段の生活とは少し離れた体験をすることで、生活の中で自分に降りかかってくるストレスなどを一時忘れようとしているのだろう。
3.
ギャンブル市場に付きまとう問題
今やギャンブルレジャーという呼び名まであるほどに、ギャンブルは私たちの余暇生活の中に自然に存在している。しかしながらそれでもなお、昔からギャンブルに付きまとう問題は解決されていないままである。もしくは、逆に世の中に広く浸透したことで新しく問題視されているような事柄もある。
例えば、数年前からパチンコに熱中した保護者が自動車内に子供を放置して、60度以上にも上がる車内で幼児が熱中症や脱水症状などで死亡する事件などが発生し、社会問題になっている[4]。男女を問わず若い両親などもパチンコをするなど、遊戯者層の幅が増えたこともこの事件が起きた原因のひとつして考えられる。パチンコ店ではこのような事件に店内の一角に子供用の遊び場スペースなどを作るなどといった対策をしている。しかしながら、このような対策を取りながらも店内から幼児が出て交通事故にあってしまうというような事件も発生している[5]。この問題を解決するためには店側の対応も重要ではあるが、それよりも遊戯者のこの問題に対する意識こそが重要だろう。
また、環境問題と結び付いた問題も存在する。パチンコ店が増えた現在、看板などに使われているネオンなどの照明や遊技機の待機電力などにかかる電気量は私たちが想像している以上に大きい[6]。さらに集客のために頻繁に行われる遊戯機の入れ替えも、廃棄することになる遊技機から出るCO2の量などから問題とされ、入れ替えの自粛などが呼びかけられている。
昔から長く遊戯者に関わっている問題として、遊戯者がギャンブルにのめり込んでしまいその人の社会生活に悪影響を与えたり、経済的に困窮してしまう場合もあるギャンブル依存症がある。ギャンブル依存症とは本人の意志の力だけでは回復が難しい精神的疾患であり、このような症状に陥ってしまう人々は年々増加している。また、このようなギャンブル依存症に悩む人々の社会復帰を手助けする目的のNPO法人ワンデーポートなども存在する[7]。
4.
なぜギャンブルにはまってしまうのか
ギャンブルで得られる利益とは、遊戯者たちが使用した金額を胴元が差し引いて遊戯者たちに還元しているものである。よって遊戯者たちは損をする確率が絶対的に高い。ではなぜ損をする可能性の高いギャンブルに人は熱中してしまうのであろうか。
私はその第一の原因は、「快感」にあるのではないかと思う。私たちは、ある行動をした後に快い体験をすると、また同じことをしようとする傾向がある。ギャンブルはめったに当たることはないが、たまに大きく当たるとそのときの快感が忘れられなくなってしまう。結果として、もう一度その快感を味わうために、損をすることの多いギャンブルを何度も繰り返すことになるのだろう。
第二の原因は、ギャンブルに熱中しているときの興奮状態が忘れられないことだと思われる。手持ちの現金を投じているだけに、『次で大儲けができるかもしれない』といった期待感や、勝つか負けるかといったスリルや緊張感が興奮をさらにかきたてる。私たちには対象をギャンブルに限らず、日常生活に危険やスリルといった刺激を求める傾向があると思う。もちろんそれは自分に降りかかる「現実での危険」ではなく、映画の中などでの「非現実での危険」のことである。
ギャンブルにはまってしまう人々には、この二つの要因と自分のなかのギャンブルの引き際のバランスが取れない人が多いのではないだろうか。ギャンブルにはまることのないような人は、これ以上続けると危険だという時点でやめることができるが、そこでやめることのできない人は何度も同じことを繰り返してしまい、ギャンブル依存症になってしまうのであろう。
〜おわりに〜
今日におけるギャンブルは、以前までの暗いイメージをもたれがちだった時代とは違い、レジャー性の高い余暇活動として私たちのごく身近に存在している。私たちを惹きつけるギャンブルの魅力は主に私たちの本能的な欲求と密接に関わっている。しかしながら、それは裏を返せば私たちの根本的な部分、つまり余暇活動とは異なる私たちの社会活動までをも脅かす危険があるということだ。実際、ギャンブルをめぐった問題は今も昔も後をたたない。ギャンブルをする際には、私たちはその点に重々気をつけなければいけないだろう。
註
[2]ミリオンドリーム宝くじ公式サイト (http://www.jumbo-takarakuji.jp/index.html)。
[3]「ギャンブルに関する世論調査」結果の概要 (http://www.crs.or.jp/58721.htm)。
[4]パチンコ必勝ガイド 車内放置による乳幼児の死亡事故撲滅キャンペーン(http://www.byakuya-shobo.co.jp/pachinko/child/index.html)。
[5] D.C.T パチンコ中の幼児死亡 (http://www.actiblog.com/crowley/85128)。
[6] パチンコとエコ パチンコと電気代(http://777.nifty.com/cs/catalog/777_report/catalog_080625132298_2.htm)
[7] NPO法人ワンデーポート 概要 (http://jcca.client.jp/wan.htm)