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酒井春菜 「不況にも負けない!夏フェスの参加者増加傾向を探る」

 

 

1.私の中でのライブと余暇

 

私がレポートで取り上げたいテーマは「ライブ」についてである。このテーマは、私が「余暇」ときいて一番最初に心に浮かんだことである。もともと私自身が、ライブに参加することで、日ごろのストレスを発散しているということから、この考えに至ったと言える。そしてライブの中でも一度に大勢の人が参加する「夏フェス(夏に行われる音楽フェスティバルの略称)」に注目したい。過去に私が参加したライブの中でも社会的に大きな影響を与えるような、そして最も心に残る印象強いライブがあったので、そのフェスティバルも含め、国内の夏フェスを例に挙げ、述べていきたい。

 

そのライブとは、ap bank fesである。このフェスティバルは、2005年より毎年7月の3連休を使って、静岡県掛川市のつま恋で行われており、環境について身近なところから考えてみるというコンセプトで開催されている音楽フェスティバルである。このフェスティバルでは、年々チケットの販売数が増え、毎年すぐに完売してしまう。ほかにも茨城県の国営ひたち海浜公園で行われるROCK IN JAPAN FESは夏に向けて、チケットを冬から先行発売するのだが、その時点からかなりの勢いでチケットが売れるという。国内では外出を控える人が増えているなかで、夏フェスなどのライブの参加者が年々増加しているということに着目して考察していきたい。

 

余暇ときいて「ストレスを発散する機会」だと自然に認識して、このレポートを書くことに至った自分自身についても振り返りつつ、「余暇」とは何なのかという今まで考えたこともなかった「余暇」についてじっくりと考えていきたいと思う。

 

 

2.Ap bank fes とは

 

2003年、音楽プロデューサー小林武史氏と、Mr.Childrenの櫻井和寿氏の2名に、アーティストによる自然エネルギー促進プロジェクト「Artist’s Power(アーティスト・パワー)」の発起人である坂本龍一氏を加えた3名が自己責任において拠出した資金をもとに「自然エネルギー、省エネルギーなど、環境に関するさまざまなプロジェクトに融資をする非営利組織」としてap bankが設立された。そのap bankが主催者となり、「ap bank fes」は2005年より、毎年7月の第三土曜日・日曜日・月曜日(海の日)に、静岡県掛川市のつま恋で行われている。ap bank fesのコンセプトは「音楽を気持ちのよい場所で楽しみながら、環境問題をより身近に、より前向きに考えるイベント」である[i]

 

ap bankの資金は当面、関わるメンバーの資金のみを原資とし、さまざまなアーティストの協力を得てイベントなどを行い、収益金も資金とし、融資していく。このap bankは大きな事業体ではなく、ふつうに生活する人にできる「小さな事業」を対象にした融資を基本としており、「自分たちの力で社会を変えていける」と思う人が増えて、新しい未来が生まれていくことを期待しているという。ap bank apとは「alternative power」「artists’ power」「audience power」をかけている。そのap bank が主催しているのがap bank fesである[ii]

 

 

3.近年の人々の外出減少傾向について

 

近年は、インターネットや家庭用ゲーム機の普及などにより、外出する人が減少傾向にあり、人と人とが顔を合わせてつながりを感じる機会が減少しているといえる。特に昨年秋に起きた金融危機以降、日本人の外出頻度・回数が急速に減少しているという話をニュースで知った。

 

例を挙げると、東京・上野動物園では2008年度入場者数が289万8191人と、60年ぶりに300万人を割り、昨年度に比べ60万人以上も減少した。人気動物のパンダが死んでしまったことも一因ではあるが、近年話題となった北海道旭川市の旭川動物園でさえも、08年度の入場者数が前年度より30万人程度減少しており、これらのことから外出を控えている人が多いということがわかる。一方、繁華街においても、百貨店の月の売上高が、前年同月比1割を超えるペースで減少を続けている。大阪では、不況と家庭内ゲーム市場の拡大で、管轄である曽根崎警察署管内のゲームセンターが、前年より500店舗ペースで減り続けていると言われている。個人所得の低迷はもちろん、「食への安全」への不安の増加による「内食回帰」で、多くの外食店舗も来店客数を減らしている[iii]

 

 

4.年々増加する夏フェスへの参加者

 

現在は、「3.近年の人々の外出減少傾向について」で述べたように、近年の外出減少に金融危機が追い打ちをかけている状態であるが、それをものともせず参加者が増えているのが「夏フェス」である。

 

日本にある夏フェスの代表例を挙げると、ap bank fesROCK IN JAPAN FES SUMMER SONICFUJI ROCK FESTIVALRISING SUN ROCK FESTIVAL、などで、また栃木県内ではベリテンライブがある。

 

 ap bank fesの来場者数について言うと、2005年は6万人、2006年は7万5千人、2007年は1日目と2日目は台風4号のため中止、3日目のみで2万7千人、2008年は8万1千人の来場者を集めた[iv]。また、ROCK IN JAPAN FESap bank fesと同様毎年3日間開催しているが、2005年は13万5千9百人、2006年は14万1千人、2007年は14万7千人、2008年は15万人と、ap bank fesROCK IN JAPAN FESも共に来場者数が増加している[v]。そしてともにチケットも毎年完売しているのである。

 

このレポートで年々増加するライブの参加者数について、具体的な理由を調べあげることができたらよかったのだが、参加者にアンケートを取るわけにもいかず、調べてもなかなか理由はわからなかった。ただ、ライブへ参加した人たちのブログを見たり、実際に自分もap bank fesには2回参加したことがあることを基に、ap bank fesの参加者増加について考察した。

 

 

5.ap bank fesへの参加者増加について

 

それでは、毎年参加者が増加する理由は何であろうか?

 

まずは、参加者の大半は、リピーターであるのではないかと考えることができる。私は過去に2回参加したが、アーティストが「このフェスに過去に参加したことがある人いますか」と質問をしたところほとんどの人が手を挙げていた。その場のノリで挙手していた人もいたかも知れないが、それを信用したらかなりの数のリピーターがいると見て良いのではないかと考える。そしてこのフェスティバルには「また参加したい」と思える要素がある。、チケット代は9000円と、一般のライブのチケットよりは値が張るが、1日中楽しめて、たくさんのアーティストの音楽にも触れられて、かつ環境問題に取り組む団体のワークショップなどに参加でき、環境について考えられるという「お得感」が、その要素の一つであると考える。

 

次にアーティストの音楽性の類似が考えられる。出演アーティストのすべての音楽性が似ているかと言われると、断言はできないが、雰囲気が全く違うともいえない。主催者の中にMr.Children の桜井和寿氏と、プロデューサの小林武史氏がいるということもあり、毎年Mr.Childrenはこのフェスティバルに出演している。例えば今年のフェスティバルに出演するSalyuMy Little Loverは、Mr.Childrenと同じ小林武史氏がプロデューサを務めており、音楽性が全く違うとはいえない。また2007年には、サザンオールスターズの桑田佳祐氏と、レミオロメンが出演したが、どちらのアーティストのプロデューサも小林氏である。またKREVAGAKU-MCなどラップを歌うアーティストは一見ジャンルが違うように感じるが、環境のことを考えており、かつ現代社会への自分の思いを音楽を通して訴えるという面ではMr.Childrenと似ている。

 

Mr.Childrenを基準に他のアーティストの音楽性を考えるのは偏った考え方かも知れないが、毎年Mr.Childrenが参加するフェスティバルであるということ、主催者に桜井和寿氏と小林武史氏がいるということから、参加者の大半はMr.Childrenの音楽性を好んでいるのではないかということを踏まえた上で考えたことである。

 

 ここまで、フェスティバルの「音楽」の部分について述べてきた。だが、最初にも述べたようにap bank fesは音楽を楽しみながら、環境問題をより身近に、そして前向き考えていくイベントである。音楽だけを楽しむフェスではなく、環境について様々なことを考えさせられるフェスティバルであることは、実際に参加してみても感じたことである。

 音楽以外の部分にも魅力があり、講演会やワークショップが開催されたり、環境や人にやさしい店(ピープル・ツリー、スローウォーターカフェなど)が出店している。「環境について考えること」を目的にして来場する人もいると思うが、「環境問題」について考えるとき、大きく捉えすぎて、私たちに何ができるのか分からないというのが、正直なところである。しかし、ごみを排出するということや人間の楽な生活がもととなって、きれいな自然を失いたくない、それなら小さなことでも良いから、自分にできることを少しずつでも行っていきたいと思わせてくれるフェスティバルであると、実際に参加してみて思った。

 

このようなフェスティバルは国内に他にはない。たとえ静岡という遠い土地で開催しているとしても、年に1回であるし、他にお金をかけない分、たまには大金をかけて楽しむのも良いのではないかと考えている人が増えているのではないのだろうか。

 

ap bank fesだけでなく、夏フェスは年に一度の大イベントである。普段はお金を使わない現代人の中には、そのときばかりはお財布のひもが緩む人も多いのではないか。これから、夏フェス市場が経済を動かすくらい拡大していったらおもしろい。

 

 

6.余暇とは

 

 このことを考えれば、どんなイベントも人を集めることが出来ると思う。主催者自身が楽しむことは大切なことであるが、参加者あってのイベントなので、「参加者の気持ちを考えているイベント」が人を惹きつけるイベントであると考える。このように、人々のニーズを重視するというということは「余暇政策」を考えるときとても重要になるのではないだろうか。

 

 私は「余暇」と聞いてストレス解消の場であると自分の中ですぐ解釈したが、他の人たちはどうなのかがすごく気になった。「余暇とは○○だ」と定義付けることはできないが、それぞれが思い思いの時間を過ごすことが余暇であると思う。

 

 今回、フェスの参加者増加について考えてみたが、レポートを終える今、「現代人のお金の使い道」について知りたいと思っている。今回のレポートを通じてまた新たに知りたいことが出てきて、とても有意義な課題であった。

 

 



[i]

ap bank ホームページ。

http://www.apbank.jp/activity/fes.html

[ii]

ap bank fes’05 DVD ブックレット。

ap bank fes’06 DVD ブックレット。

ap bank fes’07 DVD ブックレット。

[iii]

 Yahoo ! Japan ニュース巣篭もり消費生活」銘柄特集1)=自宅で楽しむ生活・娯楽システムが充実 。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090612-00000104-scn-bus_all

[iv]

 ap bank fes’07 DVD ブックレット。

 ap bank fes’08ホームページ ライブレポート。

http://www.apbank-ecoreso.jp/08/report/2.html

[v]

 ROCK IN JAPAN FES.2005年 ホームページ。

 http://www.rijfes.co.jp/05/

 ROCK IN JAPAN FES.2006年 ホームページ。

 http://www.rijfes.co.jp/06/

 ROCK IN JAPAN FES.2007年 ホームページ。

 http://rock-net.jp/fes/07/index.html

  ROCK IN JAPAN FES.2008年 ホームページ。