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齋藤亜季「水を買うということを考える」

 

1、はじめに

 私が幼いころは、住んでいた場所が田舎で水資源にも恵まれていたためか、水は水道の蛇口をひねればどこでもいつでも飲めるものであり、「水を買って飲む」という感覚はどこかおかしな感じがしていた。しかし、最近ではミネラルウォーターの市場は激化しており、売り上げは右肩上がりとなっている。テレビCMでも、ミネラルウォーターの宣伝を見ないことは一日としてないし、スーパーに行けばダイエットをしている女性をターゲットにした商品や、健康志向の人を向けの商品などがずらりと並んでおり、ミネラルウォーターの種類に驚くはずだ。しかしながら、水を買って飲むことで、同時にその容器であるペットボトルの消費も増加させていることは確かである。一見、人々は水を買うことで安全や健康を手に入れているように感じられるが、ペットボトルが製造される際に排出される二酸化炭素やそれにまつわる様々な環境問題のことは無視しているように思われる。これから、私たちが消費するミネラルウォーターと、そのミネラルウォーターを口に入れるまでどのような問題が生じているのかに焦点を当てて述べていくことにする。

 

2、ミネラルウォーター市場の拡大とその歴史

今や1000億円市場に達した日本のミネラルウォーター市場の拡大は、業務用市場で瓶入りミネラルウォーターが販売され業務用市場が成長した1970年代後半から始まった。急速にミネラルウォーターが一般に普及し始めたのは1980年代後半からで、1980年、90年代の輸入の正式認可、製造基準緩和といった貿易規制緩和により制度的側面での市場拡大の土壌ができ、そこに健康ブーム、若者の流行そして特に近年では水道水への人々の不安、といった社会的側面の要因が加わることで日本のミネラルウォーター市場拡大がもたらされたことが考えられる[i]

具体的な数字で見ていくと、ミネラルウォーターの一人当たり消費量の推移は、19860.7/1人だったのが、1997年には約9倍の6.3/1人、さらに昨年の2008年には28倍の19.7/1人になっている。たった22年で28倍だ。これは世界的に見ても顕著で、イタリアやスペインにおいては約168/1人の消費量がある。容器別生産量の推移を見ても、PET容器がミネラルウォーター市場全体の92%を占めており、このペットボトルから懸念される環境への問題も大きなものといえる。さらに日本はこれからもミネラルウォーターの消費量が増加し続けることが予想されていることから、同時にペットボトルの消費量も増えていくと考えることはたやすいだろう[ii]

 

3、ミネラルウォーターを飲むことで生じる環境破壊

 それでは、実際に、ペットボトルが製造されることがどのように環境に影響を及ぼしているのだろうか。まず、そもそもペットボトルというものはプラスチックと同じ原料から作られているということは今や誰でも知っていると思う。そのプラスチックの中でも、ペットボトルはポリエチレンテレフタレートという原料から作られている。このポリエチレンテレフタレートは、石油からつくられるテレフタル酸とエチレングリコールを原料にして、高温・高真空下で化学反応させてつくられる樹脂のひとつであり[iii]、この原料を作り、さらにペットボトルが形成されるまで、石油はもちろん、二酸化炭素の排出も大量に使用されることとなる。さらに海外から輸入しているミネラルウォーターには、輸送するのにも莫大な量の石油が使われ、二酸化炭素が排出されている。私たちがミネラルウォーターを買って口にするまでには、ミネラルウォーターがボトリングされるまでのエネルギー、ボトリングする容器を作るためのエネルギー、ボトリングされたミネラルウォーターを輸送するためのエネルギーといった、目には見えない地球資源が大量に使われていることがわかる。

さらに、日本は2005年度、事業系回収量97千トンを加えた全回収量は349千トンで、全回収率は65.6%となった。これは、前年度を3.3%上回り、これまでどおり世界最高水準をキープしているという嬉しい報告もあるが[iv]、新品を石油から作って消費者の手元に届けるまでには、石油が約40g使われる。しかし、これをリサイクルしようとすると、少なくとも150gの石油を消費してしまうという。実に、4倍近くも石油を使うのである[v]。という報告もあり、実際にペットボトルのリサイクルは環境に悪影響を及ぼしているのではないかという懸念もある。

 

4、考察 それでも私たちは水を買って飲み続けなければいけないのか?

昔は、カルキ臭い、カビ臭い、マズイといった理由で嫌がられていた水道水も、昨今では安全でおいしく飲める水に変化してきた。例えば、東京都水道局では「安全でおいしい水プロジェクト」を立ち上げ、国が定める水質基準50項目をすべてクリアし、味を損ねる臭いや有機物が少ない水作りに挑戦し、実際に東京の水をボトリングし「東京水」として全国的に広くPRしている。

世界的に見れば、安全な水が手に入るのはごく一部の人々だけである。水道の蛇口をひねれば安全な水が出てくる場所で、環境破壊の原因となるようなミネラルウォーターを買う必要はあるのだろうか。私たちは、改めて自分が何気なくしていることに対してもう一度見直してみる必要があるのではないだろうか。



[i] 世界的なミネラルウォーター市場の拡大とその国際規格化 福澤尚子 ミネラルウォーター市場 http://www.ritsumei.ac.jkenkyu2001/fukuzawa.pdf#search 

[ii] 日本ミネラルウォーター協会 統計資料 http://www.minekyo.jp/sub3.htm

[iii] ペットボトルリサイクル協議会 http://www.petbottle-rec.gr.jp/basic/ba_what_f.html

[iv] PETボトルリサイクル年次報告書http://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2006/p04.html

[v] 環境に悪いリサイクル? http://www.monoguide.com/topic/recycle.html