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大城五月「コミュニティ・カフェによる街づくり」

 

 

1.   はじめに

 

近年、市民の市民による街づくりが注目されている。現在私が暮らしている栃木県宇都宮市でも、市民による街づくりがさかんに実践・展開されている。私が地元を離れ宇都宮市で暮らし始め、1年が過ぎたのだが、他県から来た私にとって、宇都宮市という地域とそこに住む地域住民と関わる機会はなかなかないと思っていた。しかし、私が大学に入学してすぐに入ったサークルが、週に1度カフェを営業していることから、「コミュニティ・カフェ」による街づくり事業のことを知った。私自身、現在サークルを通して時々カフェの営業に携わっているのだが、そこでは同じ学生だけでなく、地域の幅広い年齢層の方々と出会う機会がある。

 

そこで本レポートでは、宇都宮市で展開されている街づくりの中でも「コミュニティ・カフェ」による街づくりに焦点を当て、コミュニティ・カフェの存在する意義を考察していく。さらに、コミュニティ・カフェの出店者側、利用者側に対してインタビューも行い、余暇を利用してカフェを営業する人々と、余暇を利用してカフェでひと時を過ごす利用者とがつくる空間が、街づくりにどう反映しているのか考察していきたい。

 

 

2.コミュニティ・カフェ「ソノツギ」の仕組み

 


現在宇都宮大学正門近くに位置するコミュニティ・カフェ「ソノツギ」は、「とちぎ市民まちづくり研究所」(陣内雄次宇都宮大教授主宰)が「地域の人と人のつながりを紡ぎなおし、まちを育て、市民を育てる場づくり」のために立ち上げられた。[1]


 

20051月から今年の3月末までカフェの名称は「ソノヨコ」であったが、「ソノヨコ」の建物が老朽化していたため、現在の場所へ移店し、「ソノツギ」として新規に開店した。[2]


20093月に「とちぎ市民まちづくり研究所」が解散したため、現在カフェの活動はNPO法人宇都宮まちづくり市民工房に引き継がれている。[3]


 


コンセプトは「地域の縁側づくり」、つまり、以前は日本の住まいに普通にあった縁側を地域の中で創出し、みんなが仲良くなっていけるような、支えあえる仕組みを作っていくことである。もうひとつは「LOHAS」、つまり環境と健康に配慮した持続可能なライフスタイルの提案と実践である。[4]


 

「ソノツギ」のカフェ事業はボランティア活動ではなく、出店者は家賃、光熱費や上下水道代の支払い、食材の購入、備品の補充、それら諸々の経費を差し引いて初めて残金、つまり利益を得ることができる。このことからコミュニティ・カフェは、コミュニティ・ビジネスの一種ともいえる。


 

コミュニティ・ビジネスとは、ビジネス的要素を持った新たな経済活動によって地域が抱える課題の解決を目指す行為であり、利益よりも地域の課題解決と地域住民の明日への期待をつくっていくことに重きを置く。[5]



「ソノツギ」は同じ店舗を共有するが、曜日ごとに店の名前も雰囲気、メニューも変わる仕組みになっている。現在6つの主婦らによる市民グループと、4つの学生グループが週毎に、あるいは各週でカフェを運営している。各曜日すべて出店者がいるため、休業しない限り一週間を通して営業している状況である。(2009623日現在)


 

 

3.出店者・利用者へのインタビュー結果

 

 今回は、現在カフェの営業をしている主婦、学生に対してインタビューを行い、カフェの存在意義について考察する上で参考にした。質問内容は@カフェを始めたきっかけ、A営業する上で気をつけていること、B自分の余暇をカフェ営業に費やす意義は何か、の3つである。ここではカフェを営業し始めて今年で3年目になる「こなもん」と「Vimara」の2店のインタビュー結果を紹介する。

 

まずは、水曜日にお好み焼きとソバヤキを提供している「こなもん」のオーナーの主婦にインタビューを行った結果である。質問内容の順に回答をまとめると、@友達に紹介され、仕事もしていなかったため、友達をもっと増やしたくて始めた。Aおいしい料理を提供できるようにこだわること、そしてなるべく地元栃木の食材を使うように心がけていること。B何よりもお客さんと、特に他の主婦と交流できることがうれしい。また、宇大に近いため学生と交流ができる。このような今までにない人々との付き合いが生まれることに意義を感じている。そしてお客さんの「おいしい」の一言がカフェを続けてこれた一番の理由です。と笑顔で回答してくれた。

 

土曜日に「Fair Trade Café Vimara(ビマラ)」を営業する宇都宮大学の学生サークルリソースネットワークは、私がカフェを知るきっかけとなった、私自身が所属するサークルである。Vimaraではフェアトレード食材や無農薬・無添加の食材にこだわったメニューを提供している。定番メニューは本場のインドカレーである。今回はカフェのオーナーである学生にインタビューをした結果を順に紹介する。@フェアトレードを市民の皆さんにも知ってほしいという思い、フェアトレード食品や地産地消といった最も身近な「食」という観点から、日本や世界の問題を市民のみなさんと一緒に考えていきたいという思いから始めた。A飲食店である以上衛生面には十分気をつけている。他の出店者との連携を大切にしている。また、ただ食事提供するのではなく、自分たちの団体について多くの人に知ってもらうよう心がけている。学生の活動とはいえお金をいただいているのでお客さんに来てよかったと思えるような料理、接客であたたかい雰囲気を作れるように心がけている。B毎回違うお客さんとの出会いが楽しい。普段の生活では話す機会の少ない社会人、年配の方と話す機会があることには意義があると思う。何より自分自身が営業を楽しんでいる。

 

次に、利用者へのインタビュー結果をまとめる。10人の利用者に対して行ったインタビューの中でも特に、ソノツギの常連だという50代の主婦の方の話をまとめる。この方は朝日新聞の「Vimara」を取り上げた記事を見て初めてカフェ(当時は「ソノヨコ」)の存在を知ったそうである。以来自宅から散歩するのによい距離なため、通い続ける用になったという。カフェの魅力は料理の安さと量、そして何よりおいしいことだそうだ。また、同じ主婦との出会い、地産地消を考えた料理を食べることでそれが実践できることに魅力を感じていると話していた。

 

 

4.インタビューから見えてきたコミュニティ・カフェ「ソノツギ」の存在意義

 

カフェに行ってインタビューをするなかで、出店者と利用者の両方の側から見たカフェの存在意義には共通点がみられた。それは、どちらの側もカフェでの出会いを楽しんでいるし、実際に多くの出会いが生まれているということである。そしてカフェには幅広い年齢層の方々が訪れていることも明らかになった。普段の生活のなかではあまりない学生と地域の主婦層や社会人の出会いがあり、それが楽しみでカフェの営業を続ける出店者、訪れる利用者によって、コミュニティ・カフェの空間がつくりだされている。カフェという空間は、幅広い年齢層の人々が利用できる場であるため、コミュニティ・カフェは街づくりには画期的であり意義のあるものだと考える。

 

また、上記の3.で取り上げた「こなもん」「Vimara」以外にも、環境配慮型経営を目指す学生グループ、団塊世代・就労世代の仲間作り、交流の場を目指す主婦の市民グループなど、さまざまなグループが独自のカフェ運営を行っている。「地域の縁側」と「LOHAS」という2つの共通のコンセプトを掲げていながらも、それだけにこだわらず、売り上げの一部を寄付したり、団体の活動資金にしたりと、カフェを利用して活動の幅を広げている団体もある。それがまた新たな街づくりにつながる活動の源になるのではないかと期待する。

 

調理師免許も持っていない普通の主婦や学生がほとんどであるが、料理の味、盛り付けにはそれぞれの店でこだわりがある。(出店者には保健所による研修への参加、衛生検査が必要である。)共通コンセプトである「LOHAS」の実践のため、各出店者は特に地産地消を意識しており、なるべく地元の食材を使っている。その食材で作った料理を食べることで利用者自身が「LOHAS」を実践できることにも大きな意義がある。そしてなんといっても値段が安い。ランチは平均して500円〜600円程度である。主婦や授業の空きコマを利用してくる学生や、教授、事務の方がよく来られるそうだ。ドリンク一杯だけでも気軽に足を運べる雰囲気がそこにはある。

 

 

5.まとめ

 

ソノツギと他のカフェとの徹底的な違いはやはり一般の「市民」が営業している点である。そして「営利」を目的としていないところだ。曜日によってオーナーが変わるという仕組みも特徴的でおもしろい。

 

出店者にインタビューをしてみて、畑に直接野菜を収穫しに行ったり、安い食材を探していろんな店を回ったりと、当日の調理だけでなく下準備にも相当な時間をかけているということがわかった。主婦にしろ学生にしろ自分の貴重な余暇の時間をなぜカフェ営業に費やすのか。その問いかけにほとんどの出店者は「やってて楽しいから。」と単純に答えた。それぞれが好きでソノツギの運営に関わっているのだ。街づくりは楽しくなければできない。ソノツギでは市民がみずから楽しんで「地域の縁側」作りを行っている。

 

私自身、時々「Vimara」の手伝いをするため厨房に立つが、来店してくれたお客さんとの会話はとても楽しい。そして私たちのサークルの活動に対して興味を持ってくれるお客さんがいることにも喜びを感じている。何より他県からきた「よそ者」である私が、栃木県や宇都宮の人々と交流できることが、私にとってのソノツギの存在意義である。

 

ソノツギ運営に携わっている人々は、みな自分が「まちづくりをしている」という気にはなっていないと考える。しかしそれぞれが作り上げているカフェの雰囲気が地域の人々を呼び、そこに人が集まり、出会いを生む街づくりにつながっているのだと感じる。そして出店者自身がカフェ営業を楽しんでいることが、2005年のソノヨコから現在にいたる4年半にわたり運営が続いている大きな理由ではないだろうか。ソノツギは、これからも地域にしっかりと根を張り、「地域の縁側」となり続け、世代の枠を超えた地域の人々の街づくりを展開していくであろう。わたしも残りの大学生活のなかで、直接このコミュニティ・カフェの運営に関わり、ここ宇都宮の地域の人々とともに街づくりに取り組んでいきたい。

 



[1] 2009422日付下野新聞 「学生・主婦の起業支援 宇内前にカフェ開設」。

http://www.shimotsuke.co.jp/town/region/central/utsunomiya/news/20090422/138560

[2] ブログ 「コミュニティ・カフェ<ソノヨコ>」。

 http://blogs.dion.ne.jp/tesio/

[3] とちぎ市民まちづくり研究所 「とちぎ市民まちづくり研究所解散について(ご報告)」。http://www.h7.dion.ne.jp/~cmoll/

[4] 陣内雄次「ソノヨコ→ソノツギ☆6月・7月の予定☆」20095

[5] 陣内雄次・荻野夏子・田村大作「コミュニティ・カフェと市民育ち―あなたにもできる地域の縁側づくり」(33頁)萌文社、2007