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中山莉衣「行列から見る人々の心理とサービス」

 

 

1.        はじめに

 

 私は日々の中で、直接又はテレビという媒体を介してよく目にするものがある。それは、「行列」である。最近では海外有名ファッションブランドの日本進出のニュースをよく耳にするが、入店するまでに何時間待ちといった状況にもかかわらず、物凄い長蛇の列ができている。

 

人々は余暇という時間を利用してこの行列に並んでいるのだが、その際の行動心理について、更には人々を惹きつけるサービスの提供者側について考察してゆきたい。

 

 

2.        身近なものから見る行列

 

人によって余暇の使い方は様々であるが、人々は余暇活動をするにあたり、ときには行列に並ぶことになる。例えば東京ディズニーランドを例に挙げてみよう。これについては誰もが経験したことがあるであろう。まず入場の時点ですでに行列である。休日となると開園時間前から大勢の人々が列をなして待っている。そして、アトラクションに乗るにしても、人気のものであると12時間待ちは普通である。人々はその間お喋りをしたりゲームをすることによって時間を潰しているが、圧倒的にアトラクションで遊ぶ時間より待ち時間のほうが長いように思われる。

 

また、宇都宮は餃子の街といわれているが、自転車をこいでいると必ずと言っていいほど毎回行列をつくっている店を見かける。テレビ番組でも各地方の行列のできるお店が日常的に紹介されており、これまた多くの人が行列をつくっている。

 

 

3.        「行列に並ぶ」という行為の裏に働く心理

 

では、なぜ人々はこうした行列に並んでしまうのだろうか。そこにはいくつかの要因が挙げられる。

 

まず一つには、「同調行動」が働くことにある。人間の脳は、他の人の行動や考えに大きく影響を受け、同じように無意識に自分も行動してしまう構造をしている。それによって引き起こされる行動を心理学的に「同調行動」と呼んでおり、皆が良いというものは良いに違いないという、根拠のない思考回路が私たちの脳には出来上がっているのである。[1]


 

これを用いた有名な実験に「アッシュの実験」というものがある。1人の本当の被験者と7人の実験協力者(いわゆるサクラ)の集団を作り、線分の長さ比較問題について実験協力者にわざと一貫して間違った回答をさせた後、被験者に回答をさせた。すると、全施行で被験者の誤答は32%に上り、74%の被験者が少なくとも1回は誤った回答をしたのである。これは集団圧力、多数への従順という同調意識によって、多くの人は間違いと気付きながらも、多数派の意見に「一応」合わせてしまうということが分かる。[2]


 

こうした「同調行動」によって、人々はたとえ並んでいる目標物について一切の情報を得ていなくとも、行列のできている店につい並んでしまうのである。

 

また、私は個人経営の飲食店でアルバイトをしているのだが、混んでいるときにはお客様は次々と入ってくるが、しかし誰もお客様がいないとき、少ないときは駐車場まで入ってきたにもかかわらず帰ってしまう方がよくいる。ここにおいても「同調行動」が働いており、人々は特に明確な意思を持たず、しばしば周りに流され行動・意思決定をする傾向があり、そこには主体性の欠如が窺える。

 

二つ目の要因としては、国民性が関係しているといえる。欧米などの外国人からすると、日本人は行列好きであると考えられている。それは「集団主義的」で、「集団の輪」を重んじる傾向にある日本人は、欧米などに比べて、子供の頃から集団生活のマナーとして、「整列」や「前ならえ」など、並んで順番待ちをすることが、学校教育をはじめとしてしっかりと叩き込まれてきたからであるといわれている。[3]それゆえ日本人は外国人ほど行列に並ぶことを厭わないのである。

 

「欲しい商品を購入する際、どの程度の時間なら行列に並べるか」というNEXCO東日本が行った調査に対して、50代の平均待ち時間の結果が29分なのに対し、20代の平均は69分であった。飲食店においての同様の質問では、50代の平均は18分で、20代は29分であった。また「並ばない」と答えた人の割合は、50代で27.3%20代ではわずか9%であった。[4]この結果により、並ぶこと自体に対して人々は比較的積極的・肯定的であると考えられる。

 

4.        消費者を惹きつけるるサービス戦略

 

このような消費者の「同調行動」を利用し、サービス提供側はいかにして消費者を呼び込んでいるのか。行列ができるかそうでないかは飲食店でいえば味、値段、提供速度、サービスなどが関係してくる。美味しい店にはまた行きたいと思うし、サービス・接客態度が良ければ尚更である。スポットではやはり並ぶことになっても行きたい、また来たいと思わせるような人々を魅了するサービスを提供することが鍵となるのではないか。さらに、お客様が予期する以上の行動を起こすこと、感動を与えるサービスをすることで人々の心に残り、再び同じ気分を味わいたいとリピーターとなって幾度も足繁く通うようになるのである。

 

消費者の「同調行動」を誘引させるために行う戦略のひとつとして、経営者側が意図的に行列を作り出すこともある。あえて従業員を少なくしたり、一人ひとりに対する接客時間を長くしたり、「サクラ」を雇うことなどが挙げられる。

 

また、私たちは「全米が震えた!」、「1000人が効果を実感!」などの宣伝文句に心を動かされることがしばしばある。特に近年巨大市場となっているインターネットでの通信販売、いわゆるネットショッピングにおいても消費者からの口コミや「売り上げランキング第1位」などの言葉によって私たちの意志は大きく左右されがちである。このような目に見える数字、分かりやすい判断基準をマス・メディアを利用して提示することも、簡単に消費者の「同調行動」を引き起こすことができるため効果的である。

 

 

5.        行列時間に対する工夫

 

上記に述べてきたようにしばしば人々は行列に並ぶのであるが、余暇を使って並ぶ行列時間を苦と思わせないために、「行列のかたち」を変える方法がある。

 

東京ディズニーランドという非日常空間では行列に並ぶこと自体を、それも一種のアトラクションとしてお客様をもてなそうという工夫がなされている。考えてみればディズニーランドの行列は私たちがよく街で見かけるような行列とは異なっており、行列は直線ではなく、クネクネ折り曲がって進むようになっている。もちろんその方が場所をとらないという利点もあるが、それによって並ぶ向き・景色を変えさせて、他のアトラクションを観て楽しんだり、目的を同じくして並ぶ人々の表情なども窺うことができ、長い待ち時間を飽きさせないような行列のかたちが作られているのである。[5]


 

行列を固定化させないこと、行列のかたちを変えることが提供者側がお客様にできる、行列時間を苦と思わせないサービスの一つなのである。

 

 

6.        マニュアルの功罪

 

またここではサービス提供側と密接に関わるマニュアルついて述べたい。マニュアルというのは作業内容、手順、状況に応じた対応の仕方などが文書化されたものであるが、その有無は提供されるサービスにしばしば影響を与える。マニュアルを作ってしまうと途端に、従業員はそれ以上のサービスをしなくなってしまうため、あえてマニュアルを作らず、どうやったらお客様に喜んで頂けるか、自ら考えさせ行動させることを指針としているところがある一方、マニュアルによってプロセスをきちんと定義し、その通りに実行することが必要不可欠な業種も多くある。後者はマニュアルがあることで作業が抜けなく、効率よく行える。しかし同時に問題点もある。

 

先日、アルバイト先のオーナー夫婦と某ラーメン店に行ったときに皮の端のほうが完全に火が通ってない餃子が出てきた。焼き色も写真と比べてかなり薄く、あまりパリパリしていない。私は普段あまり気に留めないことであったが、オーナーは店側に厳しく指摘していた。以下はそのときに言っていた言葉である。

 

マニュアルは当然あったほうがよい場合もあるが、しかしその結果、タイマーが鳴れば出来上がりなど機械任せとなり、自らの目で見て判断するという、お客様に提供する前の最終的な作業を怠るようになるのだ。安い商品に対して価格以上のレベルは望んでいない。しかしプロならプロとして最低限のことはしっかりやるべきだ。

 

私はこのときとても圧倒されていたが、やはりどんな業種であれ、ここまでのプロ意識を持たなければお客様にとって最善のサービスを提供し、また魅了することはできないのではないかと感じた。消費者の信頼を得、さらに惹きつけるためには、マニュアルの有無に関わらず、常にお客様目線に立ってお客様を第一に考えたサービスを提供することが求められるのである。

 

 

7.        おわりに

 

行列というのは、人々の「同調行動」と経営者側の戦略によって生み出されていることがわかったが、それと同時にさまざまな問題点が見えてきた。

 

項目3においても述べたが、「同調行動」とは、自分の意思を否定してでも、周りの行動・意見に合わせようとするため、主体性をしばしば損なうといった負の側面を持っている。私たちが現代社会で生きてゆく上で、他者との調和を保つことは重要であるため、こういった行為を一概に否定はしないが、やはり氾濫する情報に惑わされない、ある程度の確立した意志を持たなければならないのではないか。チラシ、ネットショッピングでの誇大広告に関する問題も近年多く取沙汰されているが、これも周りの情報を鵜呑みにし、正確な自己判断を行わなかったことが要因となっている。

 

これからますます発展するであろう情報化社会において、私たちはサービス提供側の戦略に「単純な消費者」として安易に乗っかってしまうようなことは避け、情報を正しく取捨選択し個々人において価値判断を下すことが求められている。また情報を提供するのであれば、責任を持ってサービスの提供側ついて深いレベルまで事細かに記述することが必要とされる。そうすれば消費者、サービス提供者双方の質が自ずと向上してゆくのではないかと考える。

 

 



[1]http://archive.mag2.com/0000173155/20051013104156000.html?page=5

ビジネス心理学 「同調行動」戦略で行列を作れ!! [まぐまぐ!]

 

[2] http://dnpa.s3.xrea.com/psy16.htm

同調。

 

[3]http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_200425_j.html

[東京大学[広報・情報公開]記者発表一覧]

 

[4] http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090415-00000027-oric-ent

若者は意外と忍耐強い? “行列に並べる時間”20代の平均は約70分(オリコン) - Yahoo!ニュース。

 

[5]http://marketing-brain.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_0710.html

マーケティング・ブレイン: 行列マーケティング 5.行列の科学: 顧客の心の中に高順位をつくる。