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小林由佳「現代における葬祭の多様性」
1. はじめに
私がこのテーマを選んだ理由は、話題提起の中で「直葬」についての記事が取り上げられたことがきっかけである。故人と最後の別れである葬儀の形態が年々変化していることに興味を持った。また、私たちはどんなに忙しくても、時間を割いて葬儀に出席する。余暇を仕事以外の時間と考えれば、葬儀の時間も余暇なのではないか、と考えこのテーマをとりあげた。
葬儀はたくさんの過程があるので、このレポートの中では主に、告別式[1](故人の霊に対し縁故・知人が告別をする儀式)から葬送(納骨など遺骨の処理を含む。)までを取り上げる。葬儀は手順に地域差あるので、関東圏で主に行われている手順で考える。
2. 告別式
東京都が都民3000人と都内葬儀関連企業300社を対象に行ったアンケートによると、家族の葬式をだす場合、50%の人が「故人の遺志を反映したものにしたい。」と「人並に営めればよい」(30%)を大きく上回る結果となった。さらに、「故人の遺志を反映したい」答えた人の43%の人は「身内でこじんまりと行いたい」と答えた。また、実際に告別式を行った人の90%が、葬祭業者を利用して式を行った。[2]
さらに調べてみると、故人の遺志を反映したいと考えていても、告別式は準備に時間的余裕がない、葬祭業者との打ち合わせが十分できないなどの理由から遺言などよほどのことがない限り、特別なことは行わずに従来通りに行うことが多いことが分かった。
また、「こじんまり行いたい」と考える人が多いことから、費用をかけず身内で行いたいと考える傾向がある。実際に、近年では葬儀を家族など極親しい人々で、最小限の儀式だけを残し、簡素で安価に行う人が増えてきている。その背景には、義理ではなく親しい人々で送りたい。高齢化によって参列者が減少したことがあげられる。
3. 葬送の変化
告別式は簡素化が進んでいるが、葬送も変化してきている。
エコな棺桶…ダンボールでできていて火葬の際、二酸化炭素や有害物質の排出量が従来に比べて少ない。環境にやさしい。1棺で10本の植林を行っている会社もある。[3]
散骨(自然葬)…お骨をパウダー状にし、海などにまく。広い意味では、以下にあげてある樹木葬など自然の大きな循環の中に回帰していこうとする葬送の方法の総称。[4]
樹木葬…墓石の代わりに、自分の好きな樹木一本を選びその足元に骨壺を埋める。その際、バイオ骨壺を用いることがある。[5]
バイオ骨壺…土に還る自然に優しい骨壺。環境を汚す心配がなく、土や海の中では完全に分解される。墓地がなくても自宅の庭や畑で遺骨を骨壺のまま土に帰すことができる。[6]
お骨のダイアモンド…お骨を素材にダイアモンドを作り、アクセサリーなどにする。他大切な人との別れは辛いことであるが、形に残すことで思い出がいつまでも手元に残る。[7]
など様々な葬送の形が登場してきている。葬送の多様化は、生活環境の変化や価値観の多様化に起因しているのではないか。
4. 考察
死者にとっての最後の自己表現の場である葬儀は「出してもらう」から「自分で選ぶ」時代へと変化していると思う。しかし、亡くなってから告別式が終わるまでは、遺族は準備や打ち合わせに非常に忙しく、何か特別なことがない限り告別式を思い出深いものにするのは難しいのではないか。
核家族化進み、家族が別々に暮らしている現代の日本は、家族や参列者が集まるのに時間がかかり告別式は最低限の儀式を残し、ますます簡略化するのではないかと思う。
一方で、ある程度時間的余裕がある火葬後の遺骨の処理は故人の遺志を反映しやすい。告別式はほんの数時間で終わってしまうものだが、葬送は散骨などを除き、半永久的に残るものなので、多様化が進んだのではないか。
エコ棺など、環境に配慮した葬送が目立っている。「死んだら自然に還る」という考え方から、自分がいずれ還る場所を大切にしようとするあらわれではないか。
樹木葬は、少子高齢化や晩婚化によって、健康面や距離的問題などでお墓参りにいけない人が多い。お墓を建ててものちの管理が出来ないので、従来のような「墓石」という形よりも、世話をする必要があまりない自然に還るような葬送が現れているのではないか。
また、景観の問題もあると思う。墓石が並んでいたら、なんとなく気味悪いが、樹木(林)だったどうだろうか。また、樹木は「環境」という側面で見ても地球にやさしい。
5.おわりに
葬儀は人の死が絡んでいるものなので、大々的に宣伝されてはいないが、自己表現や環境への配慮など従来にはなかった考え方が出てきている。
現代は、核家族化などにより、家族の共同体の崩壊してきている。それに伴い、葬儀を簡単に、安く済ませる傾向がある。しかし、それは故人を軽んじているとは言えないと思う。家族の形が多様化し、亡くなった人との絆は愛情や思い出などの情緒的関係になりつつある中で、葬儀が変化することも自然なことである。要は、形よりも気持ちが重視されているように思う。
大切な人を亡くすのは非常に悲しくつらいものだが、その人らしい葬儀を選ぶことで、心が癒される、落ち着くと感じることが大切である。
註