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安達恵梨子「日光における観光」
1.
はじめに
私が、宇都宮に引っ越してから今年で三年目になり、宇都宮市内をはじめ栃木県内の観光スポットに行く機会がたびたびあった。栃木を観光するにつれて、少しずつ栃木に慣れ親しみ、愛着がわいてきた。
昨年の11月、私は日光を訪れた。いろは坂の紅葉や華厳の滝に、非常に感動した。そこで、栃木県で有名な観光スポットである「日光」について、その観光状況や観光振興における取り組みについて探っていきたい。そして、観光と余暇について考えていきたい。
2.
日光とは
日光は、豊かな自然と長い歴史が調和した地域である。奈良時代末期、日光山が勝道上人という人物によって開かれ、関東における山岳仏都として信仰を集めるようになった。
江戸時代に入ると、日光には東照宮が造営され、二荒山、輪王寺とともに二社一寺の門前町として諸大名の参詣などにより栄えた。これらの社寺は、世界遺産に「日光の社寺」として登録されている。そのほかにも、「ラムサール条約」登録湿地の「奥日光の湿原」、日本屈指の温泉地として有名な鬼怒川温泉、世界的な産業遺産の「足尾銅山」、特別天然記念物の世界一長い並木道の「日光杉並木街道」、「いろは坂」や「華厳の滝」など、豊かな自然や歴史的文化遺産、良質な温泉など各地域の個性ある観光資源に恵まれており、世界に誇る観光地である。[1]
3.
日光観光の現状
日光市内の平成20年の観光客の入込数は1127万3327人であり、前年に比べて約36万人減少した。宿泊数においても、369万5682人で、約12万7000人減少している。日光市は「ガソリン高騰による自家用車の利用減少と、年後半の世界的不況が影響した」と分析している。しかし、原油高が収束した10月には、紅葉の時期でもあり、今市、日光、藤原の3地区の入込数が前年比増を記録している。また、12月は暖冬で雪が少なく、自家用車で来る観光客が多かったため、入込、宿泊とも増加しており、全体では減少に転じたが、月別に見ると増加の傾向も見られる。
外国人観光客の宿泊動向をみると、上位は台湾、香港、韓国である。円高の影響で台湾と韓国からの観光客が前年比15〜20%近く落ち込んだが、中国を含むその他のアジアは大幅に増加している。欧米は横ばいや微増である。日光市長は21年の見通しについて、「ETCの割引やガソリンがまた高めになってきたため、近場で楽しむ人が多くなり、いい方向に行く」と話し、増加に転じるとみている。[2]
このように外国人宿泊客数については、着実な伸びを示しており、特にアジアからの来訪者の増加が顕著である。さらに、栃木県の外国人宿泊客の約60%を日光市が占めている。[3]
4. 観光への取り組み
日光市は、日光市総合計画(平成20年3月策定)において、街づくりの基本施策のひとつとして、観光を次のように位置づけている。
当市の基幹産業である観光については、農林業、商工業、スポーツなどとの融合を図り、観光の可能性を広げていくために、従来の優れた自然・文化資源などに加え、身近な農山村の風景や特産物、工業における産業資源や製品(食品)、スポーツ施設などを観光資源としてとらえ、これらのネットワーク化を図る。[4]
このことからわかるように、日光市において「観光」は基幹産業であり、市を挙げて観光政策に取り組んでいる。以下に実際の取り組みを紹介する。
●日光・観光パンフレット
日光地区観光協会連合会などが2種類の観光パンフレットを作製。観光協会や市役所、各総合支所などを通して配布している。
◇「行こう日光」―日光地区観光協会連合会
広げると市内全域の地図になり、花や紅葉の名所と時季が分かる。自然、歴史などのテーマで名所を写真で紹介したほか、日帰り温泉の一覧表も掲載。
◇「2009夏号」―日光観光圏協議会
夏の行事などを写真入りで説明し、旅行のモデルプランや電子マネー取扱店の一覧を掲載。[5]
●駅構内で日光への道案内
観光案内や通訳のボランティアグループ「宇都宮SGGクラブ」が、JR宇都宮駅構内で世界遺産の日光を訪れる外国人向けの観光案内をしている。宇都宮駅の協力を得て、構内の日光線乗り場付近にブースを設置し、SGGクラブのメンバーが日光を訪れる外国人観光客に道案内をしている。駅での案内は土日の午前9時から午後1時まで行っている。1日に平均約50人、多いときで90人が利用している。イギリス、スイス、ロシアなどヨーロッパからの観光客が多い。[6]
●日光山輪王寺の薪能
世界遺産バックに薪能世界遺産の建造物や自然景観を背景に日光山輪王寺の薪能が8月に演じられる。7月1日から、前売りチケットが販売になる。能楽「清経」「楊貴妃」、狂言「惣八」など、2日間で10演目を予定している。[7]
●電子マネーを使える観光地づくり
JR東日本のSuika(スイカ)や私鉄系のPASMO(パスモ)などの交通系電子マネーを観光圏内全域の飲食店、物産店、宿泊施設、観光施設などで使えるようにし、観光圏全体で交通系電子マネーの導入を推進している。「日光観光圏」整備実施計画という、国土交通省の進める観光圏整備事業を受け、今後は利用可能な店舗・施設を順次拡大していく。
日光市全体を「観光圏」として、国の補助金などを活用しながら5カ年で38事業を展開する。電子マネーの導入促進は、市が進める日光観光圏整備計画の中でも柱となる事業であり、利用できる店舗を増やそうと説明会を開いて呼び掛け、これまでにホテルなどを中心に32店舗に導入された。来年3月までに市内全体で200店舗での導入を目指している。 日光市長、日光地区観光協会連合会やJR、東武鉄道は、東武日光駅前などで導入推進のためのセレモニーを行うなどして、PRしている。[8]
●鬼怒川温泉「地域再生」への取り組み
国から地域再生計画の認定を受けた日光市は、足湯や公園などの施設整備に着手し、産業再生機構はホテルの経営再建支援に乗り出したが、温泉街全体に活気を取り戻すためには「地域の主体的な取り組みが欠かせない」とし、外国人客の誘致に着目している。
中国を訪問し、観光当局や旅行エージェントへの働きかけにより、中国のエージェントやマスコミが鬼怒川温泉にやってきた。これに伴い、観光協会は、受け入れ態勢を整え、浴衣の着方など外国人向け宿泊ガイドを作製した。宿泊施設間で情報を共有化し、外国人客の受け入れ先を紹介し合う動きも出てきており、ホテルや旅館等の地域の一体感も生じた。
温泉街を挙げて観光客を迎え中国の旧正月を祝う「春節祭」という祭りも行われている。10月には中国の大型連休に合わせ「秋の宵まつり」が開催され、明かりで夜の散策を演出する新イベントが予定されている。[9]
5.
日光市における「観光」についての課題と政策
日光市は平成17年の合併に伴い、合併後の日光市における観光の抱える課題を以下のとおり整理している。
ア 各地域を訪れている観光客をその他の地域への周遊に結びつけられていない。
イ 合併した旧5市町村間の連携が十分でなく、情報の共有化が図られていない。
ウ 豊富で質の高い観光資源間の連携が図られておらず、相乗効果の潜在能力を
十分発揮できていない。
エ 魅力的な温泉が存在するが、温泉地間の連携やニーズの多様化への対応不足から
宿泊客数が低迷している。
オ 増加傾向にある外国人観光客の定着化、更なる誘客促進。[10]
1.2.で述べたように、日光市は豊富な自然や歴史的・文化的資源が残存し、観光スポットとして誇るべき地域である。しかし、経済不況等の影響により、日光を訪れる人の数は減少傾向にある。
上に挙げた日光市のまとめた課題のとおり、日光を訪れた観光客が周辺の店等を利用しなければ、日光市の観光産業は活性化しない。観光産業の活性化のためには、日光という土地の宣伝も含め、その地域周辺の店舗等の宣伝も同時にしていく必要がある。
また、サービスの質の高さも必要である。実際、私が日光を訪れた際、土産屋や飲食店がたくさんあったが、それらをもっとアピールする看板や広告があってもよいのではないかと感じた。お昼に立ち寄った店でも、日光名物の湯葉を使用した料理が売り切れていて、残念な思いをした。日光市の観光産業が今後よりいっそう活性化するためには、以下のことが必要であると考える。
・ 「日光」のアピール
世界遺産にも登録され、世界的知名度のある「日光」という地域の素晴らしさを、国内外を問わず世界的に発信し、アピールする。4.に挙げたような「日光パンフレット」の作製や、駅や高速道路などでの日光の宣伝などにより、人々が「日光」について知る機会が多くなれば、日光に関心を持つ人も増え、観光客の増加につながるのではないだろうか。
・ サービスの質の向上
日光にある土産物屋、飲食店、宿泊施設等においてそのサービス提供を見直し、改善する。従業員の接客態度および、サービス自体を見直し、観光客が満足いくサービスの提供をしていく。そうすれば、一度訪れた観光客はまた日光を訪れたいと感じ、リピーターが増加し、観光客減少の傾向を改善させることができる。
・ 地域一体のイベント
日光地域が連帯し、さまざまなイベントを開催することによって、日光への関心を高める。日光の自然の素晴らしさを知るツアーなど、日光の特性や観光資源を際立たせるようなイベントを開催する。現在、そばまつりや冬イベントが行われている。
・ 利便性の向上
観光客が利用しやすいように、交通を整備したり、4.にも挙げられているように電子マネーを導入したりするなど、利便性の向上を図る。[11]
6.
おわりに
日光は、素晴らしい自然に恵まれた地域である。余暇時間を雄大な自然に委ね、癒されたいという感情は誰もが持つものであり、人間の本質である。しかし、現代では、自然に触れ合う機会や、余裕がない人々が大勢いる。それは、とても残念なことである。「自然離れ」、また「観光離れ」が進んでいる現代において、今回取り上げた日光のような観光振興への取り組みを行っていくことは、その地域の活性化だけではなく、人間の余暇活動においても大変有意義なことだと思う。自然の素晴らしさに触れる余暇活動は、社会・経済状況が行き詰まり、息苦しい現代において、最も必要なもののうちのひとつではないだろうか。
註
[3] http://www.city.nikko.lg.jp/kurasi/gyosei/shisei/kankou/documents/nikkokankouken.pdf#search='日光%20観光%20動向'
日光市ホームページ「日光観光圏整備計画」P.5
[4] http://www.city.nikko.lg.jp/kurasi/gyosei/shisei/kankou/documents/nikkokankouken.pdf#search='日光%20観光%20動向'
日光市ホームページ「日光観光圏整備計画」P.2
[8]http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/region/news/20090508/144829
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/region/news/20090625/164771
下野新聞SOON
[10] http://www.city.nikko.lg.jp/kurasi/gyosei/shisei/kankou/documents/nikkokankouken.pdf#search='日光%20観光%20動向'
日光市ホームページ「日光観光圏整備計画」P.10
[11] http://www.city.nikko.lg.jp/kurasi/gyosei/shisei/kankou/documents/nikkokankouken.pdf#search='日光%20観光%20動向'
日光市ホームページ「日光観光圏整備計画」P.10・11