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ウエダ ミリアン ナオミ 「日本人若者の海外旅行離れについて」
最近、日本人若者の海外旅行離れが話題になっている。私は、今年のゴールデンウィーク中にテレビニュースでこのことを知った。これは私にとって意外な現象であった。なぜなら、日本は昔よりも国際化したし、自分の周りの学生が長期休みの時に海外旅行へ出かける姿をたくさん目にしてきたからだ。私は逆に若者の海外旅行者数は増えているのだと思い込んでいたのである。だから、日本人若者の海外旅行離れについて興味を持った。さらに、私がこのことについて興味を持ったもう一つの理由は、なぜ日本人若者の海外旅行離れは深刻な問題として受け止められるのか私には理解できなかったからである。これは、旅行会社のみの問題であって、日本自体には逆に国内旅行が増えるという点で有利ではないかと思ったのだ。
海外旅行をする日本人若者が年々減少している。国際化が進み、海外の行き来は以前より容易になったのにも関わらず、なぜ日本人若者の海外旅行者数は減っているのだろうか。日本人若者の海外旅行の傾向や、現状、問題点などについて調べ、その原因や影響、対策等を明らかにしていく。
はじめに、海外旅行の動向について見ていく。日本人海外旅行客数は、1980年代後半からの円高の影響もあって急速に増加した。そして、1990年代に旅行マーケットをリードしてきたのは20代の若者たちであり、1987年には20代の海外旅行経験者が10%を超え、1994年には20%を超え、1996年には24%までいった。しかし、この年をピークに、海外旅行をする若者が年々減っているのである。ちなみに、JTBの20代若者の旅行動向調査の結果によれば、過去3年間2〜3回以上海外旅行に出かけた人は28%となっている[i]。法務所の出国管理統計によると、2007年の海外旅行者数(出国者数)は前年(1753万人)に比べ、24万人(1.4%)減少し、1729万人であった。2003年以来、4年ぶりの現象である。さらに、1998年以降の出国者を年齢別に見て、1998年と2007年を比較すると、40代と60代がそれぞれ増加している一方、10代、20代、30代、50代がそれぞれ減少している[ii]。
上記のデータで、日本人若者の海外旅行者数が減少していることがはっきりとわかる。しかし、海外旅行への意欲は決して弱いわけではないのだ。JTBの20代若者の旅行動向調査の結果によれば、30万程度のまとまったお金があった場合の使い道として、20.4%が「海外旅行」、17.3%が「貯金」、12.5%が「国内旅行」をあげたのだ[iii]。
では、海外旅行離れの原因についてあげていく。まず、経済的理由がある。これにはニートやフリーターの増加、ネットカフェ難民の顕在化などにみられる収入格差、そして非正規雇用者の増加が含まれる。このことについて、私は身近なものとして感じる。なぜならば、ニートの友達がいるが、その人は国内旅行をすることさえ難しいのに海外旅行はもってのほかであるからだ。さらに、物価の上昇も日本人若者の海外離れの大きな原因はであると思う。毎日のように話題になる原油高による燃料や食品などの物価の上昇は海外旅行を妨げるのだ。単に旅行代金が高くなるからではない。日本でお金を消費してしまい、海外旅行をする余裕がなくなるのである。
次に、海外旅行が昔ほど特別でなくなっていることがあげられる。携帯電話やインターネットが普及している現代、若者のお金の使い道が、携帯電話やパソコン関連に消費されるようになったり、便利なパソコンひとつで世界中の情報が楽しめる『頭の中の旅』が新鮮さを奪ったりしてしまったのだ。その結果、多くの若者はそれだけで満足してしまい、わざわざ海外旅行をする必要を感じなくなってしまった。最も大きな原因であると思うのは、旅先でのトラブルが心配という人が大勢いることである。外務省の「海外安全に関する意識調査」によると、海外旅行または滞在した際、トラブルにあった経験がある人は7.5人に1人いるのだ。具体的な内容には病気、すり置き引きなどの盗難、旅券や財布の紛失、内戦や騒乱、デモなどの政治問題に起因する緊急事態などである[iv]。それらの不安意外にも、言葉が通じない、治安や伝染病、食べ物や衛生面の不安もある。特に日本人はお金を持っている、騙しやすい、狙いやすいというイメージを持っている。日本人は平和ボケをしており、海外でも日本にいるときと同様に過ごし、油断をしてしまうのだ。自分や自分の家族も実際、日本に10年以上住んでおり、日本の平和に慣れてしまい、外国へ行ったり、ブラジルに帰国したりすると油断してしまう。ちなみに私は、オーストラリアへ旅行した際、スリに会ったことがある。
ここでは、海外旅行先でのトラブルをいくつかあげる。一番危険なのはタクシー強盗だ。乗ったタクシーがどこかわからない所へ連れて行ってホールドアップ、ということがあったり、仲間のところまで行って荷物を全部取られたりするといったケースがある。わざと目的地から外れた路地で下ろしたりして、待ち構えている強盗に襲わせるケースもある。相場より高額な料金を請求する人もいる。観光地を歩いていると、2,3人の物売りが何か買ってくれとせびってきて、観光客の注意を奪い、別行動しているスリがその隙にかばんやポケットから財布やカメラを盗んでしまうケースもある。他に、旅行者と仲良くなり、その仲間意識や良心を狙った詐欺のケースや、ドミトリーで自分が寝ている間やシャワーの際にものが盗まれているケース、クレジットカードで買ったものの値段が、買った当時の値段と請求書の値段が違うケース、空港でのスリや置き引きなどがある[v]。
その他に、海外旅行離れの原因については、社会的な風潮(子供に対する親や社会の過保護な姿勢)や休みが取れない、一緒に行きたい人とのスケジュールが合わない、などがあげられる
若者の海外旅行者数が減る一方で、国内旅行は人気である。JTBの20代若者の旅行動向調査の結果によれば、旅行業界では国内旅行の伸びが懸念される中、若者のあいだで国内旅行の人気が高いことが分かった。過去3年間で平均1回以上観光目的の国内旅行に出かけている20代女性は80.0%、男性は77.8%で、全体では78.9%にのぼった。そして、半数以上が年平均2回以上、国内旅行をしていた。さらに、今年国内旅行に行く予定があり、具体的に計画を立てているという若者は29.4%で、具体的な計画はしていないが、出かけたいと考えている回答者は38.6%であった。この2つを合わせると、国内旅行に積極的な若者の割合は68.0%にのぼる[vi]。
では、国内旅行人気の原因について見ていこう。まず、間近な国内旅行なら、少ない金額、少ない日数で行けることがあげられる。そして、日本は自然、歴史、都市、テーマパーク、異文化とビーチリゾート、温泉、グルメ等、観光素材が豊富であり、さらに言葉が通じるし、何よりも安全であることから、安心して気楽に旅行ができるのである。毎年国内旅行している立場として、私はこれらのことを強く実感している。特に経済的な面は重要であると考える。海外旅行へ行き、大金を費やすよりも、国内で様々な観光地を訪れる方が、安全であり、お財布にも優しいのだ。
次に、海外旅行者数を増やす対策について述べる。昨年度の日本からの海外旅行者数は、若者の海外旅行離れや、地方における出国者数の伸び悩み、個人消費の低迷等により、1730万人弱となり、前年実績を割り込んだが、日本の閉鎖性が強まらないよう、日本旅行協会(JATA)は2008年4月、海外旅行者数を2010年までに2000万人にすることを目指し、「ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)」推進室を設置した。国際社会の中で日本の役割を高め、理解してもらうために、外国人の訪日旅行とともに、日本人の海外旅行も振興し、相互交流を図る重要性を考慮した対策だ[vii]。キーワードは「若者」と「地方」であり、修学旅行や職場旅行で海外旅行をするよう促す取り組みをする予定である。
日本若者の海外旅行者数が減少するのは問題であるが、なぜ問題なのだろう。様々な調べをした結果、自分の考えをまとめる。まず、最も困るのは旅行業務に携わる人々であると思う。なぜならば、いかなる旅行会社も様々な海外旅行を展開しているのだから、海外へ行く若者が減ってしまうと、それだけ旅行会社間の競争も厳しくなるだろうからだ。さらに、旅行客が減ってしまえば、旅行業で、大幅な人員の削減も起こりうるだろう。それだけではない。国際関係も関わってくると思う。訪日外国人が増加している現代で、日本人が海外へ行かなくなることは、外国側からしたら、「日本人の外国に対する関心が薄れている」と思われてしまう恐れがある。大げさに言えば、日本は「孤立した国」としてみなされてしまう。そうすると、訪日外国人も減ってしまうのではないかと考える。
[i]http://www.jtbcorp.jp/scripts_hd/image_view.asp?menu=news&id=00001&news_no=821(JTB広報室yasoji_kato「20代若者の旅行動向調査」2008年3月)
[ii] http://www.moj.go.jp/TOUKEI/gaiyou/nyukan-1.pdf(法務省「出入国管理」2008年6月)
[iii]http://www.jtbcorp.jp/scripts_hd/image_view.asp?menu=news&id=00001&news_no=821(JTB広報室yasoji_kato「20代若者の旅行動向調査」2008年3月)
[iv] http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/pubanzen/image/2007_02.gif(外務省「海外安全に関する意識調査」2008年3月)
[v] http://www.tabiplus.com/info/trouble/index.html#taxi(トラブルインフォ「海外旅行のよくあるトラブル事例の具体例と対策の紹介」)
[vi]http://www.jtbcorp.jp/scripts_hd/image_view.asp?menu=news&id=00001&news_no=821(JTB広報室yasoji_kato「20代若者の旅行動向調査」2008年3月)
[vii] http://www.jata-net.or.jp/jata_n/release/pdf/vwc_chanpinfo.pdf(社会法人日本旅行協会「VWC ビジット・ワールド・キャンペーン行動計画概要書(案)」)