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ワンセグ放送から見る余暇 〜テレビのあり方の多様化〜
【1.はじめに】
2006年4月1日からワンセグ放送が始まったことにより、電波の受信できる範囲にいればいつでもどこでもきれいな画質のテレビを見ることができるようになった。そもそも「ワンセグ」とは地上デジタル放送のサービスのひとつで、携帯電話型受信機などの移動体でも安定して受信ができるように設計されたサービスのこと[1]である。このレポートではワンセグ搭載製品のメリットとデメリット、ワンセグ放送によるテレビのあり方の多様化、そして将来ワンセグ放送がどのように発展していくかについて述べていく。
【2.ワンセグ搭載製品の拡大】
我々が一番「ワンセグ」と聞いて想像するのはやはり携帯電話ではないではないだろうか。実際に2008年3月末現在でワンセグ対応携帯電話の出荷台数は28,832,000台[2]であり、全携帯電話契約数が2008年3月末現在で102,724,500台[3]であることから考えると、ワンセグ対応携帯電話は全携帯電話の契約数の約28%、つまり携帯電話を所持している4人に1人以上がワンセグを見ることができるチャンスを持っている。しかし、「携帯電話の画面では小さくて見にくい」「安定した受信がしにくい」などという声があり、ワンセグ機能があっても使わない層が少なくないという[4]。その一方で、「携帯電話よりもう少し大きく、鮮明な画面で番組を見たい」「録画した番組を移動中や仕事の合間に見たい」というニーズが高まり[5]、従来の電子機器にワンセグ機能を搭載した製品が登場してきた。
まず、はじめに高校生、大学生の必需品である「電子辞書」である。シャープの「Papyrus(パピルス)」という電子辞書の一部製品にワンセグ機能が搭載している。「テレビの情報力に百科事典の情報量をプラス」[6]というキャッチフレーズをつけていることからも分かるように、テレビからのリアルタイムな情報も手に入れることができ、これこそ完璧な電子辞書と言っても過言ではない。また、画面も携帯電話よりも大きく、持ち運びにもかさばらない。しかし、電子辞書にワンセグ機能をつけることにより、「学生が授業中にテレビを見る」などというようなことが起きてしまうことはないであろうか。たとえ音声を出さなくても、ワンセグ放送には字幕が出る番組があるため、それを読めば音声を出さずに済んでしまう。使い方を間違えると勉強をサポートする電子辞書が、本来の趣旨に反して勉強を妨げてしまうものになってしまうということは問題である。
次に、大部分の車に搭載されている「カーナビゲーション(以下カーナビ)」である。ワンセグが初めてカーナビに搭載されたのは2006年の10月であり[7]、それ以来ワンセグ機能搭載のカーナビの種類はどんどん増えている。以前のアナログ放送を受信できるカーナビでは、車が停車中の時には映像が映っても、走行中には音声は受信できても映像が乱れてしまい見ることができないこともあった。その一方、ワンセグ機能搭載のカーナビの場合は、受信エリアに入れば映像は乱れることなく受信され、番組を見ることができる。しかし、いつでも映像が見られてしまうという利点が問題になるかもしれない。車の走行中は基本的にテレビの映像を見ることができないが、カーナビに細工をすることで走行中でもテレビを見ることが可能になっている。今までのアナログ放送を受信できるカーナビでは走行中に映像は乱れていたため、運転手は音声だけを楽しんでいたと思う。しかし、ワンセグ機能搭載のカーナビでは走行中も映像を受信するができるため、運転手がその映像を見ることで事故を引き起こしかねない。技術の進歩が新たな問題を生み出してしまったと考える。
このほかにもワンセグ機能を搭載した製品として「携帯音楽プレーヤー」や「DVDプレーヤー」、「パソコン」などが挙げられる。次のセクションではこのような製品の登場によってテレビのあり方にどのような変化が生まれたかについて考えていきたい。
【3.ワンセグがもたらすテレビのあり方の多様化】
以前テレビは置いて見るものであった。しかし、ワンセグの誕生によりテレビが「小型化」し、「持ち運べる」ことができるようになったため、テレビのあり方が多様化したと考えられる。
まず、視聴する際の人数が変わったと考える。昔、テレビは家族や友達などと多人数で一緒に見る傾向があったが、一人で楽しむという傾向に変わってきたと考えられる。「小型化」そして「持ち運べる」という要素はテレビのある場所へ行かなくても、自分の好きな場所でテレビを楽しむことを可能にした。また、一人ならば視聴番組争いをする必要性がないという利点もある。
次に、移動中に見ることができるため、通勤・通学や旅行の移動時間にテレビを見るようになったと考える。今までは通勤・通学の時間が重なってしまい見ることのできなかった番組も見ることができ、また仕事や講義中に放送された番組を予約し、それを通勤・通学の時間に見ることもできる。テレビが「小型化」し「持ち運べる」ようになったおかげで、移動時間をより楽しめるようになった。
最後に、タイムリーに行動に移し、実践することができると考える。例えば、ワンセグ機能を搭載した電子辞書をキッチンに持って行き、放送されている料理番組を見ながら実際に調理することができる。また、ゴルフの練習番組を見ながら実際にゴルフの練習をすることができる。このように即座に行動に移すことができるのも、「小型化」、「持ち運べる」という要素がなくてはならない存在である。
以上述べたように、ワンセグが我々のテレビのあり方を多様化させていることが分かる。
【4.ワンセグ製品の今後の展開】
2008年6月7日付けの朝日新聞の記事[8]では、ワンセグの拡大はスポーツ需要が拡大の鍵であるという。
『今年4月から、従来の地上デジタル放送とは異なる、ワンセグ独自の番組を流すことができるようになりました。
日本テレビは独自のプロ野球中継を今シーズンから開始、NHKも来年4月から、語学や歴史ものでの独自放送を検討するなどの動きがありますが、まだ手探りのようです。例えばスポーツ番組などに特化した編成にして、視聴者を絞った広告モデルを作ることが可能かどうか、テレビ局側も見極めたい考えです。
メーカー関係者は「今のところワンセグの利用者は、ニュースとスポーツをリアルタイムで見たい層が比較的多いようです」とみています。今年の北京五輪やサッカーW杯予選などの、大きなスポーツイベントに際しての利用が、ワンセグの今後を占う試金石の一つになることが予想されています』
という記事が掲載されていた。確かにリアルタイムで見ることがスポーツ観戦番組では重要視されるため、どこでも見られるというワンセグはとても適していると私も考える。このような番組をより楽しむために、より高画質に、そしてまるで本当の試合会場にいるかのような臨場感あふれるサウンドが楽しめる製品が開発されることが望まれる。
【5.感想・まとめ】
これまでワンセグについて述べてきた。ワンセグはたくさんの便利な面を持つ一方で、その便利さがかえって新たな問題を生み出し、それを促進させていると考える。例えば「いつでも・どこでも楽しめる」という点においては「モラルの低下、マナーの悪化(例えば電車の中など)」の要因の一部になっていると考えられることができ、「一人で楽しむ」という点においては、人間関係(特に若者)の希薄化とつながっていると考えられる。我々はこのような問題点があることを認識した上で、ワンセグを余暇の一部として上手に使っていったらよいのではないかと考える。