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野本拓也「まちづくりにおける住民参加の意義」
1、21世紀における地域活性化の切り札『まちづくり』
昨今、日本では地方分権が叫ばれている。
地方への財源移譲や道州制の導入を検討するといった話を全く聞いたことが無いという人は
おそらくそう多くはないはずだ。
こうした世の流れに呼応するように地方では「地域における様々な課題やその地域独特の問題を地方自治体とその地域住民が協働し、解決していく」という活動が盛んになりつつある。
これこそがまちづくりでありその動きには質、量ともに目を見張るものが存在する。
厳密にいえばまちづくりには明確な定義は存在しないのだが私のレポートではこれを
定義としておく[1]。
本レポートではまちづくりの中でも住民参加、そこに住まう人々が主体的に地域
の問題解決に取り組むことの意義を考察していく。
2、まちづくり×生涯学習の可能性
文部科学省ではまちづくりに関して住民参加の重要性を指摘している。
平成16年3月の「生涯学習の推進による住民主体のまちづくりに向けて」−地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書−[2]の調査の概要においても
「地方分権時代に積極的に対応し、地域の個性を活かしたまちづくりを推進していくため
には、行政だけでなく地域住民の主体的な参画が不可欠であり、各地では都市計画
マスタープラン等の行政計画策定における住民参画を進めるなど、住民参加のまちづくり
への機運が高まりつつある[3]。」と住民参加が必要不可欠であることを強調している。
そのなかで住民参加を促すために着目されたのが生涯学習である。
報告書では地域住民は生涯学習において学んだ成果を実際にまちづくりに活かすことで学習やまちづくり活動への意欲を高め、またそのまちづくり活動自体を生涯学習の場とすることができるとした。
さらにそうしたことから生涯学習によってまちづくりを牽引するリーダーを育成する
ことも可能だということを主張している。
この提言の狙いはこうした相互補完の関係を作り出すことで生涯学習とまちづくりの相乗的な効果の増進にあるとみていいだろう。
だが、この主張はまちづくりと生涯学習が相互補完関係にあることが前提となっている。
それが証明できなければこれらの主張は空論となってしまう。
そこで次は実際にまちづくりに携わっている方の話を基にその関係性を証明する。
3、『まちづくり』の持つ『にんげんづくり』効果
「『にんげんづくり』が『まちづくり』なのではないでしょうか。」
この言葉こそ私がまちづくりに対して強い興味を持つきっかけとなった言葉だ。
昨年私がNPO法人「飛山城跡愛護会」の代表であり、実際にまちづくりの最前線に
立って活動していらっしゃる篠原要一氏にインタビューを行ったときのことである[4]。
「『まちづくり』とは篠原さんにとってどういうものなのでしょうか。」
そんな質問を私はインタビューの最後に投げかけてみたのだ。
その問いに対して氏は「『まちづくり』の本当の心とは子どもたちに心のふるさとを残させる
ことにあるのではないか。子どもたちが大人へと育っていくなかで心のふるさと、何か心に
残る楽しい思い出こそが人として在る上で重要なのではないか、そしてそうした思い出を作る
ことができる場を作っていく。つまりは――――――」
ここに続くのが冒頭の台詞というわけである。
篠原氏は主に子どもたちに『心のふるさと』、すなわち楽しい思い出をつくってあげることを
にんげんづくりとしていた。
しかし、私はこのにんげんづくりという言葉はもっと広い意味を持つものであると考えている。
例えば篠原氏は愛護会のスタッフひとりひとりの考える力というものを重視し、
それを伸ばすことを意識した教育を行っていらっしゃった。
また、インタビューの中で私は組織を運営してきた中での苦労話などを聞いた。
設立当初、資金が乏しいなかでそれでも一定の成果を上げていかなければならなかったこと。
イベントを行った際に他の団体との利害関係が折り合わずその団体から苦情が来たこと。
飛山城跡愛護会はそうした困難を創意工夫や粘り強い努力でもって
乗り越えるたびに成長してきたはずだ。
このような経験は愛護会に所属する人々にとってプラスに、すなわちにんげんづくりに
なったといえるだろう。
事実、最初は何かとスタッフに指示を出していたが自らのノウハウや技術を教えていくことで
今では一人一人が何をすれば公園がよりきれいになるか、よくなるかを考えながらやってもらえるようになったという。
これらのことから、明らかにまちづくりは地域の活性化や課題の解決だけでなく
その参加者ににんげんづくりという様々な学習効果をもたらしていることがわかる。
しかもそれはまちづくりという特殊な環境下での学習という特性を持つことから、
学校ではなかなか学べないものをも学ぶことができるのだ。
机に座っての勉強では得られない、得られなかったことを
まちづくり活動のなかでは老若男女問わず学ぶことができるのである。
以上のことからまちづくりがにんげんづくりという生涯学習としての側面を持っており、
さらにその学習効果がまちづくり活動そのものにも活かされていることは疑いようがない。
そしてここに住民主体でまちづくりを行っていくことの最大の利点がある。
つまり、行政に全て丸投げするのではなく住民自らがまちづくりの担い手となることで
よりよい『まち』と『にんげん』を同時進行でつくっていけるのである。
そもそも『まち』というのは建物や土地だけでなく、そこに住まう住民も含めることで
初めて『まち』と呼べるのではないだろうか。
そこに住む『にんげん』ごと育てていくものこそが真のまちづくりだと私は考えている。
4、今からでもできる『まちづくり』
では、その住民主体のまちづくりをどうやって広げていくかという問題がある。
文部科学省の報告書ではこの課題に対し、生涯学習によるまちづくりに向けた行政システム
の整備やまちづくりへの気づきを生む多様な主体が交流する場や機会の創出などの策を打ち出している[5]。
政府としてこの対応は妥当だと思うがそれでも多くの住民の参加を促すのは難しいだろう。
何しろこれらの対策は住民が自ら望んで参加しなければ意味がないものだからだ。
私自身もそうだったが何かのきっかけがあって『まちづくり』というものについて
よほど強く意識しなければそもそもそうしたイベントには参加したがらないだろう。
よってまずはそのきっかけのきっかけをつくることが必要ではないだろうか。
そこで最後に私から今からでも手軽にできるまちづくりを提言したい。
今まで述べてきたように『まちづくり』と『にんげんづくり』には密接な関係がある。
つまり、あなたが行うあなたのための『にんげんづくり』も大きな目で見れば
それは十分『まちづくり』となりうるのだ。
そのことが自分の住んでいるまちについて考えるきっかけになるかもしれない。
さしあたっては今あなたの足元に転がっているごみを拾うところから始めてみてはどうだろうか。
些細なことかもしれないが、これもまた身の回りの環境をきれいな状態に保つという
れっきとした『まちづくり』なのだ。
参考文献
[1] 7月1日付 まちづくり –Wikipedia-
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A
[2] 7月1日付 「生涯学習の推進による住民主体のまちづくりに向けて」−地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書− ――文部科学省―
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/chiiki/chousa/04082401.htm
[3] 7月1日付 生涯学習の推進による住民主体のまちづくりに向けて」−地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書− 調査の概要 ――文部科学省―
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/chiiki/chousa/04082401/002.htm