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加藤遥「歌舞伎と余暇政策〜観客数増加の観点から考える〜」

 

1.はじめに

近年、能や狂言は観客数が減り不振にあえいでいる。しかし、ここ数年同じ伝統文化である歌舞伎は観客数が増え大きく成長した。1なぜ歌舞伎は観客数を増やし、成長することができたのだろうか。このレポートでは歌舞伎の観客数が増加した理由を明らかにし、今後さらに成長するにはどのようにしていけばいいのかについて考えていく。

 

 

2.歌舞伎の歴史

「歌舞伎」と聞くと、昔からの伝統芸能で何か敷居が高いとか堅苦しいと考える人が多いのではないだろうか。確かに歌舞伎には三味線、尺八などの伝統的な楽器や独特の言葉遣いがあり馴染みにくい部分もある。しかし、豪華な装置や綺麗な衣装、力強い演技など見る人を圧倒する力をもっている。それに、歌舞伎はもともと大衆の娯楽であり、歌舞伎の源流になる芸人たちは川原の近くで踊っていた。2踊りの内容も当時の事件や噂をもとに構成されており風刺劇の意味合いが強く、内容は普通の人向けである。そして、現在でも受け継がれてきた文化により当時の劇と変わりない劇を見ることができる。歌舞伎を見ることは日本の伝統芸能に触れるのと同時に江戸時代の文化にも触れることができる素晴らしい機会なのである。

 

 

3.歌舞伎の成長

近年、歌舞伎の観客数が増加してきている。観客数が増加した背景について考えてみる。

 

観客数が増加した一つ目の理由として、従来の歌舞伎とは違った演出をしたことがあげられる。その代表的なものがコクーン歌舞伎である。コクーン歌舞伎は1994年に中村勘三郎が歌舞伎の粋や感動を知ってもらおうと若者の街である渋谷で歌舞伎を上演したことから始まり、今年で第9回目となる。3本物のパトカーを登場させるなど演出も斬新で見る人を飽きさせないよう工夫されている。渋谷という若者が集まる街で歌舞伎を上演したことにより、いままでは見られなかった若者層の観客を増やすことに成功した。さらに、コクーン歌舞伎で現代演劇の演出家や斬新な演出を使うことにより、常連の観客層に新鮮味を与えることができた。

 

二つ目の理由として、襲名披露興行を効果的に活用したことがあげられる。襲名披露とは昔から代々継承されている名を受け継いだときに、客に対して行うお披露目である。2004年以降には市川海老蔵や中村勘三郎、坂田藤十郎といった大名跡の襲名披露が相次いで行われた。4 歌舞伎は新しい演目が上演されることが少ない。したがってどの公演もすでに何回も上演されていて、何度も公演を見ているような客は見飽きてしまう。しかし、襲名披露によっていつもとは違った公演を見せることができる。そして、観客は豪華に飾られた舞台と主役となる襲名をした役者を見に歌舞伎座へ足を運ぶ。襲名披露はテレビや新聞などマスメディアで大きく取り上げられるため常連の客だけではなく、これまで歌舞伎を見たことがなかった人も集客する。これは観客が固定しやすい伝統芸能にとって大きな利点となる。また、襲名披露公演のチケット料金は普段の公演よりも高額に設定される。この高額チケットのため通常よりも利益が上がり観客数増加とともに、低迷が続いていた歌舞伎市場は好調となったと考えられる。

 

三つ目の理由は、歌舞伎役者の他分野での活躍が挙げられる。市川海老蔵がテレビCMに出演したり、今年の夏には中村獅童が自ら監督を務め出演もする映画も公開される5など、若手歌舞伎役者が歌舞伎以外のジャンルに進出し活躍している。従来、歌舞伎公演の雰囲気は想像できても、詳しいことはわからないという人は多かった。まして実際にどんな人が演じているのかは想像もつかなかったと考えられる。しかし、中村獅童ら若手歌舞伎役者の活躍により歌舞伎役者という存在が身近になった。それにより歌舞伎を以前よりも敷居が高いと思う人が少なくなり、歌舞伎を見に行く人が増加したと考えられる。また、テレビ出演などで人気がでた俳優を歌舞伎でも見ようと劇場に公演を見に行く人が増えたことも観客数増加につながった要因の一つだろう。

 

以上の三つを観客数が増加した理由として考えられることである。次の章では上に挙げたことにより観客数が増加した後の歌舞伎について考えていきたい。

 

 

4.これからの歌舞伎

 これまでは歌舞伎の観客数が増加した理由についてみてきた。今後さらに観客数を伸ばすにはどうすればいいのだろうか。

 

前章では襲名披露を観客数増加の理由として挙げた。襲名披露のチケットは普段の公演と比べて割高になるので興業収入は多くなる。しかし、襲名披露は一時的なものなので襲名披露公演が終われば、興業収入は減ってしまうことになる。コクーン歌舞伎は若者にも歌舞伎を見てもらうという点では成功を収めたが、チケット料金が一等席で13,000円、三等席でも5,000円はするなど若者を対象としたものにしては料金が高めに設定されている。6これでは観客が一度は公演を見にきてくれたとしても、高額なチケット代から劇場へ二度目、三度目と繰り返し見に来てくれるようにはならない。チケット料金を低額にすればいいとも考えられるが、料金を下げるにしても、歌舞伎は豪華な装置や綺麗な衣装が売りの一つとなっており、それには莫大な費用がかかるためチケット料金を低額にするのは難しい。しかし、高額なチケット料金により常連の観客が増えないのだとしたら、思い切って低額に料金を設定し、観客が何度も公演に来てくれるようにしたほうが利益は上がるのではないだろうか。それに、チケット代が低額になれば、いままで歌舞伎を見たことがなかった観客も呼び込めるようになるだろう。

 

また、歌舞伎でとった対策を能など他の伝統芸能でとることは可能だろうか。能は歌舞伎と同じように舞と笛や太鼓などの楽器により上演される。しかし、能は歌舞伎のように大掛かりな舞台ではなく小道具も置かれていない。7したがって、歌舞伎よりも移動が容易にでき、大掛かりな道具がいらないため、大きな舞台がないようなところでも公演ができる。そのため、能は歌舞伎のように同じ場所で公演をするよりは様々な場所を巡業したほうが良いと考える。その他にも歌舞伎のように役者がテレビに出演をしたり、他分野でも活躍するようになれば能の知名度も上がり、観客数増加につながっていくだろう。

 

 

5.まとめ

 これまで歌舞伎について見てきた。歌舞伎役者達は観客に歌舞伎を見てもらうために、テレビに出演して公演の宣伝をしたり、いままでになかったような新しい歌舞伎を作り上げ、実に様々な取り組みをして歌舞伎を知ってもらおうとしている。歌舞伎に対して閉鎖的で堅苦しいイメージを持っている人もいるかもしれないが、歌舞伎は長年ずっと親しまれてきた面白さがある。時代によって受け入れられる面白さも違ってくるが、歌舞伎も時代によって変化してきている。一度劇場に行き、余暇活動として歌舞伎を見るのも楽しいのではないだろうか。

 

 

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1 ぴあ株式会社 エンタテイメント白書 「プレスリリース」

  http://www.pia.co.jp/pia/release/2007/release_071011.html

 

2 岩波書店 鳥越文蔵著 「歌舞伎と文楽の本質」

 

3 e+ 「渋谷・コクーン歌舞伎」

  http://eplus.jp/sys/web/theatrix/special/cocoonkabuki.html

 

4 産経ニュース 「つながる襲名」

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/071211/tnr0712110818003-n1.htm

 

5 中村獅童 公式サイト

  http://www.shidou.jp/

 

6 Bunkamura シアターコクーン 「ラインナップ・チケット情報」

  http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_08_kabuki9.html

 

7 the.com  能の世界 「能とは?」

  http://www.the-noh.com/jp/sekai/what.html