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羽多未甫子 「ディズニーリゾートにおけるサービスの神髄」

 

 

1.はじめに

 近年日本における余暇空間は人々が求めるニーズに応じて拡大している。1983415日のオープンから今年で25周年を迎える東京ディズニーリゾートは余暇の象徴といえるだろう。入園者は年間で2500万人を越え、そのほとんどがリピーターである。このテーマを選択した動機は、幼い頃からディズニーが大好きで常に自分なりの楽しみ方を見出してきた。その中でパークにはいつも笑顔溢れるキャストという存在がいることに着目するようになった。アトラクションやイベントではなくそこで働く人々に視点を向けたときになぜ東京ディズニーリゾートがここまで成長し人々の余暇に欠かせないものになりえたのかという疑問の原点があるように感じた。25年というあゆみの中にはディズニーに携わる人々の徹底したこだわり、サービス、教育が存在しているのだ。そこに着目し東京ディズニーリゾートにおけるサービスの神髄について考察する。

 

 

2.ディズニーならではの独特の取り組み

 まずは近年の余暇市場の動向について考えてみる。

「レジャー白書 2007」(20077月/財団法人社会経済生産性本部発行)によると、2004年以降は、仕事よりも余暇を重視する人(余暇重視派)の割合が仕事重視派を上回っている。また、ワークスタイルやライフスタイルの変化から、余暇活動はますます多様化しているほか、アクティブシニア(定年を迎え、お金や時間が充分に有るシニア層)の増加など顧客そのものが変化しつつある。各業界で規模や業績の二極化が進行するなか、これらの変化にいかに対応していくかが今後重要になると思われる。[] 近年では個人それぞれ余暇の過ごし方にこだわりが更に増しているように感じる。なぜならスイーツやラーメンなど特定の分野におけるいわゆるフードテーマパークの増大や普段見ることのできない空港の整備場などの企業見学の人気上昇など様々なジャンルにおける特定のターゲットに絞った施設が競争を激しくしているからである。しかしながら特定のターゲットに絞り込むことで安定したリピーターを生むことができても、ターゲット以外の顧客獲得はなかなか難しいという点もある為、顧客増大というのは困難である。それでも人々が訪れる場所に少しずつばらつきが生じているのも事実である。企業同士の余暇時間の取り合いの中トップを維持しているディズニーも黙っているわけにはいかない。

 

 企業としてのディズニーは蓋を開けてみるとやはり徹底ぶりはどこの企業にも負けていないことがわかる。日頃ゲストにディズニーの夢と魔法をお届けしているキャスト(アルバイト)。そのキャストへの感謝と慰労の意を込め、彼らをパークに招待するイベント、それがThanks Dayだ。当日は彼らの上司がテーマパークの各施設を運営しキャスト皆をもてなす。[] その他にも「I have アイデア」という従業員の意見を積極的にパーク運営に取り入れる制度などがある。企業運営において従業員と雇用者間のコミュニケーションが円滑であればあるほど、従業員の仕事のやりやすさややる気がやはり異なってくる。またディズニーリゾートにおいてキャストが見せる笑顔というのはそんな背景からもより自然な表情を生み出しているのではないだろうか。サービスという点においてはホテル業界などを抜いてトップクラスとして認められている。ディズニーインスティチュートとよばれる企業向けのビジネスセミナーの開催や、サービス研修としてディズニーを利用する企業が多いのが現実である。またサービス向上には訪れたお客様の反応は最も気になる部分だ。ディズニーの生みの親であるウォルト・ディズニーはこんな言葉を残している。「ディズニーランドは永遠に完成しない」と。常に施設やサービスに対する改善・向上のための取り組みは非常に重要しなければならない。東京ディズニーリゾートを訪れるすべてのゲストにハピネスを提供し続けるために、東京ディズニーリゾート・ゲストご相談室を設置し、お客様からのご意見を収集しているとともに、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーにおけるゲストの「満足度調査」を実施している。意見は分析し、イントラネット上で各部門と共有し、サービス・安全に関する改善策を検討・実施している。[] 

 

 企業としてのディズニーリゾートはお客様の為に例え草花1つでも環境づくりに気を抜かず、ディズニーの世界観を作り出すということに余念を許さない。徹底するというのは簡単にできるようでなかなか上手くいかないものである。単に雇用者が上からものを言う形で一方通行なやり方ではここまで企業として成長する事はディズニーにおいては絶対に不可能である。サービス業界においてもそうであろう。なぜならば企業のあり方、雰囲気は全て知らず知らずの間に顧客の前ににじみ出ているからである。先ほど述べたようにキャストの笑顔がその良い例である。だからこそ顧客というのはサービス業界において最も恐ろしい存在なのである。

 

 

3.まとめ

 ウォルト・ディズニーという人物は現代に素晴らしいアニメーションやテーマパークを残しただけでなくサービス業界において基盤となる企業のあり方をも伝達してくれたと思う。彼が生きていた時代には実際に自らがパークに訪れてアトラクション運営方法を細かく指導していたそうだ。彼は言ってみれば社長であるが、パーク運営に関しては上司も部下も関係ない。一丸となって様々な意見を出し合い、昨日以上のサービスを今日提供する事が大切である。例えほんの一部の力が欠けても顧客の前では実態として現れてしまう。そこがサービスの恐ろしいところであり、けして企業が嘘をつけない部分である。2006年にはチケット料金が値上げされたが、それにも関わらずディズニーリゾートには夢や感動、最高のエンターテイメントを求めてゲストの数は減るどころか増える一方である。それだけの価値をゲストは見出し最高のサービスを求めて来園するのだ。ゲストはパークのことをよく知っている。特にディズニーリゾートは98パーセントという驚異のリピーター率からもわかるように訪れたことのある人がほとんどな為、それぞれの頭の中に比較対象となるものがデータとして残っている。だから評価には非常に厳しい目を持っている。私もそんなゲストの1人であるがパレードやグッズ、食べ物など1日を通して様々な形の出会いがある。そして以前との比較をしてみたときにこれは前より美味しい、これは今回の方が良いなど、10人いれば10通りの今日のディズニーリゾートの評価が出る。それはリピーターならではのより質の良い「おもてなし」を求めての厳しい声なのだ。近年ではアニメーション、パーク両方において以前よりもエンターテイメント性が劣ったなどという声も少なくない。よって企業は更に深くディズニーの世界観を追求せねばならない。それと同時に今のパークを見直して再度ゲストの前に提供して挑戦してみる。批判的な声があっても常にゲストに投げかけるアイデアの1つ1つがいつもこちら側に「行きたい!」とさせるものなのが企業の意地だなと感じる。

 

 単純に来園したゲストにテーマパークという遊びの空間を提供するだけでなく、従業員1人1人がキャスト(役者)としてディズニーリゾートのエンターテイメントを支えるコアな存在であるということを悟るようにパークはあるのだ。つまりゲストとキャスト両方が輝ける場所という二面性を持っている。そういった面からもディズニーリゾートは夢を創造するドリームメッセンジャーとしてサービスという領域を超えた事業展開をしているといえるだろう。ウォルト・ディズニーは躍動感溢れる体験型エンターテイメントの中から新たなる空間をいつの間にか作り出すことに成功した。そしてまた世界観を作る人々、すなわちキャストをはじめとする企業全体が夢を持ち続けることの重要性をサービス業の新しい形として、見本となるまでに育ててくれたのだ。四季折々によって全く異なる世界観を作り出し、訪れた人々それぞれにオンリーワンのひとときを提供しているディズニーリゾートは究極の進化し続けるサービスエンターテイメントという新たなサービス業のジャンルを確立し、今もトップを走り続けている。ディズニーが生み出した企業の魔法は永遠に解かれることはないのだ。

 

 



[] http://www.olc.co.jp/ir/question.html (株式会社オリエンタルランド 株主・投資家向けよくある質問)

[] http://www.jinzai.com/olc/ (株式会社オリエンタルランド 新卒採用情報2008)

[] http://www.olc.co.jp/csr/activity.html#02 (株式会社オリエンタルランドOLCグループCSRの取り組み)