カフェブームを見る

国際社会学科2年 山本裕理

 

 

 最近、カフェがブームになっている。フリーペーパー、雑誌、新聞と、様々なメディアがユニークなカフェを特集にしたがるのは、ネタとなるカフェが次々に存在し、読者からの受けも良いからだろう。一方、カフェにいった経験のない人たちにとっては、一言で「カフェ」と聞いてもイメージは一致せず、ぴんと来ないのも事実である。しかし、カフェ経験のある人にとってもそうでない人にとっても、カフェが特別な余暇のスペースとして扱われるのは日本だけだということが分かった。

 

 カフェ文化の原点として思いつきやすいフランス・パリの人々にとっては、「カフェ」は日常生活における句読点である。一般的なカフェは、特段の個性はなくても、街の機能として溶け込んでおり、日本に比べてかなり日常的に使われている。

 

 18世紀のフランスでは、情報交換ができる貴重なスペースとして注目を集めた。時代の啓蒙思想家を含め様々な芸術家が常連となり、議論をし、ここからいろいろな文化や思想が生まれていった。日本を夢見た画家としても知られるゴッホは、光を求めて赴いた南仏で、一つのカフェにおける人々の賑わいを外側から明るいタッチで描いた『夜のカフェテラス』という絵を描いた直前に、「カフェとは人がとかく身を持ち崩し、狂った人となり、罪を犯すようになりやすいところだ」と、同じカフェの内側から見た、行き場のない人々を描いた暗い絵を描いている。ひとつのカフェの内と外を、全く対照的な世界に描くことで、彼は何を伝えたかったのか考えてみるのも面白いが、それだけカフェが古くから文化そのものになじんでいた、ということが分かる。

 

日本は、というと、今から20年以上も前は「カフェ」といわれるものはなく、「喫茶店」という業態がメインだった。そこでは比較的閉鎖的な空間で、ひっそりと休憩する、あるいは「超おいしいとされているコーヒーをお行儀よくいただく」という二極の業態であった。しかし、時代の流れもあり、最終的にファーストフードで育った若い世代や喫茶店世代の大人までも満足させたのは、安価でコーヒーを楽しめるセルフコーヒーショップの登場であった。この時点では、「カフェ」とはまだ言えなくても、街の機能として定着するようになる。そうしているうちに、日本の事情にまさしくはまるような、テイクアウトが可能なスタイルのカフェがアメリカから進出してくる。こうして、イメージ的にも「カフェとはこういうもの」という業態が生まれるベースが整ったのだった。さらに、現代版カフェの最終的スタイル形成は異業種からの参入によって決定づけられた。シーンの演出に長けたファッショナブルな雑貨屋やセレクトショップがカフェ業界に進出したのだ。カフェに何か新しい世界が広がり始めたら、コーヒーの値が上がっても人々は気にしなくなる。それが、カフェで過ごす空間の豊かさだ。ライフスタイル提案型の空間でおしゃれにお茶を飲む客は、自分自身がとても素敵と感じたのだった。その中で、人々のセンスは時代と共に進化し、いくつものイメージが重なり合い、いくつものジャンルが出来上がっていった。今では、演出性のない「カフェ」は誰からも相手にされなくなる、といっても過言ではない。私の周りにカフェの条件を尋ねたところ、店員が魅力的であること、オリジナルなおいしいメニューが充実していること、インテリアがおしゃれなこと、のんびりできること、という回答が目立った。

 

こうして考えていくと、日本の「カフェ」文化は日本独自で形成されたものであるのにもかかわらず、「カフェ」の原点や憧れをフランスなどに見つけ、自然に日本ナイズしていくという独特な世界があるのだ。

 

カフェを訪れる日本人にとって、カフェとは癒しの場であり、日常の生活からふっと離れられる空間である。カフェの空間は日常のものとは別物で特別な印象だが、それこそ私たちが求めるものなのだ。カフェですることを尋ねても、決まって「ゆっくり」というキーワードが出てくる。ゆっくりと会話や読書をしながら料理を楽しむ自分は、きっとフランス映画にでてきそうなおしゃれなシーンの主人公気分になれるのだろう。カフェに行った経験がない人にとっては、カフェは自分にとっては違う世界に思われがちだが、それこそがカフェの魅力であり、一歩足を踏み入れた瞬間自分の世界にしてしまいたくなる人が多いのは、私の経験や周りを見た限りでも分かることである。

 

現代の日本の様々なブームを見ていくと、人々は何か現実の世界とはまた違った世界にトリップできる空間を余暇において探し求めているのではないか、と感じることが多々ある。自分の存在する世界に息苦しくなったとき、人々はどこか全く違う場所に一瞬でトリップしたくなり、それが人によっては音楽の世界であったり、マンガの世界であったり、カフェの世界であったりするのだろう。ブームとは、結局は全て人々の同じ発想から生まれるものなのである。逆を言えば、ブームの中身とは正反対の世界を考えることが、日本の実際のイメージにつながるのかもしれない。

 

<参考文献>

世界のカフェ事情http://cucan-cafe.com/cafe-news+index.htm

カフェ開業パーフェクトマニュアルhttp://imweb.ne.jp/cafe/manual/index.html

株式会社ドトールコーヒー公式サイトhttp://www.doutor.co.jp/