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土屋瑛美「お茶がもたらすくつろぎの時間」

 

 お茶と一口に言っても、さまざまな種類がある。緑茶、青茶、黒茶、玄米茶、紅茶、チャイなど。種類の多さから人々に親しまれ、愛されていることが伺える。中国の書籍では紀元前2世紀の後漢の時代に始めてお茶に関する記述が書かれている。当時は現在と違ってお茶は嗜好品ではなく、薬草として使用されていたが、お茶の歴史は少なくとも2200年はあるということになる。唐の時代になると、喫茶が盛んになり、10世紀末の北宋ではお茶を試飲して産地や銘柄を当てる「闘茶」が開催されるようになった。日本に最初にお茶が伝わったのは奈良時代と推測されている。当時もやはり薬として使われていた。しかし、平安時代に入ると、国風文化の隆盛とともにお茶はすたれていってしまった。再びお茶が日本に伝わるのは平安時代末期から鎌倉時代初期、臨済宗の開祖・栄西によってである。当初は薬として使用されていたが、栽培の普及とともにお茶を飲む習慣が一般的になっていき、武士の間だけで行われていた「茶の湯」も、江戸時代には庶民にまで広がった。ヨーロッパにお茶が伝わったのは16世紀から17世紀。18世紀にはイギリスで紅茶が広く飲まれるようになった。

(参考:Wikipedia 茶、栄西http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8

 

 お茶は現在でも多くの人に親しまれ、日常的に飲まれている。缶やペットボトル飲料が普及し、茶葉を買わなくても手軽に飲めるようになった。しかし、そんな現在でも茶葉から淹れるお茶は人々に愛され、私たちに和む時間を与えてくれる。近年、お茶の淹れ方講座というものが増えてきた。ただお茶を淹れるのではなく、必ず汲みたて、沸騰したてのお湯を使うだとか、しっかり蒸らすなど、ひと手間、ふた手間かけることでよりおいしいお茶が淹れられるということで人気を集めている。最近のカフェブームの影響か、紅茶の淹れ方講座が一際目立つ。

(参考:おいしい紅茶の入れ方 http://www.kabinet.or.jp/kabinet/users/pito/tea4.html

 

手間をかけておいしいものを食べる、もしくは飲む。これは時間や精神にゆとりがないとできない。手間と時間をかけてお茶を淹れる。これは余暇につながるのではないか。そう思い、お茶の淹れ方講座の中でも代表的な「紅茶の淹れ方講座」に焦点を当てて、余暇を考えていこうと思う。

 

 講座は一日だけの体験授業のようなものから週1回、23ヶ月にわたるものまでさまざまである。一定の人数が集まればいつでも開いてくれるなど、日程に融通の利くものもある。講座ではおいしい紅茶の淹れ方だけでなく、紅茶の種類やそれに合うお菓子は何かなども学ぶことが出来る。毎週同じ種類の紅茶を使うのではなく、第1回目はダージリン、第2回目はアッサム、第3回目はアールグレイなど種類を変え、それぞれの茶葉に合った淹れ方をし、最後にそれぞれに合うお菓子と一緒にいただくというのが大抵の講座のパターンである。手軽に参加でき、生活にも生かせるということで人気をよんでいる。

 

紅茶に限らず、お茶の淹れ方を習う講座は個人で開いていることが多く、全国でどのくらいの人が通っているのか、また通ったことがあるのか、通っている人々はどういう人が多いかというデータは存在しない。しかし、インターネット上の講座案内やウェブログを見ている限り、講座に通っている人は圧倒的に女性が多く、特に主婦や、やや年配の働いている女性が多い。やはりカフェブームの影響だろう。しかし、全体から見ると少数ではあるが、定年後のセカンドライフや趣味の一環として習う男性もいる。

 

多くの人は紅茶が好きで、趣味の延長として講座に通っているが、中には趣味を極めようと「紅茶コーディネーター」の資格取得を目指す人もいる。「紅茶コーディネーター」とは、お菓子や料理に合う紅茶をアドバイスをしたり、茶葉の選び方やおいしい紅茶の淹れ方を指導する、いわば「紅茶のソムリエ」のような仕事である。「紅茶コーディネーター」の資格は通信講座で取得されることが多く、取得までには約9ヶ月かかる。資格を取得し、自分で紅茶教室や喫茶店を開こうとする人々が現在増えている。「紅茶コーディネーター」の資格はカフェや喫茶店を開く場合に絶対に必要なわけではないが、より専門的な知識を得るために取得しようとする人が多い。

(参考:JUGEM 紅茶コーディネーター養成講座について http://teacoordinato.jugem.jp/?cid=1

 

 紅茶に「ハマる」人、紅茶だけでなく、お茶の魅力に魅せられた人、彼らにとっての余暇とは何か。お茶を飲むことそのものだろうか。確かに、かつては薬として用いられただけあり、お茶には数多くの効用がある。風邪予防、がん予防、利尿作用、消化促進作用、疲労回復、そしてリラックス効果。お茶を飲んでくつろぐ時間そのものはまさしく余暇かもしれない。しかし、それだけではないと思う。お茶の淹れ方を習う大半の人は習ってきた技術を自分のためだけに使うのではなく、他人をもてなすために使う。家であったり、お店であったりするが、誰かをもてなすということをする。これも余暇に入るのではないか。

(参考:嗜好品の効用 第3回紅茶 http://www31.tok2.com/home/tsk/kenko/syun_koucha.html

 

 このことからわたしは、余暇とは精神的なゆとりを養う時間であると考える。それは自分自身がリラックスするときだったり、誰かをリラックスさせるときだったりする。日本の「茶の湯」(後の茶道)は本来、亭主と客の精神交流を重視したものだったという。私を含め、現在、茶道に触れる機会がほとんどない日本人は多くいる。しかし、茶道の教えが昔ほど広く知れわたっていない今日でもお茶を通し、誰かと交流しようとする習慣は失われていないのでないか。

(参考:Wikipedia 茶道 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8C%B6%E9%81%93

 

 今回、私がお茶の中でも特に「紅茶」に焦点を当てたのは、他のどのお茶よりも淹れ方講座が開かれており、資料が集めやすいからという理由だけではない。「紅茶」が生産される背景にはさまざまな問題が隠れているからである。ひとつは児童労働問題だ。お茶の有数の生産地である国の中には、15歳に満たない子供たちに長時間の労働を強いり、しかも劣悪な環境下で働かせている農園が数多く存在する。子供たちは蛇や農薬から身を守る防護服を与えられないまま、働かされている。手足には茶葉や切り株によってできた切り傷ができ、除草剤や農薬を浴びて過ごしているため、健康状態も良くない。フェアトレードという言葉をよく耳にするようになってきたが、このような農場はゼロにはなっていないだろう。

(参考:ILO駐日事務所 児童労働 http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/ipec/facts/sectorial/agricult/04.htm

 

今、日本で紅茶に親しんでいる人の中でこの事実を知っている人はどれくらいいるだろうか。もちろん、この事実を理解し、「フェアトレード紅茶」に関心を持っている人々もたくさんいると思う。しかし、この事実をまったく知らない人も少なくないだろう。

 

 お茶が私たちにもたらしてくれる余暇はすばらしいものだ。自分だけでなく、他の人までくつろがせる時間を与えてくれる。しかし、そのような私たちのくつろぎの時間を支える“闇”はとても大きい。