070627takahasshik

 

「食べる」という楽しみとその現実

 

 「食べる」という行為は私たちにとって習慣的なものであり、生きていくためには欠かせない行為である。戦後60年で、日本は経済的成長と共に飽食の時代を迎えた。「食べる」ことは生きていくための行為というよりはむしろ、楽しむ行為となったのである。おいしいものを食べるのが生きがいという人も、今の日本ならば決して少なくはないであろう。しかし私たち日本人は飽食の裏にある現実に、あまり目を向けていない気がする。果たして日本の食はこれからどうなるのか。現代の日本の食にスポットを当てて、人間にとっての「食」とは何かを検証していきたい。

 

 今の日本を生きる私たちは、お腹が空いたときお金さえ持っていれば、好きな食べ物を思う存分に食べることができる。ハンバーグやオムライス、お寿司にケーキなど、私たちには食べたい食べ物を選ぶ余地がある。結果として、食べ放題という食方法が人気となったり、おいしい店があれば行列を作ってでも食べようとする。私自身おいしいものを食べるのが大好きである。甘いものが食べたくなればケーキを買って楽しむし、授業が終わってお腹が空けば、今日の夕飯はなんだろうと思いにふけたりする。日本には和、洋、中どんな食も揃っている。しかしふと考える。日本の昔ながらの食文化はどこへ消えてしまったのか。一昔前までは、町にこんなにも洋食レストランが立ち並び、スーパーではさまざまな国の食材が売られているなんてことは、考えられなかったはずである。飽食と引き換えに私たちは重要な何かを失ってしまっているのではないか。こんな衝動にかられる人も少なくはないはずである。

 

 戦後60年で日本の食はどのように変わっていったのか。大きな変化として挙げられるのが、食の欧米化であろう。洋食が日本中に広まり、レストランはもちろん家庭でも洋食が増えていった。戦後半世紀の間に動物性たんぱく質の摂取は2.6倍に、脂質の摂取は3.3倍となったといわれている。逆に日本の昔ながらの食生活は失われていき、お米一人当たりの消費量は昭和30年代と比べて半分にまで減ってしまった。お米の消費量は今もなお年々減り続けている。その代わりにパンや麺類といった小麦製品が好まれるようになった。確かに私たちの生活を振り返ってみても、一日お米を食べずに終わる日も少なくはない。逆に三食すべてお米を食べるという人のほうが少ないのではないだろうか。この傾向は若者に強く見られる気がする。私たちは洋食が完全に広まった時代で育ってきた。給食には日替わりでパンが出て、町を歩けばそこらじゅうにハンバーガーショップがある。昔ながらの日本食を毎日食べるほうが、現代の私たちにとっては不自然なのかもしれない。

 

 しかし、飽食と引き換えに私たちは大きな問題を抱え込むこととなった。まず挙げられるのは、食の飽食化と欧米化に伴う、日本の食糧自給率の低下であろう。外国から伝わった料理をたくさん食べるということは、もちろん日本の食材だけでまかなうのは不可能ということとなる。戦前の日本は食糧自給率も100%に近く、自給自足の生活を送っていた。しかしそれは日本食、つまり日本の食材を材料とした料理が主流だったからである。今の食生活となった日本が自給自足の食生活を送るのは、到底無理な話である。具体的にどれくらいの数値で低下したかを見てみたい。ここでの食糧自給率はカロリーベースをもとにした計算である。まず日本の食糧自給率は昭和40年度の73%から50年度には54%と短期間に大きく低下した。その後、ほぼ横ばいで推移していたが、60年度以降再び大きく低下し、平成10年度には40%となり、それ以降7年連続40%と横ばいで推移しているのが現状である。[1]世界の食糧自給率を見てみると、オーストラリア307%、アメリカ242%、フランス209%、カナダ182%と先進国はどこも100%をはるかに越えていて、日本が異例であることが伺える。[2]自国内で食糧自給が出来ていないという状態は、安全保障上の観点からも非常に異常なことである。ほかの国と比べても、日本は世界最大の食糧依存国といってよい。自給率の低下は何を意味するのか。そのためには世界における食糧危機の現状を見ていく必要がある。

 

 世界の食糧はどうなっているのか。結論から言うと世界は深刻な食糧危機に瀕している。確かに世界には全人口をまかなえるだけの食糧があるといわれている。しかしそれらは世界に平等に分配されているわけではなく、先進国など飽食の国で多く分配され、余ったものは処分されているのが現状である。多く分配されれば必ず足りなくなる国が出る。世界の現状を見てみると、毎日3.5万人(毎年1000万人)の子供が餓死し、飢餓人口は約84千万人(途上国の5人に1人)に上るといわれている。北朝鮮、バングラディシュなど世界の23カ国では6割以上の国民が栄養不足で健康に悪影響が出ている。また世界人口はどんどん増え続けており、2050年には100億人に達するといわれている。[3]到底全人類の食をまかなえるわけはない。農地の拡大は限界に来ているし、環境悪化といった問題もあるため、これから収穫量が増えていくことも望めない。そうなって食糧がどんどん足りなくなると、日本のようにたくさんの食糧を他国に依存している国はどうなるか。まずどの国も自国の国民を養うことを優先するであろう。そうすれば日本に食糧が入らなくなる。もし海外からの食糧輸入がストップしたらと仮定すると、日本に住む3000万人以上が餓死するという計算がある。[4]自給率が低い国は、一見輸入によりその事実が隠されているが、実はとても大きな危険性を背負っているのである。

 

 また飽食によりもたらされる問題として、健康被害がある。日本人は長年日本食を主流とし、脂分の少ない健康的な食生活を送ってきた。食の欧米化に伴い、いきなり脂分の多い食事をしたら、健康に悪影響が出ないわけがない。そもそも脂質は我々日本人の体質に適していないのである。実際現代の日本人は、高血圧、糖尿病、肥満など、飽食ゆえに発生した病に悩まされている。また若い女性の中には体型を気にして食事制限を心がける人も多い。食べたいけど我慢しなければならない、そうした観念に駆られる瞬間も、今を生きる私たちなら少なくはないだろう。食べるということは楽しみであるがゆえに、病気などにより食べられないという事態は、我々にとって非常に苦痛である。考えてみると好きな食べ物ばかり食べていては栄養が偏ってしまうのは当たり前の話である。

 

 私たちが好きなだけ食べるならば、供給側も私たちが求めるのに余裕の量の食糧を用意しなければならないし、食べ残しも出るはずである。そうして出た余り、つまり食糧の廃棄量はすごい量に達する。現在、日本では11日平均159gの食べ残しがある。またスーパーやコンビニの賞味期限切れや売れ残りなどの残飯量は年間700万トンにものぼり、世界食糧援助総量の70%に匹敵するほどである。日本で捨てられる1日の食糧で、世界の1500万人の人々が救えるといわれている。[5]先ほども述べたとおり、世界には多くの飢餓で苦しみ死んでいく人々が存在する。その一方で好きなものを好きなだけ食べ、余ったり、ちょっと味が落ちればすぐ捨てるといった行動は、果たして許されることなのか。

 

 食べるのが余暇活動として楽しめるということは、実はたくさんの条件化のもとに成り立つものなのだと思った。日本に生まれたからこそ、おいしいものを好きなだけ食べられるのである。何をどれくらい食べるか、余ったものは捨てるのか、それを選ぶのはすべて我々の意思である。しかしその裏では世界規模の飢餓や食糧自給率の低下といった問題が潜んでいるという真実を、思い起こさなければならない。食事をする上で、問題解決のために私たちにできることは何か。たとえば少しでもお米を食べるようにするとか、食べられる量を考えて残さないようにするとか、できることはたくさんあると思う。そんなちょっとした試みなら、食べる楽しみが損なわれることもないであろう。そして何よりも忘れてはならないのは食べ物へのありがたみである。私たちがなぜ今生きているのか。それは食べ物があるからである。特に日本人は「いただきます。」と「ごちそうさまでした。」の意味を今一度考え直す必要があるのではないだろうか。今のように食がありふれている時代は、もう長くはないかもしれない。深刻な問題ではあるが、目を背けてただ食べていることは、決して許されないと思った。

[1] 東北地方食糧自給率のホームページ・日本の食糧自給率http://www.tohoku.maff.go.jp/jikyuritu/jikyu_1.html6/25現在)

2 迫り来る食糧危機・世界の食糧(穀物)自給率

http://www.kumagera.ne.jp/marutoku/syokuryou.htm6/25現在)

3 迫りくる食糧危機・世界の食糧危機の現状

http://www.kumagera.ne.jp/marutoku/syokuryou.htm6/25現在)

4迫りくる食糧危機・日本の現状

http://www.kumagera.ne.jp/marutoku/syokuryou.htm6/25現在)

 

5 飢餓の解決と私たちにできること:日本における食糧事情http://contest.thinkquest.jp/tqj2001/40584/04/japan.html6/261現在)

 



[1] 東北地方食糧自給率のホームページ・日本の食糧自給率http://www.tohoku.maff.go.jp/jikyuritu/jikyu_1.html6/25現在)

[2] 迫り来る食糧危機・世界の食糧(穀物)自給率

http://www.kumagera.ne.jp/marutoku/syokuryou.htm6/25現在)

[3] 迫りくる食糧危機・世界の食糧危機の現状

http://www.kumagera.ne.jp/marutoku/syokuryou.htm6/25現在)

[4] 迫りくる食糧危機・日本の現状

http://www.kumagera.ne.jp/marutoku/syokuryou.htm6/25現在)

 

[5] 飢餓の解決と私たちにできること:日本における食糧事情http://contest.thinkquest.jp/tqj2001/40584/04/japan.html6/261現在)