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大森貴行「スポーツモデルの販売不振」

 

1、はじめに

 近年、サーキットでは初心者向けの走行会やプロドライバーによるドライビングスクール、気軽に参加できるパーティーレースなど多くのイベントが開催され、余暇にサーキット走行を楽しむ人々が増えている。しかし肝心の車、走りを楽しむためのスポーツモデルが売れないという状況が続いているという。そこで、スポーツモデルの販売不振の現状と原因、各自動車メーカーの取り組みについて考察したい。

 

2、スポーツモデル販売の現状

 90年から現在までの約15年間でスポーツモデルの国内販売は10%程度まで落ち込んでいる。かつてはレビン&トレノ、プレリュード、シルビア、RX-7などの車種が好調な売れ行きをみせていたが、それらはすべて生産終了となっている。スポーツモデルが売れないというのは世界的な傾向ではあるが、日本は特に顕著である。現在最も売れているRX-8でさえ月販台数は500台程度であり、合理主義、商業主義で知られる業界最大手、トヨタのラインナップからスポーツモデルが消えたことからもそれは明らかであるといえるだろう。

 

 しかし売れ行きが悪いからといって性能が悪いというわけではない。これだけの販売不振のなか、日本でスポーツモデルを購入するのは根っからの車好きである。また北米やヨーロッパでは一定の需要があり、現在残っているスポーツモデルで国内専売の車種はほとんどない。そのためメーカー側も相応に力をいれており、性能面では優秀であるといえるだろう。

 

3、なぜ売れないのか

 では性能面で優秀なスポーツモデルがなぜ売れないのだろうか?そもそも室内が狭く、日常の使い勝手が良いとはいえないスポーツモデルはいつの時代でも少数派ではあった。しかし過去には一定の需要が存在し、それなりの業績をあげていた。現在ほどの販売不振は過去になかったことである。スポーツモデル販売不振の理由として最近多く耳にするのは、若者世代の車離れである。スポーツモデルのメインターゲットとなるのは独身の若者世代であるが、その世代の人々の車への興味が薄れているというのだ。若者層のマーケティング調査機関であるM1F1総研が首都圏在住の20歳〜34歳の男女を対象に行った調査では若者の車離れの要因として次のものをあげている。

 

 まず経済的理由。車を持たない理由として車の維持費・税金が高いからとの解答が52%におよんだ。これはスポーツモデルとなればなおのことである。ガソリン価格が高騰するなか普通車に比べ燃費の悪いスポーツモデルは当然敬遠される。また一般に保険料も普通車に比べて割高であるし、その他駐車場代やメンテナンス費を考えれば相当の出費になる。そのため、スポーツモデルに興味があったとしても、実際には軽自動車やコンパクトカーといった比較的維持費の安い車を選択する、というケースも多いようだ。

 

 つぎに趣味の多様化があげられている。車以外のものにお金をかけたいからとの解答が43.9%におよんだ。この結果からわかるのは若者世代が車よりも他のものにより魅力を感じているということだ。そもそも幼い頃から車に親しんできた現在の若者世代は車をツールとして捉える傾向が強い。過去のスポーツモデルが売れていた時代の若者は、幼い頃にスーパーカーブームを経験し、車は憧れの対象であった。またバブル期にはスポーツモデルは一種のステータスであった。しかし現在の若者にとって車は移動手段であり、人が乗れて荷物がつめればよいのだ。当然のことながら実用性の低いスポーツモデルは選択肢から外れることとなる。この様な車に対する価値観の変化もスポーツモデルが売れない要因のひとつであろう。

 

4、次世代のスポーツモデル

 このような逆境にたたされるなか、各自動車メーカーは次のスポーツモデルにどのような構想を抱いているのだろうか。トヨタ、日産、ホンダはかつてのレビン&トレノ、シルビア、CR-Xのような取り回しのよいコンパクトなスポーツモデルの開発を進めている。トヨタはハイブリットシステムですでに世界トップの環境性能を達成しているプリウスをブランド化しそこからスポーツモデルをリリースするという案もあるようだ。ホンダもハイブリットシステムを用い新しいハイブリットスポーツの開発に力をいれ、日産は独自のハイブリットシステムの開発に着手している。またマツダは独自のロータリーエンジンに代替燃料として水素を用いたハイドロジェンREを開発、すでにリース販売も行っている。水素は燃焼しても水しか出さず、またハイブリットのモーターとは違いエンジン独特の自然なフィーリングが得られるといったメリットがある。さらにマツダではハイドロジェンREにハイブリットシステムを組み合わせたシステムも発表している。

 

 このように各自動車メーカーは環境に配慮したスポーツモデルの開発を進めている。エコ志向が高まるなか、その新しい価値観に対応した車造りをすすめているのである。

 

5、終わりに

 今回スポーツモデルの販売不振について考えてみて、どちらかといえば趣味の領域に入るスポーツモデルが売れないのも納得できる。たしかに車は道具であるし、スポーツモデルは現実的でない選択肢だろう。しかしスポーツモデルは五感を刺激する何かを持っているし、非日常へと連れて行ってくれる魅力的なものではないか。車好きのひとりとしてこれからの新しい価値観に対応し、ワクワクさせてくれるようなスポーツモデルの登場に期待したい。

 

参照

http://www.m1f1.jp/

M1.F1総研 07/6/25 現在)

http://www.jama.or.jp/

(日本自動車工業会JAMAホームページ 07/6/25 現在)

http://toyota.jp/

(トヨタ自動車ホームページ 07/6/25 現在)

http://www.honda.co.jp/

(本田技研工業ホームページ 07/6/25 現在)

http://www.nissan.co.jp/

(日産自動車ホームページ 07/6/25 現在)

http://www.mazda.co.jp/home.html

(マツダホームページ 07/6/25 現在)

http://www.mitsubishi-motors.co.jp/

(三菱自動車工業ホームページ 07/6/25 現在)