070627ohtam
太田真理子 「音楽が与える心と身体への癒し〜クラシック音楽編〜」
私たちにとって身近な存在の「音楽」。音楽を聴くことが好きな人もいれば歌うことが好きな人、楽器を演奏することが好きな人など様々であろう。そしてこれらを趣味として挙げる人も多いような気がする。自分が自由に過ごすことのできる時間を「余暇」と呼ぶことができるのであれば、何らかの形で音楽と深くつながっているのではないかと考え、取り上げるテーマを「音楽」とした。
今の時代、家の中だけでなく携帯電話やipodのようなものでいつでもどこでも手軽に聴けるようになった。そういった点においても私たちの生活には欠かせないアイテムのような物になっている気がする。音楽を聴くときというのは「よしっ!音楽を聴こう!」このように意気込んで、じっと音楽だけに集中することは少ないように思う。何気なく音楽を流し、並行して何か別のことをする人も多いだろう。例えば音楽を聴きながら料理を作ったり、雑誌を読んだり、中には音楽を聴きながら勉強をするという人さえいる。正直私自身、音楽を聴きながら勉強をすることはどうも苦手だ。なぜなら音楽の方ばかりに気がいってしまうから。しかし音楽を聴きながら勉強するという人の多くが音楽を流しながら勉強したほうが集中できる、と答える。また、自分の好きな音楽を聴いているとき、精神的に気分が沈んでいるときなどそのときの気分によって聴く音楽を聴き分けることによって気持ちが落ち着いたり、元気になったりした経験はないだろうか。いろいろな状況の中で音楽は人の身体や心に何らかの効果を与える不思議な力をもっているのではないかと考えられる。
ここ1〜2年、「史上空前のクラシック音楽ブーム」と言われている。そのきっかけの1つとして挙げられるのがドラマやアニメ化され、人気を集めた漫画「のだめカンタービレ」である。落ちこぼれ音大生の“のだめ”こと野田恵と、エリート音大生の千葉真一。そして2人をとりまく個性豊かな登場人物が奏でる、美しい音楽と爆笑エピソードが人気のクラシック音楽コメディである。クラシックというと敷居が高い、眠くなる、といったイメージを持つ人も多いが、このドラマはそのイメージを見事にひっくり返した。一度耳にしたクラシック音楽が面白く、愉快な映像と結びつき、特に若者にとってはとっつきやすいものになったのかもしれない。ほかにもCMやニュースのオープニング曲に使われることによって耳にする機会が増え、親しみを感じるようになったとも言えるだろう。CD売り上げの低迷が続いている音楽業界にとっては朗報なことに、「のだめ」に関連するクラシック音楽を収めたCDも大ヒットし、「1万枚売ればヒット」と言われるクラシック音楽市場でなんと30万枚を突破。ほかにも平成17年4月にバッハやショパンの名曲100曲を6枚のCDに収め、価格3000円で発売を始めた「ベストクラシック100」はこれまでに80万枚を売り、その後に出されたシリーズで合計200万枚近くを売り上げている。〔[1]〕クラシック音楽全体の底上げに大きく貢献する形となった。「のだめ効果」には驚きを隠せないといったところであろう。
上記で音楽を聴くことによって私たちの身体や心に何らかの効果を与える不思議な力をもっているのではないかと述べた。“音楽療法”という言葉を耳にしたことがあるだろか。これは「音楽の力によって人のいろいろな病気を改善させ、治療する方法」である。古代ギリシアの数学者ピタゴラスも「音楽が人の精神の乱れを癒すことができる」と唱えている。科学が進んだ現代において、音楽が医学的作用を持つことは証明されていて、健康に悩める現代人にとって新しい療法として受け入れられている。特にモーツァルトの音楽は生体機能に刺激を与える高周波や、精神をリラックスさせる「揺らぎ」を豊富に含み、効果的といわれている。高血圧、不眠症、冷え性の改善、リラクゼーション、胎教、脳の活性化など、さまざまな健康に良い効果がある。なぜならモーツァルトの曲には、高周波音が非常に多く含まれていて、この高周波音には脳を活性化して脳内ホルモンの分泌を活発にする働きがあると言われているからである。人が感じ取れる周波数は15〜20000ヘルツとされていて、モーツァルトの音楽は3500ヘルツ以上の高周波を豊富に含んでいる。(一般的には周波が高いほど音が高くなる)この高周波は脊髄から脳にかけての神経系を効果的に刺激し、その結果、健康を支えている生体機能に良い影響を及ぼすという。また免疫力や集中力の低下、花粉症、ストレス、肥満にも効果があるとされている。心地よいモーツァルトの音楽を聴くことを継続することで効果が高まるとされている。〔[2]〕
この“音楽療法”は今からおよそ50年前に精神病院や障害児施設での活動として始まった。それ以来、本質的な研究や実践が積み重ねられてきた。〔[3]〕この音楽療法を活用しているのは病院だけではない。奈良市社会福祉協議会でも“音楽療法”を取り入れた活動を行っている。この奈良市社会福祉協議会は、「だれもが安心して暮らすことのできる福祉のまちづくり」を目指して、住民とともに地域づくりを進めている民間組織である。住民参加による様々な地域活動がされているうちの1つとして音楽療法を取り入れている。例えば、「生きがい対策」として位置づけられ、わらべうた・懐メロ・唱歌・クラシックなど幅広いジャンルの音楽を楽しみ、健康増進と社会参加を目指す活動をしている。60歳以上であれば誰でも参加でき、平成18年度には約1000名が参加をしている。ほかにも、「高齢者のための音楽療法」として、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで音楽活動を通して、施設生活をさらに楽しく豊かに、また認知症の進行を抑え、心身機能の維持と活性化をはかる活動を試みている。「子どものための音楽療法」では、障害を持つ子どもたちの発達を目指し、五感を刺激する音楽活動を展開している。音楽療法士といって障害や疾病も持つ人を対象に、音楽による心理的・生理的な影響を応用して心身障害の改善や健康の回復を援助する専門職と連携して、音楽による自己表現、コミュニケーションの楽しさ・面白さを引き出すといった活動も行っている。音楽療法をもっと深い次元での人と人の織り成す営みとして捉える事の重要性が求められるようになってきているという。〔[4]〕
医療としての音楽療法も最近ではさまざまな現場で取り入れられて、今後注目すべき治療法のひとつであろう。上記の取り組みはクラシック音楽のみを使って行うものではないが、“音楽療法”として私たちの身近なところで取り組まれている例として紹介した。自分の自由に過ごすことができる時間にこのような活動に参加することが可能であるならば、「聴くだけ」の音楽との接し方とはまた違った付き合い方ができるのかもしれない。音楽がこれほどまでに私たちの心と身体に大きな影響を与えるものだとは・・改めて驚かされた。薬ばかりに頼りがちの医療に違った形で出てきた音楽療法はこれからどんな効果を出してくるのだろうか。
何事も“きっかけ”は重要だと私は考える。今までは特にクラシック音楽に興味がなく、聴いていても飽きる、眠くなるといった先入観があったとする。しかし何かのきっかけで手に取り、触れてみて、身近なものにするというのは新しい世界に飛び込んでいけるような気がする。私が小・中学生の時に子どもたちにもっとクラシック音楽を身近なものとして感じてもらいたいということで「子ども向けクラシックコンサート」が開かれることがあった。強制して行かせるのでは意味はないが、きっかけを与えることは重要なことなのかもしれない。自分が自由に過ごすことができる時間、「余暇」は多くのストレスを抱えるといわれる現代人にとって自分の身体や心をリフレッシュさせる貴重な時間であるといえるだろう。いつでもどこでも手軽に聴けるようになった音楽に癒しを求めて、無理に聴き続けることはしない程度にクラシック音楽に触れてみてはどうだろうか。
[2])http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/mozart_music_therapy/uccg3615_7.html(最新・健康モーツァルト音楽療法)
[3])http://www.jeugia.co.jp/kicmt/whatsmt.html(京都国際音楽療法センター)
[4]) http://www.narashi-shakyo.com/html/ongaku01.htm(奈良市社会福祉協議会)