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尾形太郎「ウィンタースポーツ人口の減少と今後の展望」

 

 年々進んでいく温暖化の影響もあり、ウィンタースポーツ人口は減ってきている。90年代前半をピークにスキー人口は減り始め、各地で倒産や休業をよぎなくされるスキー場が相次いでいる。多額の資金を投じて森林を伐採し作られてきたスキー場は今後どのようなものとなっていくのだろうか。日本のスキー場のあり方を考え、今後のウィンタースポーツの発展の可能性とあり方を探っていきたい。

 

 近年のスキー事情として、80年代後半からその人口は伸び続け90年代前半には約1800万人にまでなっていったが、バブルの崩壊後は不景気の影響が大きく影響し、2004年にはピーク時の半分以下の760万人にまで減少していった。また、90年代後半に若者を中心として急激に増加していったスノーボード人口は近年では伸び悩んでおり、スキー人口とスノーボード人口をあわせても現在では約1200万人とピーク時に比べると大幅に減少している。この結果に大きく関わってくるのがウィンタースポーツの参加率であり、90年代前半には日本国内において約15%の人がスキーをやっていたが、近年では10%を割り込んでおり、スキー人口の減少が顕著になっている。また、ウィンタースポーツをやったことのない人がウィンタースポーツをやってみたいと思うかという「参加希望率」も参加率と同様に低下している。さらに、ウィンタースポーツ人口と共にスキー場にとって重要となってくるものは、リピーターの確保である。スキーヤーとスノーボーダーが1シーズンに平均何度スキー場へ行くかを示した「平均参加回数」をみてみてると、90年代前半から後半にかけては約6回であったのに対し、近年は約4回と3分の2に落ち込んでいる。このように、リピーターの「平均参加回数」が落ち込む理由としては、スキーやスノーボードといったものは上達するのにかなりの時間を要するものであるということである。幼い頃からスキーやスノーボードに慣れ親しんできた人は大抵年齢を重ねていくにつれ上達していくし、上達も早い。しかし、ある程度歳をとってから始めた場合は上達の度合いも幼い頃に比べて遅くなってしまうことが多い上に、思うように滑れなく1回やっただけでそのままやめてしまう場合もある。そして、ウィンタースポーツをやったことのない人たちが子供を持つ歳になると必然的に全然やったことのないスポーツを子供に教えることができないため、その子供もウィンタースポーツをやったことのない人として成長することになり、ウィンタースポーツの人口の減少に少なからず影響を与えていくこととなるだろう。

 

 ウィンタースポーツ人口の減少の影響が直接でるのはスキー場である。2003年の日本観光協会の調査によると、全国にあるスキー場の総数は775ヶ所である。しかし、近年では閉鎖や休業でスキー場の数が減少している。スキー場は大きく3つに分類することができる。一つは民間企業の運営するスキー場。これは高級ホテルなどを併設した大規模なスキーリゾートを展開しているスキー場も含まれるが、日帰りを重視したアクセスの良いスキー場もあるため規模やコンセプトも様々である。二つめは自治体による公設スキー場である。これは一般的にリフトが5本以下の小規模のものが多く、地元住民のためのスキー場という色合いが強い。三つめは屋内型スキー場である。このタイプは主にスキー場開発が地理的、気候的に不可能な都会などに建設されている。現在日本国内には10ヶ所の屋内型スキー場があるが、そのほとんどは小規模な施設のため上級者用のオフシーズンのトレーニングのためといった色合いが強い。また設備投資や維持管理に多額の資金が必要なために大きな集客力が必要となる。このようにスキー場は3つのタイプのものがあるが、どのタイプのスキー場も90年代後半に集客不足に陥り経営難から閉鎖または休業へと追い込まれている所も出てきている。閉鎖されたスキー場の跡地は自然への復元や農場、公園といったものに利用されている。しかし、スキー場跡地の利用には多額の資金が必要となってくるため屋内型スキー場を除いて多くの課題が残っている。

 

 閉鎖するスキー場が増えるなかで、スキー場経営は簡単に儲かる時代ではなくなってきている。そんな中最近のスキー場経営の傾向としては、他のスキー場にはない付加価値をつけて差別化を図ろうとしている多くのスキー場がみうけられる。戸狩温泉スキー場では吉本興業と提携し、若手芸人がスキー場でゲレンデライブを行うなどの今までのスキー場では考えられなかったサービスを提供している。また、ブランシュたかやまやNASPAスキーガーデンなどではスノーボードを全面滑走禁止にし、キッズゲレンデを充実させるなどのファミリーとシニア世代を狙ったゲレンデ作りをして従来のスキー場との差別化を図ることで生き残る道を選んでいる。このようなスキー場の差別化が進む中で、差別化により来客数も売り上げも前年度より上回るスキー場も現れ始めた。そのひとつが[i]佐久スキーガーデン・パラダである。このスキー場は、顧客層のターゲットを小さい子供を連れた家族、親子三世代できている家族、団塊の世代のカップルに絞ったやり方でスキー場を変えてきて集客に成功したのである。先ほど示した集団は当然ながら若者たちとは違うスキーの楽しみ方をするし、若者たちとは違ったニーズをスキー場に対してもっている。このようなニーズに応えることで、その子供や親を顧客として取り込んでいけるのである。

 

 近年のウィンタースポーツ人口の減少はスキー場運営にも大きく関わってきている。首都圏に近いスキー場はある程度の集客数が見込めるが、地方にあるスキー場は地元住民以外にも大きな客寄せが必要なってくるためそのスキー場に特徴を持たせることが必要不可欠となってくる。将来的に今後ウィンタースポーツ人口を大幅に増加させることは難しいと考えられる。そのため今後スキー場が生き残っていくたには他のスキー場にはない付加価値をつけて差別化を図る必要がある。スキー場運営の動向は運営する会社や自治体だけではなく、ウィンタースポーツ用品市場やスキー場周辺の宿泊施設などの地域産業に大きな影響を与える。今後も閉鎖や休業するスキー場が出てくると予想されるが、その時に地域産業をどのように救済するか、またいかにして危機的状況下にあるスキー場を救うのかが大きな課題となってくるだろう。



[i] GLOBIS: http://www.globis.co.jp/gos/column/detail/000104.html

参考 「スキー場活性化」: http://web.sfc.keio.ac.jp/~maunz/wiki/index.php?%A5%B9%A5%AD%A1%BC%BE%EC%B3%E8%C0%AD%B2%BD