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仲濱玲子「基地開放イベント 基地と地元のかかわり」
私が沖縄に住んでいたとき、日曜の朝の楽しみといえば毎週開催される米軍フリーマーケットであった。米軍フリーマーケットとは、在沖アメリカ軍人またはその家族たちが、基地内で不用品を自由に販売する蚤の市のことである。それが週末の朝、沖縄各地の基地で催されていた。売っているものは軍用品だけでなく、衣類・玩具・書籍・雑貨など実際に彼らが使用していた日用品がほとんどである。フリーマーケットに行くたびにアメリカ独特の珍しいものが見つかり、私はそれが非常に楽しかった。また、ピザやハンバーガーやホットドッグ、ケーキなど軽食の出店があり、飲み食いしながら会場を散策することができる。日本には見られない特大サイズの飲食物が売り買いされ、特に基地内のフードコート内で売られる1500円の特大ピザには毎回行列ができていた。来場者には家族連れが多く、乳幼児から高齢者まで思い思いに基地内での余暇を楽しんでいた。また、沖縄だけでなく他の県についても調べたところ日本各地で基地が開放されるイベントが多数あった。大規模なものとしては、東京都横田基地の「日米友好祭」、山口県岩国基地の「日米親善デー」に行われる航空フェスティバル、神奈川県横須賀基地の「フレンドシップデー」、神奈川県厚木基地の「日米親善桜祭り」などがあり、どれも年平均25〜30万人の来場者を呼び込む人気イベントであるようだ。
基地内で開催されるイベントの魅力はなんといっても、知られざる基地の姿をのぞき見ることができるという点である。日本にありながら、基地には厳しい制限規則が存在していて普段は関係者以外絶対に入ることができない。一歩足を踏み入れればそこはもうアメリカの領土なのだ。しかし、この日だけはフェンスの向こう側を除き見ることができる。横田基地では米国軍の艦船・航空機など本物の軍備施設を間近に見られて、写真撮影も一部を除いて可能だそうだ。次に、アメリカ独特の雰囲気を直に、しかも容易に感じることができるという点である。実際私が嘉手納基地の「アメリカンフェスト」へ行ったときも、基地内の風景・建物・人・など全てから米国の雰囲気がにじみ出ていて、ここが沖縄であるということを忘れてしまいそうなぐらいであった。いわゆる「非日常」の中で軍人たちと英語で会話し、ものの売り買いや交渉するのも楽しみの一つであり、そのコミュニケーションが基地開放の目的でもある。
これらの基地開放イベントが行われる目的は、主に日米の友好親善である。岩国基地内で日米親善デーについて会見した実行委員会副委員長のチャールス・テラセ少佐は、「日米親善デーは、基地隊員と地元住民の交流を図ることが最大の目標」であると話している。[i]この日米親善デーは日ごろ見ることができない基地施設を開放し、在日米軍や自衛隊の各航空機を展示、また航空ショーや各種イベントを通じて、基地や国防、日米交流への理解や関心を深めてもらおうと毎年開かれているのだ。このことから、なんとかして地元へ貢献することで地域の一員として認めてもらい、基地の存在意義を示そうとする米軍側の意図が読み取れる。
しかしテレビや新聞などのマスコミ報道からもわかるように、日本において米軍基地に反対する人は圧倒的に多い。そんな中で、なぜこんなにも多くの人々が基地へと足を運ぶのか。調べていくうちにわかったことは、来場者の多くが地元住民ではないということである。大きな基地開放イベントは週末に催されるため、余暇を利用して市外・県外からたくさんの人が訪れる。そのため当日の基地周辺は大渋滞・大混雑がおき、迷惑駐車も多発するため、地元市民の生活への影響が問題となっている[ii]。また、厚木基地ではWINGSという大規模なデモンストレーションフライトを含む祭りが毎年盛況を見せていたが、2002年から廃止になった。これは地元住民から騒音に対する苦情や墜落の不安の訴えが多数寄せられたことが原因である。平成12年に神奈川県が中心となって行った調査によると、地元住民の6割以上がデモフライトの廃止を求めていることが明らかとなった。[iii]地元市民にとって基地の開放は迷惑でしかなかったのだろう。その証拠に、基地の開放に市からの支援金が出ているところはほとんどない。厚木基地のある綾瀬市基地対策課は「祭りの多くは地元以外の人たち。市としては、迷惑駐車など市民生活への影響のほうが心配で、祭りを奨励するような立場には立てない」とコメントしている[iv]。そのため米軍基地は屋台から「出店料」をとることでイベントの開催費用を補っているが、その屋台が提供する食べ物(先述した特大ピザなど)に関税がかかっていないとしてこれを「脱税行為」だと非難する声もあり、問題となっている[v]。これら基地開放イベントの裏側を知って思うのは、基地開放というのは地元住民との交流及び地元への貢献が目的ではなかったか。この状況では、基地開放の本来の目的がはたされていないように思う。
米軍基地に対する思いは、歴史観・育った環境・学んだ文化によりさまざまである。基地に反対する人もいれば、余暇の場を基地に求める人、基地を生活するための必要悪だと主張する人もいる。自分自身の目で米軍基地を見る、知る、楽しむ機会をあたえてくれるという点で、基地開放イベントは素晴らしいと思う。しかし基地の存在、基地がもたらす不利益を一番身近に感じるのはその周辺に住む人々であることを忘れてはならない。これは余暇政策論の授業を通して学んだことだが、誰かが余暇を楽しむ以上、ほかの誰かの余暇が犠牲になる。基地開放のケースでは地元住民がその犠牲となっているといえよう。彼らにとって基地は「日常」であり、身近な脅威なのである。したがって、基地開放イベントに反対の声をあげる彼らをそれ以外の地域に住む人が批判することはできない。しかしイベントを通して「日本の中の米軍基地」を体験することで、基地のない地域に住む人も、真剣に「基地のあり方」について考えることは非常に重要なことである。そうすることで余暇がただ楽しむだけのものに留まらず、より自分自身を深めるものへと昇華されるであろう。