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米田恭子「全世界同時公開映画から見る余暇政策」

 

 近年全世界同時公開映画と呼ばれる映画の公開が多くなってきている。映画は世界的に見ても娯楽として上位に上げられるもののひとつだ。全世界同時公開映画を通して、娯楽に対する戦略を見ることで余暇を見つめてみようと思う。

 

全世界同時公開映画の歴史

 そもそも全世界同時公開映画はいつごろから始まったのか?この問いに答えるのは非常に難しい。そもそも映画という観点から考えると訳の必要のない作品や、そういった技術が存在しえなかった時代には全世界同時公開は当たり前だったからである。しかしながら、1961年に日本の「モスラ」がSF映画としては史上初の全世界同時公開をはたしているのであるからその歴史は古くから存在することがうかがえる。[i]

 

 さらに近年では全世界で同時刻に公開する映画や、日米同時公開映画も存在するようになっており全世界同時公開映画の中でも変化が生じてきている。昔の全世界同時公開映画と現在のそれとではどうやらかってが違ってきているようである。

 

全世界同時公開映画の興行成績

 全世界同時公開映画がさまざま存在する中で今現在TOPの興行成績を持っているのが「ダヴィンチ・コード」である(現在公開が終了している作品に関して)。これは2006520日に同時公開となった作品であり、興行収入額は世界歴代21位、アメリカ国内の興行収入は歴代56位となっている。面白いことに世界歴代20位以内の上位の作品では世界の興行成績ランクとアメリカ国内のランクの差が30位以上開いているものは一つも存在しない。むしろ上位になればなるほど10位以上の差が開いている作品は珍しい。これは全世界同時公開映画の興行成績のおける大きな特徴があらわれている。全世界同時公開になることによってそれまでアメリカで真っ先に公開され、その反響をもとに行っていた広報活動が行われなくなったため、アメリカ人目線ではなく映画を見てみようとする人が数字となって現れているといえる。[ii]

 

 また、全世界同時公開映画作品の特徴としては大まかに2種類が挙げられる。一つ目が制作費もキャストも盛大で以前からコミックや書籍としてやリメイクとして注目されていた作品である。これは上記のダヴィンチ・コードが代表である。次がシリーズ作品で前作の興行成績がよかったものである。その中でも特にシリーズ最後の作品が同時公開になる場合が多い。この作品としては「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの「ワールド・エンド」(3部作の最終話)や「マトリックス」シリーズの「レボリューションズ」(3部作の最終話)が挙げられる。この傾向から読み取ると、今後「ハリーポッター」シリーズなどもこういった作品の仲間入りをするのではないかと予想できる。

 

 さらには近年増えつつある日米同時公開映画にも注目が必要である。2000年以降日米同時公開映画が公開される機会が増えた。これはどうやら映画料金と関係があるようだ。日本の映画料金は大人:1800円と世界的にも非常に高額である。アメリカの映画料金は8ドル50セント〜9ドル(日本円で約1000円)、オーストラリアで13ドル(約1150円)、ドイツやスペイン、フランスといったヨーロッパでは4〜7ユーロ(約600円〜1000円)となっており大変安い。そういった視点から見ると日本は人口こそはさほど多くないが一人当たりの収益率が高く、映画業界からしてみれば格好のポイントとなっているのだ。そのため各映画会社とも日本に対する映画戦略に力を入れている。そういったことが日米同時公開映画としてあらわれているのである。[iii]

 

休日や行事と公開時期との関連性

 今回調べてみて非常に驚いたのが全世界同時公開映画の半数以上が5月や6月に集中していることだ。ここでアメリカの行事に注目してみる。アメリカの国民の休日は年8日。日本のゴールデンウィークのような連休は存在しない。そして、3、4、6、8月を抜かして毎月国民の休日が1日あり、休日の間隔をだいたい等しいといえる。しかしここで着目したいのが5月の最終月曜のメモリアルデイと9月の第一月曜のレイバーデイの2つの国民の休日である。アメリカ国民の多くはこの休日の期間にvacationをとる。したがって5月に映画の公開時期を合わせることで興行成績のUPが期待できる。[iv]

 

 興行成績を考えたときには日本のその貢献度は非常に高かったが、公開時期の設定から見ると完全にアメリカ重視の色がうかがえる。全世界公開映画の中には日本のゴールデンウィークをはずして5月後半に公開時期を持ってきている作品も多い。5月前半に映画を公開してしまうとvacationまでその映画が首位を保っているかが危ういから、日本の連休に合わせて公開時期を設定するよりも、確実にアメリカ国民からの支持を得たほうが映画の興行成績UPにもつながるというのが設定する側の狙いであろう。

 

 また多くの国が6月には夏休みに突入するので公開時期をそのぎりぎり前にもってくることは無難な選択ともいえよう。いくら日本の映画料金が高いからといって早めに公開時期を持ってくることがいいとはいえないのである。そういった1週間単位のずれで興行成績も変わってきてしまうのだから映画は移り変わりの激しい娯楽作品なのである。

 

インターネットの普及と全世界同時公開映画の関連性

 ここ数年、同時公開映画の公開と比例してインターネットが普及してきている。むしろインターネットの普及に比例して全世界同時公開映画の公開が増しているといったほうが正しい。インターネットを通じてあらゆる物が手に入るようになった。もちろん映像の公開だって簡単になってしまった。今現在違法サイトでは様々な映画を見ることができる。その中にはまだ日本で公開されていない映画が字幕つきで放映されているものもある。こういった作品は違法コピー商品と呼ばれ、先に公開された海外の劇場で録画したものを素人が和訳することでネット公開しているものがほとんどだ。こういった作品の多くは無料で見ることのできるものも多い。そういったことで映画を正規の映画館で見る人が減少しているのも事実だ。

 

こういったことの対策として現れたのが全世界同時刻公開映画である。これは文字通り全世界で同じ瞬間に公開を開始するというものだ。こういった作品を設けることで少なくとも公開時期や時差の存在する国へのインターネットを介しての公開は防ぐことができる。

そのため一定の収益は予想できる。しかしながら、これを実行したのは今のところ1作品だけでありそれ以降そういった作品が現れないことを見ると効果がそこまで見られなかったことが予想できる。[v]

 

 だが、映画の公開を全世界で1秒たりともずれないようにしなければならないという状況までに違法コピーも問題は深刻化している。日本でも20088月より映画の違法コピー防止対策の法律が施行される。この問題は世界的にも大きな問題であり、全世界同時公開映画は広告効果の影に違法コピー防止という意図も含んでいるのである。

 

まとめ

 全世界同時公開映画の歴史は古いが近年はインターネットの普及に伴い広告効果だけでなく違法コピー防止のためにも公開が増えている。その興行収入は比較的高いものが多く、人気シリーズ物や話題作を映画にしたものなど確実に高収益をあげると予想できる作品が全世界同時公開映画になることが多いのが現状だ。全世界同時公開作品となることで映画の収益に占めるアメリカの割合は減少しアメリカナイズされない傾向が見られる。興行成績においては日本は映画料金が高いため貢献度は高いが、アメリカ国内の興行収入の方が日本よりも高いので公開時期についてはアメリカの夏休みを意識した5月後半に持ってくることが多くなっている。

 

 こういったことから、余暇の娯楽である映画に対してまでアメリカ中心の戦略が打ち立ててあることに対しては驚きを隠せない。全世界同時というと聞こえがいいが結局のところアメリカ中心で行かざるをえないのだ。また、こういった作品は単に広告のためのインパクトや注目度のために全世界同時公開にしているのではなく、人気が出るのは予想されていることであるからその収益を取り逃がさないように違法コピー防止といった若干政治的な部分も含まれていることを知り調べていく上で非常に驚いた。



参考文献

[i] http://godzilla.open-g.com/2006/07/mothra_1961.html

[ii] http://www.generalworks.com/databank/movie/rank02.html

[iii] http://cinemasaloon.com/foreign_theaterfare.html

[iv] http://www.britiff.net/culture.html

[v] http://www1.odn.ne.jp/~cbr52480/osusumeeiga%20VOL.5.htm