070627kank

韓 涵 「ストレス対策としての余暇について」

 

 このテーマを選んだ理由は私の経験から来ている。母国語以外の言語で大学の講義を受けることに大変なプレッシャーと不安を感じていた。授業中に急にノートが取れなくなり、考えれば考えるほど自分を責めて、初めての期末テストが終わったときには呼吸もできず立ち上がれなくなっていた。初期のパニック障害であり、原因は過度のストレスであるとの診察結果だった。そこで様々な説明を受け、ストレスの怖さが初めて理解できた。夢を叶えるために強くならないといけないと思ったが、その後興味を持っていろいろ調べてみると自分だけがストレスに関わっている訳ではなく、社会の様々な人たちもストレスを抱えていろいろな問題が起こっていることがわかった。自分の経験から調べたことを加えてこのレポートを作成しようと思う。

 

近年、ストレスについて語られることが多い。現代人の多くは何らかの強いストレスに日常的にさらされており、それに対応するように世の中は癒しブームとも言えるほど、“癒し、癒される”という言葉が接頭語のようにつけられることが多く見られる。ストレスがすべて悪いかというとそうではなく、早稲田大学の野村忍教授によると「交感神経系を活性化し抵抗力をつけるような快ストレスはネガティブなものではない。過剰なストレス、慢性的に長く続く不快ストレスになっていると気づいたら積極的にリフレッシュすべきである。健康で良好な社会生活を送るためのポイントは、快ストレスの状態をいることである」と述べている。

http://www.fuanclinic.com/byouki/vol_23c.htm

(いろいろなストレス解消法 早稲田大学人間科学部教授 野村 忍)

 

慢性化した不快ストレスが続くとパニック障害などの症状が現れ、ストレスの対策を行わないとうつ病になってしまう。更に悪化すると自傷行為を経て最悪の場合は自殺に至る。自殺者の数について推移がどうなっているか調査したところ、平成10年以降初めて3万人を越えてそれ以降毎年3万人以上という高水準で推移している。

http://www.t-pec.co.jp/mental/2002-08-4.htm

(自殺者数の年度推移 H196月発表 警察庁統計資料より)

自殺者の内訳を見てみると50歳以上の割合が多くほぼ半数を占めている。病気を抱えて自立できず、世代間で生活環境が異なることから起こる価値観や生き方の違いから摩擦を生じることが原因となると考えられる。また、年齢に関わらず男性の自殺者人数が著しく増えている。日本では男性が家庭を維持する責任と役割が強く、競争が厳しい中で出世への希望も強く持つことから、働けば働くほど実質的には母子家庭になってしまうという現実があると思う。家庭の中で居場所をなくしてしまうことも原因と考えられる。

職業別で見てみると平成10年より増えているのは、無職、被雇用者、自営者、主婦である。安定している職業を持っていない、経済力がなく生活に困っている人たち、いわゆる、パートタイマー、ホームレスや、仕事を持っていても、職場の人間関係や、仕事がうまくいかず出勤拒否になってしまうような人たち、不景気の影響で投資の失敗や倒産から挫折感に悩んでいる経営者も含まれている。最近のドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)、生活苦、育児放棄といった現象にもこれらの特徴が現れていると思う。

 

このようにストレスの原因は仕事や家庭生活など様々な要因が考えられるが、収入を得るための仕事の上でのストレスや、経済的な要因がもっとも深刻と考えられる。平成11年以降、労働者の総労働時間は減少しており、仕事に関する余裕は増えたかのように見えるが、短時間労働が多いパートタイマーの比率が12%から17%へと増えている影響であり、正社員の労働時間に大きな変化はない。また、余暇に関する支出も平成10年を境に余暇支出が前年に比べて減ったという人が増えたという人より多くなっており、現在までその傾向が続いている。

http://www.crs.or.jp/57411.html

(社団法人中央調査社 中央調査報(No.574)「レジャー白書2005」に見るわが国の余暇の現状と課題 柳田尚也()社会経済生産性本部 余暇創研)

余暇に関する支出は平成10年以降回復していないと言える。正社員は経済余裕があっても時間的な余裕はなく、パートタイマーは時間的な余裕があっても経済余裕がない、という状態であることが考えられる。

 

 平成10年から11年を境に今回調査した自殺者数の推移、労働時間とパートタイマーの比率、余暇支出に関して大きく傾向が変化しており、いずれを考えても、多くの人が悩みを抱えてストレスが高い社会へと変化してきた様子が良くわかる。

ストレスには快ストレスと不快ストレスがある。交感神経系を活性化し抵抗力をつけるように働く快ストレスは人間にとってポジティブなものであり悪いものではない。不快ストレスは、過剰で慢性的に長く続くストレスであり悪化させると深刻な事態に陥る。

 不快ストレスを早めに対策し、慢性化させないことが重要である。ストレスを溜めないよう発散させる必要がある。ストレスの解消法には、休息型、運動型、親交型、娯楽型、創作型、転換型があり、具体的には、自宅の中でのんびりリラックスする、フィットネスクラブやスポーツクラブに通う、地域活動に参加する、アルコールやカラオケを楽しむ、絵画や音楽を楽しむ、料理や日曜大工に親しむ、旅行する、といった方法になる。

http://www.fuanclinic.com/byouki/vol_23c.htm

(いろいろなストレス解消法 早稲田大学人間科学部教授  野村 忍)

精神の健康を保つためには不快ストレスにいると素直に認めることと早め早めに対策することによりセルフコントロールを行うことが必要である。うつ病の最終段階である自殺を図る人が増大しているということは、ストレスに対して以前と同様な余暇では効果が少ないと言えるのではないか。平成10年以降に変化した社会状況に対応するには以前とは違う余暇が求められているのかもしれない。

 経済的な余裕があれば、観光旅行などのお金を使って楽しむ余暇を選択することができるが、アルバイトや派遣社員が増え多くの人が経済的な余裕がない状況では、比較的お金を使わない余暇を充実させるべきである。今日の情報社会では、他人がどのような余暇を楽しんでいるかを容易に知ることができるし、宣伝媒体によってトレンドといったキーワードによって扇動されることも多い。経済的な価値とは違う自分が楽しめる余暇、少量な消費でもストレスを解消できる余暇が求められている。世の中の動きを知った上でそれに左右されない自己を確立することが大切である。身近な例としては、レンタルDVDや映画、図書館通いなどがあげられるが、仕事とは無関係な創作活動、日曜大工、庭いじりや料理などの、生活に必要なものを工夫して楽しめるようにすることが有効と思う。レジャー白書によると、観光、行楽系といった旅行や映画、自宅で楽しむ余暇が代表的なものとしてあげられているが、比較的お金を使わない余暇は低調傾向にあるという。余暇支出が減少する中でお金を使わない余暇が低調であるということは、社会の多くの人々が、余暇とはお金を使って楽しむものという古い意識から抜け出せないことを示していると思われる。

 ストレスと余暇には直接因果関係はないと思われるが、今日の社会状況からもたらされる高いストレスに対する対症療法としては余暇が有効であると思う。ストレスが慢性的になってしまう原因への対策と、対症療法としての余暇の両者が効果的に働くためにはどのようにあるべきかといった視点がこれからは必要であると思う。