070627kanekoh

金子ひとみ 「サッカースタジアムの現状」

 

 現在、日本では多くの「サッカー専用スタジアム」が存在する。「サッカー専用」なので、陸上競技用のトラックがない分試合を間近で観戦することができる。実際に、国立競技場などの総合競技場でサッカーを観戦した後にサッカー専用スタジアムで観戦すると、その臨場感の違いを肌で感じることができる。このレポートを作成するに当たって、今までは、先ほど述べたような「サッカー専用」であることのメリットのみを見ていたが、「サッカー専用」ゆえにやはりさまざまなデメリットもあるのだろうかと感じ、調べてみようと思った。ここでは、そのような「サッカー専用スタジアム」では、私たちが余暇として訪れる背後ではどのような問題があり、どのように解決しようとしているのか、またこれからの課題は何なのかということについて述べようと思う。

 

●「サッカー専用スタジアム」は負の遺産?

 2002年に開催された日韓ワールドカップ。日本での初開催ということで、日本では開幕前から大きな盛り上がりを見せていた。それに合わせてサッカー専用スタジアムも作られた。しかし、ワールドカップが閉幕した途端、問題が浮き彫りとなった。「サッカー専用」として建設されたため、サッカーの試合以外での利用が極端に少なく、赤字が出ているということである。実際、日本のスタジアムは、サッカーの試合以外でぜんぜん使われていないということで、欧州のトップからは“ゴーストスタジアム”と呼ばれているそうである。欧州のスタジアムは、高速道路のI.Cの大規模駐車場の上部空間として建てられていたり、商業施設のビルとしてさまざまな観客が訪れることができるようなスタジアムなどが存在する。一方で日本のサッカー専用スタジアムはというと、私たちが普段行かない郊外の大きな公園の中にどっしりと佇んでおり、圧倒的なコンクリートの量にただただ圧倒されるだけ、といった感じを受けるかもしれない。これは、日本ではスタジアムの多くが都市公園内の施設であり、都市公園法の制約のもと基本的に収益事業を行えない決まりとなっているからである。公園とは本来「緑と触れ合う」空間であり、金儲けなど論外、という考えからこの法が存在するという。

 

そのような問題の中で、日本のスタジアムは何らかの策を講じているのだろうか。

 

●埼玉スタジアム2002

ここでは、日本を代表する「サッカー専用スタジアム」とも言われる埼玉スタジアムを例として取り上げる。埼玉スタジアム2002は、その名のとおり2002FIFAワールドカップ開催に合わせて建設された。国内最大級である63700人を収容し、日韓ワールドカップの際には準決勝なども行われた。しかしそんな埼玉スタジアムにも「スタジアムが十分に活用されていないのではないか」などといったような批判も起こり、実際に56億の赤字も出ている。そのような問題をどのように解決しようとしているのだろうか。

埼玉県では、先ほど述べたような諸問題をうけて、“埼玉スタジアムをとことん活用する委員会”なるものが発足されている。この委員会は多くの提言を県に提出している。そのいくつかを紹介すると、「サッカーで活用する」という分野と、「新たな事業の拠点として生かす」といった分野に分けることができる。

「サッカーで生かす」とはたとえば、

     Jリーグの試合を増やす

     各種大会の誘致

     埼玉県民に親しまれるためのスタジアムとしての県下のゲームの開催

     小学生から社会人を対象とした本格的なスポーツアカデミーの設立

     日本サッカーの環境整備に貢献するためのJFA認定指導者の育成事業の推進

     スポーツ科学研究機関の設置

     プロサッカーも対称にできるハイレベルなスポーツリハビリ医療施設の設置

     クラブハウスの建設

     試合時のスタジアム周辺でのさまざまな屋台の出店(プチ国際屋台村)

「新たな事業の拠点として生かす」例は、

     商業イベントの積極的誘致

     花火やお祭りなどの地域密着イベントの開催

     スタジアム周辺での屋台出店やパフォーマンスに対する規制緩和

     国際的イベントの開催

これらのようなさまざまな意見が出され、スタジアムの今後のあり方が問われている。

 

●現在の利用状況

 さまざまな課題がある中で、埼玉スタジアムでもいくつか新しいイベントが実施されている。サッカー以外の利用でも、フリーマーケットやスタジアムツアーなどに加え、平成15年度からは、スタジアム結婚式、別の場所で行われている試合(サッカーに限らず野球なども)を巨大スクリーンで何万人もの観客で応援できるパブリックビューイング、トライアスロン大会などが実施されている。実際に、活用の分野を広げることによって、赤字も軽減している。このように新しい分野での活用を行い、反省していくことで年々収支状況もよくなっていくように思われる。

 

●これからの課題

 法令上の課題

・・・都市公園法令によって、公園内に設置できる施設の種類や規模が制限されているため、施設の整備がなかなか進まない。

施設の課題

・・・スタジアムのメインピッチでサッカー以外のイベントを行うことで、天然芝をいためてしまう恐れがあったり、ステージなどの設営コストが多くかかってしまう。

 アクセスの課題

・・・スタジアムの周辺に民間駐車場が少なく、最寄りの駅も歩いて15分くらいのところにひとつしかないため試合やイベント終了時大変混雑する。

 その他の課題

・・・大規模試合の日は、周辺道路で交通規制が行われるため、車利用者の獲得が重要な飲食産業や大型店舗などは進出しにくい。

 

 これまで調べたことから、日本のスタジアムは、地域住民との協力関係を築く必要があると感じた。市民に対して「使わせてやる」という発想をなくし、対住民サービスを積極的に提供できる組織に変わっていく試みが重要であると思う。それにはもちろん、地域住民の協力が必要不可欠である。住民をどのようにして協力する気にさせるか、どのようにしてさまざまな企画に惹きつけるかが今後のスタジアムの課題であると思う。

 

 

<参考資料>

埼玉スタジアム2002

  http://www.stadium2002.com/index2.html

埼玉県

  http://www.pref.saitama.lg.jp/