伊藤菜月「日本と香港のディズニーランドの違いについて」

 

1.はじめに

 2005912日に香港ディズニーランドが開園したが、開園当初から「スタッフの対応が悪い」「アトラクションが少ない」といった不満が続出し、世界のディズニーランドの中で「面積が最小」「アトラクション数が最小」「営業時間が最短」と評判もイマイチである。また、初年度の中国国慶節を挟んだ大型連休に香港を訪れた客は、香港の旅行業界が予測した70万人、香港政府見込みの50万人を大きく下回る42万人出会ったことが判明し、香港ディズニーランドが香港観光の目玉になると期待した関係者の落胆を呼んでいる。

 なぜ日本ではいつ行っても混んでいるディズニーランドが、香港では存続の危機にあるのか。香港と日本の余暇に対する考え方の違いからこの問題を検証していきたいと思う。

 

2.中国大陸のテーマパークは失敗の続出

 実際テーマパークは中国各地にある。過去5年間に2000ヶ所前後のテーマパークがオープンしたが、その8割は、企画練が不十分で、人気を呼べるアトラクションがないため客の入りが悪く、赤字となっている。香港はこれまで、政府が民間の経済活動に関与せず、自由市場主義の政策が特色だったが、中国に返還されてから、香港政府は経済への関与を強めており、ディズニーランドの直営もその流れの中にある。政府は、「ディズニーランドは都市基盤整備の一環であり、政府が空港や鉄道を作るのと同種の事業だ」と主張している。しかし香港では、テーマパークはインフラとは言えず、政府が手がけるべき事業ではないとの批判もあり、議論が続いている。

 

3.中国本土からの客のマナー

 香港のマスメディアでは、中国本土からの客のマナーが悪いという指摘がある。「眠れる森の美女の城で子供に立小便させる」「痰唾を吐きゴミを投げ捨てる」「所構わずタバコを吸う」「横になりたければ所構わず寝る」などの行動が見られるという。これは、魔法の国ではあってはならない行動というべきであろう。インターネット上の中国本土ユーザーのコミュニティでは、マナーの悪さについて「金さえ出していれば何をしても良い」という肯定派、「モラルを重視すべき」という反対派、「香港側(ディズニー)が悪い」という責任転嫁派の3つに分かれており、現在も論争が繰り広げられ香港人の顰蹙を買っている。

 

4.東京ディズニーランドの成功の秘訣

 東京ディズニーランドは、従来の遊園地のイメージをがらりと変えた。パーク面積の48.3ha(約14万坪)は、ご本家の2つのディズニーランドよりもやや広い。ゲストの平均滞留時は約8時間。パークの面積が広ければ広いほど、1日の滞留時間は当然長くなる。逆に狭ければ、1日かけてゆっくり楽しもうと思っても、半日で見尽くしてしまい、満足度は一気に低下してしまう。また、東京ディズニーランドは「大人だまし」の娯楽施設である。多額の資金を投じて、大掛かりの施設をいくつも作った。蒸気機関車や蒸気船も本物そっくりにつくられている。だから、高い料金を払っても来る大人のゲストが大勢いる。

 ディズニーランドで感心するのは、落ちているゴミが少ないことだ。これはウォルトの「いつもきれいにしておけば、ゲストは汚さない」という考えによる。清潔なパークにするには、掃除係とゴミ箱を大量に置くことだが、それに真っ向から取り組んだ。「カストディアル」と呼ばれる白シャツに白ズボンの洒落た制服の掃除係は、ピーク時には500人以上になる。ゴミ箱は、従来のような金網ではなく中身の見えないものにした。これだと、ゴミ箱は外から見えないし、遠くからゴミを投げ捨てるゲストもいない。このように、東京ディズニーランドは清潔さを保つためにメンテナンスを徹底させた。開園から十数年経ったのに、それほど汚れていないのだ。

 最後に結論として、東京ディズニーランドは「ホスピタリティ」と「アメニティ」で成功してきたのだ。「ホスピタリティ」とは、ホストまたはホステス、ホテルと同じ語源である。「愉快に客をもてなす、親切なもの、惜しみない態度で客を扱う」、「人をもてなし良い状態にさせる性質、または性格をもった資質」という意味である。サービスが表層的なニュアンスがあるのに対し、やや深みがある感じがする。ディズニーランドでは「コミュニケーションを大切にする」の他に、「自分の家に親しい大事なお客様をお呼びする」というサービスの基本理念がある。

 「アメニティ」とは、「心地よさ」、あるいは「快適さ」といったものの他に、「静けさ」「美しさ」というニュアンスがある。一つの価値にこだわらず、今ここにある全ての価値の載せた総合的なカタログのようなものである。それは単なる演出で生じるものではなく、快い親しみのある風景、きれいな空気、温かさ、光など「あるべきものがあるべき場所にある」ことで心が落ち着くといったものである。

 まさに東京ディズニーランドは「ホスピタリティ」と「アメニティ」が揃っている。だから、東京ディズニーランドはたくさんのゲストを迎え、グランドオープンしてから18年間、来園ゲストの数を保ちながら年間売り上げを上げていき、現在も儲かっている世界一のテーマパークとなったのである。

 

5.日本人の余暇の過ごし方

 趣味や余暇に日本人が求めるもので最も多いのは「気分転換」という回答である(4人中3人の割合)。学校や仕事で溜まった疲れや精神的なストレスを解消したいという目的が多いようである。「熱中・没頭したい」「感動したい」「リアルな現実から別の世界に意識を持って行きたい」という意見が多い。このような余暇に求めるものをみると、ディズニーランドというものが日本人の求める余暇にピタリと一致していることがわかる。ディズニーランドには乗り物だけでなく、ショーやパレードもあり、また現実とかけ離れた世界のため、日頃の生活を忘れて熱中できるのである。

 

6.中国人の余暇の過ごし方

 最も多い余暇の過ごし方は「テレビ鑑賞」である。なぜなら、経済的で体力の消耗が少なく、しかも情報性と娯楽性を備えているため、中国人の一般大衆に愛され、実に87.2%の人がテレビ鑑賞を最も多い余暇の過ごし方として選んだ。ここからわかることは、中国人は経済的で体力の消耗が少ない余暇を求めているためお金が掛かり、一日中動き回らなければならないディズニーランドは求めている余暇と違うといえる。

 

7.まとめ

 香港と日本のディズニーランドでお客さんの入りに違いがある一番の要因は、日本人と香港人が余暇に求めるものの違いによるものであると分かった。また、東京ディズニーランドはゲストに喜んでもらうためさまざまな工夫がなされており、香港でも同じように心がければより多くのゲストが来てくれるのではないかと思った。ディズニーランドは世界中で愛されており、それがなくなってしまうのはとてももったいないと思う。みんなが余暇を楽しむためにも香港のディズニーランドもゲストに対するもてなしの心を忘れないで欲しいと思う。

 

<参照サイト>

www.ujc.ritsumei.ac.jp/ujc/gallery/sotsuron2001/files/3.pdf

「人々に夢と希望を与えるディズニーランド」

 

www.chainavi.jp/column/viewer.aspx?id=9687 - 59k

[北京]収入の違いが趣味にも影響(ちゃいなび連載記事)

 

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E6%B8%AF%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%BA%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89

香港ディズニーランド - Wikipedia

 

http://tanakanews.com/991118HKdisney.htm

「ディズニーランドは香港を救うか」