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兵庫ひろみ {経済と余暇の変化からみる高齢化問題}

 

1.レジャー白書から見る余暇の実態
平成17年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,834時間と、前年(平成16年)に対し6時間の短縮となった。総実労働時間は、この10年間で75時間も短縮した計算になる。しかし、これはパートタイマーや派遣労働者など短時間労働者比率の上昇によるところが大きく、いわば見かけ上の時短という性格が強い。実際、正社員の総実労働時間はこの10年間ほとんど減っておらず、年次有給休暇の取得も進んでいない。労働者の時間的ゆとりの確保は、いぜんとして大きな課題である。 次に経済的なゆとりについて、「家計調査報告」(総務省)をもとに見てみよう。平成17年の全国・勤労者世帯の実収入は対前年比1.4%減(名目)の522,629円、可処分所得は同じく1.0%減(名目)の439,672円となった。いずれも前年(16年)は7年ぶりのプラスであったが、17年は再び減少に転じている。これにともない家計消費支出も328,649円と、対前年比−0.3%の減少。科目別では「教養娯楽費」が−1.1%の減少となった。景気が回復傾向にあるとはいえ、本格的な消費回復にはまだ時間がかかりそうだ。

2.「ゆとり感」には回復の兆しも
 これら実態データとは別に、国民の余暇時間や余暇支出への実感を調べた結果が図表1である。前年に比べて余暇時間が「増えた」とする人は、バブル崩壊後長期的に減少してきたが、17年は14.8%と前年(16年)から0.6ポイントのプラスに転じた。余暇時間が「減った」という人は16年の28.7%から17年の27.5%へと減少しており、この結果余暇時間が「減った」人と「増えた」人の差は16年の14.5ポイントから17年の12.7ポイントに縮まった。しかしながら、いぜんとして「減った」という人が「増えた」という人を10ポイント以上も上回っているのが現状である。
 支出面においても、余暇支出が「増えた」という人はやはりバブル崩壊後の平成4年をピークに減少を続けてきたが、17年は20.2%と前年より1.8ポイント増加。余暇支出が「減った」と答えた人は16年の29.7%から17年の25.6%と4.1ポイント減少し、結果として「減った」人と「増えた」人の差は、平成16年の11.3ポイントから平成17年の5.4ポイントへとかなり縮まった。こうした変化の背景には、時間的・空間的ゆとりをより多く持つ高齢層の増加なども考えられる。

3.すすむ余暇の「シニア化」
 余暇分野においても「シニア化」の影響が顕著になっている。実際に、「レジャー白書」で定点観測している91種目の余暇活動でも、シニア化は急速に進みつつある。調査結果データを分析したところ、参加人口のうち50歳以上が50%以上を占める「シニア化種目」は現在21種目。45%以上の「シニア化種目予備軍」の10種目を合わせると31種目となり、これは調査対象全91種目の3分の1にあたる(図表4)。こうしたシニア化は特に趣味・創作部門で進んでいるようだ。ちなみに10年前の1997年時点では、「シニア化種目」が10種目、「シニア化種目予備軍」が5種目であるから、この10年で余暇活動のシニア化が急速に進んだことがわかる。
 わが国の余暇も、すでにシニアが大きな部分を占めている。「余暇=若者」というかつての余暇活動イメージはもはや通用しない。同時に、「高齢者=介護」というイメージも元気なシニアの実態に即して修正を要する時代となっている。

4.2007年問題から見る高齢化

2007年から、いわゆる「団塊の世代」が60歳に到達し始める。現在、日本の企業の約9割が定年制を定めており、さらにそのうちの9割が定年年齢を60歳に定めているため、仮に企業の定年制度が現状のままなら2007年から2010年にかけて大量の定年退職者が出ることになる。また、この数年内に、「2007年問題」 とその後間もなく訪れる「超高齢社会」(2015年に4人に1人が65歳以上になることをこう称している)に対応すべく、諸制度や社会の仕組みを一気に変えていかざるをえない状況にある。また、このように高齢化が進むことによって、労働人口の減少、ベテランの退職による技術・技能の継承への断絶、退職給付の負担増、企業利益の低下、家計貯蓄率の低下、社会保障関係費の増大、経済成長率の低下などのマイナス面が懸念される。このような問題が発生することによって、余暇の状況にも大きな影響が出てくる。

5.変わりゆく高齢者像 

 先にも述べたように、わが国では団塊世代の高齢化によって、今後加速度的に高齢化が進展することが予測されている。一般的に、この世代は行動的で消費意欲が高く、自分の趣味や能力を高めることに余暇時間を費やす傾向が強いと言われている。このような健康的で経済的にも恵まれ、自立した高齢者の増加は、新しいライフスタイル、すなわち、世代間の同質化した意識や価値観よりも個々の人の意識・価値観を優先することに生きがいを求める高齢者層、いわゆる「アクティブシニア」の重要性を考えずにはいられない。わが国では、従来から高齢化問題に対する議論の多くが、「高齢者=社会的弱者」という視点からなされており、高齢者の多くを占める「健常高齢者」についての議論が熟成されず、そのため「シルバーマーケット」において、「健常高齢者」を対象とした商品やサービスの取り扱いが少なく、ビジネス上の未開拓市場となる状態を生んでいた。しかし、現高齢者の89割は「元気で健康な高齢者」でおり、さらに医療技術の発展等によって、その割合はますます増加していくと考えられている以上、「高齢者=社会的弱者」的な視点のみで「シルバーマーケット」を捉えることは、ビジネスの可能性自体を狭めかねない。

6.個性化・多様化するアクティブシニア  

 21世紀における「シルバーマーケット」において、その中心的存在となっていくのは、「アクティブシニア」と言われる団塊の世代で、これは、1947(昭和22)年から1949(昭和24)年生まれの第一次ベビーブーム世代を指している。現在この世代は、50才代後半に差し掛かっているが、この世代の総人口は1027万人と直前の世代(800万人)と比較しても約1.28倍にもなり、ほかの世代と比較しても突出したボリュームを示している。よって、これからの「シルバーマーケット」のあり方を考える上においても、「アクティブシニア」層の存在は極めて重要であり、この世代のもつ生活意識・価値観を明らかにする必要がある。わが国の高度経済成長とともに人生を歩んできた「アクティブシニア」の世代は、生活の中に家電・自動車等の大型消費財を取り入れ、大量生産・大量消費といった欧米流の生活様式に慣れ親しんできた世代である。そのため、行動的で消費意欲も盛んであり、何より自分の生きがいや能力を深めることに強い関心を持っている。また、新しいファッションや流行にも敏感で、職場や家庭で携帯電話やパソコン、電子メールやインターネットを積極的に活用している。さらに、定年退職に対しても「現役引退」とは考えず、社会や家庭のために働くことからの「開放」として捉え、自分の夢や希望を実現するためには費用も時間も惜しまないし、情報収集活動や社会活動への参加も積極的である。特にこの世代は、従来の高齢者と比較しても教育水準が高く、そのため、余暇の過ごし方にも、休息とか娯楽とかいった要素だけでなく、学習や創造といった要素を求め、余暇時間を「生きがい」追及とか自己のアイデンティティーを高めるために費やす傾向が強まっている。そのためか、近年は「生涯学習」に対する意識が高まっており、各地のパソコン教室は活況で、インターネットを利用して仲間との交流を深めたり、商品やサービスの提供を希望する高齢者が増加している。

7.まとめ

 余暇の役割とその変化は、経済や社会状況と密接な関係性をもつことがわかった。よって、余暇の状況の変化は、経済の変化でもあり、社会の変化でもあるのである。私たちは、自分の意志で余暇の過ごし方を決定しているように思える。しかし、そのニーズの変化は私たちが選んでいるというよりは、メディアなどによって選ばされているだけなのかもしれない。また、高齢化という大きな問題を前にして、私たちにはたくさんの大きな課題と問題がもたらされているが「アクティブシニア」を中心とした、高齢者の活発化は私たちに大きな勇気と希望をもたらしてくれるだろう。社会保障や年金問題、介護問題は私たち若年層にも大きな不安を与えている。そこで、介護される側であるはずの高齢者がより健康的で有意義なセカンドライフを過ごすことは、これからの余暇のあり方、生活の方向性を指し示すものであり、同時に、私たちの将来に希望と勇気を与えてくれるだろう。

参考

1.          レジャー白書2006」に見るわが国の余暇の現状(中央調査報より)

www.crs.or.jp/58612.htm

  1. 2007年問題 ~団塊世代の引退と高年齢者雇用安定法の改正~

www.mizuho-ir.co.jp/column/shakai041102.html

3. レジャー・余暇活動の動向について

www.meti.go.jp/statistics/kaiseki/17-1/h4a0506j3.pdf -htmlで見る