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畠山 奈々美 「花と人間の関わり〜福祉としての花〜」

 

 花は私たちの生活に潤いを与え、私たちの心を快くする。部屋に花があるだけで、雰囲気が一気に変わったり、花を見るだけで幸せな気分になったり、落ち着いたりしないだろうか。花は、私たちの身近に存在する。たとえば、道端、学校などの施設、家庭の庭などである。このように、花は多くの場所で育てられ、愛されているのだ。花は、いつ頃から私たち人間の生活に関わりを持つようになったのであろうか。

 

 花と人間の関係の歴史は古く、6万年以上も前のネアンデルタール人が死者に花を手向けたことに始まるとされている。それから、花を楽しむものとして観賞するようになったのは、古墳時代から奈良時代に中国からウメが渡来したときで、貴族たちが観賞することと中国から学んだことに始まる。[*1]

 

 私たちは、普段花を視覚と嗅覚で花の美しさを感じる。花の視覚的効果は、カラーセラピー効果とも呼ばれ、色の好みは精神状態を反映し、その時快適だと感じる色がもっとも自分の心を癒す色といわれる。たとえば、赤は体温や血圧を上昇させ、気力をあたえる。黄色は元気ややる気を与える。このように、花によって自分の精神状態が分かり、しかも癒してくれるのである。[*2]

 

 しかし、現在花は娯楽としてだけでなく、福祉の分野においても活躍している。まず、園芸福祉というものがある。この園芸福祉とは、「身体的・精神的に障害のある人に対して、その動作能力や社会的適応力の回復を図るために、園芸に関した作業を行うこと」と定義されている。[*3]また、高齢者、とくに都市に住む高齢者の元気で生きがいのある暮らし、さらには老化による精神の荒廃や精神機能の低下を遅らせる目的でもある。もともとは、WWU後にアメリカの兵士たちが大切な人を失ったことに対する心の傷を癒すために取り入れられたものといわれている。[*4]

 

 実際に、老人福祉施設や精神に障害のある人のための施設などで、花の観賞、園芸作業などを積極的に取り入れ、効果が上がっていることが報告されている。花つくりをすることによって、元気で自立できるお年寄りの割合が増えれば、個人や家族にとってはもちろん社会のとっても大きなプラスとなる。少子高齢化が進む中、この園芸福祉が普及したなら、高齢者の元気な活力で日本は少子高齢化に負けずにいられるのではないだろうか。

 

 園芸福祉の活動は、日本全国で行われているのである。そこで、日本園芸福祉普及協会(特定非営利活動法人)について述べたいと思う。日本園芸福祉普及協会は、2001年4月、植物や園芸・農芸作業を介してもたらされる福祉・健康・教育・環境・コミュニティ形成などへの効果を調査研究、普及啓発・実践する活動を展開することを目的に、全国各地から産学官の個人・団体・法人を含め300名近い有志が集まり、任意団体としてスタートを切った。その後、2002年4月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認可を受けて現在に至る。彼らの活動内容は、(1)植物に接することや園芸・農芸作業を通して地域福祉の充実やコミュニティの育成につなげる活動を普及・啓発する事業(2)植物に接することや園芸・農芸作業を通して各種施設や地域づくりを推進する事業(3)植物に接することや園芸・農芸作業を通して、障害者や高齢者などのリハビリや健康回復・社会的自立を支援する事業(4)上記の現場で求められる人材の育成や園芸福祉士の資格制度に関する事業(5)国内外を含め花や緑の普及団体などとのネットワーク形成や連携を促進する事業(6)地域の絶滅危惧植物の保護活動や生産活動を支援する事業 (7)上記(1~6)にかかわる調査企画・研究開発やそれらの受託事業(8)会報誌の発行やホームページ作成を通しての情報提供事業である。[*5]

 

 園芸福祉は、身体的・精神的に障害のある人や高齢者だけでなく、年齢に関係なく、人と人とのコミュニケーションの場としても活躍するのである。2002年に首都圏主婦を対象にした日本園芸福祉普及協会のアンケート調査(550サンプル)によると、草花の栽培やガーデニングは90%以上の家庭で行われており、地域への花や緑の普及活動には80%以上が何らかの関心、生活者が参加して交流の輪を広げていく活動には60%強が参加意欲を持っているということだ。道を歩いているとガーデニングをしている家庭をよく見かけるが、こんなに多くの人がガーデニングなどの「花」に興味を持っていることに驚いた。

 

また、初級園芸福祉士検定というものがあり、2003年には約200名、2004年には約400名の初級園芸福祉士が誕生、31都府県で実践活動を展開している。[*6]

 

園芸福祉の活動は、栃木県でも行われている。「とちぎいやしの園芸研究会」という団体があり、福祉・医療施設での園芸活動の指導やボランティアの要請に応えられる組織である。彼らは、園芸療法の考えを取り入れながら、いやしの園芸を行い共に生きる喜びを分かち合えることを願い、一人でも多くのひとと喜びを分かち合うために福祉・介護施設や病院等に活動参加を呼びかけ、園芸活動をしている。[*7]

 

そこで、園芸療法とは、園芸をより科学的に医療に利用しようというものであり、日本には10年程前にアメリカから導入された。園芸医療は、心身になにか不具合を持ち、自分からは園芸を楽しむことができない人を対象に行われる作業療法のひとつである。一人ひとりの症状に合わせて、医学、心理学、園芸学の専門知識に基づいて、障害改善の目的にそってプログラムされた園芸作業を作業療法士の指導の下に実施するものである。[*8]

 

園芸福祉や園芸療法は、新しい園芸活用の方法だが、花に触れたり、育てたりすることで、五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)を通して得られるさまざまな快い感覚、うまく育てることができた達成感など、生きている花や植物を利用することによってしかできないこと、あるいはめざましい効果を生むという可能性の大きさなどから注目が集まっている。

 

園芸福祉と少し似ているが、コミュニティーガーデンというものがある。これは、アメリカで生まれ、1893年のデトロイト市が発祥の地とされている。アメリカは、さまざまな国や地域の人々が共に暮らす合衆国であるため、難しい問題もあるのだが、コミュニティーガーデンが作られたことで、人々の交流が広がるなど、明らかに望ましい効果が認められるようになった。[*9]

 

コミュニティーガーデンは、地域に住むさまざまな人が庭として共用できる緑や空間をいうが、これまでの公園や緑地から一歩進んで、利用する人たちが話し合って計画し、実際の作業にも積極的に参加して作り上げていく、市民参加型の緑地ともいえる。また、花や緑を楽しむだけでなく、花つくりを通して交流の機会が生まれ、深まることに大きな効果が期待できるのだ。

 

福祉や医療の場面で活躍している花だからこそ、私たちの暮らしや心にゆとりを与え、安らぎへと導いてくれるのである。そして、花はその存在自体が私たち人間のコミュニケーションツールにもなるのではないだろうか。道端に花が咲いているのを見て、「きれいですね」という会話が生まれる。人間のコミュニケーションをも作り出す花はすばらしいと思わないだろうか。私は、そんな花を大切にしていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

参考文献・URL

*1 「花と人間の新しい関係を求めて」2004 今西弘子 農山漁村文化協会

*2 花と人間の健康 http://www.geocities.com/maririn_77/jp/health/health.htm

*3  株式会社庭樹園http://teijyuen.com/garden/f-garden.htm

*4 *2に同じ

*5 日本園芸福祉普及協会 http://www.engeifukusi.com/katsudou_s/fkk.html

*6 同上

*7 とちぎいやしの園芸研究会

http://agri.mine.utsunomiya-u.ac.jp/hpj/deptj/Plaj/Labo/Hort/Iyashi.htm

*8  *1に同じ

*9 *1に同じ