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橋爪和世『寝だめから見る「静」の休暇』

 

 レジャー施設に十分恵まれていながら、現代の人々は「静」を休暇に求めている。GWの過ごし方のアンケートでは第一位が「自宅でゆっくり」。また年末年始過ごし方でも同様の回答が過半数を占めた。休日を自宅で過ごすといっても読書やDVD鑑賞など様々であるが、昼寝を含めた睡眠に時間を費やす人も多い。

 

 現在、日本人の平均睡眠時間は7時間半。当然年代によって差はあるが、全体的に日本人の平均睡眠時間は年々減少しており、世界で最も睡眠時間が短いというデータもある。また睡眠時間7時間の人の死亡率が一番低く、それ以上でも以下でも死亡率が上がるという研究結果も発表されるなど、睡眠に関する研究も多くなされてきている。

 

 「休みの日の朝はなるべくゆっくりしたい」社会人にしろ学生にしろ、こう思う人は少なくない。仕事または授業のため早起きをしないといけない、残業やバイト・サークルで帰りが遅いなどの理由で平日の睡眠が不足することから、休日に朝寝坊して睡眠不足を補うことを「寝だめ」と呼ぶ。主に20〜30代が寝だめをする傾向にあり、休日は平日より1〜2時間遅めに起床。40代からは平日と休日の睡眠時間に差は見られなくなってくる。また「休日、何時に目覚めたら損をした気分になるか」というアンケートでは12時が最も多く、次に11時、10時と続く。これらの結果から寝だめをしたいとは思うものの、逆に寝すぎると罪悪感がある人もおり、遅くても9〜10時には起きなくてはという人が大半だ。

 

 しかし、食いだめと同様に寝だめも実際にはできない。そして睡眠不足を補うための寝だめが、かえって逆効果をもたらし、体調不良を起こしかねない。休日に朝寝坊することで睡眠リズムそして生活リズムそのものも狂ってしまう。寝すぎると体がだるく感じることがある。結局その状態でずるずると何もすることなく午前中や午後が終わってしまい、寝なければ良かったという後悔もともなう。これは睡眠慣性と呼ばれる現象で、目覚めてもまだ睡眠が続いているような状況を指す。また寝すぎて頭が痛くなったことはないだろうか。これは睡眠過剰によって脳内の血管が広がり、周囲の神経が引っ張られることが原因である。さらに最近の調査で平日と休日の睡眠時間の差が大きいほど不眠や抑うつを訴える割合が高いことが分かった。

 

 そこで寝だめとしての朝寝坊をするよりも、早く就寝することをおすすめする。時間が不規則だと熟睡感は得えられない。良い睡眠のためにはできるだけいつも同じ時間に起きることが重要である。起床時刻に変化がなければ月曜日の朝に起きるのも辛くなくなる。

 

また朝寝坊で寝だめをするよりは、正しい昼寝をすることで気分をリフレッシュすることもできる。電車の中で短時間うとうとしただけで、目覚めがすっきりした経験はないだろうか。効果的な昼寝はその状態と類似している。まず眠たいと感じたときに昼寝をすることが一番。ただしカフェイン含有のコーヒーを寝る前に飲む。睡眠時間の目安は10〜20分であり、それ以上だと眠りが深くなり睡眠慣性の状態に陥るため昼寝の効果は半減する。通常カフェインの効果は10〜20分で出始めるので、寝る直前に飲むのがちょうどいいのである。起きてからは日光を浴び、洗顔をする。また昼寝をする際はベッドに横たわるのではなく、ソファーなどの座位が適している。生活習慣にこの正しい昼寝の方法を取り入れることで日中の疲労や眠気を軽減させ、夕方の活動にも集中でき、夜もよく寝付けるようになる。

 

 ここで冒頭の文章について考えたい。家から一歩外に出れば、ショッピングセンターや映画館、公園などレジャー施設があるにも関わらず、なぜあえて家の中にいることを好むのか。もちろん家でじっとしていられない、休日になると用がなくてもどこかへ赴いてしまう人もいる。しかしどこに行っても土日は人でごった返している。どこに行くにも大抵お金がかかる。そしてやはり平日は仕事や学校で忙しく、週末くらいは家でのんびりしたいという気持ちもある。そろそろ飽きてきた近くのショッピングセンターに、これらのことを気にしながら出掛けるよりは、家で誰の目を気にすることもなくTVを見たりネットをしている方が楽しいのかもしれない。またネットさえあれば家にいながらにして映画が見れ、買い物ができ、遠くにいる友人と会話もできてしまう。もはやわざわざ足を運ばずとも、ネットだけで大抵のことはすませることができる。

 

そんな中で究極の「静」である睡眠を求めている若者が増えている。要因として二つ考えられる。一つはネットが人々の生活にかなり定着してきたというインドアライフの変化によって、急激に家で余暇を過ごす時間が増えた。誰かと待ち合わせをして出掛けることもないので、自分だけの時間で一日をゆっくり過ごすきっかけとなった。そして二つ目としてやはり平日にたまってしまい平日だけでは回復しきれない疲労感や睡眠不足など、日々の忙しさを表す日本社会の現状が背景としてあるのかもしれない。眠ってばかりでだらしないという印象があるが、今や、寝だめや昼寝などの睡眠は最もお金がかからず手軽でおまけに体力回復までできてしまう休日の過ごし方の一つの選択肢として確立している。

 

 

 

参考

「安眠快眠ネット」http://anmin-kaimin.net/

「ヘルシーアイランド」http://www.white-family.or.jp/healthy-island/index.htm